No.529394

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-30

二日……かな?
結構早めの更新です。

祝!1-30到達!

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2013-01-08 14:32:05 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8061   閲覧ユーザー数:6155

 

 

 

 

この作品は【 恋姫†無双 】【 真・恋姫†無双 】の二次創作です。

 

三国志の二次創作である物に、さらに作者が創作を加えたものであるため

 

人物設定の違いや時系列の違い。時代背景的な変更もありますので

 

その辺りは、なにとぞご容赦をお願いいたします。

 

上記をご理解の上、興味をお持ちの方はそのままお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎牢関の戦いが幕を閉じ、洛陽へと軍を進めた反董卓連合軍。

 

やがて、軍を再編し直した袁紹軍と袁術軍が半日を待たずに合流した。

 

汜水関、虎牢関を突破されたことによりもう後が無い董卓軍。

 

ここ洛陽が決戦の地になるだろうと考えていた人々の意に反して、周囲は静寂に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

「……静か過ぎるな」

 

敷いた陣から少し離れた場所で星が一人呟く。その視線の先には泰然と鎮座する洛陽の都。

 

呟きが示す通り、遠目から見ても篝火が焚かれてすらいない。

 

戦の前は大なり小なり周囲の空気が変わる。絶望的な戦なら負の空気感。

 

優勢な戦なら正の空気感といった風にだ。しかしそれすらもこの場所には無い。故に、静か過ぎる。

 

「確かに不可解だな」

 

涼やかな声に多少の困惑。

 

そんな台詞と共に背後から静かに歩いてくる存在を星は感じていた。

 

「夏候淵殿、だったか」

 

「公孫賛軍武官筆頭、常山の趙子龍殿に名前を覚えてもらえているとはな」

 

「そなたこそ随分と格式ばった言い方をする。趙雲、と呼び捨てで構いませぬよ」

 

自分の対外的な立場の呼称に少し気恥ずかしさを覚えながら、笑みを含んだ返事をする。

 

「ふふ、そう言ってもらえると助かる。ならば私も夏候淵、と呼び捨てで構わない。口調もお互いに改まる必要もないだろう」

 

「それもそうだな。なら今後は夏候淵、と」

 

少し小高い丘に並んで立つ。静かな朝焼けの中に美少女と呼べる二人。

 

この場に絵師でもいたならば狂喜乱舞して筆を動かしていただろう。

 

それほど二人の姿は絵になっていた。

 

「篝火も焚かれていない。城壁の上に兵士の姿もない。……これはどういうことだ」

 

「ほう。さすがは弓将と名高いだけはある。そこまで見えるとは」

 

「そういう趙雲こそ中々良い眼を持っているようだな。弓兵にもなれるのではないか?」

 

「私の得物は槍のみだよ夏候淵。素質があるからといって浮気でもしようものなら愛槍に嫌われよう。剣、槍、弓。その他一通りの武器を試したことはあるが、やはり私の天分は槍のようでな。反面、弓はからきし。槍よりは劣るが剣も使える、といったぐらいだ」

 

「その者あらゆる武芸に通ず、という噂は本当だったか。しかし、多芸なのは大いに役立つだろう?そこのところ、私は弓以外からきしでな」

 

肩を竦める夏候淵。しかしその表情は微笑んでいた。それを見て星も微笑む。

 

「弓以外はからきし……ということは弓には絶対の自信を持っているということだろう?器用貧乏になるよりかはよっぽど良いではないか」

 

「器用貧乏とはまたおかしなことを。趙雲とて槍には絶対の自信があるからこそ、その他の得物は使わないと見たが?」

 

褒め合っているようにも見える半面、お互いが自身の武に絶対の自信を持つが故の会話。

 

しかし幸いなことに、そこには妬みやそれに似た感情は一切無かった。

 

「ふふ、お互いの得物自慢もここまでにしておこうか夏候淵。この話はいつまで経っても終わりそうにないからな。いずれこの話を肴に酒でも酌み交わそうではないか」

 

「私はあまり酒に強くないのだがな。まあその時は酒に強そうな人間を連れていくことにしよう」

 

