No.538844

恋姫†無双・萌将伝~妄想外史シリーズ~あの子が髪を下ろしたら

某所で話題になったのでいのししなりに形にしてみました。
最初に考えてたのとぜんぜん違う感じに…
おかしい…
こんなに華琳様の出番が多いはずじゃなかったのに…
どういうことなの…?

2013-02-01 23:49:09 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:3089   閲覧ユーザー数:2597

「男にとって、一生を懸けてでも抗いたいことがある。

それは、あるいは女性から慕われることよりも、勉学で大成するよりも、鍛えあげられた肉体を手に入れるよりも重要なことかもしれない。

お前たち!!!

髪を大切にしたいかー!!!」

「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」

 

ここは三国の中心街の更に中央、三国が平和の象徴として築いた一角の小さな飲み屋。

むさ苦しいと言っても差し支えない光景がそこに広がっていた。

各国の兵士たちを数名ずつ集めて煽りに煽っているのが、天の御遣いである北郷その人である。

「俺が居た国でも男たちは皆その髪の毛を保たんと躍起になっていた!

 それはこの世界でも変わらなかった!

 しかし、俺は絶望した!この洗髪料に絶望した!

 日本の石鹸がアレほど進んでいるものだとは思いもしなかった!

 洗い終わった髪はギシギシで、頭皮はつっぱり、髪を乾かしたあとは細かくちぎれていく!

 ただでさえ毎日風呂に入れないのにこれでは髪の毛は抜けていく一方!

 増えていくのは皺と悩み事だ!そんなことが許されていいはずがない!違うか!」

「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」

 

本来ならば店主が怒りつまみ出されてもおかしくない程の声量で北郷が捲し立てる。

しかし、そこは店主も男である。

一緒になって騒いでいた。

 

「そこでだ、俺は考えた!このままではいけないからだ!

 そして開発した!俺が居た世界の石鹸に近づくために!

 椿油!菜種油!卵に蜂蜜!思いつくものをなんでも使い試した!

 こちらにおわす華陀先生とともに一生懸命に!

 そしてついに!完成したのだ!」

「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」

「俺もこの話を聞いた時には驚いた。しかし、髪の毛をいたわり頭皮に潤いを与えるのはいいことだ。

 髪の毛が生えてくるとまでは言えないが、禿げる前の予防としては効果が全くないということもないだろう。」

「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!うおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」

「まだ設備や材料がまだそろっていないから量としてはいまここに用意できた分だけである!

 しばらくは俺の屋敷の大浴場に置いておくから皆は使い過ぎないように注意しながらわけあって使うように!

 しかしこれから必ずやこれを流通させて、世界の頭皮に潤いを!

 そして目指せ永年ふさふさ!」

「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」

酒の勢いが9割を締めるこの無茶苦茶な演説は夜中まで続いたというが、しかしその熱意というのも分からないではない。

それだけ、髪の毛について関心があるのだ。

そう、男も、女も。

その狂ったような夜が過ぎてからしばらく後、ある問題が起こった。

「…え?女性用の風呂が壊れたですって?」

「せやねん。ぱぱーっと直せればよかったんやけど、浴槽の方にちーっと大規模に補修が必要っぽくて…」

「しかし風呂の費用に水も薪も割いているのだし、何よりなんだかんだと楽しみにしてる将も多いわ…」

「あぁ、せやったらこういう自体やし隊長んとこの借りたらええんちゃいます?

