俺はかつて異世界にいたことがあった。
そこには三国志に出てくる有名な武将がみんな可愛い女の子になっていた世界だった。
そこで俺は平和な日本人の高校生として関羽や、張飛、他にも様々な仲間と共に乱世を駆け抜け、三国を統一したんだ。その中で育まれた愛もあった。友情もあった。
そしてその乱世の裏で暗躍していた白装束の男たちから世界を守るため最後の決戦に挑んだ。
……けど、世界の崩壊は止められず、俺は新たな世界―外史―を創造することで存続を願った。
結果は失敗だった――――
気が付いたら俺は元の世界に戻っていた。けどそこに愛紗や鈴々達の姿はどこにもなかったんだ。
俺が向こうにいた間にこちらは二ヶ月の時間が経過していて、俺は行方不明扱いとなっていた。そこで俺はおそらく記憶喪失になっていたと嘘をつき、何も覚えていないと言い張った。
いぶかしまれはしたがいくら調べても俺の消息が掴めず(まあ、当たり前だけど)、それを信用するしかないという形で俺は学園生活に復帰した。
流石に気まずい復帰になるかと思ったけどクラスメート達が喜んで迎え入れてくれた事に対しては素直にうれしかった。特に親友の及川の涙を見た時は申し訳ない気持ちと共にとても救われた思いがした。
それからは立ち直りの日々だった。以前より勉学に打ち込み、部活に打ち込み、友人と大いに遊び、様々なものに手を出して浅いながら知識と経験を蓄える。愛紗達に怒られないような自分である為に。
多分、ずっと落ち込んでなんていたら吹っ飛ばされそうだから。特に星辺りに。
そして月日が流れて、この世界に帰還して一年が経とうとしたある日、夢を見た。愛紗達と乱世を駆け抜けたあの日々の夢を。
久しぶりに見る夢だった。何かが起きる前兆かな、そんな事を思ったりもした。
まあ、結果としてその予感は当たる事になる。
<<無双恋姫 ―御遣い再臨―>>
プロローグ
久しぶりの夢を見た日の放課後、おなじみの及川と一緒に下校していた。
「それじゃ、かずピー。俺はこっちやから」
その途中、寮と反対の方向を指差しながら及川が言った。
「どこか行くのか?」
「なんや、かずピー気になるんか?」
溢れんばかりの笑顔で及川が聞き返してくる。
その笑顔を見れば大体察しがつくな。おそらく彼女ができたのだろう。
「いや、別にどうでもいい」
「ひどっ!」
そしてお互いに笑う。いつものやり取りだった。
「じゃあな、かずピー。また明日」
別れ、そして再開の約束の言葉。
その言葉に対して「おう、また明日」俺はそう言い返そうとした。
けど……
「おう」
としか言えなかった。
何故だろう。もう及川に二度と会えない。
去っていく、及川の後ろ姿を見ながらそんな思いが俺を取り巻いていた。
何とも言えない気分のまま寮に帰り、ドアを開ける。
「は~い、ご主人様。久しぶりねん」
ドアを閉める。
「…………」
また開ける。
「もう、ご主人様ったらひどいわねん」
また閉める。
筋肉ダルマが俺の部屋に立っていた。
まあ、貂蝉の事なんだけど。
久しぶりに見るからか、予想外のことだったからかキツイ。
こんなに見るのに勇気が必要なやつだったかな。
なんかもう、さっきまでのシリアスな雰囲気が台無しだなぁ。
まあ、こっちの方がいいけどさ。
そしてもう一度ドアを開けて貂蝉と対面する。
気持ち悪いくらいにプリプリ怒っているけどその辺は無視しよう。
「で、何の用なんだ貂蝉」
「あら、意外に冷静ねん。もっと色々問いただされるかと思ったのだけど」
「自分でも意外だよ」
何で元の世界に戻ったのか、愛紗たちはどうなったのか、聞きたいことは山ほどあるのに頭は意外にすっきりしていた。
そんな俺に満足したのか貂蝉はゆっくり言葉を紡ぎ始めた
「まずは一年間もご主人様をほおっておいた形になってしまってごめんなさい。あの衝撃で外史の狭間に飛ばされて身動きがとれなかったの」
そして話が少し脱線するけどと前置きをしてその理由を話す。
貂蝉たちの様な存在はある程度自由に外史を行き来することが出来るのだそうだ。
しかしそれは外史から外史へルートを作成し、それを渡るという方法を取っているからだ。
そのため今回の様な形で狭間に飛ばされるとルートを作成できないらしく自力でどこかの外史に移動しないといけないということだった。
船で行き来できるはずが津波にさらわれ、海に放り出されて泳いで陸地を探さなければならなくなったとイメージすると分かりやすいかもしれない。
そう考えるとよくここまで来れたなという思いも少しは湧いたが、「まあ貂蝉だし」の一言で勝手に一人で納得してしまった。
