No.533424

銀の槍、初めて妖怪と会う。

人間の主と暮らす中で、初めてであった同族の少女。
彼女は忠義の槍に何をもたらすのか。

2013-01-18 22:52:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:472   閲覧ユーザー数:460

 皆が寝静まった静かな夜。

 空高く上った蒼い月の下で銀の槍が風を切る。

 その槍の担い手である槍とおそろいの銀の髪の青年、将志は一心不乱に槍を振り続けている。

 将志が自我を持ってから二年間、一度も欠かしたことの無い日課であった。

 

「……ふっ」

 

 体が覚えている動きを自らの出せる最高速度で繰り出していく。

 その結果、槍の形は眼に捕えられなくなり、見た目には現れては消える銀の軌跡だけが見える状態になっていた。

 将志は何も考えず、ただひたすらに槍を振り続ける。

 

「いや~すごいね♪ 何度見ても惚れ惚れするよ♪」

 

 そんな中、将志の後ろから明るく楽しげな少女の声が聞こえてきた。

 

「……!」

「ひゃあ」

 

 突然後ろから声をかけられ、将志はとっさに槍を声がした方へ突きだす。

 するとその声の主は突然の攻撃に驚きの声を上げ、地面に何かが落ちる音が聞こえた。

 将志が振り向いた先には、フリルのついた黄色いスカートとオレンジのジャケットを着て、赤い蝶ネクタイと赤いリボンのついたシルクハットを身に付けた小柄な少女が倒れていた。

 スカートには四方にトランプの柄が一種類ずつ描かれていて、ちょうど同じ色の柄が反対側に来るようになっている。

 そして左眼の下には赤い涙が、右眼の下には青い三日月のペイントが施されていて、道化師のような見た目をしていた。

 

「……何者だ」

 

 将志がそう問いかけると、少女はむくりと起き上がり近くに落ちていた黒いステッキを拾い上げ、近くに転がっていた黄色とオレンジの二色に分けられたボールの上に飛び乗った。

 少女はうぐいす色のショートヘアーの頭をさすると、将志に向かって話しかけた。

 

「あいたたたた……ひどいなぁ~、突然攻撃するなんて♪」

「…………何者だ」

「きゃあ! 待って待って、そんな怖いもの突き付けられたら、僕泣いちゃいそう♪」

 

 槍をつき付けられた少女は軽い口調でそう言いながら、両手を上に上げて敵意が無いことを示す。

 その瑠璃色の瞳は澄み切った輝きを放っており、まっすぐに将志の黒耀の瞳を見つめていた。

 

「…………」

 

 その様子に、将志は引き続き警戒をしながらも一旦槍を収める。

 すると、少女はホッとした様子で両手を下ろした。

 

「やれやれ、いきなり槍を突き付けられるとは思わなかったよ♪ 女子供に手を上げない、紳士な君はどこに行ったのかな♪」

「……主に危害を加えるのであれば、例え女子供であっても容赦しない。もう一度聞く、お前は何者だ?」

 

 将志が再度そう問いかけると、少女はよくぞ聞いてくれましたとばかりに手を叩いた。

 

「僕の名前は喜嶋(きしま) 愛梨(あいり)、しがないピエロさ♪」

 

 喜嶋 愛梨と名乗った少女は、歌うようにそう言いながら帽子をとってボールの上で深々と礼をした。

 その様子を、将志は怪訝な顔で眺めた。

 

「……こんな時間に出歩くと言うことは、お前は妖怪か」

「その通り♪ 僕は妖怪だよ♪」

「……ちっ!」

「うきゃあ」

 

 将志は愛梨が妖怪だと知るや否や槍を横に薙ぎ払い、愛梨はそれを後ろにジャンプして避ける。

 将志がそれに追撃を加えようとすると、慌てた表情で愛梨が声を出した。

 

