EP9 明日奈と直葉と過去
明日奈Side
眠っている和人くんと再会してから10日後、今日もわたしはリハビリに励んでいた。
ようやく松葉杖を使わなくても歩けるようになってきた。
まぁ、志郎君達みたいなリハビリじゃなくて、普通の人向けのリハビリだからこれくらいが普通なのかもしれない。
そしてお昼を過ぎた頃、わたしの病室に彼女がやってきた。
「こんにちは、明日奈さん」
「いらっしゃい、直葉ちゃん」
和人くんの妹である、直葉ちゃんだ。
「明日奈さん、体調の方は大丈夫ですか?」
「うん、もうすっかり元気だよ。5日後には退院する予定だから」
「そうなんですか」
訊ねてきた直葉ちゃんにわたしはもうすぐ退院することを伝えた。
リハビリとかの為に通院とかはまだ必要なんだけどね。
少しの間だけ他愛もない会話をしてから、わたし達は本来の話しをすることにした。
「明日奈さんは、お兄ちゃんのどんなところを好きになったんですか?」
「う~ん、そうだねぇ~……どんなって聞かれたら、やっぱり全部って答えちゃうかな…」
わたしがそう言うと、彼女は「あ、やっぱり?」と言ってから「あたしもです」と僅かに頬を紅く染めて言った。
彼女にも好きな人が……と思ったら、一人だけ思い当たる人がいた、刻君だ。
和人くんも彼が直葉ちゃんのことを好きなのを見抜いていたし…と、話しが脱線しちゃったや。
「一番は、優しくて、強くて、弱いけど強かなところ、かな…」
「優しくて、強くて、弱いけど、
「うん」
わたしの矛盾した言葉に首を傾げる直葉ちゃんに話すことにした。
「困っている人や力の無い人を見過ごすことのない、手を差し伸べる優しさ。
誰にも負けない力と想いという強さ。だけど、自分の在り方に悩んで迷う弱さ。
それでも、自分や皆の為に何度でも立ち上がる強かさ。
それが、わたしが好きになって気付いた和人くんの好きなところかな……もっとたくさんあるけどね」
話し終えたわたしは渇いたのどを潤す為にコップに入っている水を飲み干した。
直葉ちゃんも差し出しておいたコップの水を飲んでいる。すると今度は彼女が話し始めた。
「あたし、明日奈さんとこうしてお話しできるのを楽しみにしてたんです。
刻君達から、あのお兄ちゃんが好きになった人だって聞いて、嬉しかったんです」
「嬉しい?」
直葉ちゃんの言葉に今度はわたしが首を傾げる番だった。彼女は頷くと語り始めた。
「お兄ちゃんとあたしはそれぞれが小学校に入学した時から剣道を始めたんです。
亡くなった祖父が警察に勤めていて、剣道をやっていたんです。
その祖父があたし達を剣道場に通わせるようにしたんですけど、
あたしが小学校に入学した時、お兄ちゃんが剣道をやめると言い出したんです」
これはよくある話しだと思った。
彼が好きなのはゲームや機械といったジャンルだから、そういった一悶着があってもおかしくないと。
だけど彼は剣術を…いや、
なら何故?と思いつつも、直葉ちゃんは話しを続けた。
「祖父は怒ってお兄ちゃんから理由を聞き出したんです。
そしたらお兄ちゃん、『剣道なんかじゃ、これ以上強くなれない』って、言ったんです。
それでそのまま祖父とお兄ちゃんが勝負することになったんです。
結果は……お兄ちゃんが勝ちました…」
「え……」
それを聞いてわたしは耳を疑った。
話を聞けば和人くんのお祖父様は高齢だが、かなりの剣道のやり手ということだ。
それに対して当時の彼は僅か8歳で、そのやり手を打ち負かしたことになる。
彼はその時から戦いの才能を開花させていたのだ。
「たった7歳の時でしたけど、その時のことはしっかりと覚えてます。
いま思えば、あれは祖父のほんの僅かな隙を突いたカウンターだったんですけど、
お兄ちゃんの戦っている表情を見て、あたしは怖くなったんです…。
勝負が終わった途端に、あたし泣き出しちゃって、お兄ちゃんのことを『鬼』って、言ってしまったんです…」
「っ!?」
表情を暗くして言った直葉ちゃん、わたしは思わず息を呑んだ。
同時に納得もした、それは前に和人くんから聞いた気質『覇気』だと考えたからだ。
つまり、直葉ちゃんは和人くんの覇気の片鱗をみて、恐怖したということになる。
「負けた祖父も呆然としていて……でもなによりも、お兄ちゃんは泣きそうな顔をしていたんです。
