No.534492

恋姫外伝~修羅と恋姫たち 十九の刻

南斗星さん

いつの時代も決して表に出ることなく

常に時代の影にいた

最強を誇る無手の武術『陸奥圓明流』

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2013-01-21 12:22:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:5547   閲覧ユーザー数:4940

 

【十九の刻 小覇王】

 

 

 

 

 

 

 

「でやああー!!」

 

吼えた…夏侯惇がである。

手にした大刀――七星餓狼を振りかざすと凄まじい気と共に白刃が電光と化す。次の瞬間、いくつもの首が空を舞った。

ザシュウッ…その剣圧で大地を濡らした血が跳ねる。その血に染められた肢体は凄惨でありながらも美しいとさえ映った…。

 

「…すごい」

自身の初陣であることも、ここが戦場であることも一瞬忘れ、仲権は姉の姿に唯々見惚れた。そばにいるはずの子和もきっと同じ顔をしてるであろう。

 

(ああ春姉、すごい!貴方はまさに武神か…。)

 

連合軍に合流すべく陳留を立った数日後、黄巾の一部隊と思われる盗賊団が近隣の村々を襲っている所に出くわした曹操は、先陣の夏侯惇に討伐を命令。命を受けた夏侯惇は疾風のごとく賊を襲い瞬く間にこれを殲滅せしめたのである。

この時此度の遠征に従軍を許された仲権と子和は夏侯惇の指揮の元、初陣を果たしたのだが姉のあまりの凄まじい戦いぶりに初陣の興奮など吹き飛んでしまっていた。

「すさまじいな春姉は…さすがは我が曹軍最強と言われるだけのことはある。」

不意に横手から言葉をかけられた仲権がそちらへと振り向くと、呆けたような顔をした子和がいつの間にか馬を並べていた。

 

「子和か、確かにな。強い強いとは思っていたが、ここまでとはな。戦場でないと本当の強さなど見えぬものだな。」

仲権と子和は夏侯惇の訓練を目にしたことはある。その手ほどきを受けたことも一度や二度ではない。だがやはり戦場で放つ気はそれらとは違う。二人は全身が細かく震えるのを感じながらもその鮮烈な戦場から目を放せずにいた。

「それにしても強い、あまりにも強すぎるな春姉は…あの武神に勝てる者などこの世にいるのかな…?」

戦場が静けさを取り戻し冬空の清々しい空気が戻ってきた頃、ふいにぽつりと仲権が漏らした。

「さあな俺には想像もつかん、が…世の中は広い…もしかしたらいるのかも知れん、な。」

子和もそうは言ってみたがあの武神が負ける所など、とても考えられない…そう内心では思っていた。

二人は自分達では到底覚束無いその武の高みに思いを寄せ、いつの間にか拳を強く握り締めるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

「姉様!」

同じ頃九江を立った孫権達は無事、呉軍本隊との合流を果たしていた。孫権が家族である孫策達に直接会うのは、実に三年ぶりであろうか…。

 

「久しぶりね蓮華!元気そうで安心したわ。思春も変りない?」

嬉しそうに駆け寄ってくる妹に自身も笑顔を向ける孫権によく似た風貌を持つこの女性…名を孫策と言い孫権の姉であり呉の盟主である。

「はい雪蓮様もお変わりなく」

一つ頭を下げながらそう答える甘寧に軽く頷き返しながら周囲を見回すようにすると、後ろで惚けた顔をする疾風が孫策の視野に入った。

 

「…ねえ、そこの貴方…もしかして貴方が‘陸奥’かしら?」

そう尋ねると疾風の前にと歩み寄る孫策。その瞳にはなにやら面白がるような色が映る。

一瞬、疾風の惚けた表情の奥にある目の光が強くなった気がしたが、思い直したかのようにニヤリと笑うと、「陸奥 疾風だ」そう名乗った。

「そうやはりね…私の名は孫策、字は伯符よ、あなたの事はいろいろと聞いているわ。妹がいろいろ世話になったようね、私からも改めて御礼を言うわ」

そう言いながら疾風に右手を差し出した孫策の顔がほころぶ。ただし虎の笑顔である。笑顔がこのように怖く映る者はそうはいまい。

 

