~風花~
(……まただ。兄さん、貴方はどうしてそんな表情を浮かべているのですか?)
自分の頭を撫でながら幸せそうな……それでいて何処か悲しそうな微笑みを浮かべる最愛の兄を見上げる。
自分に生きる意味を与えてくれた、誰よりも優しい兄。優し過ぎるあまりに背負わなくても良い余計なモノまで背負ってしまう。
そのせいで兄は昔程笑わなくなった。昔はもっと明るい性格だったのに。
いつも何があっても笑みを絶やさなかった兄。
見ている人達が幸せになれる位に素敵な笑顔を浮かべていた。
そんな兄が……今は時折良く解らない表情を浮かべる。
一体いつからこんな事になってしまったのか……
今の私にだけ向けてくれる笑顔も素敵だと思う。
不意に向けられる微笑みを見るだけで意識を持って行かれそうだし……いえ、今は考えるのは止めましょう。顔が熱くなってきた。
「……」
ちらりと兄を盗み見る。
表情こそ変わってはいないが、その瞳の奥には強い光が見えた。
そう、何かを決意するかのような。
(やっぱり……これは私のせい、ですよね。)
昔とは違う兄の姿。
だけどその根底にあるモノは昔と変わらない。いや、昔よりも強くなっているだろうか。
それもこれもきっと自分のせい。聞かなくても分かってる。
兄はただ守りたいだけなのだ。兄をこうまで変えてしまった元凶である……この私を。
「私は貴方を兄だなんて認めない……嫌い、大嫌い!お父様とお母様が死んだのも全部貴方のせいよ!!」
「ち、違うんだ風花!俺はただ――」
「言い訳なんて聞きたくない!!……どうして、どうして貴方は此処に居るの?何で私から全てを奪うの?」
「お、俺は…ただ、風花が……」
「返して……お父様とお母様を、返してよ……」
「……」
思い起こされる過去。
決して忘れる事など出来ない程の、過ち。
思い返す度に後悔が押し寄せる。
あの頃の私は幼く、辛い現実に余裕を無くしていて兄の気持ちに気付けなかった。
歯を食いしばり自然と顔を俯かせてしまう。
きっと兄には恥ずかしがって顔を隠した程度にしか見えてはいないだろう。
ゴツッ
「うにゃっ!」
いきなり額に衝撃と同時に鋭い痛みが走り、目の前が真っ白になる。
あまりにも予想外だった私は変な声を出してしまった。
「……!?……!?」
訳も判らずに額を押さえ、目尻に涙を浮かべながらおろおろと困惑していると徐々に現状が理解出来てきた。
怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤に染まり、痛む額をさすりながら顔を兄に向け睨み付けると何やら開いた掌を此方に向けている。
どうやらデコピンされたらしい。いや、デコピンなんて可愛らしいもんじゃなかったけど。
「いきなり何するんですか、兄さん!?危うく冥土に旅立っちゃう所でしたよ!!」
「そんな大袈裟な……ちゃんと加減はしたぞ?」
「あれで!?あれでですか!?」
「ああ。」
事も無げにそう答えられた。
「……判ってるんですか?兄さんがちょっと力の加減を間違えたら、私の頭飛んでっちゃいますよ?」
「……?」
言われた言葉の意味が判っていないのだろう、不思議そうに首を傾げている。
(全く、いつもは鋭いくせに何でこんな所だけは鈍いの!?あぁ…でも変に抜けてる兄さんも素敵……って、違う!)
脱線しかけた思考を無理矢理に落ち着ける。何としてもこれには気付いて貰わなければ。
前にこっそりと鍛錬を覗いていた時に見てしまったのだ。
殴り付けた大木が抉れ、真っ二つに折れてしまったのを。
まぁ、兄が使う武器を考えれば腕力が付くのも当たり前かもしれないが。
だけど本人は大した力は無いと思っているのだ。
現に大木を折った時も、満足する所か自然破壊だなんだと呟いていて延々と困り果てていた。
あのまま話し掛けなければ夜まで帰って来なかったかも知れない。本当に夜までに帰って来るかも怪しいが……
自分の武にはそれなりに自信があるくせに、一体何故?
