~劉備side~
「お邪魔するぜ。お嬢さん方…。」
いきなりかけられたその言葉に凄く驚いた。
叫び声をあげて倒れなかったのが不思議なくらい…。
朱里ちゃんと一緒にぎこちない動きで声のした方を向くと、そこには男の人が居た。
格好は……はっきり言って特異で……この世界で見たことの無い服装をしている。
背はそこそこ高く、顔は中性的……うん、綺麗な顔。
顔だけなら女の子に見えてもおかしくないが、髪型と顔に似合わぬ声の低さが、この人が男であることを主張している。
果たして、この人は一体誰なのか……。
「……どちら様ですか……。」
朱里ちゃんが厳しい顔をしながら質問を繰り出す。
どうやら朱里ちゃんはこの人が危険な人物であると考えているようだ。
まぁ確かに、戦場の真っ只中に入りこんでくる人物を正常な人だとは思いにくい…。
でも……私はこの人は大丈夫だと思うな~……。
だって……この人は悪い人ではない……何となくだけどそう思えるから…。
「おっと……人に名を尋ねるときはまず自分からと言わねぇか?」
男の人はそう言うとにやっと笑う。
「……そうですね。私は諸葛亮と言います。」
朱里ちゃんがそう言い終ると、男の眉毛がピクっと動いた。
「そうか、君が……。じゃあ、君は龐統か?」
男は私の方を向いてそう尋ねる。
急に聞かれたので、思わず勢いで『はい』と答えそうになるのを何とか堪え、慎重に一言一言言葉を搾り出していく。
「いいえ。私は龐統ではないです。私は劉備、この軍の総大将です。」
私のその言葉に、朱里ちゃんは慌ててこちらを向き直り、男は目を見開いて驚いていた。
「桃香様!! そんな事を言ったら……!!」
「………ふふっ…あははは。」
………なんでだろう…。
初めてあった男の人に思いっきり笑われてるんだけど…。しかもお腹を抱えるほどの大爆笑……。
「あの~……。何でそんなに笑ってるの……??」
私の質問に、男はさらに腹を抱えて笑い、朱里ちゃんはどこか諦めたような溜息を吐いた。
「あう~~……。朱里ちゃん……私、また何かやっちゃった……??」
流石にあれだけ笑うくらいだ。相当常識はずれのことをしてしまったんだろう…。
「………良いですか、桃香様。あなたはこの軍の総大将ですよね?」
「うん。そうだよ。」
「今はどんな状況ですか?」
「え~っと……敵と戦ってて、若干押され気味だよね。」
「では、この方はどなたさんですか?」
「えっ?? 私知らないよ。」
「そうです。知らないんですよ。」
「え~っと………どういうこと??」
いまいち朱里ちゃんの言いたい事がわからない。
すると、先ほどまでお腹を抱えて笑っていた男の人が話し始める。
「つまりだな。もしかしたら俺が賊の仲間で、敵の総大将である劉備の首を取りに来たのかもしれないってことだ。」
「え~っ!!! あなた、敵さんですか!?」
「もしかしたらの話だ………良かったな、俺は違う。」
「ですよね………。良かった。」
「おやっ……。確信があったみたいだな?」
「何となく、悪い人に見えなかったので……。」
「そうか。人を見る目はどうやら持っているらしいな…。諸葛亮、良い君主じゃないか!?」
「………私はまだ、あなたを信用してはいません…。」
朱里ちゃんは厳しい顔つきのまま、男の人を睨みつけている。
「さて………どうすれば信用してくれるか……そうだな……俺は身に黄色い布を付けては無いが?」
「………暗殺の為、気付かれぬように布を付けていないだけでは…??」
「ふむ…。では、暗殺者がこんな服装でわざわざ来るかい??」
「………私達を動揺させてその隙に…。」
「じゃあ、暗殺前に声をかけるのかい??」
「先ほどと同じ理由で…。」
「どうして行動をとらないと思う??」
「この場を流して、状況を窺っているかと…。」
「………はははっ。流石、稀代の軍師諸葛亮。見た目とは裏腹に、その才覚はこの程度じゃ測れないか…。」
男の人はさぞ嬉しそうに笑いながら………朱里ちゃんの頭を撫で始める。
「ちょっ……!! 頭を撫でないでください!!」
突然のことに急いで身を引く朱里ちゃん。その顔には怪訝な表情が浮かんでいる。
………ところで、さっきから気になっていることが一つ…。
「あの~……。あなたの名前は……??」
私の言葉に、朱里ちゃんの方を向いていた男は、私と目を合わせる。
「そう言えば名乗ってなかったか……。俺は徳種聖。あんたたちが気になってるであろう、賊の向こう側にいる軍の大将だ。」
その言葉は、大いに私達を驚かせる。
賊の向こうにいた人がどうして今ここに……??