それからはお兄ちゃんとの間に溝が出来ちゃって、
普通に話すことは出来るけど、一緒に遊ぶことも少なくなったんです」
そんなことがあったんだ…。直葉ちゃんは、和人くんを傷つけてしまったことに後悔している。
けれど今度は彼女の表情が少しだけ明るくなった。
「でも、そのすぐあとにお兄ちゃんはまた剣を始めたんです。流派の名前は……」
「『
わたしが呟くと彼女は頷いた。
「丁度その時から、お兄ちゃんは仲良くなった志郎さんと公輝さん、
刻君と烈弥君と一緒に神霆流の武術を学ぶようになって、
2年後には転校してきた景一さんも学ぶようになったんです」
そこで彼女は一度息を吐くと水を飲み、再び話を続けた。
「あたし、お兄ちゃん達が練習…ううん、この場合は鍛練とか修行ですね。
それをしているのを見て、あの時弱かった自分を打ち消す為に剣道に打ち込みました。
それからは、剣道が好きでやってるんですけどね」
今度こそ本当の笑顔を浮かべた直葉ちゃんにわたしも笑みが零れる。
「明日奈さんの言葉を聞いて確信しました。
お兄ちゃんは、力が欲しくて剣道をやめたんじゃない…何かを守りたかったから、力が必要だったんですね」
「そうだね…。そしてそれは、直葉ちゃんやご家族の方だったんだと思うよ…」
「あたしも、そう思います…」
直葉ちゃんは目に涙を滲ませる。ハンカチで涙を拭うとまた話を始めた。
「お兄ちゃん、なんでも出来ますから疎まれることもあったみたいですけど、
それでも人望っていうんでしょうか? それがあったから、1人になることは無かったんです。
刻君達もいましたし……でも、それでも、お兄ちゃんは孤独…いえ、孤高なんです」
孤高、分かる…和人くんは孤高の存在だ。
黒衣衆の皆がどんなに強くても、和人くんの知には届かない。
茅場がどんなに頭が良くても、和人くんの武には届かない。
みんながどんなに和人くんを思っても、和人くんの思考は分からない。
「でも、そんな孤高だったお兄ちゃんには……明日奈さんがいます…」
「わたし…?
で、でも、わたし、強くないし、飛びぬけて頭が良いわけでもないし、
和人くんがいないと生きてる意味も見出せないし……」
そんな風に否定するわたしの手を、直葉ちゃんが自分の両手で優しく握り締めてくれた。
「そんなことないですよ…。
強さとかそんなこと関係無しに明日奈さんがお兄ちゃんのことを一番大切に思っているのは、分かっています」
「直葉ちゃん…」
嬉しかった。和人くんの妹である彼女にここまで言ってもらえて…。
「それに、志郎さんや公輝さんが言ってましたよ。
あの二人は本当に想い合って、愛し合って、お互いのことを理解し合っているって…。
みんなからのお墨付きです♪」
「っ…うん」
今度はわたしが涙を流した。
「あたしは、止まっているお兄ちゃんとの時計を動かしたい…。
だから、お兄ちゃんに早く目を覚ましてほしいんです。
そして、明日奈さんとの時間を生きてほしい…」
「うん、うん…」
わたしは直葉ちゃんの想いを泣きながら受け止めた。
みんなが、わたしと和人くんのことを思ってくれている。
その思いを…心に染み渡らせた。
気が付けば夕方になっていた。
「すみません、長居しちゃって…」
「そんなことないよ。今度は一緒に遊ぼうね、直葉ちゃん」
「はい、喜んで……それでは、さようなら。明日奈さん」
「さようなら」
彼女は病室から出て、帰宅の路へと着いた。
今日はたくさん
だから、あなたが目を覚ました時は、わたしのことをたくさん知ってね。
明日奈Side Out
To be continued……
後書きです。
明日奈と直葉と和人の過去話しでした。
本作の和人の過去は原作と違い、祖父と戦って勝利するという怪物染みています。
ホントに8歳か、おい!?
まぁ、覇気を放ちながらの戦闘狂モードでのカウンターなら・・・ねぇ?
とまぁ、そういう話しは置いておいて・・・次回からは刻と直葉のお話し。
ALO編の序章とでも言っておきましょうかね?
それでは次回をお楽しみに・・・。
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EP9です。
明日奈と直葉が前に交わした約束、和人の話しをします。
どうぞ・・・。