 もともと今日はそっち沸かす予定ないですし、注意書き書いといたら間違えて入ってくることもないやろうし?」

「そうね…私も久しぶりに春蘭たちと楽しみたいし、そうさせてもらおうかしら。

 真桜、悪いけど女性用の風呂の修理と今回の事情の説明と手配、よろしく頼むわ。」

「了解しました~。できるだけ早く直しときます~」

魏の面々が使う風呂が壊れてしまったのである。

頻繁に体すべてが疲れるほどの湯を沸かすわけにもいかない以上、風呂に入れる機会は貴重であり、また楽しみでもある。

その楽しみがなくなるだけで多少なりとも士気に関わるし、そこはやはり女性だ。

身だしなみに気を使いたい年頃なのだ。

将達の多くはこう考える。

ただでさえ、北郷と共に過ごせる時間が少ないというのに、折角の機会のときに汗臭いのでは嫌われてしまうのではないか…。

そのため、今日がダメならつぎまで我慢してくれとも、華琳の口からは言い難い。

また、彼女自身北郷との閨はまだ当分先ではあったが、翌日に三国会談が控えていた。

服装から髪型に至るまですべて完璧に仕上げていなければ満足できない完璧主義者の彼女にとって、今日風呂に入らないということは許されることではなかった。

代替手段があるのならば、それを取らない手はない。

そんな事情もあり、魏の面々はその日、北郷宅の大浴場を使うこととなった。

華琳も、春蘭、秋蘭を連れて北郷宅の浴場に向かう。

それが、あんなことになろうとは…

「結構しっかりした作りなのね…」

北郷宅の風呂場の広さに、華琳は少し驚いていた。

「えぇ…まさかこれほどまでとは。」

その意見に、秋蘭も同調する。

二人が驚くのも無理は無い。

なにせ、北郷はもともと日本人、そして浅草、つまり下町の生まれである。

風呂が好きなのは当然だ。日本の誇るべき文化である。

多数人が使用できるように浴槽は広く、設備にも景観にも拘りが見え隠れする。

富士山に松、サウナもある。シャワーこそないが水風呂まで入れられるしまつだ。

もちろん、すべてが全ていっぺんに使用出来るような代物ではなく、今日も一番大きい湯船に湯が張ってあるだけだったのだが、華琳たちが驚くのは無理からぬ事だった。

「一刀…結構道楽者なのかしら…?」

「さぁ、それはわかりかねますが、ただ確実なことは、この風呂場は大した一品だということです。」

華琳と秋蘭はその内装にあっけにとられ、春蘭は風呂に飛び込んでいた。

「なかなかどうして、いい風呂じゃない。一刀も結構やるものね。」

しばらく湯に浸かり富士の景色、といっても華琳達はその山の名前を知らなかったが、を満喫した後、本格的に体を洗おうと、等間隔に設置されている鏡台の前にきた。

「これも一刀の発案かしら?なんというか…気が効いているのかどうなのかわからないけれど、便利であることに間違いはないわね。」

湯気で曇っている姿見を手拭で拭いながら、華琳は鏡の前に陣取った。

「えぇ、全くです。ほら、姉者もこっちにこい。」

「お、なんだ秋蘭、どうかしたのか?」

「せっかく立派な鏡もあることだし、髪を洗ってもらいたいのよ。」

「ほんとうですか!?任せてください!」

その誘いはよほど魅力的なものだったのであろう。

春蘭は頭に手拭を乗せたまま、華琳の隣と飛んできた。

「うむ、それでは華琳様、失礼して…」

そういって、秋蘭は持参した洗髪剤をもちだしたのだが…

「…む?おい秋蘭、これはなんだ?」

華琳の隣へと座った春蘭があるものに気がついた。

「うむ?」

鏡の前に、小さな陶器の容れ物がひとつ。

春蘭はそれを手に取り、そこに書かれている文字を読み上げる。

「ふむ、なになに…『北郷謹製髪用液体石鹸』『希少品故大事に使うこと』と書いてありますが…」

「あいつは風呂場にどれほどの心血を注いでいるというのかしら…」

「まったくです。呆れるのを通り越してもはや感心します。」

「…おぉ!しかし、これはすごいですよ華琳様!良い香りがします!」

好奇心に勝てなかったのか、春蘭は蓋を取り、匂いを嗅いでいた。

「あら、本当に良い香りね。…なんでこんなものが男性用の風呂場にあるというのかしら?」

「まったく理解出来ませんが…いや、えぇと、『頭皮を指の腹で揉むように時間をかけて洗髪すること、さすれば髪の寿命は自ずと伸びるであろう』と書いてあります。」

「はぁ?ほんっとうに何を考えているかわからないわね、女でもあるまいし。

 あら?残りはだいぶ少ないのね。ほとんどないじゃない。

 しかし、せっかくなのだから私達も使わせてもらうとしましょうか。」

「御意。使い方もここに書かれているとおりに致します。」

「秋蘭!私も!私もこれで洗ってくれ!」

「わかったわかった、ほら、姉者もそこに座れ。む?三人分でちょうど終わりくらいの量だな…」

新しいものに目がなく、髪型に人一倍気を使う華琳である。