「待って待って待~って! 僕は別に人間を襲うつもりは無いよ! 僕が用があるのは君さ♪」

 

 逃げ惑いながらそう言う愛梨に、将志は槍をピタッと止める。

 

「……俺に、何の用だ?」

「君を笑わせに来たのさ♪」

 

 槍を構えたままそう訊ねる将志に、愛梨はウィンクしながら答えた。彼女からは敵意は全くといって良いほど感じられない。

 将志は訳が分からずに首をかしげる。

 

「……何故そんなことを?」

「そうだね、君が槍を振るうのと同じ理由かな♪」

「……どう言うことだ?」

「そういう妖怪だからさ♪」

 

 将志の質問に愛梨はボールの上で楽しそうにくるくると回りながら答える。

 返ってくる答えに、将志は俯いて首を横に振る。

 

「……分からない。そういう妖怪、とはどういうことだ?」

「あれ、ひょっとして良く分かって無い?」

 

 愛梨は回るのをやめてボールの上に座り、瑠璃色の眼で将志の眼を覗き込んだ。

 大きなボールの上に座っているので愛梨の視線がちょうど将志の視線と同じ高さになる。

 

「君も妖怪でしょ? だったら、君は何をする妖怪かな?」

「……そんなものは知らん。俺はただ主を守れればそれで良い」

 

 将志は愛梨の質問に憮然とした表情でそう答える。

 すると愛梨は納得したように頷いた。

 

「何だ、君はそういう妖怪か♪」

 

 はっきりと言い切った将志に愛梨はそう言って笑った。

 将志はその声に顔を上げ、愛梨の眼を見る。

 

「……どう言うことだ?」

「つまり、君は君の主様を守る妖怪だってことだよ♪ きっと、君は誰かを守りたいって気持ちが妖怪にしたんだろうなぁ♪」

 

 ここまで聞いて将志の頭の中はこんがらがってきた。

 永琳の話によれば、人間と妖怪は互いに相容れない存在である筈だ。

 ならば、人間を守るために存在している自分は矛盾しているのではないか?

 そんな疑問を抱いた将志は、愛梨に問いかける。

 

「……妖怪とは、何だ?」

「いろんな感情が生みだした存在だよ♪」

「……感情が生みだした存在?」

「そ♪ そうして、誰かの思いを叶えて、それを糧にするのが妖怪さ♪」

 

 ボールの上で片手で逆立ちをしながら愛梨はそう言った。

 将志はますます妖怪が分からなくなり、頭を抱える。

 

「……分からない。それなら、何故妖怪は恐れられる?」

「それはね、生き物全てに共通する強い感情が恐怖だからさ♪ 例えば、夜になるとお化けがやってきて、捕まったら食べられちゃうと子供が信じたとするよね♪ これって、そうなったら良いって考えるのと一緒で、怖いっていう感情から妖怪が生まれて、生まれた妖怪は当然それを叶えるのさ♪ そうして妖怪が人に信じられると、妖怪が生みだした恐怖からまた新しい妖怪が生まれて、信じた人の数だけどんどん人を糧にする怖い妖怪は増えるんだ♪ そりゃ当然恐れられるってものさ♪」

 

 笑顔を崩さず、子供に御伽噺を読み聞かせるように愛梨はそう言う。

 そんな愛梨に、将志は疑問を投げかける。

 

「……お前は何者だ? 何がお前を妖怪にした?」

「僕かい? さっきも言ったでしょ♪ 僕はみんなを笑わせるピエロさ♪ 僕の糧はみんなの笑顔だよ♪」

 

 鈴の音の様な澄み切った声でピエロの少女は笑う。

 そして愛梨はボールから飛び降りると、スッと姿勢を正して礼をした。

 

「さて、これから始まりますは歓喜の宴。しがない道化師の私めでございますが、精一杯おもてなしをさせていただきます。皆様、笑顔のご用意をお忘れなく。それでは、開演と行きましょう♪」