「おや。中々の策士だな、夏候淵」

 

「そちらこそ、一筋縄ではいかないと見える。まんまと話を切られてしまったぞ、趙雲。勧誘はまたの機会としよう。我が主に洛陽の様子を報告しなければならないからな」

 

「中々に楽しかったぞ、夏候淵。ちなみに前(さき)の話を反故にする気は無い。機会があれば酒でも持参しよう。無論――」

 

星は去りゆく夏候淵の背に向けてニヤッと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「――そちらが酒を持って来てもらっても構わんがな」

 

 

 

 

 

 

「戦の動きが全くない?」

 

陣営内に白蓮の困惑した声が響いた。声は上げずともその場に居る各将が、同じように困惑の表情を浮かべている。

 

そして燕璃はいつも通りの無表情。

 

「内部でなにかあったのかもしれませんね……」

 

「腹痛とかでござるか?」

 

「舞流。少し黙っていなさい」

 

考え込む雛里に舞流が意見を出すものの、相変わらずの奇妙奇天烈な発言に燕璃が冷たく突っ込んだ。

 

しかし舞流はめげずに頭を悩ませる。プスプスと煙が出始めていた。

 

「考えられるとすれば内紛……でも混乱が起こっている様子もない」

 

「確かにここまでやられれば離反するやつらも出てきそうだけど。そういう様子も見られないんだろ?星」

 

「ええ。雛里や白蓮殿の言う通りここまで追い詰められれば離反からの内紛もあり得ぬ話ではないが、そういう兆候も見られませんでしたな」

 

偵察から戻って来た星が自分で見た洛陽の様子を踏まえて、雛里の意見と白蓮の問いに答えた。

 

その捕捉で尚更どういうことなのかが分からなくなってしまったが。やがて一刀が組んでいた腕を解いた。

 

「考えてても埒が明かないな。ところで白蓮。百聞は一見に如かず、って分かる?」

 

「なんだよ一刀、唐突に。えーと確か……」

 

「百度聞くより一度見た方がいい。他人の百の言葉よりも自身がこの眼で見た物が真実。確かそんな意味でござったな」

 

「舞流正解。……ていうかお前本当は頭良いんじゃないか?」

 

「そんなことないでござるよー!前に殿が言っていたのを覚えていただけのこと故、頭が良いなどとは身に余る賛辞でござる。顔から火が出るでござるよう……」

 

実際、顔を赤くして火が出そうな様子の舞流。その小動物のような様子に少し場が和んだ。

 

まあ身長に関しては小動物とは言えないのだが。

 

「えっとそれで結局どういうことなんだ?」

 

「つまり偵察を放(はな)ち外から情報を得るより、自分が中に入ってこの目で確かめて来る。とか言いたいんでしょうね、北郷さんは」

 

「はい、燕璃大正解。ってことでどうかな、白蓮」

 

「駄目だ」

 

速攻で一蹴。言われると思った、と一刀は苦笑する。

 

「お前は病みあがりなんだから大人しくしてろよな、一刀」

 

「病み上がりって言われてもな。元々動ける人員少ないんだし。白蓮は大将だからここにいないといけない。雛里は荒事に不向き。自分の腕を過信する気は無いけど燕璃は俺より強くない。舞流は行かせても構わないけどお守が必要。それと、星は口で言うほど軽傷じゃ無い」

 

「一刀殿、何を――」

 

「気付かないとでも思った?特に腕と脚に大分痛みがあるだろ。心配だったんだぞ?俺の知らない間に無理して偵察なんて行ってさ」

 

ピクリと星の眉が上がる。不自然に彼女の腕と脚が震えた。

 

一刀の言葉を聞いた白蓮が、難色を示すように星を見て眉間に皺を寄せる。

 

「星、ホントか?」

 

「ふぅ……隠し事はやはり苦手ですな。一刀殿の言う通り痛みが残っているようで、正直立つのはともかく歩くのが少々厳しいようだ。潜入には足手まといでしょう」

 

「馬鹿早く言えよ!舞流。星を寝かせる用意してくれ」

 

