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真・恋姫†無双 ~胡蝶天正~ 第一部 第04話

ogany666さん

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
巳年は世情が荒れると言いますが、頑張っていきましょう。
というわけで、第4話です。

2013-01-19 01:56:24 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:8851   閲覧ユーザー数:6385

 

 

 

 

 

 

 

この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

試験のあの日より早一年、俺は父上が新たに雇った私兵の練兵や前世の知識をまとめた書物を使い今の時代で使えるか試行錯誤していた。

俺を支えてくれると決めた父上は試験の日から協力的になり、《王の道を行くならば兵を鍛えて自在に操ることが出来てこそ一人前、今のうちから出来るようにしておきなさい》と言って俺に百人の新兵を与えた。

表向きには父上と北家の護衛兵と言うことになってはいるのだが、実際には俺の私兵状態になってしまっている。

そのおかげで自分の好きなように鍛えることが出来たので感謝しても、し足りないくらいだ。

俺は与えられた百人の新兵を半分に分けてそれぞれ違う訓練をさせることにした。

片方は北家や父上の警護などを組織的に行える文字通り親衛隊としての訓練、もう片方は単独行動での情報収集や潜入調査、隠密戦闘を行なう諜報組織としての訓練だ。

前者は中隊規模の数しかいないが指揮系統や地形を利用しての集団戦闘、CQB(クロース・クォーター・バトル)を徹底したためこの時代の兵士ならば十倍の数を相手にしても引けを取らないほど。

対して後者は隠密潜入行動及び情報収集解析、極限状態での生存訓練や野戦での単独戦闘訓練の為にCQC(クロース・クォーター・コンバット)を実戦レベルで訓練したため、一兵でその国の情報を収集しどんな環境でも生還できるほどの技術を身につけていた。

もっとも、箱を挙って被るようになったのは誤算だったが、まぁそれはご愛嬌。

今は親衛隊を分隊規模に分けて俺や父上母上の警護に当たらせ、間諜には俺の命令である者たちを探らせている。

そのある者とは・・・・・・。

「郷様、御命令通り朝廷の宦官並びに各地域の地方官の動向を探ってまいりました」

そう、漢王朝を蝕む病巣といっても過言ではない帝に仕える宦官及び、そのコネを使い重税を課す地方官だ。

「それでどうだった?」

「はい、やはり郷様の見立て通り地方官の徴収した税の八割弱が帝に謙譲されずに親類縁者である宦官の懐に流れております。その中心にいるのは」

張譲(ちょうじょう)を筆頭とした十常侍」

「そのとおりで御座います」

かつて三国志を読んだときに董卓と同等といっても過言ではないほどの暴虐を働いていたのが十常侍、この世界の董卓ちゃんは暴政など布いていないためこいつ等が漢王朝の衰退の元凶といっても過言ではない。

張譲、宦官の最高位である中常侍に位置し、現皇帝霊帝から父と呼ばれるほどの地位と名誉をもつ男だ。

この男を筆頭に帝の側を固める十人の宦官、十常侍。

諸悪の根源だとわかってはいるが、今奴等を断罪するだけの力は俺には無かった。

「郷様、我等にお任せくだされば十常侍の頸を明日の朝にでもそろえて御覧に入れますが」

「駄目だよ、そんな事をしても誰かが後を引き継ぐだけで何の解決にもならない。暗殺ではなく正面切って十常侍を裁く事が出来なければ意味が無い、今はまだ我慢のときだ。ご苦労だったね、朝廷に直接乗り込んでの諜報任務大変だったろう?」

「いえ、あの程度の警備ならば擬装用の衣服と箱があれば何の問題もありません。親衛隊との合同訓練に比べればまるで無人の野を行くが如く簡単な任務でした」

二つの部隊は普段はそれぞれが別の訓練をしているが、互いの練度を計る為、たまに模擬戦という形で訓練を行う事がある。

先月も森林での戦闘訓練を行ったが、隊列を組んで隊総出で山狩りを敢行する親衛隊に対し、諜報部隊はゲリラ戦を展開、宛らベトコンのような泥沼の戦闘へと発展し、様子を見に来た官軍が模擬線である事を信じなかったほどだ。