 

 愛梨がそう言って顔を上げると、手にしたステッキが急に五つの小さい玉になった。

 

「ではでは玉の舞をご覧に見せましょう♪ お客さんも宜しいですね?」

「あ、ああ」

「それでは皆様ご注目♪ 宙を舞い踊る色とりどりの玉の宴をどうぞ♪」

 

 そう言うと愛梨は困惑する将志に二つの玉を渡し、手にした三つの玉でジャグリングを始めた。

 愛梨の手によって玉はまるで意思を持っているかのように宙に舞う。

 宙を舞う玉は時には高く飛び、時には消えたり現れたりし、時には三ついっぺんに空へあがったりする。

 玉を操る愛梨は心の底から楽しそうに笑っていて、将志はその演技と笑顔に段々と引き込まれていった。

 

「さあさあ次は高く上げた玉をくるっとまわってから取るよ~? それでは皆様、ワン、ツー、スリーで行きますからお見逃しなく♪ 行っくよ~、ワン、ツー、スリー!」

 

 そう言って愛梨は手にした玉を一つ高々と放り投げてその場でくるくると回りだした。

 

「あ、あらららら!?」

 

 しかし、途中で眼をまわして倒れてしまう。

 

「うきゅ~……はっ!? おととっ!!」

 

 しばらく倒れていた愛梨だったが、ハッと大げさなほどコミカルに驚いて、寝っ転がったまま落ちてきた玉をキャッチしてジャグリングを続ける。

 

「はぁ~危なかった~♪ 皆様、ご心配をおかけしましたが、何とか成功だよ♪ 拍手とかしてくれたら嬉しいな♪」

 

 そういわれて、将志は自分でも気がつかぬうちに手を叩いていた。

 その将志の反応を見て、愛梨は嬉しそうに笑いながら手を振った。

 

「ありがとう! それじゃ、次は玉を五つに増やしていくよ? それじゃ、玉を持っている人は僕に向かって投げて欲しいな♪」

 

 愛梨は笑顔で礼をすると、将志に向かってそう言った。

 

「……ああ」

 

 将志は手にした二つの玉を投げてよこす。

 愛梨はそれを上手く受け取ってジャグリングの中に組み込んだ。

 それからまたしばらくジャグリングは続き、愛梨は次から次へと技を成功させていく。

 

「さあ、次が最後だよ♪ 最後は空に虹をかけるよ♪ それでは皆様、しっかりとご覧ください!」

 

 そう言うと、愛梨は五つの玉をシャワーと言う技と同じ方法で空高く上に放り投げる。

 そしてそれらが放物線の頂点に届いたころ、

 

「ワン、ツー、スリー!!」

 

 と言って指を鳴らした。

 すると空中で玉が弾けて虹色の光が飛び出し、月夜の空に綺麗な虹が掛った。

 将志はその光景に心を奪われ、ただジッとそれを見つめる。

 

「はいっ、玉の宴は以上だよ♪ 皆様、ありがとうございました!」

 

 元に戻ったステッキが落ちてくるのをキャッチしてそう言うと、愛梨はくるりと回って帽子をとり深々とお辞儀をした。

 将志はそれに自然と拍手を送っていた。

 

「どうだったかな? ……って、訊くまでもないみたいだね♪」

 

 将志に声をかけた愛梨は満足そうに頷いた。

 その視線の先には、微笑を浮かべて拍手をする将志が立っていた。

 

「……ああ。何と言うか、綺麗だった」

「キャハハ☆ 君の笑顔、一つ頂きました♪ あ、そうだ君の名前を訊いても良いかい?」

「……槍ヶ岳 将志、槍の妖怪だ」

「槍ヶ岳 将志くん、だね♪ 覚えたよ♪ これで僕達はお友達だね♪」

 

 愛梨は太陽のように明るい笑顔で、嬉しそうにそう言った。

 それを聞いて、将志は首をかしげた。

 

