下校しようとしていた少年は、下駄箱で後ろから誰かに呼び止められた。
自分にとって数少ないであろう、親友と呼べる同級生だ。
靴を履きながら、他愛ない会話を交わす。
学校で起きたこと、出される課題について、近々行われる予定の学校行事、今流行のファッションやアイテムなど、もしかすれば本当にくだらないような内容ばかりだ。
そのまま一緒に下校しようかという時、二人は校門の方に人影を見つける。
それを見ると、一人は明るい表情に、もう一人は妬ましそうな顔付きになる。
後者の方はふてくされながら、前者と別れの挨拶を交わし、別方向に歩き出す。
校門の人影は一人の女子生徒で、前者の少年と交際し始めてひと月ほどになる。
少年は待たせてしまった事を詫び、少女は今し方来たところだと、決まり文句を喋る。
暫くして、住宅街を歩く二人の姿があり、沈もうとしている太陽がその影を長く伸ばしている。
各々の帰る方向が同じである為、途中まで一緒に帰ることが、二人の最近の日課になっている。
二人の間で交わされる会話は、言葉数が少なく、どこかぎこちない。
しかし、時折訪れる沈黙も、二人にとってはかけがえのない時間なのだ。
沈黙すると、どちらともなく相手の方を見て、ぶつかる視線が妙に可笑しくて、思わず吹き出して沈黙が終わり、またポツリポツリと話し出す。
ただ、その繰り返し。
分かれ道に差し掛かり、二人の道もそこで分かれる事を示していた。
少年が明日また会うことを約束し、少女もそれに同意する。
軽くお辞儀をして分かれた少女が見えなくなるまで、少年はその後ろ姿を見つめていた。
時折吹く風で、少女の髪とスカートが優しく揺れた。
少女を見送った後、少年は一人家路を歩く。
彼の日常には、特筆するような事柄は出て来ない。
しかし、少年は別に不満を抱いているわけではない。
むしろ、それが楽しく思えるのだ。
友人との語らい。
恋人との甘い一時。
これで不満をぼやいていたら、神様に怒られてしまう。
そう。ゲームや小説に出てくるような突拍子のない出来事がなくても、日々は楽しく過ごせるのだ。
あまり刺激があると、それ以上の物を求めてしまう。
何もない日々こそ、かけがえのない宝物なのだ。
深呼吸を一つして少年、北郷一刀は大切な家族の待つ家へと急いだ。
-終-
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今までの流れと全く関係ない、アニメの恋姫†無双を観て思い付いただけの少し切ない話です。本当に全く関係なく、消して欲しいなどの御意見がありましたら、すぐ消します。