No.53253

呉ルートif 『胡蝶の夢』

kirikamiさん

題名で内容も大体分かってしまうと思いますが、呉ルートのifで、かなりはしょりながらEDまで駆け抜けます。

そんなに長い作品でもないので、是非読んでみてください。

2009-01-20 23:21:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:12214   閲覧ユーザー数:8525

 

『大局の示すまま、流れに従い、逆らわぬようにしなされ。

さもなくば、待ち受けるのは身の破滅……。くれぐれも用心なされよ?』

雪蓮と街を巡回しているときに占い師に言われた言葉が、今更ながら身にしみる。

思い返してみれば、赤壁前に感じた体の変調も、あの時のこともそうだ。

でも、あそこで雪蓮を助けないなんて選択肢、俺には浮かばないかったし。仕方ないことなんだろう。

 

 

 

「!危ない!!」

 

俺がその光に気づいたのは本当に偶然だろう。あの雪蓮が気づいていなかったのだから。

ほんのわずかな光の当たり具合、それで矢尻に光が当たって俺の目に入った。

 

「痛っ……」

「一刀!?まさか刺客?早くここを離れるわよ!」

 

矢は俺に掠っただけで、まともに刺さったわけではなかった。しかし、傷が燃えるように熱い。

 

「走れる!?とにかく、腕を縛るわよ。刺客ってことは、恐らく矢に毒が塗ってあるわ」

「ああ、だからこんな浅い傷なのに妙に痛いわけか」

「……結構余裕なのね。その分なら大丈夫か」

 

雪蓮の素早い応急手当のおかげか、掠っただけだったおかげかは分からないが、俺は大事に至らなかった。

その後は、すぐに魏との合戦へ。何でかは分からないけど曹操がすぐに退却した事と、王を狙われた

呉の兵の士気の高さで圧倒的勝利を収めることが出来た。俺も、大事を取って休んではいたが、

戦況を聞いたり細かい指示を出すぐらいの余裕はあったはずだった。

 

「一刀、傷はどう?」

「ああ、大丈夫。大したこと無いってさ」

「そう……ありがとうね、一刀。一刀が居なかったら、私はきっと死んでいたわ」

「うん。もうあんなことが無いように気をつけて……?」

「一刀?一刀!?」

 

 

 

雪蓮と会話している間に、俺は倒れてしまった。

毒によるものか、大合戦の後で気が抜けたか、傷のせいかは分からなかったが、そのどれかだろうと医者にも言われたし、特に何の問題も無いと思っていた。それが予兆だなんて、想像もしなかったなぁ。

 

次に倒れたのは、赤壁前。雪蓮にちらっと演義の赤壁の話をした後。

そのときに、何となくだが自分の世界の歴史は話さないほうがいいのだろうと感じた。

でも……多分致命的なのは赤壁じゃなくて、雪蓮を助けたことなんだろうな。

 

雪蓮は、演義では毒を受けた後祟りで死んだことになっているから、あそこで死ぬのが運命だったんだろう。

その運命を、俺は変えてしまった。すなわち、大局を変えてしまったんだ。

 

「一刀、そんなところで何やってるのよ?戦勝祝いなんだから、こっち来て飲みなさ~い!」

「雪蓮……ちょっと、いいかな?」

「何よ、そんな暗い顔して。いいわ、ちょっとだけよ?」

 

上機嫌で酔っている雪蓮にこんな話をするのは気が引けるが、今しか伝えるときは無い。

 

 

 

「ふ~……酔い覚ましにはいいかもね、涼しくて」

 

俺と雪蓮は、祭りの喧騒を避けて川原に来ていた。あの、孫堅さんの墓がある川原に。

 

「で、どうしてこんなところにつれてきたの?母様には昼に報告に来たし。ま、一緒に抜け出すなら

やっぱりここが一番なんだけど。冥琳が居ないんだし、これからの一刀は大変なんだからね?

一緒に息抜きをするのだって、そうそう出来なくなっちゃうんだろうな~」

「……雪蓮、占い師に俺が言われたこと、覚えてるか?」

「占い師?……ああ、大局に身を任せるとか何とかって奴?結局当たらなかったじゃない」

「いや、当たってるんだ。きっと」

「え……?」

「俺は、もうこの世界から消える」

「やだ、悪い冗談はやめて……一刀、何で透けてるの?」

 

自分の腕を見ると、うっすらとだが地面が透けて見える。ああ、もう本格的に時間が無い。

 

「どうしてよ!?何で、何で一刀が消えるの!?」

「話したことがあっただろ。俺の世界では、孫策は建国からあまり経たない内に死んでるって。

きっと、雪蓮もそうだったんだと思う。俺という異質な存在が、それを変えたんだ」

「大局を……変えたから?ただ、ただそれだけで!?」

「それだけって事は無いだろ。雪蓮は呉の王じゃないか」

「でも!」

 