「話を戻すわねん。泰山での最後の審判。ご主人様の立場からすると実は成功していたの。願いは正史に届き、新たな外史が創造される寸前まで行ったわん。しかし原因は不明だけど創造されかけていた外史が崩壊。ご主人様は本来生活していたこの世界があったからこの世界に帰還することになった。そして残りのみんなは崩壊した外史と共に消え去ってしまった……」
その内容は衝撃的だった。
俺の祈りは、願いは届いていたのだ。決して俺の想い、願いが薄かったわけではなかった。
それは俺がこの世界に帰還してから一番気になっていたことだった。俺の所為で愛紗たちがと何度思った事か。
心の枷が一つ取れた気がした。
けどみんなが消えてしまったという事実。その原因が不明という事実。
それが悲しくて悔しくて仕方が無かった。
「けど、それだけではないの。崩壊した外史、その欠片が寄り添い、集まって新たな外史が創造された。その世界は三国志の英傑たちが女の子になっている世界」
今の言葉に俺は思わず貂蝉に飛びかかりそうになったが、それを制するかのように続きを語り始める。
「ただその世界にいる娘たちはご主人様が知っている娘たちではないの。姿形は一緒。性格もほぼ変わってないでしょうね。でもご主人様と一緒に乱世を駆け抜けた記憶が無い。新たに創造された代償と言ってもいいわね。それに時代も戻って黄巾党が現れる前の時代かしら。これがご主人様の知らないあの後の状況よん」
そこで貂蝉は一息つく。
気がつけば外は夜になっており、部屋は黒く染まっていた。
俺は貂蝉の説明を聞いて素直に嬉しかった。
愛紗たちがたとえ俺との記憶がない別人だったとしても生きている事に。
そんな俺の表情を受けてか、貂蝉が俺に聞いてきた。
「さてご主人様、この外史に行けるとしたら行く?」
「行く。行くに決まってるさ」
俺はあの世界にいたときに決めたんだ。
みんなと共に生きようと。
「もうこの世界に帰って来れないとしても?」
「ああ、行く」
俺は即答した。こっちの世界を捨ててでもあの世界に行くと。
罪悪感が無いわけじゃない。及川のあの涙が頭をよぎる。あの涙を裏切る形になる。もう一度、あいつに悲しい思いをさせてしまう。
けど決めていたんだ。もしもう一度みんなに会えるかもしれないのなら俺は行くと。
その想いはさっきの貂蝉の説明を聞いて変わらなかった。
みんなが俺のことを知らなかったとしてもまた出会って思い出を作ればいい。簡単な事ではないかもしれないとは思うけど……
「よかった。もしご主人様が行かなかったらあの外史はまた崩壊してしまう運命にあったのだから」
「なんだって?」
「今回の外史は存在自体が異常なの。創造のされかたからして今までに無いわ。その為か正史からの直接的な影響を受けない世界になっているの。つまり正史の想念によって決められた物語が存在しない。その世界に生きる人々が自由に歴史を紡ぐ事が出来るの。そういう意味では新たな正史が誕生したと言ってもいいくらい。だからこそ世界自体が不安定なの。それを安定させる最後のピースが天の御使いたるご主人様。しかも完全に安定するまで向こうの時間で十年以上かかるわ。それまでにご主人様が死んでしまうと世界はまた不安定になって崩壊してしまうかもしれない」
「そうだったのか。けど十年以上か……」
「ご主人様がご主人様らしくしてればあっという間よん。じゃあ私は転移の準備をしてくるから一時間後にまたやってくるからそれまでに準備をしておいてねん」
そう言うと貂蝉は満足そうな笑みを浮かべ消えていった。
「おい、ちょっと。一時間って」
あまりに急な事に文句を言いたくなるが既に貂蝉はいない。
若干、腹が立つが時間が無い。
無理矢理気持ちを切り替えて準備のためまずは玄関へと向かった。
―― 一時間後
邪魔にならない程度の荷物を持って俺は自分の部屋にいた。
両親とじいちゃんには簡単に電話で話した。もちろん本当のことは一切話さずに。
両親には用も無いのに電話をしてきて「ホームシックか」と笑われた。
じいちゃんは「また剣術の稽古をしてやるのを楽しみにしておるわい」と豪快に笑っていた。
電話を切った後、泣きそうになるのを堪えるのに必死だった。
「ごめん」「今まで育ててくれてありがとう」と心の中で叫ぶしかなかった。
そして最後に及川の携帯にも電話をかけた。
及川はすぐに電話に出てくれた。思っていた通りデート中なのだろう。ギャルっぽい女の人の声が少し聞こえてきた。
「どうしたんや?」
「いや、特に用事は無いんだけどな」
「そうか? 変なかずピーやな」
そして二三、会話のやりとりをして「それじゃあ」と電話を切ろうと思った時だった。
「かずピー、ワイとかずピーはいつまでも親友や」
何かを察したのか及川はそう言って……
