No.537995

KMR(極東魔術昼寝結社の夏ミステリーリサーチ)うさぎ山商店街誕生日連続忘却の謎を追え!

先週忙しくて更新せず。今週も忙しいのですが、とりあえずそらおと以外のものから更新を。

中二病とたまこまーけっとのコラボ。というか移行期作品?

コラボ作品

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2013-01-30 19:47:58 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1601   閲覧ユーザー数:1551

KMR(極東魔術昼寝結社の夏ミステリーリサーチ)うさぎ山商店街誕生日連続忘却の謎を追え!

 

「勇太、凸守……私は遂に不可視境界線を発見したっ!」

 12月31日大晦日。俺の部屋。

いつの間にかすっかり邪気眼系中二病患者に戻ってしまった六花が凸守に向かって熱く語りかけている。

 入学当初の馴染みの光景。それでも以前と外見上で大きく変わった点と言えば、眼帯を止めて眼鏡に変わったことぐらい。

 何でもあの縁なし伊達メガネは邪王真眼を完全に封じ込めるという設定らしく、カラーコンタクトもしていない。一応ほんの少しだけ前向きになって両目で世界を見ることにしたらしい。六花なりに中二病と家族や周囲を思いやる心のバランスを取った結果なので温かく見守っていきたい。

 2人が俺に何の断りもなくこの部屋に押しかけて勝手に騒ぎ始めたことを除けば。

「遂に、遂になのDeathね。小鳥遊先輩っ!」

 一方で凸守は色々なキャラが混じったハイブリット状態にチェンジしてしまっている。

 凸ツインテールを止めて髪をストレートに下ろしている外見は秋以降の変化のまま。けれど、一方で喋り方はお嬢さま口調と六花のサーヴァント時代の名残が共に残っている。

 凸守の場合、家と外で違うキャラを使い分けていたようでそれが混ざり合ったという所か。まあ、何にせよ凸守が六花と昔のように仲良くなってくれたのは嬉しい。

「後は解散してしまった極東魔術昼寝結社の夏同好会を復活させれば元通りだな」

 ナナちゃんをもう1度説得するのは難しいかも知れない。でも、せっかく六花が戻ってきたことだし、何とか同好会も復活させたかった。

「何を言っているの、勇太?」

 六花が俺をとても胡散臭い瞳で見ながら首を捻った。

「覆水盆に返らず。私は極東魔術昼寝結社の夏を再結成するつもりはない」

「六花はみんなと同好会をまたやるつもり……ないのか?」

 六花の返答は俺的にはちょっとがっかりするものだった。またみんなと一緒に馬鹿やってみたくないのだろうか?

「勇太は大きな勘違いをしている」

「勘違い?」

「私は極東魔術昼寝結社の夏を再結成しないと言っただけ。同好会を結成しないとは言っていない」

 六花はちょっといじけたように唇を尖らせた。それから表情を引き締めるとこれからの構想を語ってくれた。

「だから私は宣言する。私は今日ここに、極東魔術昼寝結社の夏ミステリーリサーチ、略してKMRを新たに設立するとっ!」

「なっ、何だってぇ~~~~っ!!」

「なんDeathってぇ~~~~っ!!」

 六花の突然の宣言に驚かされる俺と凸守だった。

 

 こうして俺たちの新しい活動KMRが幕を開けることになったのだった。

 

 

「KMRって一体何なんだよ? 何をする部活動なんだ?」

 六花の提案の意図がよく掴めないので確かめておく。

「不可視境界線は存在するっ!」

「いや、そういう前置きはいいから。核心だけ話してくれ」

「うにゅ~。大事な前提なのに……」

 六花は不満そう。しかし、そっち系等の話を延々とされると部活動の主旨の理解は不可能になってしまいかねない。ここは心を鬼にして核心だけを話させる。

「ううっ。KMRは日本各地で起きている不思議な現象を調査してその原因を分析。ひいては人類を滅亡の危機から救うのが目標」

「ああっ。MMRのパクリか、やっぱり」

 とても納得がいった。

「まごうかたなきMMRのパクリなのDeath、やっぱり」

 凸守もウンウンと首を振って頷いている。

「パクリじゃない。インスパイアしただけっ! うにゅ~~」

 涙目を浮かべる六花。だがパクリであるが故にこれ以上の説明は不要になった。

「要するにどんな謎に遭遇しても、真面目に考えるふりしてトンデモ解説を入れて地球規模の危機に演出してしまえば良いだけだよな」

「富樫先輩と凸守は毎回なんだってぇ~と大げさに驚けば良いのDeathね。分かりますわ」

 ウンウンと頷いてみせる凸守と俺。

「2人とも……その理解の仕方は酷い……」

 涙目の六花。

「じゃあ、何か違うのか?」

「違うのDeathか?」

「…………違わない」

 ガックリと首を落とす六花。

「でも、不可視境界線は確かに存在するの。だから、MMRのようにノストラダムスに頼ったりはしない」

「つまり、ノストラダムスの代わりが不可視境界線なんだな」

「どんな些細な問題も不可視境界線の存在と結びつければ良いのDeathね。これ以上の説明は必要ないぐらいによく分かったのDeath」

「勇太くんと早苗ちゃんが私に優しくないよぉ~~」

 邪王真眼やめたモードに戻ってしまう六花。眼帯つけようがメガネを掛けようが小動物な根っこは変わらないらしい。

 

