銀の霊峰の朝は穏やかに始まる。
その霊峰の主である銀髪の男は誰よりも早く起き、いつも通り槍の稽古をした後に朝食の準備をする。
本日の朝食はカブの味噌汁と菜っ葉のおひたしに、近くの川で取れた鮎の塩焼きと玄米である。
それらを手早く作り終えると、将志は他の住人が起きてくるまで掃除をする。
「……はぁ……」
そうして掃除をする将志の顔は浮かないものであった。
というのも、ここ最近になって非常に悩ましい問題が浮上してきたからである。
将志はその解決策を必死になって考えるが、上手い方法が見つかっていない。
そうやって考え事をしていると、住人たちが起きてきた。
「あ、将志くん、おはよ♪ 今日も早いね♪」
「おはようございます、お兄様。悪いですわね、いつも掃除してもらって」
「……おはよう、二人とも。朝食が出来ているぞ。先に席について待っていてくれ」
起きてきた愛梨と六花に将志は挨拶をする。
それを終えると、将志は深々とため息をついた。
「……アグナはまだなのか?」
「ええ、いつも通りですわよ」
将志の言葉に、六花も苦笑交じりに答える。
それを聞いて、将志は肩をすくめて首を横に振った。
「……起こしにいくか」
「キャハハ☆ 頼んだよ♪」
どこか疲れた表情そう呟く将志に、愛梨は笑顔でそう声をかけた。
将志は本殿の奥にある居住区画の一室に足を運ぶ。その部屋の前に立つと、将志は部屋の戸を叩いた。
「……アグナ、入るぞ?」
将志がそう問いかけるも、返事はない。
一つため息をついて将志は部屋の中に入る。すると部屋の真ん中には布団が敷いてあり、盛り上がっていた。
どうやらアグナはまだ夢の中のようである。将志は額に手を当てため息をついた。
「……アグナ、朝だぞ」
「…………」
将志は離れたところから声をかけるが、アグナは一向に起きる気配がない。
「……起きろ、朝食が冷めてしまうぞ?」
将志は近づきながら声をかけるが、それでもアグナは無反応。
そんなアグナの様子に、将志は盛大にため息をついた。
将志はアグナのそばまで歩いていく。
「……おい、いい加減にしむぅ!?」
将志がアグナを揺り起こした瞬間、アグナは将志に飛びついてキスをした。
その不意打ちの一撃で、アグナは将志の口の中をチロリと舐める。
「へへっ、おはよう兄ちゃん!!」
燃えるような赤い髪の幼い外見の少女は、満面の笑みを浮かべて将志に挨拶をした。
それに対して、将志は頭を抱えてため息をついた。
「……アグナ。せめて起きる時ぐらい普通に起きられないのか? 流石に毎日毎日これというのは……」
「えー、いいじゃねえかよー! 減るもんじゃねえし、兄ちゃんも俺のこと好きなんだろ? ならいいじゃねえか!!」
将志の言葉に、アグナは将志の首にぶら下がったまま口を尖らせてそう返した。
それに対して、将志は力なく首を横に振った。
「……とにかく、朝食の準備が出来ている。早く来い」
「おう! すぐ行くぜ!!」
将志が食堂に向かうところを、アグナは後ろについて行く。
食堂に着くと、席について全員一斉に食事を始める。
「……ご馳走様」
「ご馳走様♪」
「ご馳走様でした」
「ゴチっしたぁ!!」
将志は朝食を終えると洗い物を始める。
何故将志がここまですべてをやっているかといえば、将志にとって後片付けまでが料理なのだからだった。
「(じ~っ……)」
そんな将志を、横でジッと見つめる影が一つ。
将志がその視線に眼をやると、そこには橙色の瞳をキラキラと輝かせて自分を見つめるアグナの姿があった。
将志は洗い物を終えると、アグナの横を通り過ぎて書簡を整理するために自室に向かう。
「♪~」
アグナはそんな将志の後ろを鼻歌を歌いながらついて行く。
将志が自室に入ると、アグナもそれに続いて中に入る。
そして将志が机の前に座ると、アグナは将志に飛びついた。
「なあ兄ちゃん、一つくれよ!!」
アグナは将志の膝の上に向かい合うようにして乗っかると、将志にそういった。
