No.541032

蜀√ifENDアフター プロローグ

劉邦柾棟さん

魏√END風の作品を書いている方達を見習って当方も書いてみました。

一応、続く予定です。

2013-02-07 09:01:49 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3941   閲覧ユーザー数:3375

蜀√ifENDアフター ~新たな誓いと、御遣いの旅立ち~

 

 

 

一刀side

 

 

桃香を中心として纏まり、大きな力を発揮した蜀は呉と同盟を結び、大国である魏との『赤壁の戦い』に勝利した。

 

俺達……蜀と呉の同盟軍が『赤壁の戦い』に勝利してから一週間が経過した――――――。

 

『赤壁』で大敗を喫した曹操は、その後「江陵」を放棄して魏領に向けて撤退を開始した。

 

だけど、そう簡単には逃がさない。

 

事前に俺が提案していた通り、予測される魏軍の撤退路に兵を伏せていた呉軍が『曹操』が現れるたびに間断なく攻撃を仕掛けていった。

 

徐々に減って行く曹魏の兵士達。

……伏兵や奇襲を繰り返すうちに、曹魏の兵士の大半が逃散して行く。

 

 

ここが頃合――――――。

 

 

それぞれの城で『赤壁』での傷を癒し、万全の態勢で俺達は出陣した。

 

 

曹操率いる魏軍がいる「新野城」に向けて・・・・・・。

 

 

最後の戦いに臨む為に・・・・・。

 

 

だが・・・・・・

 

 

そんな矢先、各陣営の兵士達が『五胡襲来』の報を告げて来た。

 

 

俺達、蜀は呉と魏と力を合わせて「五胡」との決戦に臨み、俺達の勝利に終わった。

 

そして、三国同盟を結び「天下三分」による大陸平定を為したのだった。

 

 

 

 

 

 

あの『五胡』との戦いから数日後、桃香たっての願いで幽州へ各国の主要な武官、文官を集めて酒宴を開いた。

 

 

それは三国が一つとなった事で諍いも因縁も何もかも取っ払い行われた……まさに世紀の大宴会。

 

 

そんな中……俺は一人、大宴会の会場を後にして夜桜の舞う中、空を見上げていた。

 

 

すると、其処へ・・・・・

 

 

桃香「ご主人様、どうしたの?」

 

 

一刀「桃香か……それに、愛紗に鈴々も」

 

 

愛紗「急に抜け出されたので、どうしたのかと思いましたよ」

 

 

鈴々「折角、楽しい宴会なのに、こんなとこに一人でいるのはつまらないのだ!」

 

 

桃香・愛紗・鈴々の「桃園の三義姉妹」がやって来た。

 

月の光を受ける三人の髪は煌めき、酒の影響もあってか不思議と艶っぽく見える。

 

そんな、「三義姉妹」の姿に見とれている俺の横を通り過ぎた桃香が桜を見上げる。

 

 

 

桃香「……もしかして、今日……なの?」

 

 

一刀「……多分な。 何故かはわからないんだけど、そんな感じがする」

 

 

愛紗「ご主人様? 桃香様? 一体、何の話ですか?」

 

 

鈴々「よくわからないのだ……」

 

 

俺と桃香のやり取りで何かを感じ取ったのか、眉を顰める愛紗と純粋に首を傾げて不思議そうにしている鈴々。

 

二人にも説明をしておくべきだろう。

 

 

一刀「あのな、二人に……いや、三人に謝らないといけない事があるんだ」

 

 

そう言いながら、俺は先程まで居た会場から失敬してきた杯を三人に見せる。

 

 

一刀「覚えてるか? 此処で……四人で約束した事?」

 

 

愛紗「ええ、忘れようがありませんよ。 大切な『誓い』なのですから」

 

 

鈴々「お兄ちゃんと鈴々達でみんなを笑顔にしようって言ったのだ」

 

 

一刀「ああ、そうだな」

 

 

俺が手に持っている杯を見ながら過去を懐かしむ二人に俺の心もあの頃へと戻る。

 

まだ、国を背負うという重責を知らなかった頃。

 