「KMRのことは分かった。でも、一体何をリサーチするんだ?」

 MMRも取っ掛かりになる事件がなければとんでもリサーチを開始できない。

「フッ。それなら問題ない」

 六花は最新のスマートフォンを取り出してみせた。

 イタリアのブチャラティーというギャングの所でコックをしている十花さんとアプリを使って連絡を簡単に取り合える様に六花は携帯を新しくした。

 その液晶画面を操作しながら六花はとあるサイトを拡大しながら俺たちに見せた。

「KMR相談受付、Deathか?」

 サイトにはそう大きく文字が書かれていた。

「インターネットを通じて不可視境界線に関する情報を集める。まさに魔科学の技術進歩の勝利っ!」

 ビシッとポーズを採って見せる六花。

「こういうサイトって書き込む奴いるのかな?」

「わたくしと小鳥遊先輩はモリサマー様のサイトの掲示板を通じて知り合いましたわ」

「ああ、そういや身近なリアルに仲間がいない分、邪気眼系中二病ネットワークはインターネット上で発達し易いんだったな」

 俺はインターネット上では活動しなかったから逆に少数派だったのかも知れない。

「じゃあ、気になる情報が何か書き込まれていたか?」

「不可視境界線に至りそうな書き込みが一つあった。フッ」

 六花は指でその書き込みを表示させながら偉そうに胸を反らす。

「どれどれ……」

 俺と凸守はサイトを覗き込んだ。

 

 

投稿者名:うさぎ山商店街の星RiceCakeもち蔵

Sb:毎年幼馴染の誕生日が祝えません

本文:幼馴染の女の子の誕生日を毎年祝ってあげようと一念発起するんですが、何故か毎年祝ってあげることができません。アイツの為に買った誕生日プレゼントが毎年贈れずに溜まっていく一方です。これはきっと大宇宙の大いなる意思が作用しているからだと思います。ちなみに彼女の誕生日は12月31日大晦日です。

 

 

「これは単に、このもち蔵とかいう奴がヘタレなだけなんじゃないか? 好きな子に誕生日プレゼントを贈る勇気がないだけで」

 書き込みを読み終わって素直に感想をもらす。何の事件性も感じさせない書き込み。

「きっとコイツは富樫先輩並みのヘタレ屑野郎に違いないのDeath」

「ちょっと待て。何故ヘタレ屑野郎の基準が俺なんだ?」

「小鳥遊先輩と友達以上恋人未満な関係を続けてぬるま湯に浸っている富樫先輩にピッタリな尺度だと思いますわ」

 凸守はとても澄ましたお嬢様声で、だが瞳だけは凄く馬鹿にしながら俺に語った。

「俺はただ、六花が家族や学校の友達と円滑に過ごせるようにしばらくは温かく見守りながらだな……」

「つべこべ言わずに『六花は一生俺が守る』ぐらい言って拉致監禁してしまうぐらいの覚悟がないのはヘタレなのDeath」

「拉致監禁は犯罪だろうがぁっ!」

「勇太に拉致監禁……ポッ」

「何故そこで頬を染めるんだぁ~~っ!!」

 大声で絶叫する。妹に怒られないか心配だ。

「勇太に拉致監禁されたら……1年後にきっと私はママになってる♪ 勇太との赤ちゃん可愛い♪」

「鬼畜なのDeath! 小鳥遊先輩に近寄るな、この性犯罪者なのDeathっ!」

「現実にありえない想像で俺を貶めるなぁ~~っ!」

 嘆いた瞬間に壁がバンと音を鳴り響かせた。樟葉はお怒りのようで間違いなかった。

 

「で、この書き込みのどこに六花はそんなに惹かれたんだ?」

 俺には六花が好きそうな中二病的な雰囲気をこの投稿のどこにも感じられない。

「この書き込みが私の心の琴線に触れた理由は3つある」

 六花は指を3本立てて見せた。

「1つ目は、書き込みの中に『大宇宙の大いなる意思』という文字がある。不可視境界線が関連している可能性は大いにある」

「いや、電波な単語なら他の書き込みの方がすごいと思うぞ」

 特にこの黒猫って人とレイシス何たらって人の書き込みに至っては日本語として成立しているのか分からないほどに謎な難解な単語が並んでいる。

「2つ目は、今日が12月31日大晦日だという点。早速リサーチに動ける!」

「なるほど。タイムリーだということか」

 時事ネタは強い。納得だ。

「そして3つ目……」

「3つ目は何なのDeathか?」

 俺たちの注意がメガネ六花へと向けられる。

 そして彼女は何故この書き込みに着目したのかその最大の理由を述べたのだった。

「3つ目は問題発生地点を特定できる書き込みがこれしかなかったという点!」

「「ああ。なるほど」」

うさぎ山商店街という場所が表記されている点が決定打となっていたのだった。

「ではこれより早速やさぎ山商店街にリサーチに出向く。勇太、凸守。KMR出動っ!」

「「アラホラサッサー(なのDeath)」」

 凸守と顔を見合わせてから了承する。俺もお嬢様も大晦日の今日は予定が入っていないようだった。

 こうして俺たちはうさぎ山商店街誕生日連続忘却事件の謎を追うことになった。

 

