No.531062

咲-Saki-《風神録》日常編・南三局一本場

そろそろハーメルンの方でも連載しようかしら。

この場合、同時掲載していることは第一話に書けばいいのかな?

2013-01-13 00:46:14 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3106   閲覧ユーザー数:3030

 二つのサイコロを振って親決めの後、卓に着く。

 

「んじゃま、初心者が混じってるってことで初めは東風(トンプウ)戦を軽くやってく感じで」

 

「よろしくお願いします」

 

 巨乳メイドさん、原村(はらむら)(のどか)

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 純朴メイドさん、宮永(みやなが)(さき)

 

(よーし! メイドさんにいいとこ見せるぞー!)

 

 以下省略。

 

 さて、対局開始だ。

 

 

 

咲-Saki-《風神録》

 日常編・南三局一本場 『バカと雀荘とメイドさん・後編』

 

 

 

 

 

 

 と、言ったものの、初心者混じりのほぼ接待のような対局。いやまぁ接待とは言っても佐賀に負ける気は更々ないのである程度手を抜きつつも容赦はしない。

 

「はいローン。2300点な」

 

「のあ!? この北でロン!? さっき原村さんも北切ったじゃないか!?」

 

「だからお前を狙い打ったんだよ。ご愁傷様」

 

「わざわざ最下位の俺を狙い打たないでくれよ!」

 

 そんなやりとりをしながら一回目の東風終了。

 

 東風戦ではあるが、とりあえずスコアは付けとくか。風祭御人(おれ)、原村さん、宮永さん、佐賀っと。……ん、宮永さんはプラマイゼロか。

 

(……んー)

 

 まぁ、プラスマイナスゼロになることぐらい、別段珍しいっていうわけじゃない。どうしてこんなことがイチイチ気になってるんだか。

 

「ぐぬぬ……! こ、これはあまりにも惨め過ぎる……! さ、再戦を要求する!」

 

 そして俺たちからものの見事に点数を搾取された佐賀の提案に乗り、二回目の東風戦が開始される。

 

 俺の小さな違和感が明確な形になったのは、その2回目の東風戦、オーラスのことだった。

 

 

 

   †

 

 

 

「ロン、満貫です」

 

(……は?)

 

「ノォォォ!! 俺の逆転の役満が流されたぁぁぁ!!」

 

 いや、その国士無双は大分前に白が枯れてるから絶対に成立しないから。

 

 って、そんなことはどうでもいいんだ。問題は、たった今俺の一索で和了った彼女、宮永さんの手牌だ。見れば、一索と四索の両面待ち。四索で和了ればタンヤオイーペーコードラ1と付いて跳満だった。しかし、下家の原村さんが切った四索で和了らなかった。

 

(って、おいおい……)

 

 冷や汗が流れる。彼女の点数は、再びプラスマイナスゼロになっていた。いや、確かに長い目で見れば立て続けにプラスマイナスゼロになることは然程不自然なことではない。

 

 しかし、彼女がもし、意図的に点数をプラスマイナスゼロにしているとしたら? 狙ってもそうそうできないようなことをやってのけるほどの実力差があったとしたら?

 

(……試してみよう)

 

 

 

 

 

 

 仕掛けたのは三回目の東風戦のオーラス。

 

 東 加賀太郎 18700

 南 風祭御人 24200

 西 原村和  32600

 北 宮永咲  24500

 

(ここだ……!)

 

 牌を横向きに切ると同時に千点棒を出す。

 

「リーチ!」

 

 一瞬、宮永さんの表情が揺らいだように見えた。

 

 今の彼女の点数は24500点、プラスマイナスゼロで和了ろうとするならば5200点を狙っていたはず。だが、今俺がリーチしたことで場には千点棒が出された。これで宮永さんに残された道は――。

 

(70符2翻……)

 

 さあ、彼女はどうやってこの条件をクリア――。

 

「カン」

 

 ……は?

 

(西……カン……!?)

 

 たった今引いた西を加え、宮永さんは手配の内の両脇の二枚を表に向けてから倒す。そして、王牌に向かって手を伸ばした。

 

(まさか……!?)

 

 カンをした際、不足した牌を補うために王牌の中で嶺上(リンシャン)牌を手配に加えなければならない。そしてこの牌で和了ることができたとき、それは一つの役として成立する。

 

嶺上開花(リンシャンカイホウ)自摸。70符2翻は1200・2300です」

 

 今、山の頂に花が開いた。

 

 

 

   †

 

 

 

 ゾワッ

 

 鳥肌が立った。

 

 これが『本物』の実力ということか。

 

「……ははっ」

 

 笑いがこみ上げてきた。俺はきっと心の何処かで驕っていたのだろう。ゆみ姉と同等やそれ以上の実力を持つ人間なんてそうそういるはずがないと。

 

 けれどどうだ、今こうして、俺の目の前に立ち塞がっているではないか。

 

(……ちくしょう)

 

 笑いながら、悔しかった。団体戦に参加できず、みんなと共に戦えないことが。

 

「あ、あの、どうかしましたか?」

 

 急に動きを止めた俺に宮永さんがそう声をかけてくる。

 

「……いや、何でもないです」

 

 俺はそう呟くように返事をして、首を横に振るのだった。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 夕方の駅前、何となくすぐに帰宅する気になれなかった俺は一人ベンチに座っていた。ちなみに佐賀は既に帰っている。目的の巨乳メイドさんと麻雀が打て大興奮のようすであったが、うざったいからサッサと帰れと蹴り帰した。

 

 別に疲れたわけではないのだが(まぁ佐賀の相手をして疲れたといえば疲れた気もする)、疲労感からベンチの背もたれにぐったりともたれかかる。

 

「………………」

 

 ポケットの中から携帯電話を取り出し、メールの新規作成画面を開く。が、本文を打ち出したところで電源ボタンを押してキャンセルし、電話帳から目的の人物の電話番号を検索して通話ボタンを押す。

 

 数回のコールの後、彼女は電話に出た。

 

『も、もしもしっす』

 

「や、モモ。もう夕方だからこんばんわ、かな」

 

『こんばんはっす。どうしたんすか? 電話なんて珍しいっすね』

 

 確かに、基本的に用事はメールで済ませるから、モモに電話をする機会はほとんどなかった。けれど、今はなんとなくモモの声が聞きたかった。

 

「うん、モモの声が聞きたくて」

 

『ッ!?』

 

 電話越しにガタンという音が聞こえてきた。それと同時にモモの声にならない声が聞こえてくるが、残念ながら何て言っているのかはわからない。だから申し訳ないが、こちらの用件を先に言わせて貰おう。

 

「モモ」

 

『なな、何っすか!?』

 

「インターハイ、頑張れよ」

 

『……え?』

 

「俺は団体戦に参加できねーけどさ。お前やゆみ姉たちだったら絶対に勝てる。だから、俺の分まで頑張れ」

 

 激励(それ)は、多分今の俺に出来る唯一のこと。直接言ったほうがいいのかもしれないが、とにかく今はすぐにでも伝えたかった。この胸の内で燻っているものが、消えてしまわない内に。

 

『……御人君が応援してくれるなら、それだけで百人力っすよ!』

 

 御人君を全国に連れてっちゃうっすよーと、電話の向こうのモモ。その表情を目にする事は出来ないが、その声だけで彼女の笑顔が瞼の裏に浮かぶ。

 

 日が沈み、星が空に輝くまで俺とモモは他愛も無い会話を続けた。

 

 インターハイは、もう目前だ。

 

 

 

 しかし翌日、予想だにしなかった事実を俺たちは知ることとなる。

 

 

 

 《南四局に続く》


 
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