「……友達?」

「そうさ♪ 僕と、君がね♪」

 

 愛梨は自分と将志を交互に指差しながらそう言った。

 すると、将志は眼を閉じて小さく首を横に振った。

 

「……俺には人間の主が居る。人間に育てられている妖怪と友人になっては拙いのではないか?」

「そんなことないよ♪ 友達になるのに身分も立場も、種族だって関係ないのさ♪ 必要なのは仲良くなりたいと思う気持ちだけなんだ♪ そんなに思いつめることは無いよ♪」

「……そういうものなのか?」

「そういうものだよ♪ 君は僕と友達になってくれるかな?」

 

 愛梨はそう言いながら、将志の眼を覗き込んだ。

 その表情は笑顔ではあるが、瑠璃色の瞳には期待と不安が入り混じっていた。

 将志は眼を閉じ、無言でその場に佇んでいる。

 

「……ああ、良いだろう。俺としても、いざと言うときに頼れる相手が居ると楽だからな」

 

 将志はしばらく考えた後、ゆっくりと頷いた。

 その瞬間、愛梨の顔に笑顔がはじけた。

 

「キャハハ☆ 宜しくね、将志くん♪」

 

 そこまで言うと、突然ぐ~っと腹の鳴る音が二つ聞こえてきた。

 将志は眼をつぶって押し黙り、愛梨は頬を赤く染めてポリポリと頬を掻く。

 

「……腹が減ったな」

「そ、そうだね♪」

「……何か食うか?」

「そうしよっか♪」

 

 二人はそう言うと研究所の中に入っていった。

 静かに歩く将志の後ろを、愛梨が楽しそうに周囲を見回しながらついていく。

 そして調理場に入ると、将志は冷蔵庫を確認しながら愛梨に話しかけた。

 

「……何が食いたい?」

「そうだね……君に任せるよ♪」

「……そうか」

 

 将志はそう言うとやかんに湯を沸かし始めて冷蔵庫を開けて中身を確認し、調理を始めた。

 やかんの湯が沸くと将志は一旦調理の手を止め、愛梨に紅茶を差し出した。

 

「……料理ができるまでこれでも飲め」

「ありがと♪ それじゃ、頂きます♪」

 

 愛梨は差し出された紅茶を笑顔で飲もうとする。

 すると、将志はふと思い出したように愛梨に振りかえった。

 

「……ああ、そうだ。それを飲むときは「あっつぅ!?」……遅かったか」

 

 将志は熱いから注意するように言おうとしたが、愛梨は既に紅茶を飲んで舌を火傷した後だった。

 将志は冷凍庫から氷を取り出し、愛梨に手渡す。

 

「うぅ……こんなに熱いなんて聞いてないよ~……」

「……済まなかった」

 

 若干涙目になりながら火傷した舌に氷を当てて冷やす愛梨。そんな愛梨に将志は調理をしながら詫びを入れる。

 しばらくして、プレーンオムレツが出来上がり愛梨の眼の前に差し出された。

 

「……出来たぞ」

「うわぁ……♪」

 

 出てきたオムレツを見て愛梨はキラキラと眼を輝かせて感嘆の声を上げた。

 そして、その眼を将志に向けると興奮した様子でしゃべり始めた。

 

「すごいや♪ 君はいつもこんなものを作って食べてるんだね♪」

「……そう言うお前は普段何を食べてるんだ」

「みんなが笑えるなら何でも食べるよ♪」

「……そうか」

 

 愛梨は手にしたスプーンで次々とオムレツを口に運んで行く。

 将志は向かい側で、今回の出来栄えを確かめる様に味わい、改善点を探す。

 

「ん~♪ 美味しい♪ 将志くんは料理上手だね♪」

「……それはどうも」

 

 将志は自分の料理がほめられたことに少し満足げに微笑んだ。

 それを見て、愛梨が嬉しそうな表情とともにあっと声を上げる。

 