 

「というわけでうさぎ山商店街に到着した」

 目の前に広がる明るくて親しみ易い雰囲気と共に活気を感じさせるアーケード街。

 六花はその全天候型の商店街の真ん中に立ってJOJO立ちをしてみせた。JOJO立ちは人間の本能なので興奮すると出てしまうのは仕方ない。誰も六花を責められない。

「ここが何県の何市なのか、どうやってここまで来たのかよく分からないがとにかく到着したな」

「京都の上京区のような雰囲気Deathが、ここが何県なのか全くの謎なのDeathわ。というか、凸守たちさえどこに住んでいるのか謎なのDeath」

 そんなこんなで、うさぎ山商店街はきっとうちから近い所にあるのだろう。そう決めた。

「で、これからどうするんだ?」

 年末のセールで賑わう商店街を見ながら尋ねる。来てはみたものの、どこで何をすれば良いのか分からない。

「そんなこと……もち蔵を探し出して詳しい話を聞いてみるに決まっている」

 ポーズを変えてJOJO立ちを続ける六花が答える。JOJO立ちは背筋をそらすので六花のように猫背になりがちな人間には健康面でも良いのは言うまでもない。

「もち蔵を探すって、携帯番号かメールアドレスでも知っているのか?」

「そんなこと、知っているわけがないっ!」

 かめはめ波のポーズを取ってから指をビシッと差してくる六花。

「インターネット上に安易に電話番号やメールアドレスを晒すなど愚か者のする行為なのDeathわ」

 南斗鳳凰拳天翔十字鳳の構えを取りながら説明を付け足す凸守。2人の動きが段々セクシーコマンドーじみてきた。うぜぇ。

「じゃあ、どうやってもち蔵を探すんだ? 写真も持ってないんだろ?」

「それはきっと大丈夫」

「なのDeath」

 初代プリキュアのキメポーズを取りながら頷いてみせる2人。

 さて、どうするつもりなのだろう?

 

「ちょっと物を尋ねたい」

「尋ねたいのDeathわ」

「何?」

 六花と凸守は金髪掛かったショートカットに常盤色の髪留めがアクセントとなっている同い年ぐらいの制服少女に声を掛けた。

 プリキュアのポーズのままで。……警察、呼ばれないといいけどなあ。

「このうさぎ山商店街に毎年好きな子に誕生日プレゼントを贈ることができないヘタレ男がいると聞いて調査にやって来たのだが、何か知らない?」

 ……すっげぇ~無茶苦茶な聞き方してるぅ~。そんな曖昧な聞き込みの仕方で目当てのもち蔵に辿り着けるかっての。

「きっとソイツはここにいる富樫勇太先輩並みにヘタレな奴に違いないのDeathわ」

「おいっ!」

「へえ。ちょっと顔見せてよ」

 ちょっとだけ気の強そうな顔をしている少女は俺の顔をジッと覗き込んできた。

「この人並みの超弩級ヘタレって言うと……探しているのはもち蔵で間違いないわね」

 コクンと頷いてみせる少女。

 …………いきなり正解に辿り着いてしまった。

 何故だ!?

 何故俺の顔を見ただけでもち蔵に辿り着けてしまえるんだ!?

 俺、2学期は六花の為に一生懸命頑張ったはずなのにぃっ!?

「それで、その勇太並みにヘタレなもち蔵は今一体どこに?」

 六花は一瞬だけ俺をとても冷めた瞳で見た。うだつのあがらないダメ亭主を冷笑するような瞳で。

 ……もしかすると六花さんは秋ごろの俺の行動にいまだにお怒りなのだろうか?

 いや、まあ、煮え切らない行動は何度も取りまして六花さんを不安にさせましたけれど。

でも、俺も16歳という大人と子供の中間の存在だったもんで色々と現実の前に立ちすくんで……いや、ごめんなさい。ラノベの主人公になれる男じゃないんです。

「そこの彼並みにヘタレなもち蔵ならアーケードを抜けて少し行った所にある『RICECAKE Oh!ZEE』というもち屋の家の子だよ」

 彼女はアーケードが張られた区画の少し先を指差した。

 にしても何故初対面の彼女にまでヘタレ世界統一規格扱いされなければいけないんだ?

 しかも彼女なんかちょっと怒ってる感じだし。一体何なんだ、この現状は?

「情報提供をありがとう。えっと、名前は?」

「常盤(ときわ)みどり。そこのおもちゃ屋でおじいちゃんが営業しているから、情報提供料ってことなら後でお店に寄ってみてね」

 常盤さんは商店街の一角を指差し直した。

 背の小さなおじいさんがおもちゃ屋の店先でけん玉をしているのが見える。茶色いベレー帽に常盤色のジャケット、蝶ネクタイというハイカラさんとでも表現した方が良さそうな人だ。あそこが常盤さんのおじいさんのおもちゃ屋で間違いなさそうだ。

「おもちゃ屋! 魂をくすぐられる魅惑の言葉なのDeathわ。後で必ず寄るのDeath!」

 おもちゃ屋という単語に凸守がやたらと喜んでいる。まあコイツは基本子供だしこんなもんだろう。

「じゃあ、私はそろそろ失礼させてもらうけど、1つだけ聞かせてもらって良いかしら?」

 常盤さんは六花をジッと眺めた。

「あなたたちって……もち蔵の恋を応援するつもりなの?」

 瞳を細めて複雑そうな表情をしてみせる常盤さん。その顔は暗に応援して欲しくないことを物語っている。もち蔵の恋が上手くいかないことを願っているということか?