こんなものを前に、その好奇心を抑えきれるはずもなく、結果北郷が作り上げた洗髪剤を使い、髪を洗うことにした。

「おぉ、なんという…このような泡立ちは見たことありません…」

使い始めて、すぐに分かるその違い。

水分を含ませた髪を洗うごとに泡がたち、髪を包んでいく。

「あっ…そこ、気持ちいいわ。なんだかいつもよりも指使いがなめらかなようだけれど…」

普段のものとの違いは、直接髪を触れていない華琳にもすぐに感じ取ることが出来た。

「はい、髪が軋むようなこともありませんし、指通りも抜群です。」

「ぎゃー!痛い!滲みる!泡が目に滲みるぅ!秋蘭助けてくれ!」

「姉者…お湯でよく洗い流せと書いてある。ほら顔に湯をかけるから上を向け。」

「早く!秋蘭早く!」

「まったく、春蘭ったらしょうがないわね…」

「あ、華琳様はしっかり目をつぶっていてください。ほら行くぞ姉者。」

そんなお決まりの流れもしっかりこなしながら、三人は髪を洗い、泡を濯いだ後、もう一度湯船に浸かる。

まだ水分の残る髪を手拭で包み、つい今しがた使った洗髪剤の感想を口々にいった。

「直接洗った私の感想では、本当に信じられません。今までのものはなんだったのかと思うほどのものでした。」

そういうのは秋蘭である。

「普段のものでも髪についた油分は取れるのですが、濯いだあとの髪があれほどには…」

「そうよね。それは私も感じたわ。髪は傷んでいないわよね?」

「えぇ、あれを使って髪は潤いこそすれ痛むことはないでしょう…」

概ね好評なようである。

そこへきて、春蘭はというと、

「なぁなぁ、秋蘭、私の髪は抜けてないよな?」

などと漏らしていた。

「なぜだ、姉者。そんなことはあり得んと思うが…」

「いやな?いつもだったらこう、髪が張り付いてるというか…なんかこう、だな!」

「それじゃ全然伝わらんぞ…」

「だから!どういったらいいのかわからんが、今日はなんか頭がスースーする気がするんだ!

 抜けてないよな!?これで抜けていたらまた桂花にデコッパチだのなんだのといわれてしまう!」

春蘭はだいぶデコのことを気にしているようである。

「大丈夫だ姉者。それに私も同じことを感じていた。」

そんな姉に秋蘭はそう言って聴かせる。

「そうね、説明書きのとおりであれば、頭皮が呼吸しているとのことだけれど…

 正直いってなんのことだか私にはわからないわ。

 さっぱりして気持ちいいのではなくて?」

「そういうものですか…?」

「多分そういうものだと思うが…」

「それにしても、屋敷の風呂が壊れてしまってこうもいい思いができるとは思わなかったわ。

 一刀も、今度ばかりはだいぶ見直したわ。

 次に何処か屋敷を建てるときは一刀に風呂を担当させようかしら。」

「それはいい考えかもしれませんね。」

「むぅ…やっぱり何か頭がスースーする…」

その場は、このように和やかに収まり、三人の中で一刀の評価はだいぶ上がったのだが…

翌日、会議の始まる時間になっても華琳がこない。

普段ならばいち早くやってきて準備を済ませている完璧超人の華琳が、である。

「ねぇねぇ、ご主人様、なんかあったのかな?」

桃香が心配するのも無理は無いことだった。

「やっぱ心配になるよな?」

「一刀は何も聞いていないの?昨日は魏の将達は一刀の家のお風呂を使ったそうだけど…」

「あぁ、そういえばそんなことも言ってたな。

 ただ、俺自身昨日は警邏達の新人たちと夜遅くまで飲んでたから…

 そんな目で見ないで!そういうことはなかったから!」

「「ジー…」」

「本当だって!信じて!」

「「ジーー…」」

扉が開く音が響き、同時に一刀への助け舟が出されたのはその時だった。

「そんなことをして一刀を責めても本当になにもなかったわよ。」

「あ、華琳さん!」

「遅れてしまって申し訳ないわね。個人的なことで恥ずかしいのだけれど、髪が全然まとまらなくて時間が掛かってしまったの。」

そんなことで、とは、誰も言えなかった。

以前華琳の髪型をセットする器具が壊れてしまった時のあの取り乱し様を見れば、自ずと納得できる。

それだけあの髪型にこだわりがあるということだろう。

しかしと、蓮華は尋ねる。

「どうしてまたそんなことに?いつもの華琳ならばそれも含めて時間に間に合うでしょう?」

「いつもと勝手が違いすぎてしまったの。これ以上言い訳はしないわ。本当に申し訳ない。

 さぁ、会議を始めましょう。」

そう言って席につく華琳の髪の艶に反応したのは桃香だった。

「でもでも、華琳さん今日すっごく髪キレイ!ね、ご主人様もそう思うでしょ?」

「そこで俺に振られても…」

もともと鈍感な一刀だ。

そんな細かいところに気がつくわけがなかった。

そう、見た目には。

ただし、それが自分の心血を注いだあれだということには気がついた。

「ん?この匂い…お香…いや…髪…艶…?