確かにあれに比べれば今回の任務なんて家に帰って昼寝してろと言うのと同じようなものかもしれないな。

「引き続き朝廷への潜入任務を頼む、宮中に出入りする厳格な役人に対して宦官が何か不穏な動きを見せたのなら直ぐに知らせてくれ」

「御意  (((只」

新たな命を受けた諜報員は箱を被って俺の部屋から出て行った。

如何見ても怪しいのだがあれで全く相手から気付かれる事がないのだから不思議だ。

「妖術でステルス迷彩でも使っているんじゃないだろうなぁ・・・・」

そんな事を考えていると諜報員と入れ替わるようにして、俺の書いた書物の内容を実践している家臣が大慌てで部屋に入ってきた。

「やりましたよ!郷様!十八番に薬効が出ました!」

「!」

この男には未来の知識や技術を使った医療面の研究をさせており、さしあたり梅毒に効く薬としてペニシリンを精製させていた。

今の時代では精製は無理かと諦め掛けていたところだったので、まさに寝耳に水な話だ。

これで梅毒の治療のほかに外科手術の炎症止め、そして後々必要になるであろうあの抗生物質の研究にも着手する事が可能になった。

「よくやった!では早速紙と火酒を用意して精製作業に取り掛かってくれ!」

「はい!直ちに取り掛かります!」

「それと、今度は土壌に棲む菌で今と同じ作業をやって欲しい。ただし、今度は酸と重曹の手順を逆にして頼む」

「畏まりました」

家臣は俺の命を聞くと直ぐに取って返し、一目散に医療所へ向けて走っていった。

努力が結実して嬉しくはあるのだが、精製する為に使う紙などが高級品なのもあって気安く使える薬ではない。

「万が一の時と贈答品として使うのが精一杯だろうなぁ・・・」

そんな事を考えつつ俺は鍛練をする為に模造刀を手に中庭へ向かう。

すると、行く途中で母上と警護役の親衛隊数名にばったり出会い、こちらに話しかけてきた。

「これから稽古に向かうのですか?」

「はい、兵の報告などを聞いており遅くなりましたが、これから中庭でいつも通りにやるつもりです」

「わたくしが相手をしてあげたいのですが・・・」

「母上、過度な運動をされてはお腹の子に障ります。あまり無茶をいたしますと流石の父上も黙ってはおりませんよ」

今母上は俺の兄弟を身篭っており、お腹のほうも膨らんできている。

家事のほうも侍女たちに任せて安静にしている状態だ。

「しかし実戦に勝る稽古はありませんし・・・」

「それでは、母上の警護に当たっている者の内二名ほどお借りします。その者たちに私の相手をさせますので」

「それはいいですね、あなた自身が育て上げた精兵の練度を調べる良い機会にもなります。あなた達も日頃の成果を存分に発揮してきなさい」

「「サーイエッサー!!」」

母上が自分を警護する親衛隊の内、後方の二人に声をかけると、その二人は敬礼をして俺と一緒に中庭へ行く事になった。

 

 

 

 

