早朝、実家の道場内での稽古を終え、俺はぼんやりと今までの事を思い返していた。
俺が元の世界に帰ってから一年と少し……。
あの世界の魏で過ごした数年は、こちらの世界では僅かな時間にすぎなかったらしい。
行方不明扱いされることが無かったというのは、不幸中の幸いというべきなのだろうか。
俺が消えたあの後、真っ白に塗りつぶされた意識を取り戻した俺は、何事も無かったかのように、寮の自室で目を覚ました。
僅かに感じる懐かしさと、混乱。
夢だったのか?
その恐怖は、数年間着続けて傷みが目立ち始めた制服と、訓練で付いた青痣の残る体を見ることで霧散する。
そして……、全てが現実だったと悟った瞬間、俺は頬を濡らす感触に気づいた。
グルグルと回る思い出。
春蘭、秋蘭、桂花、稟、風、季衣、流琉、凪、沙和、真桜、霞、天和、地和、人和、そして……。
「……華琳」
声を出したら、止まらなかった。
「愛していた……、愛していたんだ華琳!」
後悔はない、例えやり直すことが出来たとしても、何度でも俺は繰り返すだろう……。
「でも俺は、ずっと、ずっと君の側にいたかった!」
認めたくなかった。
「寂しがり屋の君を、ずっと支えていたかった!」
帰りたくなんて、なかった。
「ちくしょう」
目が熱い、涙が……、止まらない。
「うぁ……、うああぁぁああぁあぁぁぁ!」
それからの事は、正直余り覚えていない。
泣いていたのは半刻か、一刻か、それとも一日以上なのか……。
ただ、涙も声もかれ果てた時、華琳に笑われた気がしたんだ。
-情け無いわね、私の愛した男はこの程度なのかしら?-
って。
たぶんそれは単なる幻聴で、俺の思いが生み出したものに過ぎないんだろうけど。
俺に一歩踏み出す勇気を与えるには十分過ぎた。
だって、あの曹孟徳が愛した男が、蹲って泣いてるだけでいいはずが無いんだから。
それからはとにかく必死だった。
実際はともかく、体感は数年なもんだから、学校の勉強なんかほとんど忘れてしまったし。
警備隊なんかやってたせいで、どうにもトラブルに首を突っ込むようにもなってしまった。
でも、この一年で少しずつ成長できているとは思う。
「華琳、俺は俺の物語をぼちぼち無難にこなしているよ。君は……どう?たぶんうまくやっているんだろうな」
「次に会えたときは、別れてからの話、たくさん聞かせて欲しい」
「だから、いつかまた会えるときまで、俺は胸を張って生きるよ。俺らしく……、華琳に笑われないようにね」
風が吹き、掻き混ぜられた冷えた空気が体温を奪っていく。
「…………ふぅ」
「じゃあな!また会おう、華琳!」
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魏の一刀帰還イベント&エンディング時の一刀サイドを書いてみました。
もう何番煎じか分かりませんが、恋姫祭り最終日ということで見逃してください。
小説(のようなもの)を書くのは十数年ぶりかも。