雪蓮も上手く言葉が出ないのだろう。俺だってそうだ。こんな形でのお別れなんて予期してなかった。

 

「それなら……私が助かった意味なんて何も無いじゃない!」

「雪蓮」

「だって!一刀は蓮華にも、祭にも、穏にも、皆に慕われて、皆に子種を撒くって!」

「慕われているのなら、雪蓮のほうが慕われていると思うけど」

「私を慕うのと一刀を慕うのじゃ意味が違うでしょう!?こんな……これなら私が死んだほうが!」

「雪蓮!」

 

びくっ!として雪蓮の言葉がとまる。言い合いをしたまま別れるなんて、そんな別れ方はしたくない。

 

「俺は、雪蓮を守れてよかったと思ってるよ」

「……」

「勿論、本当のことを言えばもっとここに居たい。でも、それ以上に雪蓮を守ってから逝ける

ことが嬉しいんだ。俺は、ちゃんと役目を果たした!って胸を張って言えるからね」

「けど……!」

「雪蓮。俺が居なくても、この国は揺るがない。雪蓮が居なくなったら、この国は揺らぐ。

仕方ないって言い方はしたくない。俺は、これが正しい道だって思ってる」

「一刀……」

「だから……この国を、俺が見届けられなかったのを残念がるぐらい、いい国にしてくれよ」

「……分かった。約束するわ。一刀が居ないことを後悔させるような、いい国を作るわ」

「ありがとう。それを聞いて、安心して逝けるよ」

「一刀……さよならなんて言わないわよ」

「うん」

 

どちらからともなく目を閉じて、唇を重ねる。重ねながら、俺は意識が無くなっていくのを感じていた。

 

 

 

 

唇のぬくもりは、一瞬にして消えた。それで理解する。一刀は、もう逝ったんだと。

 

「最後まで……笑顔でいられたかな?」

 

瞳に涙は溜まっていたかもしれないけど。声は掠れていたかもしれないけど。一刀には、

笑顔の私を覚えていてほしかったから。

 

「でも、もう泣いていいよね……?」

 

母様が死んでからもう流さないと誓った涙。私は今まで貯めてきた分も全て使い切るほどに泣いた。

 

 

 

 

「一刀、貴方が居なくなってからもう3年よ」

 

一刀が消えたと聞いた皆の反応は、それはそれは酷いものだった。何が『俺が居なくても、この国は揺るがない』よ。もし魏と戦う前に消えられてたら、勝てたか怪しいものだわ。

 

「今日は、蜀の将を招いて祝賀会……祝賀会をやるまで、3年もかかったんだから」

 

去年も一昨年も、蜀から戦勝記念の祝賀会をやろうという提案はあった。

でも、出来なかった。呉の将にとっては、一刀が消えた日、冥琳が死んだ日、という印象のほうが強いから。

 

「あれから3年間大変だったんだからね」

 

呉の将は、そのほとんどが一刀の子を孕んでいた。確かに種を撒けとは言ったけど、やりすぎじゃないの?

子育てに国造り、それに忙殺されていた3年間。いえ、わざと仕事を増やしたのかもしれないわね。

一刀のこと、冥琳のことを思い出すのが辛いから。

ようやく国造りも軌道に乗って、子どもたちも少しは手が掛からなくなって。

 

「一刀が聞いたら、地団駄踏んで悔しがるような、いい国を造ったんだから」

「それは良かった」

 

その声に、私は動けなくなる。いくら酒に酔っているとはいえ、背後の気配に気づかないなんて。

そして、忘れたくても、何度も忘れようとしたけど忘れられなかったその声。

何度、何度それを夢に見て落胆したことだろう。

振り向いたら全てが終わってしまう気がして、幻だったといわれる気がして、振り向けない。

不意に、体を抱きしめられる。その温もりを感じた瞬間、封印していた涙が溢れ出た。

 

「一刀のバカ!私がどれだけ寂しい思いをしたと思ってるの!?」

「ごめんな……でも、寂しかったのは俺だって一緒だよ?」

「一緒なわけないじゃない!『俺は満足した』みたいなこと言って消えちゃって!

残された身にもなりなさいよ!……あんな思いをするのは、母様のときだけで充分なんだから」

「うん。でも、もう逝かないから」

「……今度どこかに逝こうとしても、絶対どこにも逝かせないんだから。呉の将皆引き連れてとめてやる」

「それは手厳しいな……」

「それに……もう蓮華にあげたりしないんだから。一刀は私のものだからね!」

 

振り向いて一刀と唇を合わせる。3年前のように、いきなり消えないようにしっかり抱きしめながら。

その温もりは、私と一刀の息が上がるまで消えることは無かった。

 

 
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