中庭に行く途中で二人に訓練用の剣を持ってこさせる間に、俺は素振りとウォームアップを終わらせて真新しくなった四神の像を眺めていた。

あの試験から一年、ようやく父上の小遣いが元通りになり、趣味の食べ歩きが出来るようになったと安堵していた。

あの一件でよっぽど身に沁みたのか母上に対して頭が上がらなくなっているのが現状だ。

まぁ普段は仲良くしているので家庭内のヒエラルキーなんて余り気にしてはいないんだけどね。

そんなどうでも良い事を考えていると親衛隊の二人がこちらへ来るのが見えたので広場の中央へと向かう。

「準備できたようだね、それじゃあ始めよっか」

「「はっ!よろしくお願いします!」」

そういって、俺が模造刀を構えたのを確認すると二人とも抜刀し、俺に対して縦に一列前後に並ぶような陣形を取る。

「参ります」

前衛の男が一言そう発すると同時に俺へと突進、勢いを殺さずに突きをを入れてきた。

俺は相手の突きを刀で捌き、返しの刃で仕留めようとすると後衛が前衛と交代、俺の攻撃を防御して時間を稼いだ後に再び前衛が下段から切り上げて来る。

体制を立て直す為に防御していた兵士を蹴る事で斜め後ろへ後退、仕掛けてきた相手も俺が蹴った兵士の勢いを殺す為に攻撃を中断して後ろから仲間を抑えていた。

「大丈夫か?」

「なんとか」

蹴った場所が鳩尾だったため少し苦しそうだったが、支障きたすほどではなかったらしい。

軸足を地面から離し体がぶれていたとはいえ、俺の蹴りが急所入っても戦えるだけのタフネス。

無駄のない動きで前後を入れ替えての連携攻撃と仲間へのフォロー。

前の訓練では二人一組などの小規模戦では動きにむらがあり、最初の切り返しと今の蹴りで事足りる程度だったが、そうもいかないようだ。

「訓練の成果は出ているようだね」

「恐れ入ります」

「前に手合わせした時よりも攻守の流れが良くなっているよ。やっぱり前回の模擬戦で惨敗したのが堪えたのかな?」

「はい、前回はやつ等にあしらわれましたが、次は一泡吹かせてやるつもりです」

「じゃあその努力に応えて少し本気を出すとするかな」

俺は刀を鞘に納め右手を柄に添えた。

二人も俺が何をやろうとしているのか気付いた様で、前衛が上段に構えたままジリジリと詰め寄る。

間合いに入る半歩手前で今度はこちらから仕掛けると、相手もそれに対応して気合とともに剣を振り下ろしてきた。

「ちぇすとおおぉぉぉーーーっ!!!」

二の太刀要らずの示現流、それとなく訓練に組み込んでみたが上手くモノに出来ている。

俺は前衛の気合の入った一太刀を紙一重で左に避け、ショートレンジの左フックを相手の右腹部へ刺し込む。

前衛は口を開け涎を垂らしながら膝を付いたが、後衛は前のカバーが不可能と見るや攻撃へ切り替えていた様で、前衛の影から俺の顔面へ突きを入れてきた。

その突きを左足を軸に体を右回りで反転させて避け、その勢いを利用して抜刀、居合いを相手の後頭部へと叩き込む。

後衛はそれをまともにくらい、数メートル転がった後、気を失った。

「・・・・参りました」

苦痛に顔を歪め、右脇腹を抑えながら前衛の兵士は自分たちの敗北を告げる。

「筋は良かったよ。君の気合の篭った打ち込みや彼の状況を即座に判断した攻撃への切り替え、特に最後の突きには俺も少し肝を冷やした」

「お褒めに預かり光栄です」

「その状態じゃあ、二人とも直ぐには動けないだろう。手当てに誰か呼んでくるよ」

「恐れ入ります」