 もしかしてこの子、もち蔵のことが好きだったりするのだろうか?

 それで、もち蔵が好きな他の女の子と上手くいって欲しくないと。

 そう考えると質問の意図がはっきりと理解できる。

「あっ! もしかして、この人は……凸守と同じなのかも……Deathわ」

 凸守が口を半開きにして驚いている。俺と同じ結論に至ったのかも知れない。

 さて、六花はどう答えるだろうか?

「私はもち蔵に起きている問題の原因を調査しにきた。恋を応援する為に来たわけではない。そうなるかはもち蔵次第」

 六花は含みを持たせた中立的な答えを示した。

「まあ、確かに恋を応援したくなるかどうかはもち蔵次第よね」

 常盤さんは空を見上げた。アーケードに遮られて空そのものは見えない。でも、彼女はその天窓の更に先を眺めているように見えた。

「じゃあ私、そろそろ行くわ」

 視線を戻した常盤さんは俺たちの前から去っていった。

「恋の構図は複雑ってとこか?」

 去り行く常盤さんの背中を見ながら呟く。

「富樫先輩はきっと大きな思い違いをしているのDeathわ」

 凸守は固く目を瞑って大きく息を吐き出した。

 

 

 常盤さんの指示通りに歩いて『RICECAKE Oh!ZEE』の前へと辿り着く。

「何でここ、向かい合ってもち屋が2件存在しているんだろう?」

 片方は『RICECAKE Oh!ZEE』、もう片方は『たまや』と小さな道を挟んでもち屋が2件向かいあっている。

 携帯ショップの濫立はよく聞くが、同じ所にもち屋が2件って一体?

 うさぎ山商店街はもちの消費が他より多いのだろうか?

 まあ、そんな経営上の難点よりも、だ。

「辿り着いたはいいけれど、どうやってもち蔵に会うんだ?」

「そこまでは考えてない」

 やけにあっさりとした無計画振りが披露された。

「凸守たちと同世代の少年は姿が見えないのDeathわ」

 店内を覗いてみるものの、中年男性と女性が店内にいるだけでもち蔵らしき少年は存在しない。さて、どうしたものだろう?

 途方に暮れ始めたその時だった。

 

「アーチボルト家9代目当主ロード・エルメロイ……ではなく、王家に使える高貴なるデラ・モチマッヅィがここに仕る」

 

 芝居掛かった声と共に白い丸っこい物体がたまやの2階の窓から落ちてきた。

「危ないっ!」

 六花と凸守の頭を押さえて背中に庇う。重い衝撃が背中に襲い掛かったのはその直後だった。

「ゆっ、勇太ぁっ! だっ、大丈夫っ!?」

「富樫先輩っ! 大丈夫なのDeathかっ!?」

 2人が不安げな瞳で俺を覗き込む。そんな彼女たちに俺は少し痛みを堪えながら笑顔を返した。

「あ、ああ。落ちてきたのがブヨンブヨンした柔らかいものだったおかげでな。それより、一体何が落ちてきたんだ?」

 振り返って落ちてきたものの正体を確かめる。

「へっ? 鳥?」

 そこには白い鳥?がいた。

 ?を付けざるを得ないのは、それが本当に鳥であるのか自信が持てないから。

 強いて言うのなら、昔のアニメ『Gu-Guガンモ』のガンモが一番近いか。

 明らかなメタボ体型のオカメインコっぽい鳥。メタボっていうよりもほとんど球体。

 羽は若干ピンク掛かっており、頭の上に立っている冠羽、真っ赤に塗られたホッペはコイツがインコの仲間であることを生意気にアピールしている。インコたちは心外だと怒りそうだけど。けれどやっぱりこんな体格のインコが世界に存在しているとも思えない。

 コイツはUMAに間違いなかった。

 

「フム。まさか、大晦日の滑空を楽しもうと思っていた矢先に地面に墜落とは。私はよほど地球に愛されていると見える」

 

 ……そしてこの鳥、喋りやがる。

 人間の声真似をしているとかそんなチャチなレベルじゃない。人語を自由に解している。

「何なんだ、この喋る鳥はっ!?」

 指差しながら驚きを声にする。

「小鳥遊先輩っ! コイツ、UMAなのDeathわっ! 凸守たちはいきなり不可視境界線に辿り着いてしまったのDeathわっ!」

 凸守が六花の肩を掴んで激しく前後に振りながら興奮している。

「おっ、落ち着いて早苗ちゃん。まだこの鳥さんが不可視境界線と決まったわけじゃ……」

 一方で六花は喋る鳥を見てすっかり気が動転している。小動物モードに入ってブルブルと震えている。小心者の六花が本物の不思議に耐えられるわけがなかった。

「おいっ、鳥っ! お前は一体何者なんだ!?」

 鳥を指差しながら勇ましく尋ねる。鳥相手に勇ましいってこと自体が既に情けない気がしないでもないけれど。

「魔術の名門アーチボルト家の当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを知らぬとは、これだから魔術師ではない一般人の庶民は困る。青年よ、せめて人並みに教養を付けろ」