ともかく、精一杯分かり易いように説明する。
後の惨劇を回避する為に。
「ふむ……何だか良く判らないが、無闇に手を上げるな、という事だな?」
やっぱりダメでした。
将来兄さんの悪戯(?)に会う皆さんごめんなさい。私は死人が出ない事を祈る事しか出来ないようです。
「全く、兄さんったら……」
「……ん、やはり風花はそうやって元気にしている方が良い。」
「は……?」
「何を悩んでいるのかは俺には判らない。だがそうやって一人で抱え込むな。お前には、俺が居る。」
「……ぁ…」
そう言って兄は私を優しく抱きしめた。
その瞬間顔がカッと熱くなる。
怒りのせいでは無い。恥ずかしさからでも、無い。
それはもっと純粋で、心が震えるモノ。
解ってくれていたのだ。
自分の苦しみを、痛みを。
勿論、どのようなモノかは知らないだろうけど、些細な事でも感じ取ってくれていた。
こんなにも嬉しい事があるだろうか?
「兄…さん。」
胸の鼓動が痛い位に速い。
それを兄の服をギュッと握り締める事で耐える。
溢れ出る想いで気が狂いそうだ。
だけどダメ。少なくとも、今はまだ。
相手の機微には敏感だけど、自分の事には相変わらず鈍いままだ。
きっと困ってしまうだけだろう。
(……兄さんは私を唯の妹としてしか見ていないのでしょうね。でも私には……もう兄さんしか居ないの。だから――)
私の望みは唯一つ。
『日常からの変化』
今のままでは兄にとって自分は唯の妹。
きっとこのまま生活を共にしてもそれは変わらないだろう。
だから変化を願う。
その果てに誰が犠牲になろうとも、例え兄が苦しむ事になっても構わない。
最後に気付いてくれれば、それで良い。
こんな事を考えているなんて知られたら怒られてしまうだろう。
いや、軽蔑されてしまうかも知れない。兄は一人でも多くの人の幸福を望んでいるから。
だけど……この想いはもう、変えられない。
貴方の居ない世界で、私は生きて行く事など出来はしないのだから。
あとがき
どうも、月影です。
今回は妹である風花のキャラを掘り下げてみました。
上手く表せず自分の文才の無さに衝撃を受けるばかりでしたが(泣)
最近では読み手が求めるオリ主に必要な物とは何なのかと自問自答を繰り返す毎日です。
友人に聞いてみたら「最強。それ以外は要らん!」と答えられました。
友人ェ……
とりあえず風花の簡単な紹介を……
名前:姜維
字:伯約
真名:風花(ふうか)
年齢:16歳
身長:165cm
好きな物・大切な物:兄に関わる事の全て、大切に思う人達の笑顔(神威に感化された)
嫌いな物・苦手な物:兄に害を成す存在、雨
性格:病的と言える程に兄である神威を想っていて、神威の為ならどんな事でもやってのけようとする意外と危険な思想の持ち主。普段は思い遣りがあり色々と気遣いの出来る優しい少女だが、神威が絡むと良く暴走する。勝ち気で気の強い所があるが、兄の前では出来た妹で在りたいと思う健気な一面も。教養が高く、勉学や運動どころか家事まで何でもこなす美人系少女。高い才能を持つが、その才に反して精神的には脆い所がある。
こんな感じです。
今の所オリキャラはこれ以上出ませんが、場合によっては出すかも知れません。
拙い文ですが、どうかこれからも~彼方の果てに~をよろしくお願いします。
Tweet |
|
|
7
|
0
|
追加するフォルダを選択
今回は妹側の視点です。