「御意!さあ趙雲殿、肩を貸すでござるよ」

 

「すまんな舞流。白蓮殿、一刀殿、気遣い感謝する」

 

頭を下げ、舞流に肩を借りて天幕を出ていく星の背中。一刀にはそれが少し小さく見えた。

 

自分の指摘したことだが、悪いことをしたようで気が咎める。

 

「お前が気にすることないよ、一刀。星のやつあれで案外意地っ張りなところあるからな」

 

「う~ん……そうは言われても罪悪感がな」

 

「お前も星も、どっちも意地っ張りなとこあるからなー。だから気になるんじゃないか?」

 

「褒められてんだか貶されてんだか」

 

一刀は肩を竦めた。そんな様子を見て白蓮はクスクスと笑う。

 

なんかちょっといい感じの雰囲気にコホン、と一つ咳が混じった。

 

燕璃――違う。

 

雛里――違う。

 

では――?

 

「いい雰囲気のとこ悪いけどちょっと失礼するわよー」

 

天幕の入り口。咳をした第三者が手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

「孫策?何しに来たんだ?」

 

白蓮が思わぬ闖入者に戸惑いの声を上げる。その台詞に孫策は首を傾げた。そして後ろ、天幕の外に顔を向ける。

 

「あれ?私お呼びじゃ無かったかな、冥琳」

 

「知らん。だが少なくとも無駄話をしにきたわけではないだろう、伯符」

 

少し難しい顔をしながらも孫策の問いをいなしつつ、周喩がその背後から姿を現した。

 

「あれ、周喩さんも」

 

「ああ北郷か。すまんな、軍儀の途中だったか?」

 

「いや、軍義ってほどのもんじゃないけど。まあ入ってよ」

 

「北郷はこう言っているがよろしいか?公孫賛殿」

 

「ああ、うん。構わないよ」

 

「おじゃましまーす」

 

「……すまんな、本当に」

 

「いやまあ」

 

あくまでマイペースな孫策。許可が出たのをいいことにズカズカと天幕内に足を踏み入れた。

 

一刀や公孫賛は別段気にせずそれを迎い入れるが、保護者的な立場の周喩は頭が痛いようだった。

 

「さっき外で趙雲と周倉に会ったわよ」

 

「ああ、うん。……あれ?孫策ってあいつらの名前知ってたか?」

 

「ううん。その時に聞いたのよ。話を聞いて見たら、洛陽に潜入するー!みたいなことを周倉ちゃんが言ってたけど……あれ大丈夫?」

 

「……悪い。燕璃」

 

「了解です。……まったくあの娘は」

 

額を押さえながらの一刀の指示に早足で出ていく燕璃は、去り際に溜息を吐いて行った。

 

そんな一刀を見て、周喩は苦笑している。自分と重ねでもしたのだろうか。

 

「ありがとう孫策。知らせてくれて助かった」

 

「礼なんていいわよ。こんなの世間話だし」

 

白蓮が微妙な表情で孫策に礼を言い、孫策は笑いながらそれに応した。

だがその表情が真面目な物に変わる。

 

「じゃあさっそく、本題に入ってもいいかしら」

 

「本題?」

 

白蓮と雛里が首を傾げる。

 

「ええ、本題。って言っても周倉ちゃんの言ってたことを聞いて思いついただけなんだけどね。するんでしょ?潜入」

 

「ん……ああ、まあな」

 

「あら微妙な反応。どうしたの?」

 

「行く人間が少なくてね。普通なら一番繋がりのある劉備軍と共同作戦って方法を取りたいんだけど」

 

「なるほどな。確か関羽と張飛が負傷したと聞いたが」

 

一刀の言葉に、耳聡く周喩が反応し、白蓮が肩を竦める。

 

「うちの子龍ほどじゃないみたいだけどな。潜入くらいだったら出来そうだけど、あんまり怪我してる人間を動かしたくないんだよ。あいつらに言ったら多分絶対着いてくるって言うからさ」

 

一刀がまだ意識不明だった時に見舞いに来た二人の様子を思い出して白蓮は渋い顔になる。

 