夢を見て進み続けるだけで良かった俺たちは本当に純粋だった。

 

つい、昔を懐かしんでいると、いつの間にか桃香が俺の方を心配そうに見つめているのに気付いた。

 

それは多分……これから起こることへのものか、俺を気遣ってのものか。いや、きっと両者なのだろう。

 

 

 

桃香「……ご主人様」

 

 

一刀「大丈夫だよ、桃香」

 

 

説明を代わろうとする桃香を制し、俺はゆっくりと一言も伝え損なわないように気をつけながら話す。

 

 

 

一刀「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも……願わくば同年、同月、同日に死せんことを。 この誓いを俺は破る」

 

 

愛紗「……ッ! な、何を仰りたいのか、私にはよくわかりません」

 

 

鈴々「お兄ちゃん……」

 

 

ようやく俺が何を言わんとしているのか理解した二人の顔に曇りが生じる。

 

なるべく暗くならないよう、俺は極力普段通りに喋るよう気をつける。

 

 

一刀「実はさ、大分前に言われたんだ。大局に逆らうことで消滅するって」

 

 

愛紗「しょ、消滅……ですか?」

 

 

鈴々「はにゃ? お兄ちゃん、消えちゃうの?」

 

 

いまいち、信じ難いといった様子の愛紗に対して、鈴々は柔軟な思考で本当のことだと捉えたようで瞳を潤ませている。

 

俺は、ある程度の事は省き簡潔に説明する。

 

 

一刀「本来、俺が知る歴史の流れでは蜀が三国の戦いを勝ち抜くなんて事は無かったんだ」

 

 

愛紗「なっ! 何を言っておられるのですか! 現に我らは勝利し、こうして大陸に平和を!?」

 

 

俺のする話を何でもいいから否定したいのか、強い語調で反論する愛紗に対して俺は首を横に振る。

 

 

一刀「そうじゃない……そうじゃないんだよ、愛紗。 そういう結末が確かに存在するんだ。 だけど、俺はそうなるべき流れを壊した。 だから、その報いとして俺は消える」

 

 

鈴々「そんなの……そんなのおかしいのだ! お兄ちゃんは何も悪い事なんてしてないのだ。 鈴々は……そんなの絶対に認めないのだ!?」

 

 

声を荒げて、叫ぶ鈴々。

 

 

そんな鈴々に俺は優しく頭を撫でながら、言葉を紡ぐ。

 

 

一刀「いいかい、鈴々? もう、認める認めないってことじゃなく、そうなるって決まっちゃったんだよ」

 

 

愛紗「そんな! 何か、何か方法は無いのですか!?」

 

 

桃香「愛紗ちゃん。 残念だけど……」

 

 

眼を剥いてこちらに突撃してきそうな愛紗の肩を桃香が掴む。

 

 

愛紗「桃香様……貴女は知っていたのですね? こうなる事を」

 

 

桃香「うん。 大分前なんだけどね。 最初は全然気にしてなかったんだよ、でも雛里ちゃんの一件があって」

 

 

愛紗「『落鳳坂』で雛里が討たれそうになった時の事ですか?」

 

 

桃香「うん、その前後でちょっとあってね。 その時に「ああ、本当にご主人様は消えちゃうんだな」って……」

 

 

愛紗「なぜ……何故、我々に話してくださらなかったのですか! 桃香様!?」

 

 

申し訳なさそうに話す桃香に愛紗は興奮した様子で詰め寄る。

 

 

一刀「愛紗、違うんだ。 俺が伝えないよう桃香に頼んだんだよ」

 

 

愛紗「それでも……せめて、せめて! 私と鈴々だけには言っていただきたかった!?」

 

 

項垂れる愛紗を見て心苦しさはあるが、これで良かったのだという思いが俺の中にはあった。

 

 

鈴々「鈴々も、その事を知ってたらもっと何か出来たかもしれないのだ!」

 

 

一刀「そうかもしれない。 でもな、鈴々?」

 

 

鈴々「にゃ?」

 

 

一刀「この事を知ってた桃香がどれだけ辛かったと思う?」

 

