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聖フランチェスカ学園。地方都市にある由緒正しきお嬢様学校であったのは数年前の事。今では共学化し、男子生徒も数十名程度見受けられるその学校は、学園にしてはあまりにも広大な敷地面積を誇り、その内に幼稚園から大学までを収容している、学園都市とすら言えるほどの規模である。
当然ひとつひとつの校舎も巨大であり、その広さと生徒数に対して教師の数が追いついていないその学舎の一角に、人だかりが出来ていた。
「さー、今度のテストの予想問題だよ!1教科300円、全教科まとめて買うと、何と2500円!数に限りがあるから早い者勝ちだよー!」
その人垣を作り出しているのは、1人の男子生徒。名前は北郷一刀。何よりも、金儲けを愛する男である。
「共同購入でもいいよー!コピーして他の人にあげてもいいけど、そうすると順位は変わらないかもね!あー、押さない押さない!」
その為の努力は怠らず、またその為の頭脳も十二分に有しており、予想問題は彼自身が履修している科目以外も含まれる。更にその頭脳は悪知恵にも当然働き、この学園の構造と現状を利用し、このような商売をしていても教師に見咎められるようなヘマはしない。
「――――いやぁ、売れた売れた。完売だ!さて、放課後は、と」
100部の予想問題集をわずか5分で売り捌いた彼は制服の懐から手帳を取り出す。そこを覗き見れば、びっしりと予定が書きこまれていた。
「今日はサッカー部の練習試合……ウチは攻めが弱いからフォワードだろ。で、明日が野球部のセンター……こいつら、前回もそう言って、ピッチャーやらせやがったからな。まぁ、その時は料金を上乗せするからいいんだけど。で、週末は剣道部か。不動先輩は金払いがいいからな。ありがてぇ、ありがてぇ」
どうやら、運動部の練習試合の助っ人バイトのようだ。
「で、日曜は……将棋部?午後からは出張ホストのバイトもあるし、速攻で終わらせてやるか」
いや、それだけではないらしい。文化系の部活にも手を出し、さらには犯罪的な行為にも憚らない。流石は金儲け至上主義者である。
「ふふーん」
放課後、一刀は敷地内にある畑に来ていた。サッカー部の試合までは時間がある為、園芸部に交渉して――土地使用料を払って――こっそりと栽培している野菜畑で、土を耕している。
「――――キュウリにトマト、後はスイカか。夏が楽しみだ」
それぞれの区画に種を植え、その袋をポケットに戻す。
「っと、そろそろ試合が始まるな。行かなあかんわ」
時たま関西弁が出るのも、ナニワの商人的なアレである。ご愛嬌。
服を整えると先ほどまで使用していた農具をまとめ、学生鞄を肩に掛け、近くの蔵へと運び、片づける。
その時の事だった。
「――――これでよし、と……ん?」
農具を片づけ終えた彼は、薄暗い蔵の隅に、光る物を見つける。
「誰かの忘れ物か?」
ここで、少しばかり補足をしておく。彼が好きなのは『金儲け』であり、『金』それ自体ではない。彼曰く『何かをして金が入り、口座の数字が増えてく様が好きなんだ』との事だ。
要するに、例え誰かの財布を拾ったとしても、それを校内であれば職員室や事務室に、校外であれば交番に届けるような、良心を持ち合わせており、彼がその発光物を拾ったとしても、それを横領しようとする事はない。ただし、金儲けの為なら多少は法に抵触する事を厭わない。
それはいいとして。
「……鏡?」
彼が見つけたのは、古びた銅鏡。農具を納める蔵に置いてあるような物ではない。
それを、彼は拾う。
「それにしても汚いな。でも、何で光ってんだか――――」
青白い漠光を放つ鏡面に彼が触れた、その瞬間。
「――――なっ!?」
その輝きが増した。驚きに声を上げるも、その声が光を抑える事など無く、むしろ、その勢いは見る見るうちに増え、ついには蔵の中を白で満たした。
「いったい、何が――――」
そして、その光が収まる頃には、蔵の中から彼の姿は消えていた。
※※※
――――悠久の時を流れる大河・長江。その流域面積は広大な中華大陸を東西に横断し、南部の人間たちの生活を潤す基点となっている。いずれの文明でも川沿いに集落が出来るように、この川の流域とて、数えきれない程の集落がある。
そうしたなかの一つの邑。その入り口から、1人の少女が歩み出てきた。チョコレート色をした髪の少女は、小脇にボロボロの書物を抱えている。
「長老さんに借りる事は出来ましたが、ボロボロですね……」
高価な紙で作られた書は、同様に高価であり、この時代の一般的な民が手に入れられるようなものではない。それを、彼女が所属する邑の長老は、ひょんな事から所持していた。少女は長老に頼み込んで、勉強の為にそれを借りてきたところである。
「今日は天気もいいですし、川岸の涼しいところで読みましょう」
その独り言に違わず、少女は川畔までやって来ると、川で漁をする邑の仲間の声に答えながら、木陰に腰を下ろした。
「えぇと、これは何と読むのでしたっけ……」
独学で学ぶ以上、その学力の進み方は遅い。ひとつひとつ字の読みと意味を思い出しながら、読書を進めていた、その時だった。
『――――――――!!』
「ひゃぁあああああああああ!?」
彼女の視界を白い光が満たし、瞬きひとつの猶予も与えずに、轟音が彼女の耳を襲った。
数分の気絶から醒めた彼女が目にしたのは、自身のすぐ傍に倒れ伏す、陽光を服に煌めかせた青年の姿だった。
あとがき
という訳で始まりました。新作です。
タイトル通り、お金大好きな一刀君が外史を楽しくするお話です。
流石にもう支援詐欺はないので、ゆっくり読んでやってください。
ではまた次回。
バイバイ。
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あけおめー_(:3)∠)_(2回目)
という訳で、いつだかの予告通りの新作です。
ギャグ。ひたすらギャグ……たぶん。
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