二人とも星と同じように、呂布にやられたにもかかわらず軽傷で済んでいたことは喜ばしかったが、一緒に居た桃香の顔は暗かった。

 

自分の命令で送り出した二人が怪我をしたとあっては無理もないことだと思う。

 

だから桃香の心情を思えばこそ、巻き込むわけにはいかない。

 

「ぱ――伯珪?」

 

「ん」

 

その声に真名では無く字を呼ばれることがしばらく無かったため、戸惑いながら反応する。

 

この場に孫策、周喩がいることに対する配慮からなのだろう。

 

とはいえそれに少し寂しさも感じる自分もいた。ただそれは大将である自分の顔では無い。

 

それを改めて認識し、白蓮は公孫賛軍大将して前を向いた。

 

「……まあそんな感じだからこの北郷と、子龍に肩を貸してた裴元紹しか潜入要員に出せないんだよ」

 

「あれ?俺行っていいのか?」

 

「仕方ないだろー?言っても聞かなそうだし、大将としてそういう命令するのも嫌だし」

 

「あー……なんかごめん」

 

「もう慣れたよ。――と、そういうことだから孫策。そっちとの共同作戦、呑むよ」

 

白蓮の言葉に眼を丸くする孫策。

 

周喩は軍師という立場からか表情を変えなかったが、その口から「ほう」と感心したような声が漏れた。

 

「……話が早いわね」

 

孫策が悪戯がバレた子供のようにチロリと舌を出す。

 

「孫策のとこって袁術の下で色々大変なんだろ?袁術の下だと何かと動きにくいし、情報も出来るだけ自分達で得るしかないんじゃないかなーって」

 

「公孫賛って意外と頭の回転早いのねー」

 

「からかうなって。うちからはさっきも言ったように北郷と裴元紹を潜入隊にするけどそっちは?」

 

「そうだな……人数は少ない方がいいだろう。こちらからは一人出そう。周泰、入ってきてくれ」

 

周喩の呼び掛け。それは外に向けられたもの。呼び掛けと同時に一人の少女が天幕内に通される。

 

黒い髪にそこまで無い身長。そして意思の強そうな瞳。背には日本刀に似た長刀を背負っていた。

 

律儀にぺこりと頭を下げる。

 

「孫策軍にて武官をさせてもらっています周幼平と申します」

 

「周幼平……ね」

 

「……?」

 

「ああ、なんでもないなんでもない。よろしく、周泰さん」

 

「はい!こちらこそ」

 

史実で周泰が呉軍に参入したのはいつごろだったかなー、なんてことを考えながら一刀は周泰に手を差し出した。

 

一瞬戸惑っていたものの、その手の意味に気付いたのか、周泰は笑顔でその手を取って軽く握り返す。

 

対照的に白蓮は難しい顔で首を捻っていた。

 

「本当にその娘一人だけで大丈夫なのか?」

 

「うちの娘を舐めないで欲しいわね。諜報に関しては一級品よ?」

 

少し不機嫌気味な白蓮の声色に、孫策はニヤリと笑いながら答えた。

 

まるでその不機嫌の理由に気付いているぞ、と言わんばかりに。

 

「伯符。喋りすぎだ」

 

「あらいけない。これ以上ぼろが出ると不味いからこれで失礼するわ。周泰、潜入の件よろしくね」

 

「はいっ!お任せ下さい!」

 

元気一杯返事をした周泰に孫策はウインクを残すと、手をひらひらさせて天幕の外へ出て行った。

 

去り際にチラリと、一刀を横目で捉えて。

 

「おい待て伯符!まったくあの娘は……すまない、公孫賛殿。あいつの態度に関しては私からよく言い聞かせておく」

 

「いや、気にしなくていいよ。それより早く追わないと。あの調子だと、またどこか飛んで行きそうだぞ?」

 

「ふふ、本当にな。それでは周泰、あとのことは任せたぞ」

 

言うが早いか、周泰の返事を待たずに周喩は足早に去っていった。

 

擦れ違いざま、「後で折檻だな……」とか聞こえたのは気のせいということにしておいた方がいいだろう。

 