 

鈴々「それは……」

 

 

一刀「ずっと、俺のことを気遣いながらも、皆の為に気丈に振る舞ってたんだ」

 

 

鈴々「でもでも!」

 

 

一刀「それに、桃香自身も本当は話したかったと思う。 なにせ、掛け替えのない妹達なんだからな。 でも、俺が口止めしたから優しい桃香は黙っているしかなかった」

 

 

もうすっかりぐずってしまっている鈴々の頭を撫でながら俺はゆっくりと宥める。

 

鈴々はまともに反論が出来なくなっているようだったが、愛紗はまだ納得がいっていないのだろう俺の眼をその切れ長の美しい瞳で見据えている。

 

 

愛紗「では……何故、ご主人様は桃香様にそのような頼み事をされたのですか?」

 

 

一刀「決まっているだろ? 俺のことを知ればさっき鈴々が言ったように何かやれないかって余計な事を考えてしまうからだよ」

 

 

愛紗「余計な事だなんて……」

 

 

一刀「俺たちの成すべき事は大陸平定。 そして、民の平和。 そう決めてあっただろ?」

 

 

俺は諭すように語りかけるが、愛紗はその黒髪を振り乱すように首で否定の動きをとる。

 

 

愛紗「それとこれとは事情が違うではありませんか!」

 

 

桃香「違わないよ。 愛紗ちゃん」

 

 

愛紗「何処がですか……私にはわかりません」

 

 

悔しそうな表情でそう答える愛紗に寄り添い、桃香がそっと語りかける。

 

 

桃香「愛紗ちゃんと鈴々ちゃん、今の二人の状態がよく物語ってる。 そう思わない?」

 

 

愛紗「今の、我々……ですか?」

 

 

桃香「そう。 冷静でいられない……ご主人様以外の事はもう考えられなくなってる」

 

 

愛紗の瞳を覗き見ながら桃香は続ける。

 

 

桃香「私達にはやり遂げるべき目標があった。なら、この事を話して動揺させたりしたら……ね?」

 

 

愛紗「『本末転倒』という事ですか?」

 

 

愛紗が呟くように答えると、桃香は頷き、離れる。

 

 

一刀「ま、そういうことだから言えなかったんだ。 そこだけは判って欲しい」

 

 

愛紗「はぁ……貴方は、いつも突然だ」

 

 

桃香「そういえば、私達との出会いも突然だったね」

 

 

鈴々「最初から……ぐすっ、最後までお騒がせなお兄ちゃん……なのだ……ひっく」

 

 

ぐしぐしと前腕で目元を拭う鈴々に二人の姉も感極まった様子で口元を抑える。

 

俺はそんな三人とは対照的に不思議と笑みを浮かべていられた。

 

 

 

桃香「ねえ、ご主人様は……悲しくはないの? 私達とお別れになっても」

 

 

一刀「そんな事は無いさ。 でも、後悔はしてないから」

 

 

愛紗「後悔していない?」

 

 

俺が言った言葉に愛紗が若干、気にくわなそうにムッとした顔をする。

 

そんな表情も月光と相まって様になっているなんて思いながら俺は頷く。

 

 

一刀「みんなと一緒にここまでやり遂げられた。 結果を残せたんだ、俺がこの世界に来た意味があった。 三人の夢を叶える事が出来た」

 

 

桃香「まだだよ、ご主人様。 これからが、大事なんだから」

 

 

一刀「そうだよな……」

 

 

桃香の言う通り、戦乱が終わったからと言って途端に全てが上手く行く筈もない。

 

きっと、これまでの後始末を初めとした沢山の事が、彼女達に起こるだろう。

 

 

愛紗「ならば、ご主人様が如何に必要であるか……おわかりでしょう?」

 

 

一刀「いや……分かってはいるんだけどさ」

 

 

桃香「そうだよ、ご主人様! これからも、私達を支えてよ!?」

 

 

鈴々「そうなのだ、もっともっと教えて欲しい事がいっぱい、いーっぱいあるのだ!?」

 

 