「それじゃ、おみやげを期待しとるで~」
電話をきった……
「待ったかしらん」
間も無くして貂蝉が現れる。
「いや、俺も準備ができた所だ」
「あら、結構色々準備したのね」
確かに大型のリュックに結構色々詰め込んでいるな。様々な本や道具など、あって困らないと思う物は片っ端から入れたから。
「しかし残念だけど、おそらく全部は持っていけないと思うわ。別の世界に行くときにはその世界が許容してくれた物しか通してくれないのよ。まあ何が許容されるから通してみないとわからないけどねん」
だから準備をした事自体は無駄ではないわと続けた貂蝉は転移の最終調整を始めた。
「ご主人様、始めるわね。目を閉じて。そして強く想うの。会いたいと。それで向こうへの扉が開くはずよ」
言われたとおりに目を閉じ、強く想い願う。
『逢いたい』と
するとあの泰山の時と同じように自分の存在が消えていくような浮遊感が体を襲った。
これでやっと……と思った時だった。
貂蝉が爆弾発言を言い放ったのは。
「あ、そうそう言うのを忘れてたわ。みんなの記憶のことだけど、前回の世界の欠片を元に創造されているから魂にはご主人様の事が刻まれているはず。だからもしかしたら記憶が甦るかもしれないわよん。いや、もしかしたらもうよみがえっている娘もいるかもしれないわねん」
思わず目を開いて貂蝉を見る。
すると気持ちのいいくらいの、けど気持ち悪い笑顔でこちらを見つめていた。
明らかにわざとこのタイミングで話しているが分かった。
なんか言い返そうと思うけど転移し始めていて動けないし喋れない。
腹が立つので次会ったら一発殴ってやろうとそう心に刻みつつ、俺はこの世界から消えていった。
「行ったわね。これで新たな突端が開かれた」
貂蝉は一息つく
「今回の外史は完全なイレギュラー。こんな外史を正史が放っておくはずがない。前回と同様、いえそれ以上に妨害が待ち構えている可能性が高い。まあ、そのことについては私が頑張らないとご主人様に嫌われてしまうわん」
そう言って貂蝉も姿を消す。
そして残ったのは主のいなくなった部屋だった。
*******************************
はじめまして、雅岩(まさろく)と申します。
無双恋姫 ―御遣い再臨―のプロローグをお送りしました。
プロローグということでテンプレ中のテンプレのような内容になってます。
ここから幾多の作品とどう差別化できるか頑張っていきたいと思います。
とりあえず、この作品に対する言い訳という名の注意事項があります。
1.作者は三国志の知識がかなり少ないです。特に地理。真恋姫をやっていた時代なんて呉と蜀の位置関係が逆だと思っていたぐらいです。そのためありえない距離を移動したりおかしい順路を旅したりする可能性があります。
もしご指摘をしていただいてお話的に修正可能でしたら修正を行います。
2.オリキャラが出てくる予定です。今のところ6人。男1人に女5人です。この男キャラと恋姫がくっつくことはありません。女キャラと一刀君がどうなるかは今のところわかりません。お話的に一刀君が天下統一する内容にしたいので一刀君陣営に入る恋姫キャラの穴埋めにそれぞれの陣営に女の子オリキャラを埋める予定です。
3.この一刀君は原作より微強化されています。乱世を一回駆け抜けている上、帰ってきてからもじいちゃんから特訓されているので弱いままなのはおかしいかなと。ただ防御特化で普通に戦えば一般兵に勝てるくらいにする予定です。強くて格好いい一刀君もいいのですがやはり恋姫たちに守られているのが一刀君らしいかなと。お姫様ですから一刀君は(笑)
4.無印恋姫も真恋姫も発売当時にやった以降、まったくやっていないのでキャラの性格は二次創作の小説や4コマ漫画、アンソロジーの影響を色濃く受けています。特に無印から真になる上で微妙にキャラが異なるキャラは真準拠になると思います。また大喬、小喬は申し訳ありませんがキャラを完全に忘れてしまい出さない予定です。
5.一刀君に様々な困難が待ち受けてそうですが、基本は超ご都合主義でお話を進めていく予定です。
以上の5点が駄目な方はこれから先のお話は読まれない方がいいと思います。
現在、1話を書いている途中ですので1話目はすぐにお届けできると思いますが、そこから先が遅くなる可能性がありますが生温かい目で見ていただきたいと思います。
最後に改めて私とこの作品をよろしくお願いいたします。
Tweet |
|
|
24
|
3
|
追加するフォルダを選択
無印恋姫の世界のラストで新たな外史を創造した一刀君。しかしそれは失敗して現代に帰ってきました。そんな所からスタートします。