ちなみに周泰は「私は外に居ますので準備が出来たら呼んでください」と周喩の後に続いて出て行った。

 

「にしても嵐みたいな人だったな……」

 

「曹操や本初とはまた違ったクセの強さだよなー。周喩が大変そうだよ」

 

「それは同感。んで白蓮。俺本当に行っていいのか?」

 

「さっき軍の代表として言っちゃった手前もあるしな。というかこっちから聞きたいぐらいなんだよ。一刀、お前本当に怪我大丈夫なのか?」

 

心配そうに唇をへの字に曲げる白蓮。いやまあ意図的ではないんだろうけど。

 

「うん、大丈夫だ。傷自体は掠り傷だし。激しい戦闘にでもならない限り問題は無いよ」

 

「ならいいけど……でも気を付けろよ?一応、燕璃には“一刀がなにか危ないことしたら報告するように”って伝えておくからな」

 

「げっ!信用されてねー」

 

「信用してないんじゃないって。心配してるだけだよ」

 

「匙加減だなぁ。ま、ありがたいけど。さて、然は急げだ。燕璃が戻り次第潜入しましょうかね」

 

白蓮の含みの無い言葉に苦笑しながらも、既に一刀の頭の中は洛陽潜入に切り替わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「よっ…と。うし、潜入成功」

 

洛陽内部。城壁の影から少しだけ顔を出して眼下を見つつ、一刀は額に浮かんだ汗を拭った。

 

その後ろには周泰と燕璃、そして何人かの兵士が控えている。

 

兵士たちはともかくとして、周泰と燕璃は一刀と違い汗一つ掻かずに涼しい顔をしていた。

 

「まさか壁登りをする羽目になるとはね……予想外だったよ」

 

一刀としては使わなくなった水路とかそういうのを通ると思っていた。

 

しかし改めて考えてみれば洛陽の地図も無いのにそんなの誰が分かるんだ、という話だ。

 

「あんまり時間も無かったですし。下見をしていない潜入だとこれが一番手っ取り早良いんです」

 

「文句を言わないでください北郷さん」

 

「畳みかけられた!さっき会ったばっかりな筈なのになんだこの連携!」

 

「「静かにしてください」」

 

「……ごめんなさい」

 

冷たくは無いが冷静な二人の注意に心の底から謝る一刀だった。

 

それを見て笑い声を漏らす後ろの兵士たちが、彼女たちの次の標的になったが。

 

「では、ここで別れた方がよろしいですか?周泰殿」

 

「え?え、ええ、できればそうしたほうがいいと思いますけど……」

 

「ではここで二手に。周泰殿は単独行動で構いませんか?」

 

「はい、問題は無いです!」

 

「え?ちょっと待った!一人じゃ危なくないか?うちの兵何人か着けた方が……」

 

少女二人の中でどんどん進んで行く会話に一刀が待ったを掛ける。

 

三国志の周泰ならば気を使う必要は無いのだけれど目の前にいるのは女の子。気を使うというか心配するのは当たり前だった。

 

「いえ!気を使っていただいてすいません。でも私は一人で大丈夫なのでお気になさらずに。それでは!」

 

「あっ、ちょ……!」

 

一刀が止める暇も無く、ぺこりとお辞儀を残した周泰はまるで忍者のように壁や柱を伝って街中へ降りて行った。

 

一刀の手が虚しく宙に伸びたまま止まっていた。それを見て燕璃が溜息を吐く。

 

「ふぅ……まったく北郷さんは気が使えませんね」

 

「え?俺としては気を使ったつもりなんだけど……」

 

「いいですか?彼女は孫策殿の部下です。今回は私達と協力して潜入をしましたが、潜入してから先は話が別。彼女には彼女なりに遂行する任務があるのでしょう。こちらとしても一緒に行動して余計な気を使っている場合でもありません。思惑はそれぞれあるのですから」

 

「……」

 

「……なんですか、その眼は」

 

「いや、ちゃんと人を見てるんだなって感心してた。そっか、周泰さんには余計なお世話だったのか。そりゃそうだよな、軍違うんだし。うちの兵士着けたらそれこそ監視みたいになっちまう」