「あ、本日二度目の笑顔いただきました♪ やったね♪」

「……それはそんなに嬉しいものなのか?」

「もちろん! 楽しい笑顔を見るのが大好きなんだ、僕は♪」

 

 太陽のように笑いながら愛梨はそう言ってオムレツを頬張る。

 すると、ふと思い出したように愛梨は将志に問いかけた。

 

「ところでさ、将志くんは人間を食べたことはあるのかな?」

「……何?」

 

 突然愛梨にそんなことを言われ、将志はオムレツを食べる手を止めた。

 愛梨は相変わらずオムレツを口に運びながら話を続ける。

 

「だから、人間を食べたことはあるのかな?」

「……無いし、主の同族を喰うつもりも無い。……例外があるとすれば、主に命じられた時だけだろう」

「そっか♪ 僕は食べたことあるよ♪」

「……何だと?」

 

 明るい口調でそう言われ、将志は愛梨を睨みつける。愛梨が主である永琳を襲う可能性が出てきたからである。

 それに対して、愛梨は手をパタパタと振った。

 

「ああ、そんな怖い顔しないで欲しいな♪ 僕はわざわざ人を襲ったりしないよ♪ ただ単に友達からもらっただけさ♪ その友達を笑顔にするために人間を食べたのさ♪」

「……では、主に危害を加えることは無いんだな?」

「そんなことしないよ♪ 怖がられたら笑ってくれないじゃないか♪」

「……信用していいんだな?」

「いいともさ♪ むしろ信用して欲しいな♪」

「……その言葉……」

「うきゃあ」

 

 愛梨の言葉を聞いて、将志は槍を愛梨に突き付けた。

 愛梨は将志の突然の行為に思わず椅子ごとひっくり返りそうになる。

 

「……嘘だったら後悔することになるぞ」

 

 将志は愛梨を鋭い視線で睨みつけながらそう続けた。すると愛梨は若干慌て気味に手を振った。

 

「だ、大丈夫だって! そんなことしたら君が笑えないでしょ? だから友達に槍を向けるのはやめて欲しいかな♪」

「……友人といえども、主に牙を向くのであれば容赦などしない。それだけは覚えておけ」

 

 将志はそう言うとようやく槍を収め、食事を再開した。

 それを見て、愛梨はホッと胸を撫で下ろす。

 

「やれやれ……君の主人愛はすごいね♪」

「……主は俺の命の恩人なのだ。当然のことだ」

 

 将志は当然のようにそうつぶやくと、またオムレツに口をつける。

 しばらくすると、今度は将志の方から質問を始めた。

 

「……何故、あんな質問をした?」

「人間の主様と暮らす君が、人間のことをどう思っているかが知りたかったんだ♪ 君は主様以外の人間のことはあんまり気にしないみたいだね♪」

 

 愛梨は将志の質問に朗々とそう答えた。

 愛梨からしてみれば、将志が人間のことをどのように考えているかは重要なものであり、今後の付き合い方に関わってくるからである。

 もし将志が好き好んで人間を捕食するような妖怪であった場合、愛梨も妖怪として人間を襲うことがあるかも知れないからであった。

 愛梨が将志との付き合い方を考えていると、将志が再び愛梨に質問を始めた。

 

「……最初の玉と最後の虹、どうやって出した?」

「ああ、あれ? 最初の玉は単純に妖力を変化させた奴で、最後の虹は僕の能力も使ってるよ♪」

「……お前の能力?」

「そ♪ 僕の能力は『相手を笑顔にする程度の能力』さ♪ だから、誰かを笑顔にさせるためなら何でもできるのさ♪ 例えば、こんな感じでね♪」

 

 愛梨はそう言うと、ポケットから小さなボールを取り出した。

 そしてそのボールに手をかざすと、ボールは液体となって溶けた後、再び寄り集まって人形に変化した。

 その人形は、愛梨の目の前に居る槍妖怪をそのまま小さくしたような見た目をしていた。

 

