No.533359

運・恋姫†無双 第四話

二郎刀さん

最近の出来事
事情を情事と読む。
妹との会話にて五斗米道をゴットヴェイドウとごく自然に発音する。

俺はもうだめみたいだ。

2013-01-18 20:47:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1893   閲覧ユーザー数:1693

「兵になろうと思う」

「ほお、兵に」

「義勇兵ですかー?」

「そうだ」

 

この街を散歩している時に知ったのだが、現在この街では、近場の賊を掃討するための義勇兵を募っているらしい。それに紗羅は参加しようと思っているのだ。

 

「しかし何故?」

「金」

 

やはり金。紗羅の手持ちの路銀はもうほとんど尽きてきている。元々賊三人が持っていたものを頂戴してきたのだから、さほど多いはずもないのだ。

 

「金か」

「金だ」

 

だが紗羅は暮らしのために金を稼ぐのではない。この時代では、山に入れば動物がいるし、川に行けば魚がいる。外での生き方というのは最低限習ったので、つまりこの時代では、金がなくとも外で生きることが可能なのだ。それも元の時代よりはるかに容易に。では何故紗羅が金を欲するかと言うと、

 

「俺は、旅がしたい」

「ほお」

 

趙雲が目を輝かせる。

 

「つまり旅に必要なものを揃える為にお金が欲しいと」

「そうだ」

 

紗羅はこの世界に興味がある。だからその世界を、自分の目で直接見て回りたいのだ。

 

「そうかそうか。旅は良いぞ。見聞を広めることが出来る」

「人だけではなく、様々なものに触れることで色々なことを勉強出来ますしねー」

「ああ。俺には脚がある。どこへでも行ける」

 

素晴らしい事じゃないか。自分の意志でどこへでも、どこまでも行けるのだ。

 

『おう兄ちゃん!一人立ちかい!』

「おお宝譿!わかるか」

『おうともよ!俺も一端の雄だぜ?』

「なんと!我らと別れると言うのか?」

「そうだ。そうしようと思っている」

「そうなんですかー」

 

紗羅はそれも決めていた。人についていく、ではなく、自分の脚で立ちたいのだ。

 

「我らと共に行けばいいではないか」

「それは駄目ですよ、星」

「稟ちゃん」

 

戯志才が部屋に入ってくる。

 

「おう戯志才。もう大丈夫なのか」

 

戯志才は紗羅の部屋に来る前に、また宝譿にからかわれ鼻血を出して倒れていたが、復活したようだ。

 

「いいのですよそれは」

「まあとりあえず座るといい」

「そうさせてもらいます」

 

戯志才が席に着く。

 

「稟、駄目とはどういうことだ」

「元々私たちと紗羅殿の関係は、街に着くまで、というものでした。その目的が達成させられた今、その彼が決めたことに口出しすることはできないのですよ」

「稟ちゃんの言うとおりですねー」

「いやしかしだな……」

 

趙雲は紗羅を見る。

 

「覆すつもりはないぞ」

「むぅ……」

 

もう決めたことだ。不安はもちろんある。安全に旅をするなら、趙雲らに着いていった方が得策だろう。だが、紗羅は自分自身の旅がしたいのだ。自分の脚で、自分だけの意志で。

 

「まあそれも、義勇兵で生き残れたらの話しだけどな」

「そこで死んじゃったら終わりですもんねー」

 

当面の目標は、まず義勇軍に入隊して生き残ること。まずそこで生きるか死ぬかだ。

 

『武運を祈っといてやるぜ!』

「おう」

「そこまで言うなら、私は何も言えんな。だがな紗羅、義勇軍へは私も入るぞ」

「子龍?」

「ああ勘違いするなよ。元々私はそうしようと思っていたのだ」

 

趙雲は、弱きを助けるために己が力を奮う。民を虐げる賊がいるとなっては、それを駆逐することは絶対なのだ。

 

「そうか。だったらいい」

「そ・れ・に!稟がやらかしたのを弁償せねばならん」

「ぐっ!」

「あれはもう使えませんもんねー」

「あー」

 

戯志才が鼻血で台無しにした寝台のことである。彼女も難儀なことだ。

 

『それじゃ星!こいつの武運を祈って酒だ!』

「ふむ、それは良い。持って来よう」

 

趙雲はいそいそと部屋を出ていった。

 

「酒か」

 

この時代、年齢制限というものがない。だから彼女らが飲んでも、咎める者は誰もいない。

 

「飲んだことないな、仲徳も飲めるのか?」

「今子供扱いしましたね。少しだけですが風も飲めるのですよー」

「戯志才も?」

「星ほどではありませんがね」

 

少しして上機嫌で趙雲が酒とメンマを手に戻ってきた。うれしそうに杯に酒を注ぎ、皆に回す。

 

「それでは」

 

カチンッとささやかな乾杯の音。肴はメンマと談笑と窓より入る夜風と蝋の火。この時代、夜というものは本当に暗い。それに蝋燭をつければなんともささやかな雰囲気が作られる。

 

一気に呷った人生初の酒は不味かった。

 


 
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