 

「分かっていただけてなによりです。私達も行きましょう。……ま、北郷さんはそれでいいと思いますよ」

 

「え?」

 

ボソリ、と呟かれた言葉に声の方を振り向くも既に燕璃の姿は無く、少し遠くに兵士たち数人と城壁から降りる階段へと歩いている燕璃の後ろ姿が見えた。

 

『……?どうしたんですか北郷様。裴元紹様なら先に――』

 

「おう、分かってる。んじゃ俺達も行こうか」

 

兵士に返事を返し一刀も燕璃の後を追い始める。その表情は先刻より幾分か晴れており、前方で風を切ってズンズンと歩いて行く燕璃を見て苦笑いすら浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「月!遅いわよ……心配したじゃない」

 

「ご、ごめんね詠ちゃん……」

 

洛陽路地裏。

少なくともその場所には不釣り合いな衣装を着た少女が、その場で苛立たしげに足を踏み鳴らしていた少女に駆け寄っていく。

 

一人は所同じく洛陽にて張遼と密会していた董卓軍軍師、賈駆。そして高貴な衣装を着込む少女は――

 

『申し訳ございません賈駆様!ですが董卓様も事情がおありになってのことで……』

 

「別に謝らなくてもいいわよ。こっちはあくまで護衛してもらっている立場だし。でも名前を大声で口にするのは止めて。聞かれたらそれこそ終わりなんだから」

 

『も、申し訳ありません!』

 

「だから謝らなくってもいいって……はぁ。それで月、なんでこんなに遅れたの?月も連合軍が洛陽の外に布陣しているのは聞いてるでしょ?」

 

「うん……でもこれだけは持ち出したかったから」

 

「これ……」

 

董卓の握り締めていた手が賈駆の前で開かれる。その手の中には……髪飾り。

 

「昔、私が月に上げたやつ……」

 

「そうだよ。これは詠ちゃんからもらった物の中で一番大切な宝物だから……」

 

「……月」

 

少し険しかった賈駆の目尻が下がる。

 

親友が自分の贈った物を大切にしてくれていたというのもそうだが、それを危険を冒してまで取りに行ってくれたという事実が、賈駆には嬉しかった。

 

でもその嬉しさに浸っている暇が無いことを自分が一番分かっている。緩み掛けた表情をグッと引き締め、当初の目的に頭を切り替えた。

 

「じ、事情は分かったわ。じゃあ急ぐわよ!連合軍が洛陽に入ってくる前に――」

 

「あれ、君達……?」

 

連合軍が洛陽に入ってくる前に出来るだけ遠くに逃げなければならない――という賈駆の思惑を妨害するかのように、董卓一団に声が掛かる。

 

路地に不釣り合いな人間が複数固まっていればそれは確かに他人の目を引くだろう。

 

しかし今の洛陽は“連合軍が攻め寄せて来る”という噂が実しやかに囁かれ、今は現に洛陽の外に布陣している状況。

 

とばっちりを受けないように街の人間は大人しくしているのだ。

 

そんな中で普通、他人のことを気にしている暇は無い。しかしそれでも声を掛けるということは――

 

(連合軍!?まさかいくらなんでも早すぎ――)

 

賈駆は心臓が早鐘のように打つのを感じながら、勢いよく声の方向を振り返った。

 

 

 

 

 

 

賈駆が連合軍の人間と思われる者に声を掛けられる少し前、洛陽内部に潜入した一刀達は普通に街中を歩いていた。

 

兵士たちも普段の平民の格好をしているので見咎められることは無い。ある意味、一番物珍しそうに見られているのは他ならぬ一刀であった。

 

「なんで俺こんな見られてるんだ?人が少ないのが幸いっちゃあ幸いだけど」

 

「北郷さんの服のせいでしょうね。……女の子に気を使うよりそういうところに気を使った方が良かったと思いますが」

 

「一応これ普段着なんだけどね……」

 

「注目を集めていれば一緒です」

 

「……はい、仰る通りです」

 