その眼は相変わらずキラキラと輝いており、何かを期待している様子だった。
「……アグナ、この前の藍の話を……」
「くれないんならもらってくぜ!!」
「むぅ!!」
アグナは喋ろうとした将志の口を強引に自分の口で塞ぐ。
そして将志が口を閉じる前に舌を滑り込ませ、口腔内を弄んだ。
「…………」
将志は口の中を弄られながらもアグナの肩を叩く。
すると、アグナは将志から口を離した。
「へへっ……大好きだぜ、兄ちゃん。それじゃ、また後でやろうぜ!!」
アグナははにかんだ笑顔でそういうと、外に向かって駆け出していった。
将志は解放されると、机の上に力なく突っ伏した。
……そう、このアグナの行動こそが、将志の目下最大の悩みなのであった。
この前の一件で、アグナはキスの快楽にどっぷりと浸かってしまったのだ。
そのおかげで、アグナは事ある度に将志の周りに付きまとってキスをねだる様になったのだった。
そのたびに将志は一応の説得を試みるのだが、成功した試しはない。
というわけで、将志は事ある度に精神をすり減らすことになるのだった。
「……というわけだ。何とかならないだろうか……」
困り果てた将志は、愛梨や六花に相談することにした。
将志の話を聞いて、二人は顔をしかめた。
「う~ん、あのアグナちゃんがねぇ……」
「お兄様、それ本当ですの?」
二人とも、どうやらアグナがそういう行動をとることが信じられない様子であった。
それに対して、将志は疲れ果てた表情で話を続ける。
「……本当の話だ。嘘だと思うのなら、藍や紫あたりにでも訊いてみるといい」
その言葉を聴いて、二人の表情が急に深刻なものになった。
二人の経験上、将志が他の者にも訊いてみろという場合、その信憑性は格段に跳ね上がるからである。
「……どうやら本当みたいだね♪」
「……詳しく聞かせてほしいですわね」
「……ああ……」
将志は一例として今朝から今までの自分に対するアグナの行動を列挙した。
すると、想像以上のアグナの行動に二人は唖然とした表情を浮かべた。
「きゃはは……何ていうか……」
「……これは酷いと言わざるを得ませんわね……一番多い日で何回されたんですの?」
「……朝方寝起きに一回、朝食後に一回、出かける前に一回、帰ってきて一回、昼食後に一回、間食時に一回、訓練前に一回、訓練後に一回、夕食後に一回、風呂に入る前後で二回、寝る前に三回……十四回だな」
しばし無音。
愛梨も六花もしばらくの間呆然としていた。
「はっ!? 呆然としている場合ではありませんわ! お兄様、アグナに対してどんな説得をしたんですの?」
「……前に藍が言っていたのだがな、恋愛と家族愛は違うのだと。お前のは家族愛なのだから、そういうことをするのは違うのではないかとな」
「でも、ぜんぜん解決できてないよ?」
「……しばらくの間は大人しくしていたのだが、そのうち言い返すようになってな。そんなことは知らない、俺は好きだからこうするのだ、とな。この言葉に対する切り返しがどうしても出来んのだ」
将志はそう言って首を横に振った。
このような事態になるまで愛という命題について考えたことのなかった将志には、アグナに返す言葉がなかったのだ。
それを聞いて、六花は深々とため息をついた。
「……愛が重いですわね……しかもアグナは純粋だから余計に……」
「迷惑だとは……言えないんだよね、将志くんは……」
「……ああ。アグナの行為は六花の言うとおり、純粋な好意から来るものだ。甘いと思うかも知れんが、俺にはそれを拒絶することなど出来ん。家族なのだからなおさらだ」
「本当に甘いですわね。でも、それが一番お兄様らしいですわ」
落ちてきた艶やかな銀色の長い髪をかき上げながら、六花はそう言って微笑んだ。
その横で、愛梨が腕を組んで首をかしげていた。
「ところで、僕たちも家族なのに何で将志くんだけなんだろう?」
「……アグナに至らぬことを吹き込んだ連中が、男と女でするものと言っていたからだそうだ」