 鳥は半眼で俺を見下してみせた。

「すっ、凄いのDeath! 凄いのDeathわよ、マスターっ! この鳥はケイネスなのDeath! 第四時聖杯戦争なのDeathわっ!」

 凸守は更に激しく六花の肩を振って大興奮。瞳がキラキラに輝いている。

「ほぉ。そこな娘は、稀代の天才魔術師ロード・エルメロイを知っておるのか?」

「こう見えても凸守はこちらにおわす小鳥遊六花マスターのサーヴァントなのDea~th。次の聖杯戦争は凸守たちのコンビがいただくのDea~~th!」

「駄目だって早苗ちゃんっ! 聖杯戦争になんか出たら私たち、死んじゃうってば~~」

 泣きそうな声を上げる六花。涙をまぶたに貯めた瞳が俺へと向けられる。

「どうしよう~勇太くん~っ? 不可視境界線を本当に探り当てちゃったよぉ~っ」

「…………え~と、MMRにもなかった超展開に辿り着いたことを素直に誇るべきなんじゃないかな」

「こんな超展開……私の手に余るよぉ~~っ!!」

 変化を望みながら変化を恐れる小動物の悲痛な叫びが大晦日の夕方の空に木霊した。

 

「だがそこのサーヴァントの娘よ。今の私は正確には天才ケイネス・アーチボルトではない。別の肉体、別の使命を帯びてこの世界に転生した別存在」

「そうなのDeathかっ!?」

 六花が涙目で震えながら俺に抱きつく横で凸守と鳥は楽しげに会話を続けている。

「なあ、キバヤシ。じゃなくて、六花。このままじゃKMRの中心を凸守に取られるぞ」

「…………それは嫌。でも、怖い。喋る鳥も聖杯戦争も」

「六花は聖杯戦争大好きだから凸守と契約を結んだんじゃないのか?」

「勇太は現実と設定の違いをもっとよく理解すべき。そして私にもっと優しくすべき」

 六花はジト目で俺を非難する。

「お前がここでそれを言うか?」

 不可視境界線の探求を目的とするKMRは六花が創設したもののはずなんだが?

「まあ、あの鳥からも聖杯戦争からも俺は六花を守るけどさ」

「………………うん」

 六花は少し安心したように表情を緩ませた。

「今の私は、王子の后を探す旅に出ている高貴なる出自のデラ・モチマッヅィだ。天才魔術師とは似て非なる存在だ。どちらにせよ高貴な天才には違いないがな」

「この高慢さ、図々しさ。まさにケイネスなのDeathわ。同じ声優がほとんど演じ分けずに喋っているかのようなのDeath! 不可視境界線はまさにここにあったのDeath!」

 対照的に凸守は最初からクライマックスでとても嬉しそうだった。

 

 

「ところでそこな娘たちよ。見かけない顔だが、今日は何故にここまで来たのだ?」

 鳥は俺を無視して凸守と六花を見ながら話しかけ始めた。この、エロ鳥めっ!

「私に惚れて会いに来たのなら競争率の高さは覚悟するが良い。なにしろ私が逗留しているこのたまやの娘たち、たまことあんは私にベタ惚れだからな」

「そんな心配はしなくて良い」

 六花はそっと俺の右手の裾を掴んだ。

「そんな心配は不要なのDea~~th」

 凸守は六花の右手の裾を掴んだ。

「フッ。素直に愛情を表現できないのも可憐な乙女たる要件の一つではあるな」

 六花たちにごめんなさいされていることに気づかない馬鹿鳥。

「だが、自分の心を偽る必要はない。私はかの天才魔術師よりも完成された存在。ケイネスはランドセルを脱いだ女性をBBAと呼んではばからなかったが、私は18歳までO.K.の寛容さを持っている。故に今日16歳になったたまこもストライクゾーンに入っている。10歳のあんの方が女性として魅力的なのは勿論言うまでもないが」

「やっぱりコイツ、ペドネスなのDeathわ。吐き気がするほどペドネスなのDeath!」

「勇太ぁ~っ! 私やっぱり、この鳥が怖いよぉ~~っ!」

 鳥の言葉に大騒ぎする六花と凸守。どうやら俺の方から話を切り出さないと進みそうにないので仕方ない。

「なあ、俺たちはもち蔵って男を探しにここまで来たんだが、鳥は知らないか?」

 鳥に情報提供を呼びかけるのもなんだが、他に手段もない。

「もち蔵……ああ、あの青年のことか」

 コクンと頷いてみせる鳥。

「奴なら先ほど配達に出かけたのでもうじき戻ってくるであろう。ほらっ」

 鳥が羽でアーケード街の方を指し示した。すると、茶色掛かった髪の俺と同年代の少年が自転車を押しながらこちらにやって来るのが見えた。

「あの隠し切れないヘタレオーラ。富樫先輩と同じオーラを全身から発しているアイツこそもち蔵に間違いないのDeathわ」

「おいっ」

「残念だけど凸守の話を否定する要素はどこにもない。あの人がもち蔵に違いない」

「だからおいっ!」

 何故ヘタレオーラ満載だと俺になると断定できるんだ。

「早苗ちゃん。もち蔵に声を掛けてみよう」

「アラホラサッサーなのDeathわ」

 2人は俺への偏見を解くことなくもち蔵と思われる男の元へと近づいていく。

「おなごに相手にされず無様だな」

「うるさいっての。お前に言われたくない」

 頭の上に飛び乗ってきた鳥を連れたまま六花と凸守の後を追う。

 