俺は二人を中庭へ残し、人を呼びに屋敷の中へ入ると・・・。

「あ~♪郷様み~つっけたぁ♪」

直ぐにショタコンが目に映った。

韓白もこちらに気付き、突進する猛牛のような勢いでこちらに抱きつこうとするのを刀の鞘でいなしながら話しかける。

「調度良かった。韓白、お前に頼みたい事があるんだ」

「はい~♪何でしょうか、郷様♪」

「中庭に怪我をした親衛隊二人が居るんだけど、そいつ等を介抱してやってくれ」

「・・・・・・・(´д` )」

俺が頼む内容を聞くとあからさまに嫌そうな顔をしている。

まるで《ケッ!むさ苦しい男二人の世話かよ!》と言いたそうな雰囲気だ。

「嫌なのか?」

「・・・・いえ、郷様の命とあらばどのような事でも遣るだけです」

「なら頼むよ」

「はい、あ、郷様。旦那様が呼んでおられます、広間まで来るようにと」

「父上が?解ったよ」

韓白の言葉を聴き、直ぐに父上の居るであろう広間へ向かう。

程なくして広場に着くとそこには父上が一人、式典などで着る正装を身に纏い佇んでいた。

「父上、お呼びでしょうか」

「ああ、あるお方の紹介で帝に謁見する事になってね。お前も連れて行こうと思ったのだよ」

「私も行って良いのですか?」

「私の息子として傍に居れば問題ないよ。それに今の帝や朝廷を見ておくいい機会だからね。王道を行くのなら見ておきたいだろう?」

「・・・解りました。それでは身支度を済ませてきますので暫しお待ちください」

父上に自分の意を伝え、身支度をしに自室へと戻る。

正直、父上の申し出は俺にとってはまさに青天の霹靂、まさか七つで帝に会う事になろうとは思いも寄らなかったからだ。

だがこれは俺にとって好機だ、帝に会うという事はその横で侍る十常侍にも会う絶好の機会、自分の目で敵を見定めておく事が出来るのだから。

それにしても・・・・父上を帝に紹介するほどのお方とは一体誰なのだろう?

帝に会う事が出来るの人物なのだからかなりの高官であることは違いないが、厳格な官職を煙たがる今の宦官どもがわざわざ父上を紹介するとは考えにくい。

かといって他に父上と帝にパイプがある人物に心当たりがない。

「後でそれとなく父上に訊ねてみるか」

 

 

 

 

身支度を終え、念のために愛刀と護衛十数名を連れてそのまま父上と共に馬で屋敷を出たが、途中寄るところがあるらしく、直ぐに帝の居られる宮殿へは向かわないらしい。

何処へ寄るのかも解らず、父上の後を付いていくと都から出てしまい、小高い丘へ向かっている最中に俺は目的地を聞く事にした。

「父上、どちらに向かわれているのですか?」

「お前が生まれる前にお世話になっていたお方がこの丘の上に別宅を構えておられてね、帝に紹介して頂く為にその方をお迎えに上がらねばならないのだよ」

「そのお方のお名前は?」

「あってみれば解るよ」

そんな事を話しながら丘を道なりに登っていくと、立派な門構えをしている屋敷が姿を現した。

門の前まで行き、全員馬を降りて父上の後ろへ控える。

門の前の衛兵に止められると父上は何やら衛兵に伝え、話が通っているのか直ぐに門を開け始めた。

馬を衛兵に預けて屋敷へ入り、庭を歩いているとそこにはずいぶんとお年を召した老翁が茶を飲みながら椅子に座って景色を眺めていた。

「お久しぶりです、曹騰(そうとう)様。帝への謁見の為、お迎えに上がりました」

「!?」

曹騰!?この方が!?

華琳の祖父である曹騰だと言うのか!?