「……お兄様、その余計なことをしてくださった連中は……」
「……然るべき処置を施してある」
将志は静かに怒りを燃やす六花をそう言って制した。
なお、将志が施した然るべき処置とは以下の文で示されるようなものである。
デデデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニーナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォナギッナギッナギッフゥハァナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァーテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケンK.O. イノチハナゲステルモノ
バトートゥーデッサイダデステニー セッカッコーハアアアアキィーン テーレッテーホクトウジョーハガンケンハァーン
FATAL K.O. セメテイタミヲシラズニヤスラカニシヌガヨイ
ダイジェストでお送りいたしました。
「……それで、何か良い案はないか?」
「そうですわね……まずは実際に見てみないことにはどれくらい根深いのかが分かりませんわ」
「そうだね♪ 見てみれば何か分かることもあるかもしれないしね♪」
「……分かった。では一先ず保留としておこう。俺は自室で書簡を片付けてくる。連中のことは頼んだぞ」
「うん♪ 任せといてよ♪」
将志が書簡を片付けている間に、アグナが外から帰ってきた。
愛梨と六花はその姿を認めると頷きあった。
そんな二人のところにアグナは走ってくる。
「なあ姉ちゃんたち! 兄ちゃんどこに居るかしらねえか!?」
「お兄様なら、自分の部屋に居ますわよ?」
元気良く話しかけてくるアグナに、六花は答えを返す。
六花の言葉を聞いて、アグナは満面の笑みを浮かべた。
「おう、ありがとな!!」
アグナはそういうと将志の部屋のある方向へと走っていった。
愛梨と六花はその様子をじっと見守る。
「……そういえば、最近アグナは何かあるたびにお兄様の居場所を訊いてましたわね」
「うん……良く考えたら僕もそんな気がするよ♪」
「追いますわよ、愛梨」
「うん、分かってるよ六花ちゃん♪」
二人はアグナの後を追って将志の部屋まで気配を殺して歩いていく。
そして将志の部屋の前に来ると、戸の隙間から部屋の中を覗き込んだ。
「…………」
「…………」
中では仕事中の将志と、横でその様子を眺めているアグナの姿があった。
アグナは仕事の邪魔にならないように黙っており、礼儀正しく座っている。
その座った姿勢は前傾姿勢気味であり、何かあったら飛び出していきそうな雰囲気であった。
そんな中、仕事が終わり将志は筆を机に置く。
「終わったのか!?」
「……ああ」
「とうっ!!」
アグナは将志が仕事を終えたと見るや飛び付いた。
将志には席を立つ時間すらも与えられず、アグナは膝の上に収まることになった。
「……アグナ、俺はこれから別の仕事の準備があるのだが?」
「何言ってんだ? 兄ちゃんの次の仕事までは結構時間があるから、次は休憩時間だろ? 準備なんて後でいいじゃねえか!!」
「……確かにそうだが、先に終わらせるに越したことはんむっ!?」
話を続けようとする将志にアグナはおもむろにキスをする。
アグナは頭を抱え込んでおり、将志は抜け出すことが出来ない。
しばらくその状態が続いた後、アグナは将志から口を離した。
「……何度も言うが、恋愛と家族愛はちがっ!!」
話をしようとする将志の口を、アグナは言わせないと言わんばかりに塞ぐ。
今度は将志の口の中に舌をねじ込み、思いっきりかき回す。
将志にはなす術がなく、ただ受け入れるだけしかできなかった。
両者の間には銀色の糸が引かれ、アグナの息は荒く熱の篭ったものになっていた。
「はぁ……恋愛だとか家族愛だとか、そんなの知らねえよ……俺は兄ちゃんが好きで、兄ちゃんも俺のことが好きなんだろ?」