一刀「そうしたいのはやまやまなんだけどね……」

 

 

桃香「ご主人様!」

 

 

三人の表情が一段と悲壮じみたものになる。

 

 

ああ、もう消え始めているんだ。

 

 

月の青白い光に包まれた自分の腕を見ながらそんなことを考えつつ、俺は伝えたいことを口にする。

 

 

一刀「大丈夫、三人の国や大勢の人たちを思う気持ちさえあればこの先もやっていける。反則的に万能な曹操に経験豊かな孫策がいる、絶対にもっと先へ進めるはずだ」

 

 

桃香「そんなこt……ううん。 そうだよね」

 

 

愛紗「桃香様!?」

 

 

鈴々「お姉ちゃん?」

 

 

涙を拭い微笑みながら頷く桃香。

 

 

そんな桃香を見ながら、俺はこんな時に不謹慎だと思いながらも……やっぱり、桃香は愛紗と鈴々の姉なんだなって改めて実感した。

 

 

桃香「もし、ご主人様と出会わなかったとしても、私達は私達でやって来た筈だもんね。 だから、私達の手で頑張って絶対に素敵な世界を築き上げるんだから」

 

 

一刀「それは楽しみだな……」

 

 

愛紗「ふふ、ご主人様が去ってしまった事を悔いるような国にして見せましょう」

 

 

鈴々「鈴々達なら、きっと出来るのだ!」

 

 

 

長女に負けじとばかりに妹たちも強い意志の籠もった瞳で俺を見つめてくる。

 

 

俺はそんな彼女達の様子にホッと胸をなで下ろす。

 

 

 

一刀「それじゃあ、最後に……もう一度だけ」

 

 

そう言って、ちゃっかり持参して来ていた酒と杯を取り出す。

 

 

杯に酒を入れて、俺を除く「桃香・愛紗・鈴々」に配る。

 

 

三人はその意味を把握し、配られた杯を手に持って掲げる。

 

 

俺は、それには加わらず自分の杯に入りこんだ桜の花びらを眺める。

 

 

 

桃香「我ら三人っ!」

 

 

愛紗「姓は違えども、姉妹の契りを結びしからは!」

 

 

鈴々「心を同じくして助け合い、みんなで力無き人々を救うのだ!」

 

 

桃香「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!」

 

 

愛紗「願わくば同年、同月、同日に死せんことを! そして……ッ!」

 

 

其処で感極まってしまったのか、愛紗が涙を堪えながら何も言えなくなってしまった。

 

桃香や鈴々も同様に涙を堪えていた。

 

俺は今すぐにでも、三人に駆け寄って抱きしめてやりたい気持ちで一杯だった。

 

 

でも、それは出来ない。

 

 

そうする訳には、いかない。

 

 

何故なら、この誓いは彼女達がするべき事だから・・・・・。

 

 

桃香「そして……此度こそ結盟が破られんことを!?」

 

 

感極まって何も言えなくなった愛紗に変わって桃香が続きの言葉を力強く紡いだ。

 

 

俺は、三人の震えた声による誓いの言葉を耳にしながら、ゆっくりと眼を閉じる。

 

 

一刀「……さあ、三人とも……終演の言葉を……頼む」

 

 

誰にも聞こえないような声で呟く。

 

 

そして、一刀の言葉に従うようにして桃香・愛紗・鈴々の三人は声を揃えて最後の一言を叫ぶ。

 

 

三人「「「……乾杯!?」」」

 

 

今、此処に新たな誓いは成された。

 

 

三人の誓いを見届けた俺は、三人に最後の言葉を告げる。

 

 

『ありがとう……桃香、愛紗、鈴々。 いつか、また……必ず会おう』

 

 

『……行って来ます』

 

 

その言葉に続いて空を切る音と、一刀が手に持っていた杯が地面へと転がる。

 

 

 

直後、三人の少女達の悲しい泣き声が静かな夜空へと響き渡る。

 

 

 

「天の御遣い」北郷一刀は三人の少女達との悲しい別れと共に、この世界から旅立って行ったのだった。

 

 

 

This story is to be continued


 
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