「ああ宜しくな」

その虎の瞳を…平然と笑みすら浮かべながら見返し、疾風は差し出された右手を握り返した。

「ふふふ…」

孫策は声に出しながら笑みを漏らし、

「聞いてた通り面白い人物のようね…私の眼光を笑ったまま見返したのは母さまを抜かせば初めてよ」

そう言うと握っていた手を離し瞳から殺気を消した。

「そりゃどうも」

さらりと疾風が言う…その顔にいつもと同じ飄々たる笑顔を浮かべたまま。

それを面白そうに眺めていた孫策だったが、不意に視線をずらすと孫権の後ろに控えていた二人にも声をかけた。

 

「明命貴方も伝令の役ご苦労様、それで隣の貴方は初めて見る顔だけど?」

そう呂蒙を見ながら名を問いかけようとした時、

「それは呂蒙だろう。子布殿、子綱殿の教え子で蓮華様の推薦により此度参陣することとなった軍師見習いだと報告にあっただろう」

不意に後ろから声が返ってきた。

その声は大きくはなかったが、不思議なくらい響いて聞こえていた。

 

「あら冥琳、貴方もこちらに来たの?軍の編成はもうすんだのかしら?」

そう言いながら歩み寄ってきた女性に明らかに今までとは違う晴れやかな笑みを向ける孫策。それに対し冥琳と呼ばれた女性は掛けていた眼鏡をついと上げながら当然だと言葉を返した。

 

「さっすが我が孫呉随一の軍師様ね、頼りになる~。」

そんな冥琳に何故か自身の事のように得意げに胸を張りながら、腕を引き寄せるように抱きつく孫策。

「こ、こら止めないか雪蓮。」

そのまま甘えるように擦り寄る孫策を嗜めながら引き剥がそうとする冥琳…だがその顔はやや朱に染まっていたが…。

 

暫くの間そうして冥琳にじゃれ付いていた孫策だったが、孫権の「いい加減にしてください!」との声でようやく離れた。

「…失礼、見苦しい所を見せたな…貴方が陸奥殿か、お噂は兼ね兼ね…。自己紹介が遅れたな我が名は周瑜、字は公瑾、孫呉の筆頭軍師である。貴方には我が盟主孫伯符の妹君であらせられる仲謀様のお命を救っていただいたこと改めて御礼申し上げる。」

孫策から解放された周瑜は、改めて疾風に向き直ると至極真面目な声でそう名乗った…もっとも先ほどの痴態のせいか、頬は赤かったし口調は若干早口だったが…。

 

一方その疾風はと言うと、周瑜の言葉を聞いてるのか判らぬ顔で腹に手を当ていた。

「いかん、いかんなぁ…腹のやつ」

そう呟いた途端腹が鳴った。

「…は?」

それを聞いた周瑜があげた声である。

それはそうであろう、人が真面目に話してるというのに行き成り腹を鳴らしたのである。

それなのにその張本人は人差し指で自らの頬を掻きながら、いかん、いかんとまるで人事のように腹に言うのである。

 

ぐう…周瑜が呆気に取られてるともう一度腹が鳴った。この腹は自己主張が激しいようで一段と大きく鳴った。

次の刹那…、

「…ぷ、あはは…くくく…はははは」

ぽかんと惚けたような顔をしていた孫策が突然大声で笑い出した。

この瞬間、孫策の疾風に対する感情がきまったといって良いだろう。

「姉様?」

「ふふ、面白いわねぇ貴方…気に入ったわ。そうね取り合えず御飯にしましょうか。」

 

 

 

孫策の瞳の光が強くなった気がした…。

後書きと言う名の言い訳

久しぶりの投稿です。半年も開けてしまい申し訳ありませんでした。この半年いろいろ忙しくて執筆できる状態ではありませんでしたが、やっと時間に余裕が出来ましたのでチマチマ再開したしだいであります。

しばらくはリハビリと言った感じでゆっくり更新したいと思いますが、あくまで完結を目指しますのでこれからも宜しくお願いします。

 

 

 

 
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