俺は父上の言葉に固まっている間に、父上は目の前の曹騰様に深々と礼をする。

「おぉ、よく来たな北景、しばらく見ぬ内に随分と立派になりおって。これではもうハナタレとは呼ぶことは出来んな」

「いえいえ、曹騰様。あなた様に比べればこの北景、まだまだハナタレで御座います」

「謙遜するでない、ところで後ろに居るその子はお前の倅か?」

「はい、紹介いたします。私の不遜の息子、北郷で御座います。一刀、こちらは私が駆け出しの頃にお世話になった大先輩の曹騰様だ」

俺は紹介されたあたりで我に返り、膝を付き軍礼をしながら挨拶をする。

「お初にお目にかかります曹騰様!わたくし、北景が一子北郷と申します!どうぞお見知りおきくださいませ!」

「ほう、まだ年端も行かぬ子供に見えるのに、ここまで礼を尽くせるとは。我が孫娘に勝るとも劣らぬ聡明さじゃ」

「お褒めに預かり光栄です。・・・曹騰様のお孫様とは曹嵩(そうすう)様の御子であらせられる曹操殿で在られますか?」

それとなく華琳の事を聞くと曹騰様は少し驚いた様子でこちらにたずねて来た。

「我が孫娘の事を知っているとは驚きじゃ」

「はい、曹騰様が誇りに思われるほどの聡明さと勇猛さを兼ね備えたお方だと聞き及んでおります。いつかお会いしてお話を伺いたいと思っておりました」

「確かに智勇には優れておるが・・・・・華琳にとっても良い機会じゃ。今宵は宴を開くゆえその場でお主と会わせることにしよう」

「はい、有難う御座います!」

これは願ってもない機会だ、正直言って俺にとっては帝に謁見する以上に嬉しい申し出、こんなに早く華琳に再会する事になろうとは。

俺は再び曹騰様へ軍礼をし、深々とこうべを下げた。

「曹騰様、よろしいのですか?宴など催して頂いて」

「気にするでない。今日は袁家の客人も招いておってのう、お主の事が無くとも宴は開く予定だったのじゃ。華琳も袁家の娘と一緒に洛陽を廻っている頃じゃろう。お主とて三公を輩出した名門袁家と繋がりを持てるのは嬉しかろう?」

「・・・仰る通りで御座います。曹騰様、貴重な機会を一日で二度も作って頂き誠に有難う御座います」

父上も曹騰様の計らいに感謝の意を込めて深々と礼をし、曹騰様もそれを汲みとり微笑みながら頷いた。

その後、俺たちは途中父上が俺の事を話しながら曹騰様をお連れして宮中へと向かったのだが・・・。

「城中では下馬願います、お持ちの刀剣類はこちらでお預かり致します」

城門で止められ、馬と武器を預けるよう警護の兵から指示される。

しかし、曹騰様が父上に何か話しをすると、父上は驚き何か物申していらっしゃったが、曹騰様は意に介さず警護兵へ話を付け出した。

「そこの子供が手にする刀剣のみは持込を許可して貰いたい。陛下にその剣を使った妙技を披露するのでな、駄目ならばおぬし等の誰かが預かり、陛下の御前まで持って来てもらいたいのじゃが」

曹騰様は何を言っておられるのだ?

俺が陛下の御前で妙技を披露する?

そんなことは初耳だぞ?

俺は父上にどういうことなのか説明を乞う。

「父上、曹騰様は一体何を言っておられるのですか?」

「・・・実はここへ来る途中、曹騰様にお前が昨年の武力試験で鉄心の入った巻き藁と四神の像を真っ二つにした話をしてな、それを是非とも陛下の御前で披露して欲しいとの話を今聞かされたところだ」

「・・・(゚д゚ )」

開いた口が塞がらなかった、俺が帝の前で剣術を披露するのがたった今決まったと言うのだから。

華琳も大胆では在ったが、その性格は曹騰様を見て育ったが故のものだろうとこのとき悟った。

 

 

 

 

結局、俺の刀はその門の警備兵の長である南部尉(※部尉(ぶい):城門やその周辺の地域を警備する位の低い武官)が預かり宮中へと入る事になり、共に謁見するために陛下の下へと足を運んでいる。

玉座の間へ入るとまだ帝は居らず、全員が平伏して待つ事となった。

しばらくすると宦官に囲まれながら、肥えた体を引きずるようにして帝と思われる男が玉座に腰を下ろす。

「お久しぶりで御座います天子様。この曹騰、天子様に是非ともお会いしてもらいたい者が居りまして宮中へと馳せ参じた次第で御座います」

「おお曹騰!久しぶりじゃの!お前がいなくなって朕も寂しかったぞ!して、そのあわせたい者とは誰じゃ!申してみよ!」

「はい、お会いしていただきたい者と言うのは、私めの横に居ります北景と言う者です」

「天子様、お初にお目に掛かります。洛陽で司法官をしております北景と申します。何卒見知り置きくださいませ」

「この者は私めが天子様に仕えていたときから目を付けていた傑物で御座いますが、あまり良い役職に付けず心配しておりました。如何でしょう、この者に相応しい役職をお与えになられては」