「……確かにそれは認めるが……んっ」
歯切れの悪い声でアグナの質問に答える将志。
その口を、アグナはついばむ様なキスで軽く押さえる。
「ならいいじゃねえか……俺はそんな大好きな兄ちゃんと一緒に気持ちよくなりたいんだ」
アグナは蕩けた顔で嬉しそうにそう答えた。
その表情は幼い外見からは想像もつかないような、背徳感を感じるような色気があった。
アグナは力が抜けている将志をそっと押し倒す。
その拍子にアグナは戸から覗いている視線に気がついた。
「ん? 誰だ?」
アグナは将志から離れて部屋の戸を開ける。
するとそこには、顔を真っ赤にした愛梨と六花が立っていた。
「何だ姉ちゃんたちか。そんなところで何やってんだ?」
「そ、それはね……」
「な、何と言えばいいんですの……」
アグナに質問をされ、言いよどむ二人。
二人は先程まで目の前で繰り広げられていた展開に、少々パニック状態に陥っている。
「そうだ! 一緒にまざらねえか!?」
「えっ?」
「はい?」
突然のアグナの一言に、二人は虚を突かれて固まる。
そんな二人の手をアグナはぐいぐいと引っ張っていく。
「いいじゃねえか、家族なんだし! 兄ちゃんが好きならやっちまえよ!!」
「いやいやいや、それはおかしいんじゃないかな!?」
「むしろ家族であんなことしていたら大問題ですわよ!?」
笑顔でとんでもない発言を繰り返すアグナに、二人は大慌てで止めに入った。
それを受けて、アグナは首をかしげた。
「ん? 何でだ? 何で家族でしちゃいけねえんだ?」
「それは道徳的な問題がだよ?」
「じゃあ、何が問題なんだ? 好きな相手に好きって言って何が悪いんだ? 同じ好きでも、家族じゃ何で接吻しちゃダメなんだ?」
「そ、それは……なんて説明すればいいんですの、お兄様!?」
「……それが分かればとうの昔に解決している」
六花は疲れ果てて伸びている将志に助けを求めるも、それは何の解決にもならなかった。
言い返す言葉が見つからず、愛梨と六花は焦り始める。
「どうすればいいんですの、愛梨!?」
「あわわわわ、僕も分かんないよ!?」
そんな慌てふためく二人を見て、アグナは悲しそうな表情を浮かべた。
「……姉ちゃんたちは兄ちゃんのことが嫌いなのか?」
「え、そうじゃないけど……」
「そんなことはありませんわよ?」
「じゃあ、何でしねえんだ?」
「それは……」
「家族だからですわ」
「じゃあ、何で家族だからってしねえんだ? 家族ならむしろ遠慮しねえでやっちまえよ。遠慮なく付き合えるのが家族なんだろ?」
自分の気持ちと現状との間で心が揺れ動き、愛梨は言いよどむ。
あくまで家族だからと、六花は拒否する。それに対して、アグナは家族だからこそ遠慮しない。
どうやら、そもそもの道徳性が違うようであった。
両者の意見は平行線をたどっている現状に、二人は途方に暮れた。
「……どうしようか、六花ちゃん?」
「……こうなったら仕方ありませんわ。もっと経験がありそうな人物の意見を聞くとしましょう」
「……それで、私のところに来たわけ?」
「ええ、全くもって癪な話ですけどね」
ところ変わって永遠亭。
銀の霊峰の面々はそろってここに集まっていた。
その理由は、少なくとも自分達よりは経験がありそうで、すぐに頼れる輝夜に何とかしてもらおうと考えたからである。
なお、伊里耶も一応は候補に挙がったのだが、初対面の相手に仕掛けた行為を考えると事態を悪化させかねないため、除外した。
「……茶が入ったぞ」
将志は普段どおり茶を淹れて全員に配る。
アグナは将志の後ろをついて周り、その手伝いをしていた。
ちなみに、永琳は輝夜によって戦力外通告を受けたため、将志と話をしている。
「……話を聞いていると、そもそも私達とは考え方が違うわね。恐らく、そういう行為に関する禁忌というのが分からないんじゃないかしら?」