「ゲッフッフッフッフ。お前がもち蔵なのDeathね?」

「もう調べは付いている。嘘をついても無駄」

 俺が追いついた時には2人が既に尋問らしきことを始めていた。グルグルと円を描いて囲みながら。

「確かに俺がもち蔵だけど…………君たちは一体誰?」

 男はもち蔵であることを認めた。それを聞いた瞬間、六花と凸守の瞳が鋭くなった。

「私たちはKMR。もち蔵の書き込みを見てその真相を確かめにきた」

「さあ、フルネーム、年齢、所属、尊敬する魔術師の名前、好きな女の子について素直に白状するのDea~th」

 作った笑い声を奏でながら情報提供を迫る2人。構図だけ見ているとやたら悪役っぽい。

「君たちがKMRなんだ。……えっと、俺のフルネームは大路(おおじ)もち蔵。年齢は16歳、好きな魔術師は魔術師オーフェンの無謀編の方、かな」

 もち蔵は2人の剣幕に負けて戸惑いながらパーソナルデータを喋り始めた。15、6歳の少女たちに簡単に口を割るとは……コイツ、ヘタレだ。

「好きな女の子は向かいの家に住む北白川たま……」

 もち蔵が好きな女の子について自白しそうになったその時だった。

 たまやの扉が開いて、エプロン姿で頭に三角巾をつけた同年代の少女が顔を出した。

 明るくて無邪気な雰囲気を漂わせる可愛い女の子だった。

 

「わわっ。もち蔵が2人の可愛い子に囲まれてイチャイチャしている現場を目撃しちゃったよ」

 少女は大きく開いた口を手で隠しながら驚いてみせている。

「ちっ、違うんだ、たまこ。この子たちは……」

「もち蔵って高校生なのに彼女の1人もいなくて寂しいんだろうなあって思っていたんだけど、わたしの勘違いだったみたいだね」

 ニッコリと微笑んでみせる少女。か、可愛い。働く一般人の癒し系少女。いいなあ。

「違う。今たまこが思っていることこそが勘違い……」

「可愛い子2人と年末を過ごすだなんて羨ましいなあ。わたしなんて大晦日が1年で一番忙しい日だから遊びに行くどころか休んでる暇もないってのにぃ。ぶ~ぶ~。この色男めぇ~」

 可愛らしく頬を膨らませてもち蔵を冷やかす少女。

「だけどお付き合いするのならちゃんと1人を選ばないと駄目なんだからね」

 指を立ててメッとしてみせる。

「だから、ちっ、ちっ、違……」

「それじゃあ、わたしは忙しいからまたね。あ~あ。毎年大晦日はもち屋のお仕事で1日潰れちゃうから誕生日を誰にも祝ってもらえないんだよねぇ。大晦日に一緒におもち作ってくれる素敵な男の人がわたしにも現れてくれたらなあ」

 もち蔵の目の前で閉じられる扉。たまこという少女の顔が引っ込むと同時にもち蔵はorzな感じで地面に膝と手をついた。

「まだ、説明は必要でしょうか……?」

 悲しみに満ちた声。

「必要ない。もう、必要ない……」

「なんか……ごめんなさいなのDeathわ」

 辛い表情でもち蔵から目を背ける六花と凸守。

 重い。とても重い雰囲気が蔓延している。こんな空気の中で俺がなすべきこと。

 それは──

「KMRは北白川さんの誕生日を祝うっ!」

「「「なんだってぇ~~~~っ!!」」」

 バッドエンドプリキュアな運命を変えることだった。

 