曹騰様は平伏しながら父上の昇進を嘆願するが、帝の傍に侍る宦官の一人が異を唱えた。

「曹騰殿、政を司るは我等が中常侍の勤めに御座います。如何に天子様の下で長らく仕えた貴方とて、いきなり上奏されるのは如何なものかと。その申し出は我々がお受けし、厳正な裁定を行ったうえで後日正式に手続きいたしましょう」

「張譲殿、全ては天子様のご意向のままに」

こいつが張譲か、穏やかな顔をしているこの男が宮中に住まう害虫の長とは、なるほど、とんでもない食わせ者だな。

「う~む、曹騰の頼みとあらば聞いてやりたいのじゃが、その者を図るものが何も無いのう」

「天子様、それではこう致しましょう。私めの後ろに居るのはこの北景の息子、北郷と申します。まだ七つではありますが智勇に大変優れております」

「北郷と申します。お目に掛かることが出来て光栄です、天子様」

「北景が育て上げましたこの北郷が悪鬼を払う事が出来ましたら、北景をお取立てになられては如何でしょう?」

曹騰様の言葉を理解できずに帝は首をかしげる。

「悪鬼を払う?」

「はい、聞くところに寄れば、張譲殿は次の宴の席で悪鬼の像を宮中警護役の者に砕かせて悪鬼を払うと言った催しを準備されておられたとか、そこでこの北郷めが南部尉殿の持っておられる細身の刀剣にて全ての悪鬼の像を両断し、払う事が出来ましたならば、それは育て上げた北景の手柄としてお取立てになられては如何でしょう」

「ほおぅ!あのような細身の剣で石像を切って見せると言うのか!?これは面白い趣向じゃ!張譲早速お主が用意しておったという石像をここに持て!」

張譲も帝の命とあらば逆らう事が出来ず、渋々自分が用意していた石像をここへ持ってくるように指示、程なくして八体の鬼の石像が俺の後ろに並んだ。

俺は南部尉から刀を受け取り、円を描くような形で置かれている八体の石像の中心に立つと曹騰様は帝へ話かける。

「天子様、もしあの八体の悪鬼を北郷めが一太刀で払う事が出来ましたのならば、北景を司空に推挙致したいのですが宜しいでしょうか?」

「なんと!あの八体の像を一太刀で斬ると言うのか!?それは面白い!良いぞ良いぞ!見事一太刀で斬る事が出来たならば司空に取り立ててやろう!」

その言葉を聴き、張譲は物申したい顔をしていたが帝が公に発したお言葉に口を挟むことが出来ず、押し黙っている。

だが黙っているのは、張譲自身がこう思っているからだろう。

(あんな小僧が、あの様なか細い剣で一度に八つもの岩の塊を断てるものか。一つも切れずに岩に弾かれるのが関の山よ)