「そうだね……このまま行くと、何だか取り返しのつかないことになっちゃいそうで怖いよ……」
「道徳を使って説得できないなら、別の方法を使えばいいじゃない」
「そんな方法がありますの?」
「あるわよ。まあ、見てなさいな」
輝夜はそういうと、将志の隣に座っているアグナに声をかけた。
「アグナ、ちょっといい?」
「お、何だ姉ちゃん!?」
「貴女、最近将志にキスしまくってるんだってね?」
輝夜がそういうと、アグナは首をかしげた。
「キスって何だ?」
「……接吻のことよ」
それを聞くと、アグナは不機嫌そうに頬を膨らませた。
「む~っ……何だよ、輝夜の姉ちゃんも道徳がどうとか言うのか?」
「そんなことは言わないわよ。私はそれがもっと気持ちよくなる方法を教えようと思っただけよ」
輝夜がそういった瞬間、アグナの表情は一転して笑顔になった。
そして、食いつかんばかりに輝夜に詰め寄った。
「そうなのか!? なあ、それ教えてくれよ!!」
「良いわよ。で、どうするかは簡単よ。安売りをしないで我慢して、一番好きな人にここぞという場面ですることよ」
輝夜がそういうと、アグナは口元に指を当てて考え込んだ。
「ん~……ここぞという場面って、何だ?」
「さあ? それは自分で考えることね。少なくとも、毎日毎日ひっきりなしにやってたら飽きるし、籠められる想いも軽くなっちゃうわよ?」
「籠められる想い?」
「そう。ずっと与え続けていたらそのうちそれが当たり前になって、もらっていることを気付けなくなっちゃうのよ。好きだって言っているのに気がついてもらえないなんて嫌でしょ?」
輝夜の言葉を聞いて、アグナは考え始めた。
そしてしばらくすると、頭から黒煙を上げて叫んだ。
「う~、そんなの嫌だ!!」
「なら、大事にとっておきなさいな。本気で好きだって伝えるその時まで」
「うん、分かった!!」
アグナは元気よくそういうと、永琳と話をしている将志のところへと走っていった。
その接近に気が付いて、将志はその方を向く。
「……どうした、アグナ?」
「へへへ……んっ」
「えっ?」
アグナは笑みを浮かべると、唐突に将志の唇を奪った。
それは貪るようなものではなく、そっと触れるだけのやさしいキスだった。
それを受けて、将志は深々とため息をついた。
「……輝夜の話を聞いていたのではないのか?」
「だからだよ、兄ちゃん。俺が今一番好きなのは兄ちゃんだ。これだけは伝えておきたかったんだ」
「……そうか」
全力で愛情表現をしてくるアグナに、将志は苦笑いを浮かべた。
「次はいつにすっかな~? あんまり早いとあれだし……一月ぐらい待てばいいのか?」
アグナは次の予定を早々に組み始めた。
それを見て、将志は疲れた表情を浮かべて輝夜のほうを見た。
「……輝夜、根本的な解決になっていないのだが……」
「……将志、こういう言葉があるわ。『激流に身を任せ同化する』(意訳:あきらめろ)」
「……くっ……」
諭すような輝夜の言葉に、将志は頭を抱えた。
「…………」
ふと、将志は視線を感じて顔を上げた。
するとそこには、こちらをジッと眺めている永琳の姿があった。
「……どうした、主?」
「いえ、何でもないわよ」
将志の質問にそう答えて永琳は顔を背けた。
しかし何か気になるのか、自分の唇を触りながらチラチラと将志の方を見やっていた。
「……?」
将志はその行為の意味が分からずに首をかしげた。
すると、ぺちっと手を叩く音が聞こえてきた。
「よし、一月に一度にしよう!!」
アグナはそういうと、次に思いを馳せて楽しそうに笑った。
将志はそれを見て頭を掻く。
「……輝夜、一月後が怖いのだが……」
「激流に身を任せ……」
「……もういい」
その後、将志は一月に一度アグナから猛攻を受けることになった。
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疲れた表情を浮かべる銀の槍、その表情には、頭の痛い悩み事が関係しているのだった。