 あ!華琳、お前もしかして!」

「…なによそんな顔して?」

「いや、そんな…しかしこの匂いは絶対…!」

「え…あ!そういえばご主人様と華琳さん同じ匂いがする!」

「はっ!やはりあなた達昨日は一緒にいたということ!?」

「ずるいずるい!」

「ちょっと、本当に何もなかったと言っているでしょう!?」

「「ジー…」」

「ひどい濡れ衣だ!」

「「ジー……」」

結局、そのまま疑いの眼差しは鈍い輝きを失わず、華琳達は会議の間ずっと蓮華と桃香のジト目で射抜かれ続ける事となった。

「ひどい目にあった…」

北郷が小言を漏らすのも無理はなかった。

蓮華達は会議が終わったあとも長いこと華琳と北郷を問い詰め続けたからだ。

それほどまでに『順番』飛ばしは重大だということだが、身に覚えのない二人はそれをずっとごまかし続け、蓮華たちは疑いを深め、追及の手をさらに激しく…という悪循環だ。

「まったく、洗髪剤など、取り立てて隠すようなことではないじゃない。」

あまりにも一刀が隠すために華琳もそれに合わせはしたが、そもそもそこまで念を入れて隠すようなことであると感じてはいない。

だから、華琳が小言を漏らすのもまた、無理はなかった。

「早く理由を話してしまえば開放されたというのに…」

「いや、だからそれを話しちゃうとほかの連中に迷惑がかかるから…」

そういって、一刀はうなだれる。

「まったく、髪の量など気にするほどのものでもないでしょうに…」

「ひどい!髪型にあれだけこだわる華琳ならわかってくれると思ったのに!

 いや、まぁそれは冗談としても俺一人の問題じゃなくなるからな…」

「さっきからそういうけれど、あの洗髪剤が広まってしまうとなにか問題なの?」

「…あれ、作るのにどのくらいかかると思う?」

「期間の話?それとも材料費の話?」

「両方だよ…あれ、これくらいでこれくらいかかってるんだ…」

一刀が指折り数えてみせたのその額に、華琳は驚かざるを得なかった。

「…あなた、さてはバカなの?」

「試作品なんだよあれ…残り少なかったし使いきっちゃったろ?

