No.537317

真・恋姫†無双~絆創公~ 第十五話 【遅れに遅れて】

春蘭はこういう事で、存在感を発揮すると思った話。

2013-01-28 22:16:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1872   閲覧ユーザー数:1588

第十五話

 

 歓迎の宴の準備が整い、多数の人間が大広間に集まり、中央に置かれた巨大な円卓を囲んでいる。

 円卓の上には、この世界で一般的なものは勿論だが、天の国、つまり一刀が元々いた世界で彼が口にしていた料理も並んでいる。

 和食と呼ばれている物の他に、日本の文化の特徴である、カレーライス、クリームシチュー、ハンバーグ、ナポリタンなどの、様々な文化が混在する料理が並んでいる。

 皆が楽しく笑いながら、未来からの客人をもてなしている

 

 

 

……………………はずだった。

 

 

 

 宴会はまだ始まってもいなかった。そのうえ、大広間には、欠員が数名いる。

 今、室内にいる人間は、北郷一刀を恋い慕う(という表現をすると露骨に嫌な顔をする人間が何人かいるが)女性占めて五十人、この世界にやってきた北郷一刀の家族が四人と、その護衛兼付き添いの役員(?)が一名の、総勢五十五名である。

 欠員は三名、医師の華佗と役員のアキラ。

 そして、この会の主要人物である、北郷一刀である。

 更に、皆が皆和やかな雰囲気を出しているかと言えば、そうでもない。

 イヤーな空気を醸し出している人間が何人かいる。

 不機嫌な表情をしているのが、桃香、愛紗、蓮華、華琳、流琉、白蓮の六人。

 そして彼女たちの方を伺いながら、背を丸めて椅子に座り、気まずい雰囲気を出しているのが、春蘭ただ一人。

 

 何となく予想が出来る組み合わせだが、一応何が起こったか説明しよう。

 南蛮軍の四人が、紫苑、璃々、佳乃の三人を呼びに行った時の事である。

 心配になった一刀が、念のために様子を見に行ったのだ。

「ああ、いたいた…………んー、佳乃は元気になったのかなー…………オーイ!!」

「あっ、カズ兄ちゃーん!」

「あっ、ご主人様だー!!」

「あら、ご主人様」

「おー、兄ぃー!!」

 

 

「おお、北郷! 良いところに来たな!!」

「え? な、何だよ春蘭」

「お前も自分の祖父を見習って、鍛錬しろ!!」

「いや、俺さっき爺ちゃんと撃ち合ったばっかだし……」

「何を言ってる!? 鍛錬は続けてこそ身に付くのだぞ!!」

「それはそうだけど、今俺は佳乃を迎えに来た……」

「つべこべ言うな!! さっさと来い!!」

「イテテテテテッ!! そんな強く引っ張るなって!! ち、ちょっと、爺ちゃん、助けて……!」

「………………一刀、武運を祈る」

「って、ちょっとーーーーー!?」

「行くぞっ!! ハァーーーッ!!」

「ま、待てって!! せめて剣を持たせてくれギャーーーーーーーー!!」

 

 -ズドーーーーーン!!-

 

「流石は夏候元譲殿………………よく飛ぶな」

「カ、カズ兄ちゃーーーん!?」

「ご、ご主人様ーーー!?」

 

 

 という訳で、ボロボロになった一刀を治療するにあたり、華佗とアキラが駆り出された。

 そして、その一因となった春蘭は……

 

「せっかく作ったのにー……」

「ホントよ!! 冷めちゃうじゃない!!」

「珍しく上手く出来たのに…………」

「もっと状況を把握すべきだろう……」

「お料理が可哀想です……」

「………………まったく」

 

「……………………ウゥ」

 恋い慕う男性に喜んで貰う為に、自分達の手料理を振る舞おうと張り切っていたのに、その機会を遅らせたとして、調理担当の女性陣(主に華琳)に責められ、自分の席で縮こまるしかない、という事である。

 今の春蘭の一縷の望みは、治療担当の男二人からの吉報を祈るしかなかった。

 

 しばらくして、その二人が大広間に入ってきた。

「どうだ!? 北郷の様子は!?」

 いち早く緊張から解放されたい本人が、二人に声を掛けた。

「命の危険は無いっすけど、完全回復までにはまだ時間がかかりますねー」

「出来るだけ、最善の処置を施してはみたのだが…………」

「そ、そうか…………」

 表情が一気に暗くなる。

「あの……私がさっき貰ったお薬は、効かないんですか?」

「あれには氣力や体力を回復させる効能はあるが、残念ながら傷を回復させる効能は含まれてないんだ……」

「それに……確かに活力も回復させなきゃいけないんですが……その薬と僕らの世界の治療技術の両方を使うと、どうも効果を互いに打ち消しあうみたいで、意味が無くなっちゃうんですよ……」

「まあ、アイツは体力は意外にある方だから、傷の回復を待つだけで良いと思うぞ」

「そうっすね。傷が治れば、あとはさっき北郷佳乃さんが言った、丸薬を飲めばバッチリですよ。一応それも、北郷一刀さんに渡してますし」

 二人の見せた笑顔に、一同はホッとした顔になった。

「一刀が無事なのは良いとして、料理が冷めてしまうのは避けられないわね」

「うっ…………」

 上司の発した言葉に、緊張感が再び襲ってきた。

「ああ、それなら心配ないっすよ。北郷一刀さんの分の料理を取り分けてくれれば、僕の持ってる道具で熱が冷めないように、尚且つ新鮮なままで保存できますんで。何だったら、取り分けた後に残った、円卓の上の料理も同じようにできますよ?」

「ほ、本当か!?」

「はい。さあっ、早く取り分けましょう。食べるの大好きで待ちきれない人もいますし、モタモタしていたら、その間に冷めちゃいますし」

「良しっ!! さあ、華琳様っ! 早く取り分けましょう!!」

「ハイハイ…………」

 機嫌の良くなった春蘭を、呆れ半分、苦笑半分で眺めて、料理を取り分ける作業に移る。

 

「ハァ…………やっと先に進めるな」

「主任、大分疲れてますね?」

「そうだな……部下が勝手な行動をとって、その為に任務の遂行が遅れ、その理由を本部に問い詰められて、報告の時に頭を下げていたからなぁー……」

 眼鏡の奥の目つきを一層鋭くした男が、間の抜けた顔の男に詰め寄る。

「あ、アハハハ……まあ、任務だなんて難しく構えずに、楽しくやりましょうよ、ね?」

「…………ハァ、もういい」

「……んじゃ、料理も取り分けましたし、北郷一刀さんが来るまでに、改めて御家族の皆さんに挨拶をしてもらいましょうか! まずは、妹の北郷佳乃さんからどうぞ~っ!!」

 

 

 

「……エエエッ!!?」

 

 

 

 

 

-続く-


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
12
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択