そう考えているのは張譲だけではなく、帝の傍にいる他の宦官、南部尉も同じだろう。

楽しそうに見ているのは帝と曹騰様の二人だけだ。

「さて、斬り方は前と一緒でいいだろうが、問題は・・・」

以前のように水平に斬れば上部分が下部に乗ったままになってしまい、一太刀で切れたとは解りづらい。

となると方法は・・・・。

「それでは、参ります」

俺は声をかけた後、刀を以前と同様に右手で柄を、左手で刀身の峰を押さえて構える。

違うのは角度、前回は水平に構えたのに対して今回はやや浅く角度をつけて刀を解き放った。

──────────────────。

一瞬の静寂の後、石像の上部はゆっくりと太刀筋に沿って滑り落ち、床に叩き付けられて砕け散る。

俺は帝のほうへ向き直り、刀を鞘に納めるとその場で平伏した。

その様子を見ていた宦官どもは勿論、斬る事を期待していた曹騰様や帝自身も何が起きたのか全く理解できていない。

何が起きたのか理解するまで全員呆然としていた。

「ハアアァァ・・・・・す、凄い!!!凄!!!凄いぞ!!褒美を取らす!!!何なりと申せ!!!!!」

帝は我に返り、先程曹騰様と約束された件も忘れて俺に褒美を問うている。

こんな男が帝では宦官が暴利を貪っても処罰されぬわけだ。

「はっ!この北郷、私めをここまで育ててくださった父、北景が曹騰様の仰られた通り司空へとお取立てくだされば、これ以上の褒美は御座いません!」

「そうか!!!父の昇格が望みか!!!良いぞ!!!直ぐにお前の父を司空にしてやろう!!!」

興奮冷めやらぬ帝の言に、流石の張譲も黙っている事が出来ずに苦言を申し立てる。

「陛下、如何にその者の息子が秀出ていようとも、この様な余興で政を決めるは得策とは思えませぬ。ここは慎重にお決めになられますよう」

「張譲殿、ならば何故私が先程司空の件を申し出た折に進言されなかったのですかな?張譲殿もお認めになられたからこそ黙しておられたと思っておりましたが。そもそも、天子様がお決めになられたことを我々如きが苦言を申すなど罷り成りませぬぞ」

「そうじゃぞ!!!曹騰の言う通りじゃ張譲!!!あのような素晴らしい子を持ち、曹騰が推挙する者が無能なわけが無い!!!北景よ!!!お前は今日から司空じゃ!!!存分に励め!!!!これは勅命じゃ!!!」

張譲の苦言も今の帝は聞く耳を持たず、曹騰様との約束通り父上を司空へと取り立てた。

「はっ!この北景、陛下の勅命を承り!謹んで司空の任に当たらせて頂きます!」

父上は直ぐに平伏し、帝の勅命を拝領して司空の任に付く事を承諾する。

「朕は良いものを見れたので今日はとても気分が良い!!!今宵は存分に歌い騒ごう!!!ハッハッハッハッハ!!!」

帝はそう言いながら上機嫌で玉座を後にし、張譲も舌打ちをして苦虫を噛み潰したような顔をしながら帝に続いて出て行った。

帝や宦官共が出て行ったのを確認した後、俺は父上の傍へ行き話しかける。

「父上、司空への昇格おめでとう御座います」

「よさないか、お前がもし斬ることが出来なかったらと思うと気が気でなかったぞ」

自分の今後が息子の双肩に掛かっていると思うと内心冷や汗を掻いていたのだろう、父上は大きく息を吐き安堵している。

そんな父上を見て曹騰様はにやけ笑いをしながらこちらへ話しかけてきた。

「ふぉふぉふぉ、これしきの事で顔を青くしていては司空の任など勤まらぬぞ」

「曹騰様、自分の進退を我が子の一太刀に賭かっているなどとその場で聞かされれば、流石の私も落ち着いてはいられません。もし、一刀が石像を斬ることが出来なければ如何なさるおつもりだったのですか!?」

「そのときはわしの見る目とお主の運が無かったと諦めてもらうしかなかったのう・・・・・それよりも」

曹騰様は父上との話を打ち切り、こちらを見る。

「先程北景から聞かされて俄かには信じられなかったが、その幼さでこれほどの武を持ち合わせているとは、先程の妙技は母君から教わったのかの?」

「いえ、母上とは鍛練でお相手をしてもらう事はありますが、この剣術自体は私の我流で御座います」

俺の答えに信じられないといった顔をして話を続ける。

「誰に教わるでもなく、その歳でそれだけの武を会得したというのか?末恐ろしい子供じゃ」

「はい、私の剣術によるところも在りますが、特注で作らせたあの剣にも秘密が御座います」

「ほぅ・・・・南部尉殿、その刀剣抜いて見せてはくれぬか?」

俺の言葉で興味が沸いたのだろう、曹騰様は刀を抜いて見せてくれる様に南部尉に頼み、彼も興味があるのか二つ返事で鞘から刀身を抜く。

「反りが入ったこの細身の剣・・・・・・遠目から見ると解らんが、近くで見ると淀みの無い刀身をしておる。こんな材質の剣は今まで見たことが無い」

「その鉄を作るのには秘儀とも言える技法を用いておりますのでどうかご勘弁を」

「ふむ、そう言われて無理に聞き出すのは、作ったものの技術を盗むようでわしの主義に反するのう」

「と、とにかく、宮中での御用も済ませましたし参りましょう。余り長居をしては南部尉殿の職務に差し支えます」

曹騰様との会話を途中で打ち切り、俺たちは宮中を出る事にした。

危ない危ない、このまま行けば華琳を相手にしたときのように根掘り葉掘りと俺の頭の中の引き出しを調べられかねない。

 