それに、細作さんたちも放っていたのに……どうしてその情報が無いの…??
思っていたことが顔に出ていたのか、彼は少々申し訳無さそうに話し始めた。
「あ~……。悪いな。 こうしてここに来るために、君たちの軍の細作は捕まえさせてもらった。」
「捕まえたって!? 無事なんですか!?」
「あぁ。一切手は出してない。大人しくしてもらってるだけだ。」
「ほっ……。良かった~…。」
どうやら、細作さん達は無事みたいだ。……良かった。
「………つくづく面白い。」
徳種さんは苦笑してる。
でも、戦いとは言え仲間が死ぬのは嫌だもん…。
「では………徳種さんは何故ここに……??」
先ほどまで何かを考えていた朱里ちゃんが、徐に質問を投げかける。
「諸葛亮。君なら言わなくても分かっているだろう?」
「共闘………ですか………。」
「ご明察どおり……。悪い話じゃないと思うが??」
「ですが、私たちは既に作戦を……。」
「この先の峡間に敵を誘い込むんだろ?」
「っ!! どうしてそれを!!」
「だが、敵の後ろ側がついて来ず、前線が耐えに耐えてどうにか後ろを引き摺り出そうとしている。」
「………。」
「釣り出せない原因の一つに俺たちがなってるみたいだし、手伝いましょうかと言うお誘いなのだが??」
徳種さんの提案を聞き、朱里ちゃんは顎に手を当てて何事かを考えている。
私からしたら、徳種さんのお誘いは非常に嬉しい。
現状どうしようもないこの場を、変えてくれるだろう増援を送ってくれるというのだ。
私なら、二つ返事で了承するのにな……。
「………そちらの利益は……??」
「兵の数が多く残ることになる。それだけじゃ駄目か??」
「………私は…まだ信じれません。」
朱里ちゃんは納得できないようだ…。きっと彼女なりに思うことがあるんだよね…。
「しょうがない……。じゃあ、俺を信用してもらう証拠として、相手の後方を引き摺り出してくる。どうだ? これなら信用するか??」
「それならば………まぁ……。」
「……交渉成立だな。劉備、君もそれで良いかい??」
「えっ!! その……はい。」
「了解……。じゃあ、ちょっくら待っていてくれ。引き摺り出してくるから…。兵の引き際はそっちで合図しろよ?」
「分かりました。」
徳種さんはそう言うと、一人で前線の方に走って行きました。
って!! 一人で!!
えっ?? 何?? 敵を引き摺り出してくるんじゃないの!?
隣の朱里ちゃんを見ると、彼女も予想外らしく、目を見開いたまま口をあけていた。
「朱里ちゃん……どうするんだろうね…。」
「どうするんでしょうね…。」
私たちには、彼の行動の意図を読むことは出来なかった。
~聖side~
さて、劉備側とは話がついた。
後は敵さんを引き摺り出すだけだな。
鉄と鉄が激しくぶつかり、怒声と悲鳴が飛び交う戦場へ、磁刀を引っさげながら疾走する。
関の旗は真ん中やや右よりなので、左側に突っ込めば問題はあるまい…。
戦場との距離はぐんぐんと縮まり、劉備軍の最後尾まで後少し……。
「はいはい。ちょっとごめんよ~…。」
隙間を縫う様に劉備軍の兵を避ければ、その先に広がるは黄色い布……。
さぁ、行くぞ!!!!
「あん?? なんだてめぇは!!」
「なに、てめぇらを大人しくさせる調教師みたいなものだよ……。」
「何を……!!!」
ドッ!!
男の腹に磁刀を叩き込み、気絶させる。
「てめぇ!!!!!」
「ふっ!!」
後ろから斬りかかってくる男の脇を滑る様に通り抜け、すれ違いざまに柄の部分を鳩尾に叩き込む。
「何だこいつ!! おい!! もっと大人数で囲め!!」
「……そんな数で俺を倒せると思ってんのか??」
ドスッ!! ガスッ!! ガッ!! バキッ!! ドコッ!!