「KMRは北白川さんの誕生日を祝い、彼女が毎年忙しくて誕生日を祝ってもらえないという現象を打破するっ! それこそが、俺たちにとっての真の不可視境界線到達だ」

 KMRの今後の方針を述べる。

「おおっ! 今の富樫先輩はなんかすごいのDeath。ヘタレじゃないみたいdeathわ」

 手を叩いて俺の考えに賛同する凸守。

 一方、凸守より消極的な姿勢を示しているのが六花だった。

「勇太……あのたまこって子に見惚れてた。フン」

 俯いてムスッとしている。

「いやいやいや、六花。俺はだな……」

「結局勇太は一般人の可愛い子が好き。それは私が一番良く知っている。フン」

 六花の拗ねっぷりはかなりのものだった。まあ、確かにもち屋で働く北白川さんに惹かれてしまっていたのは俺が悪いのだけど。

 こういう時、一度付き合って、その後一度は離れてしまい関係が曖昧になってしまっている仲ってのは難しい。彼氏面して語るわけにも無関係を装うわけにもいかない。

「娘よ。何があったのかは知らんが、他の女にすぐ色目を使う男はやめて私にしておけ。後悔はないぞ」

「鳥は黙ってろ」

 六花の頭に乗ってきた鳥を放り投げる。

「とにかく、今大事なのは如何にして北白川さんの誕生日を祝うかだ」

 六花の機嫌回復は後回しにする。

 今日が北白川さんの誕生日である以上、早々に方針を決めないと手遅れになりかねない。

 まずはもち蔵へと顔を向けて、情報収集に努める。

「北白川さんは毎年大晦日に何時までもち屋の仕事を手伝っているのだ?」

「そうだなあ。毎年10時、いや、11時ぐらいの時もあるな」

「なるほど。誕生日は完全に1日潰れているわけか」

 仕事が終わったら年越しそばを食べる時間しか残っていない。これでは誕生日を祝うのは確かに難しい。

「でも、大路くんは北白川さんのお向かいさん。仕事が終わるタイミングを見定めるのは誰よりも上手くできるはず。仕事が終わるタイミングを狙おう」

 数少ないタイミングを狙えるのがお向かいさんの、そして同業者の強みだ。好条件を逃す手はない。

「けどさ、仕事が終わったら家族で年越し準備に入ってしまうからプレゼントを渡す暇さえないっていうか」

「なら、事件を起こして北白川さんに出てきてもらおう」

「事件?」

 いつの間にか凸守の頭の上に乗っているソレを見る。

「鳥にちょっと……でもらうという事件を起こすことで彼女に外に出てもらおう」

「ああ、なるほど。鳥がここで……でくれればたまこは絶対に外に出てくるよな」

 もち蔵は納得した。これで北白川さんを呼び出す手はできた。後は……。

「プレゼントだが、準備しているか?」

「ああ。たまこの誕生日には毎年プレゼントを準備している。渡せたことは1度もないけどな」

 もち蔵は辛そうな表情を浮かべた。

 大晦日に渡せないのなら、予め渡しておけば良いのに本当に不器用だなと思う。

「コイツやっぱり富樫先輩並みにヘタレなのDeath」

「だから何故ヘタレの基準が俺なんだ!?」

 凸守の間違った俺像はいずれ修正する必要がある。だが、その前に凸守と六花に向かって語りかける。

「じゃあ、俺たちもプレゼントとクラッカーを用意しておくか」

「さっきグリーンに教えてもらったおもちゃ屋さんで準備するのDea~th」

 大張り切りの凸守。一方……。

「勇太は私の誕生日の時は何もくれなかったのに、たまこの誕生日にはプレゼントするんだ」

 思い切り膨れている。

「あのなあ。別に俺は変な下心があるわけじゃないぞ。それに、六花の誕生が6月だって知ったのが秋になってからだったんだから仕方ない、だろ」

「六花の六は六月の六。闇の契約を結んだ間柄なら推察してしかるべき。フン」

 姫のご機嫌はナナメ。こっちも何とかしないといけない。

 やること多いなあ、俺。

 今日はダラダラと年末番組を見ながら無為に過ごすはずだったのに。

「じゃあ早速北白川さんのサプライズパーティーの準備に掛かろう」

「DeathDeathDea~~th!」

「よしっ。今年こそたまこにプレゼントを渡して、ついでにさっきの誤解も解こう」

 雰囲気が明るくなった凸守ともち蔵と共にうさぎ山商店街のアーケード街の中へと戻っていく。

「うう。勇太が冷たいよぉ。ちょっと拗ねてるだけなのにぃ……」

「あんな冷血漢は放っておいて私にしておけ。大事にしてやるぞ。18歳まではな」

 一方で六花のテンションは低い。

 本当、困ったもんだ。

 

 

 

 北白川さんのサプライズ誕生日パーティー計画は水面下で大きな盛り上がりを見せることになった。

 常盤さんのおじいさんの経営するおもちゃ屋に行って計画を打ち明けた所、商店街の数多くの人たちがこの計画に賛同してくれたのだ。

 お風呂屋、花屋、レコード屋、魚屋など数多くの人たちが北白川さんにプレゼントを渡すことになった。

 北白川さんがこの商店街の人たちに愛されている証拠だった。

 多くの人々の協力を得ることができたので、サプライズパーティーの準備は早々に進んでいく。後は本番を待つのみだった。

 

 午後11時、店の2階のもち蔵の部屋からたまやの内部の様子を覗っていた凸守から連絡が入る。

「富樫先輩。たまやのお仕事は終了したようDeathわ」

 お嬢様とサーヴァントのハイブリット仕様の凸守は興奮気味に携帯で仕事終了を告げてきた。

 それを受けて俺は商店街のみんなにメールを送りながらもち蔵へと振り返る。

「時は来た。作戦決行だ」

「ああっ」

 力強く頷いて返すもち蔵。

「だが、どうやってたまこを家の外に呼び出すつもりなのだ? 年越し団欒の最中に呼び出すのは容易ではないぞ」

 六花の頭の上から俺の肩へと飛び移ってきた鳥が問う。

「ああ、だからこそ……鳥。お前の出番だ」

 鳥の足を掴んで逃げられなくする。

「鳥……サプライズパーティーの為に死んでくれ」

 計画の要を告げる。

「なんとっ! たまこが惚れている私の死をエサにして、彼女を呼び出そうというのだな。たまこの私への愛の力を利用してっ! だが、断るっ!」

 羽ばたいて逃げようとする鳥。俺は奴の脚を掴んでいる右手に力を混めて逃がさない。

「もち蔵。例のアレを早くっ!」

「ああっ!」

 もち蔵はかねてから準備していたアレを鳥へと押し付け、そして──

 北白川さんのサプライズパーティーは幕を開けた。

 