「……ほう……これはなかなかに面白いな」

 

 目の前に現れた精巧な出来栄えの人形を手に取り、薄く笑みを浮かべて興味深そうに眺める将志。

 それを見て、愛梨も楽しそうに微笑んだ。

 

「ほら、笑顔になったでしょ♪ これが僕の能力さ♪」

「……妖力の変化は?」

「あれ、君はしたこと無いのかな? 体の中の妖力を外に出してやれば色々と出来るんだけどな♪ ほら、こんな感じ♪」

 

 愛梨はそう言うと右手を手のひらを上に向けた状態で差し出した。

 そして手のひらの上に妖力で虹色に光る炎を生みだした。

 

「……そうか。……はっ!」

 

 それを見て、将志は真似をして手を突きだして妖力を送り込む。

 しかし、出そうとした炎は起きず、手のひらからわずかに煙が上がるだけだった。

 

「……上手く行かんな」

「まだ初めてだから仕方ないよ♪ 練習しないとね♪」

 

 すこし落胆した表情を浮かべる将志を愛梨がそう言って励ます。

 すると、愛梨が良いことを思いついたと言わんばかりの表情を浮かべた。

 

「そうだ♪ 今度から僕が妖力の使い方をレクチャーしてあげるよ♪ どうだい、将志くん?」

「……良いのか?」

「良いの良いの♪ 僕らはこうやって一緒にご飯まで食べた友達だよ? 遠慮はいらないさ♪」

 

 首をかしげる将志に、愛梨はそう言って笑う。

 それを聞いて、将志は深々と頭を下げた。

 

「……願ってもない。宜しく頼む」

「了解♪ それじゃ今日はもう遅いから帰るけど、明日の夜から教えてあげるよ♪」

「……そうか」

 

 愛梨は席を立ち、研究所の外に出る。

 将志も見送りのために一緒に出る。

 外に出ると、入口のすぐ近くに置いてあった玉乗り用の玉に軽々と乗った。

 

「それじゃあ、また明日♪ ばいば~い♪」

 

 愛梨が笑顔でそう言って手を振ると、愛梨を乗せた玉がバウンドをしながら遠のいていく。

 将志はそれを無言で見送ると、空を見上げた。

 空は月がかなり低い位置まで移動していて、その反対側からは太陽の光が少しずつ空を照らしはじめていた。

 

「……槍でも振るか」

 

 将志は背負っていた槍を取り出すと、いつものように振り始めた。

 槍を振り始めてしばらくすると、近くに人の気配が近づいて来るのが分かった。

 将志は槍を振るのをやめ、そちらの方を向く。

 

「……おはよう、主」

「おはよう、将志。今日も朝から元気ね」

 

 将志は主である青と赤の二色で分けられた服を身にまとった銀髪の女性に挨拶をする。

 主である永琳もにこやかな表情で将志に挨拶を返す。

 すると、永琳が何かに気が付いたように声を上げた。

 

「あら、そう言えばいつもより表情が何となく柔らかいわね。どうかしたのかしら」

 

 永琳にそう言われて、将志はこれまでの出来事を思い返す。

 すると、主以外の初めての友人の顔が脳裏に浮かんできた。

 それを受けて、将志は微笑を浮かべて永琳の質問に答える。

 

「……いや……少し良いことがあっただけだ」

「それは良かったわね。良かったら何があったか聞かせてもらえるかしら?」

「……ああ。実は……」

 

 二人は会話をしながら研究所の建物の中に入っていく。

 その後、将志に妖怪の知り合いが出来たことで一悶着あったのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 *  *  *  *  *

 

 オリキャラ二人目、喜嶋 愛梨の登場。

 

 妖怪に関しては私の自己解釈なので、ご了承ください。


 
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