「ば……ばかな……。一瞬で……。」
「おい!! 後方部隊に連絡だ!! 全軍率いて出て来い!!」
俺を討つために全軍投入する気だな……。
何とも……計画通りだ……。
~劉備side~
「伝令!!! 敵の後方部隊が戦場へと参戦!! 敵の全軍が出てきました!!」
彼が戦場に突撃して一刻足らず。
彼の宣言どおり、敵のその後方部隊は前線へと合流。引き摺り出される形となった。
「朱里ちゃん!!」
「はい。全軍反転!! 敵をいなしながら峡間まで誘い込みます。」
朱里ちゃんの指示で前線へと伝令が走り、前線にいた愛紗ちゃんが反転、殿を鈴々ちゃんが務めて退いてきている。
もう直ぐ、愛紗ちゃんたちと合流。その後、本陣も後退を開始する。
作戦は順調に進んでいるため、このまま何事も無く終わってくれると良いんだけど……。
「敵を引き摺り出しておいた。後は任せるぞ。」
前線から戻ってきた徳種さんは、私たちの顔を見てそう告げる。
「はい。任せてください。……徳種さんはこの後、どうするんですか?」
「俺は峡間で君たちと挟撃できるように兵を率いに行く。」
「そうですか…。敵を釣りだしてくれてありがとうございました。」
「……おいおい。まだ戦いは終わってねぇんだ。礼は勝った後に聞くよ。じゃあな。」
軽く右手を上げて去っていく彼の背を見ながら、ありがとうと小声で呟く。
「桃香様!! ご無事ですか!?」
「愛紗ちゃん!! 良かった無事だったんだね!!」
「はい。この関雲長、そこら辺の賊相手に遅れは取りません!!」
「もう……心配したんだから~…。」
「ほっとするのは戦いが終わってからです。まだ、作戦は成功してませんから、気を抜かずに行かなくては!!」
「そうだったね…。じゃあ、このまま峡間まで行くよ!! 皆、頑張って!!」
「「「「応っ!!!」」」」
本陣は後退を開始し、敵はそれを敗走と思い込んで追撃を始めている。
目標の峡間まであと少し…。
敵は離れていく様子を見せぬまま、ただただ付いて来ているだけ…。
そして、軍の大半が峡間を通り抜けた瞬間。
「今です!! 本陣の兵士は反転。 退いてくる関羽隊と入れ変わり敵に当たります!!」
朱里ちゃんの号令で、味方の兵の入れ替えが行われ、殿の兵に付いて来ていた賊の勢いを殺す。
「皆のもの!! 策はなった!! 全軍、突撃~!!!!!」
「「「「「うおおおぉぉぉぉぉ~~~!!!!!!!!!!」」」」」
勢いを殺がれた賊軍に、士気高い私たちの兵が突撃していく。
峡間と言うこともあり、敵はその勢いから逃げることが出来ず、次々と討ち取られ、その数を減らしていく。
その光景を見れば、この戦いの結果は見えたも同然だ。
「くそっ!! 退け!! 退け~~!!!!!!!」
賊の一人の男が大声で叫ぶと、賊の最後列の方から徐々に後退していく。
私たちは出来る限りの追撃を行う目的で、賊の後を追う。
賊の最後尾が峡間を出ようかと言うまさにその瞬間。
「弓隊!! 放て!!!!!」
無数の矢が天を飛来し、賊の集団目掛けて一斉に降ってくる。
その矢は賊の数を一気に減らし、加えて賊の後退速度を著しく緩めた。
「今だ!! 全軍突撃!!!」
隊列の整っていない敵の戦列に、新たな軍団が突撃を仕掛け、この戦いの勝敗は決した。
後は殲滅戦を行い、賊の数を減らせるだけ減らす。
挟撃を食らった賊の被害は甚大なもので……数多くの人の命がここに消えた。
それでも逃げた賊たちは、進路を鉅鹿方面へと向け、散って行ったのだった。
今回の戦いは私たちの大勝利!!
兵たちの被害は、愛紗ちゃんの率いていた第一陣は相当だが、それ以外の隊には被害は少なく上々の出来だと思われる。
それもこれも徳種さんのお陰…。
ちゃんと会って、お礼言っとかないと…。
後書きです。
聖が訪れた目的は共闘の約束を取り付けるためでした。
共闘はお互いの利益を考えれば当然のこと。
果たして今後どうなるかは………お楽しみに!!!!
次話の投稿はまた日曜日にします。
今回の戦闘描写が短くて本当にすいません……。
中々戦場の雰囲気等を文字だけで表現するのは難しく……今後改善できる範囲で頑張っていきたいと思います。
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どうも、作者のkikkomanです。
第六章最終話を投稿しました。
本当はこのまま第六章でもいいのですが、どうも区切りに良い場所が無く、この場所がまぁ良いかなと思って区切りました。
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