 

「大変だ、たまこっ! 鳥がもちをのどに詰まらせて窒息しかけているんだ」

 予定通りにもち蔵がたまやの中へと大声を上げながら入っていく。

 その間に俺たちは打ち合わせ通りに準備を進めて道路上で待機。

「ええええぇ~~!? デラさん、大丈夫なのっ!?」

 大慌てで北白川さんが店外へと出てきた。

 三角巾を解いた彼女は、ツインテールの髪ともちを模した髪留め、そして寝癖がそのままになっている所なんかが素朴な感じがして可愛い。

 って、そんなことを考えている場合じゃない。六花にまた怒られてしまう。

 サプライズパーティーの始まりに専念しなければ。

「ぐっ、苦しい。もちが……のどに詰まる」

 迫真の演技で大量にもちを詰め込んでくれた鳥は本当に窒息しているかのような表情を浮かべている。これなら、いけるっ!

「六花っ! 凸守っ!」

「うんっ!」

「O.K.なのDeathわ!!」

 俺は鳥を空中へと放り投げる。六花と凸守が鳥の落下地点の前後に立つ。

「爆ぜろリアルっ! マグネットパワープラスっ!」

「弾けろシナプスっ! マグネットパワーマイナスっ!」

「「ヴァニッシュメント・ディス・ワールド・クロス・ボンバーッ!!」」

 力をセーブしないと首ごと切断してしまう恐ろしい威力のツープラトンラリアットが鳥の首に炸裂。

「ブホ~~~~ッ!?!?」

 鳥は勢いよくもちを口から吐き出した。

 これで鳥が窒息する心配はなくなった。後は……。

「よしっ! みんな、やるぞっ!」

 もち蔵とみんなに宴の開始の合図を送る。

 今こそ、もち蔵が男を見せる番だった。

 

「たっ、たまこ……誕生日おめでとうっ!」

 もち蔵がやたら緊張しながら緑色の包みで包装されたプレゼントを北白川さんに向かって差し出した。

「ほえっ?」

 大きく首を傾げる北白川さん。事態をまだよく分かっていないらしい。

「「「たまこちゃん、お誕生日おめでとうっ」」」

 商店街の人たちが一斉にプレゼントを差し出しながら北白川さんを祝う。

「えっと、俺たちからも誕生日おめでとう」

「おめでとうなのDeath」

「…………おめでとう」

 俺たちも続いて北白川さんにプレゼントを差し出した。

「えっと、これって、その……」

 北白川さんはたくさんのプレゼントに囲まれながら目をパチクリ。

「もしかして……わたしの誕生日、プレゼント?」

 ようやく事態を把握したのは数十秒が経ってからのことだった。

「あっ、ありがとう、みんなぁっ。誕生日を祝ってもらえるなんて初めてのことだからとっても嬉しいよぉ」

 北白川さんは顔をパッと輝かせた。見ていてとても気持ちの良い愛らしい笑顔。

「もち蔵にプレゼントもらえるなんて……びっくりだよぉ」

「俺は……義理堅い男なんだよ」

 照れて北白川さんから顔を背けるもち蔵。

 毎年毎年プレゼントを渡せなくて引き出しの中に溜め込んでいる男が義理堅いって……なんか笑える。

「もち蔵の彼女さんズからもプレゼントもらえるなんて嬉しいよぉ。もち蔵、いい子みつけたねぇ」

「グハッ!?」

 もち蔵はその場にorzと崩れた。

 もち蔵の不甲斐なさも問題だが、北白川さんの鈍さもかなり酷い。

 もち蔵の恋が成就するにしてもそれは相当先のことのような気がする。

「誕生日を毎年祝うことができないという怪事件は解決できたんだし、まあいいか」

 惚れたはれたはもち蔵自身に解決してもらおう。

 さて、後は。

 

「もう今年も終わりだな」

 人の輪から少し外れた地点で空を見上げる六花に声を掛ける。

「勇太はたまこの機嫌でも取って仲良くなればいい。フン」

 姫はまだご機嫌ナナメだった。そんな少女に俺はあるものを差し出した。

「ハッピーバースデイ六花」

「私の誕生日は6月12日?」

「ほんのちょっと遅れちまったけど、六花の誕生日だからちゃんと祝わせてくれ」

 六花は俺の誕生日プレゼントをジッと眺めて恐る恐る手に取った。

「誕生日プレゼントは分かった。でも、何でけん玉?」

 六花は手の中にある物体を瞳を細めて眺めながら首を捻る。

「KMRっていう新シリーズになったから六花にも新たなる武器が必要かなって思って」

「新たなる武器?」

「不可視境界線を求めて校外での活動が増えるなら、新たなる敵と遭遇する確率も増えるだろ。だから……」

「私のことは……勇太がこれまでもこれからもずっと守ってくれるから護身用の武器は要らない」

 六花は俺に寄り添って体重を預けてきた。

「でも……ありがとう」

 六花はやっと笑ってくれた。

「もう、今年も終わりだね」

「そうだな」

 六花と2人、空を見上げる。

 見上げた年末の星空は普段より綺麗に感じられた。

 

「娘たちの熱い抱擁を受けた私は……みんな放置なのか?」

 

 了

 

 

 

 


 
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