微妙にテンションが下がりながら通りを歩く一刀に、燕璃は苦笑を浮かべていた。

 

普段無表情な彼女の貴重な表情だったが、前方を歩く一刀にはもちろん見えず、後方を歩く兵達にも見られることは無い。

 

それゆえの苦笑なのかもしれないが彼女以外の人間がそれを知る由は無かった。

 

「にしても……ますます噂が怪しいな」

 

「ええ。董卓が洛陽で悪政を敷いている――今のところそういう雰囲気ではありませんね」

 

辺りを見回しながら二人は同じ見解を示す。悪政を敷かれているのならもっと空気が荒んでいるはず。

 

しかし洛陽の街中はそんな様子を見せない。

 

人通りは少ないものの、周囲から漏れ聞こえて来る会話を拾うと、原因は自分達連合軍だと分かる。

 

実際、人通りうんぬん以前に董卓軍兵士の姿すら見えないのだ。と――

 

「燕璃?」

 

“董卓が悪政を敷いている“という噂の出所を考えていた一刀の足が止まる。真後ろを歩いていた足音が聞こえなくなったのに気付いて背後を振り向いた。

 

燕璃がなぜか立ち止まり、路地裏に目を向けている。その横からの表情に違和感を感じた。

 

今までに見たことの無い燕璃の表情。それを見て、今までの彼女が浮かべていた“無表情”が生易しいものだったと理解する。

 

彼女の表情はまったくの“無”。その顔からは感情と言うべきものが全て抜け落ちているようにも見えた。

 

「燕璃、どうしたんだ?」

 

近付いて肩を揺する。

そこで初めて、ハッと燕璃の顔に表情が戻った。

 

「すみません。少し呆けていました。ところで、提案があるのですが」

 

「提案?」

 

急な燕璃の言葉に一刀は首を傾げる。

 

「ここで二手に分かれましょう。組分けは私と北郷さん。そして残り方の二組です。実際その方が効率もいいでしょう。情報収集は数が物を言いますから」

 

間違ってはいない。だが普段の燕璃らしい順序立てた説明では無かった。そこに違和感を感じる。

 

表情は戻ったものの、燕璃の中ではまだ何かが起こったままなのだと容易に想像が出来た。

 

「……よし、分かった。ここで二手に分かれよう。俺達はこっち、君達はこの通りを中心に聞き込みを頼む」

 

『しかし北郷様はお怪我を……』

 

「大丈夫だって!こんなの掠り傷だしな。情報収集がある程度終わったら、そうだな……街の入り口近くに隠れていてくれ。無いとは思うけど万一連合軍が洛陽に入って来たら、それに紛れて公孫賛様か趙雲将軍に現状を報告に行ってくれ」

 

『……了解しました!しかし……』

 

「ん?」

 

『北郷様が“公孫賛様”と言うと違和感がありますね』

 

「ははは!それ言うなよ。俺が一番そう思ってるって。んじゃ頼むな」

 

『はっ!では後ほど』

 

一刀に対し小さく返事を返した兵たちは足早に散っていく。元々彼らは平民。溶け込むのは難しいことではないだろう。

 

そういや俺も普通に言えば平民なんだよなあ、と苦笑しながら思いつつ、一刀は燕璃に向き直った。

 

「これでいいか?燕璃」

 

「……ありがとうございます。我が儘を言ってしまったようですみません」

 

「いいよ。何か事情がありそうだしな。んじゃ行こうか、こっちだろ?」

 

心なしか、沈んでいる燕璃に笑い掛け、一刀は燕璃の見ていた路地を指し示す。燕璃は無言で頷き、一刀の前を扇動するように歩き始めた。

 

二人はしばらく路地を無言で進む。そのまま歩を進めて行き、少し開けた場所に出た。

そして――

 

 

「あれ……君達?」

 

 

 

 

 

 

声を掛けたものの、振り返った少女が険しい顔つきをしていた為、一刀は一瞬怯む。助け船を得ようと思い隣を見るとそこには無表情の燕璃。どうやら先方と話す気は無いらしく形のいい唇を真一文字に結んでいる。

 