 

 

 

俺は父上の他愛も無い話を曹騰様に話して誤魔化しつつ、南部尉から刀を返してもらって別れ、宮中を後にする。

そのまましばらく道なりに進み、南城下の中ほどに差し掛かったところで、馬に乗りながら父上が話しかけてきた。

「さて一刀、父さんはこれから母さんの所へ行って司空に昇格した事と、今夜は曹騰様の宴の席に出席する事を知らせてくるが、お前はどうする?」

「そうですねぇ、私は・・・・」

家に帰ってペニシリンの経過や兵の練度を見て廻りたいが、曹騰様と一緒に一足先に別宅に向かい、茶飲み話に父上の昔の話を聞きつつ華琳を待つというのも捨てがたい。

そんな風に悩んでいると、裏路地のほうにある箱が少し動いたのが見え、下からは指を覗かせている。

「・・・・・・・・父上、私は少し街を散策してから宴の席に向かおうと思います。ですので、ここで分かれても宜しいでしょうか?」

「ん?そうか、ならば護衛の内五名をお前に付けよう。気をつけて廻るんだよ」

「はい、それと散策するのに馬を連れていては邪魔になるので一緒に屋敷へ連れて行ってもらえませんか?」

「解った、宴に遅れないようにするんだよ」

「はい、曹騰様もまた後ほど」

俺は馬から下りて父上のほうの親衛隊に手綱を渡し、父上と曹騰様に軍礼をする。

それを見て二人とも頷き、その場を後にした。

二人が居なくなったのを確認すると残った親衛隊を連れて、先程箱が見えた裏路地へと入る。

「屋敷以外で報告に来るとはただ事ではないな、何が在った?」

俺が奥にある箱に話しかけているのを親衛隊が怪訝な顔で見ていたが、箱から俺の諜報員が出てきた途端、皆驚愕する。

諜報員は特に気にする事も無く、俺へ報告を始めた。

「申し訳御座いません。至急ご報告しなければならない事態が発生し、お取り込み中に失礼させていただきました」

「で、どうしたんだい?」

「はい、先程郷様が帝の御前で妙技を披露された後、張譲に付いて様子を探っていたのですが、今回の一件で曹騰様を逆恨みしたのか刺客を放ちました」

「なんだと!」

あの男、帝の傍に居るのを見たときは狡猾な男なのだろうと思っていたが、どうやらその上気の短い性格でもあったようだ。

「狙われたのは曹騰様か!?」

「いえ、曹騰様には今宵北家の親衛隊が付いておりますのでご心配には及びません」

曹騰様は狙われていない、それなのに曹騰様を逆恨みして刺客を放つ・・・・・・!!!!!?

「まさか!!?」

「御察しの通り、狙われたのは曹家のご息女、曹操様です。賊に襲われたように見せかける為に周りの者も一緒に始末するつもりかと」

「曹操殿は今何処だ!!?」

「目下捜索中です。ただ、東の城下にてそれらしい人物を見たという報告が・・・」

「直ぐに東城下へ向かうぞ!!何かあってからでは遅すぎる!!」

「御意!」

迂闊だった、今晩の宴で会えるのならば、曹騰様の下で待っていれば良いと暖気に考えていた事すら腹立たしい。

俺はこの世で最も愛おしい寂しがり屋の覇王を助けるべく北東へと疾走する。

「待って居ろよ、華琳・・・・・」

 

 


 
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