 いつも頑張ってくれてる連中に恩返ししたくて作ったんだ。

 だからあんまりおおっぴらにしたくないんだ…

 風呂ってまだそうそう一般的じゃないから、褒美として使おうかなとも思ってたし…

 あと、あれ使い終わったあとの水の処理の問題とかもあるし。」

「それならそうと言ってくれればいいのに。

 たしかに色々問題はありそうね。泡などはすぐに消えなかったし。

 勝手に使いきってしまったことには私にも否がないわけでもないわ。

 だから、私も開発に協力しましょう。」

その言葉に、しょぼくれていた一刀の目が輝きを取り戻した。

「え、いいの!?」

「えぇ、もちろん。個人的にアレを気に入った、というのも理由の一つよ。

 むしろ、なぜこれほどのものを今まで黙っていたか。そちらのほうが疑問よ。

 今日、私は髪をまとめるのにいつもより時間が掛かってしまったけれど、それは普段よりも髪の艶が良かったせいで勝手がわからなかったから。

 それは女としては喜びこそすれ、怒るようなことではないわ。

 それにね…いえ、その効果がどれほどのものかは、これからその目で直接確かめなさいな。

 それをみれば、私があなたを手放しで褒める理由がわかるはずよ。

 さぁ、ついていらっしゃい。」

華琳について庭に出た北郷の目にまっさきに飛び込んできたのは、これもまたえらく上機嫌な沙和だった。

「あ、隊長!見てみて、ほら!すっごく可愛いと思わない?沙和の自信作なの!」

そう言って、二人の女性の背中をグイグイと押しながら近づいてきた。

一人は深い黒髪の女性。

服装は白のロングチャイナで、大胆なスリットが入っており、そこから覗かせる足はスラリと長い。

うっすらと紅をさした唇は、困惑のためか小さく歪んでいるが、伏し目がちな目線と相まってまるで誘われているような錯覚にすら陥るほどの色気だ。

だが、おそらく褒めるべきはその白いチャイナドレスに負けぬくらいの存在感を魅せる彼女の髪だろう。

その長い黒髪は後頭部の高い位置で括られているが、毛先までまっすぐに整っており、光沢のいいベルベットのような艶を見せている。

しかし、それでも全ての髪をまとめているわけではなく、前髪は顔にかからないようにサイドに流している。

ただ、当人にとってはそれが気になるようで、しきりにサイドに分けた髪を耳にかけているが、困ったように髪をかきあげるその仕草は極めて蠱惑的だった。

もう一人は、薄く青い空色の髪の女性。

こちらも、伏し目がちで手を後ろ手に組んでおり、恥ずかしげに頬を染めている。

山吹色のブレザーに緑を基調とするチェックのスカート。

その姿は天の国の、『女の子』のように見えた。

襟足は短く、前髪に近づくごとに徐々に長くなってくるショートカットも、その印象をより強く演出している。

前髪は目にかかるほど長く、顔を覆い隠すように垂らすような髪型は、普段は聡明で、格好など勉強のじゃまにならなければいいとばかりに髪をまとめあげている女の子が、なれないお洒落に頬を染め、俯くようで、普段元気な子犬がしょげているのを見た時のような庇護欲を湧き上がらせる。

「…うっわ、ふたりともめっちゃかわいい。」

口元がニヤけるのを自覚し、一刀が慌てて自身の口元を隠したのは、そうつぶやき終わったあとだった。

「えへへ~、すっごく気合入れたの。

 春蘭様は綺麗な黒髪なのに普段から全然手入れしなかったのが不満でしょうがなかったの!

 でも、今日の春蘭様の髪だったらべったべたに撫で付けなくてもいいから自然な感じでまとめて、それに合うお化粧をしてあげればこの通りなの。

 逆に秋蘭様は、今日はうまく髪がまとまらないってことだったから、いっそまとめなくてもじゃんってことでこうしてみたの!

 普段はしっかり髪を纏めあげて固めてて、凛々しい感じなんだけど、そうじゃない時の秋蘭様って絶対可愛い女の子だって思ってたの~

 だから、前に凪ちゃんにしたみたいにして、髪型もそれに合わせて歳相応に見えるようにしてみたの!」

「さすが、いい仕事だわ。どう、一刀?あなたの作った洗髪剤のおかげで髪がまとまらなかったからと沙和に頼んでみたのだけれど。

 気に入ったかしら?」

自信満々に答え胸を張る沙和に、それに答える華琳。

その二人の会話も、一刀の耳には半分も届いていなかった。

「やばいな、これ。髪型一つでこんなに印象って変わるもんなのか…」

顔を手で覆ったまま、つぶやくように一刀は言った。

「女の子は髪型だけじゃなくて、何かひとつ変わるだけで全然変わっちゃうの!」

「すげぇな…」

短い言葉で受け答えをする一刀の様子があまりにも普段の反応とは違っていたためか、はたまた気恥ずかしさに耐え切れなかったのか。

ついに、話題の中心人物が口を開いた。

「あ、あの…!恥ずかしいです、華琳様!」

「あの、私もさすがに…」

しかし、その抗議の声もあっという間に遮られてしまう。

「あら、ふたりとも似合ってるじゃない?私は今日の二人も大好きよ?」

「華琳様にそう言われてしまっては…」

「何も言えないではありませんか…」

さすがに、華琳にそう言われてしまったら、二人は何も言い返せない。

華琳にかわいがってもらうことこそがその二人の喜びである。

だが、いまはわかりやすく簡単なことにすら頭がまわらないほど呆けてる人物がいた。

そして、そいつの一言は、本当に余計だった。

「やっべぇ…ほんとに申し訳ないけど、可愛いってしか言えない…」

「ちょっと、隊長それ本気すぎて沙和軽く引くの…」

「私の部下よ?あげないんだから。」

普段は小賢しいことを言ってごまかしたり、そもそもそんなことを口にすらしない一刀から率直な褒め言葉だった。

口をついてでた言葉、こぼれ出た本音。

それは、紛れも無い一刀の本心だった。

だから、余計に恥ずかしかったのだろう。

二人のとった行動は照れ隠しだった。

簡単に言うと、爆発した。

「ぐぬぬぬぬぬ…!あぁもう!だめだ!我慢できん!北郷、貴様を斬る!」

「あぁ、もう私も我慢できん!手伝うぞ姉者!!!」

その追いかけっこは、日が暮れるまで続いた。

その夜。

「華琳はどんなだったんだ?」

「一体なんの話かしら?」

「いや、あのシャンプー、三人で使ったんだろ?

 でも普段の髪型だったし…ちょっと気分転換とかって思わなかったのかなって。」

「私はこの髪型以外はいいのよ。ただ美しくなるということは単純に嬉しいことね。」

「確かに華琳の髪、きょうはいつにも、まして手触りいいもんな。」

「…バカ。」

「ん?なにか言った?」

「なにもいってないわよ。」

たかが髪、されど髪。

人々はそれだけ髪に関心があるのだ。

そう、男も、女も


 
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