眼鏡を掛けた少女の背後にはどこか高貴な衣装を着込むもう一人の少女。

……纏う雰囲気から一般人ではないことが想像できた、少女二人の周りに居る男達も含めて。

可能性としてはいいところのお嬢様。もしくは、女官。

 

初対面の、しかもこっちを警戒している少女に話し掛けるしかないという自身の不幸を呪いながらも一刀は口を開いた。

 

「えーと……君達って見た感じ女官さんか何かかな?」

 

一瞬の沈黙。こちらを警戒していた少女が少し緊張を緩めたのが伝わってくる。しかし完全に警戒は解けていないようだった。少女の眼が微妙に泳ぐ。

 

「そ、そうよ!……あなたもしかして連合軍?」

 

「ああ、うん一応。董卓って人が洛陽で悪政を敷いてるっていう噂が飛び交ってるから、それを確かめにね」

 

少女の顔が顰められ、俯く。だがそれも一瞬のこと、すぐに毅然とした態度で一刀に向き直った。

 

「そ、そうなんだ。でもボク達は何も知らないわよ!ただの女官だもの」

 

「……そりゃそうだ。もしかしたら董卓の居場所とか知ってるかなーなんて、虫のいいこと思ったりもしたけどそんな簡単にはいかないよな、うん」

 

「ボ、ボク達は知らないけど街の中に居る誰かに聞けば分かるんじゃない?」

 

「そっか、ありがとう。じゃあ教えてくれたお礼に一つ。もう少ししたら連合軍が洛陽に入ってくるかもしれないから、治安が乱れる前に洛陽から離れた方が良いかもしれない。そうならないように俺達も気を付けるけどね」

 

「そう、ありがとう。月、行くわよ」

 

「う、うん。あの……ありがとうございます」

 

早々に顔を背けた眼鏡の利発そうな少女の後ろから、儚げと表現せざるを得ないような少女がペコリと頭を下げた。釣られて一刀も頭を軽く下げる。

 

「ううん。気にしないでいいよ。どこ行くか知んないけど道中、気を付けてな。もし力になれることがあったら公孫賛軍を頼ってくれていい。北郷が、って伝えれば俺のとこまで話が来るから」

 

護って上げたくなるような雰囲気を持つ娘だったからだろうか、ついそんなことを口走っていた。少女はもう一度はにかんだ笑顔でペコリとお辞儀をし、眼鏡の少女に着いて行く。

 

さて、んじゃ情報収集再開しますかね――と、少女達を見送りながら頭を切り替え、踵を返す一刀。そこに

 

 

 

 

「――逃げるんですか、董仲穎」

 

 

 

 

どこまでも冷たい燕璃の声が響いた。

 

 

 

どことなく高貴な服を纏った薄倖そうな少女がゆっくりと振り返る。

 

先ほどまでの、はにかんだ笑顔はどこへ消えたのか、そこには信じられないものを見るような表情が浮かんでいる。その震える口から言葉が零れ落ちた。

 

 

「は……裴元……紹、さん?」

 

 

少女の口から出た自身の名にすら関心を示さず、燕璃の表情はどこまでも『無』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 あとがきor 捕捉 】

 

 

今回で洛陽の話をあらかた終わらせようと思っていたにも拘らず、前置きが長かった為に二分割に……orz

 

出来るだけ早めに更新して洛陽編、というか反董卓連合編を終わらせたい作者です。

 

というのも最近、星に立場が食われがちな白蓮を何とかしたいので。でも必要悪と言うとちょっと違いますが、星の優遇はこの作品にとって不可欠なんですよねー。ほら、タイトルもタイトルだし。

 

考えてみれば反董卓連合編にも拘らず、月が初登場……ですよね?プラスアルファで明命も初登場!

 

しかし今のところそこまで深くは関わらないので、真名うんぬんの話は出てきません。

 

……というか原作で結構“真名は大切な物”と言っているのに案外登場人物の皆は気にしていない気がする今日この頃。あんまり気にし過ぎてもアレなのかなあ……ま、こういう素朴な疑問は今後の参考に、ってね。

 

それでは。

 


 
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