No.52828

⑨はるみん強襲!!《前編》

星野幸介さん

 たまたま、リーナの年賀イラストを描いているときに
ハルローに兄妹がいたらどんなだろうと、描いてみた
ラフ絵が元になって思いついたお話です。
 このお話は番外編ですが、リーナさんライジングと
密接な関係があります。

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2009-01-18 14:12:40 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:814   閲覧ユーザー数:757

リーナお嬢様シリーズ番外編

はるみん強襲!!《前編》

 

一.

「クあ~~~~っ、もう、あったまくる!! あのスットコお嬢に会いに

行かなきゃならないなんて、貴重な休日の朝が台無しよ!!」

 長い黒髪と紺のロングスカートをひるがえしながら、駅に向かう。

 私の名前は木野晴美(きのはるみ)。

 岐阜のたまり醤油専門の蔵本、木野本醸造(ほんじょうぞう)の

次期頭首を期待されている長女だ。

 私には、共に頭首を期待されている義理の兄がいるが、七年前大須にいる、

タチの悪い胸デカバカ女にカドわかされたっきり、再三戻ってくるよう

説得しても帰ってこない。辛抱強いことには定評のある私もさすがに

キレて、これから直々に出向いて行き、連れ戻す所存だ。

 名鉄名古屋本線から名古屋へ向かい、地下鉄伏見乗換コースを

使えば一時間前後で行けるところをあえて、名鉄新岐阜駅から

各務原線の特急に乗り込み、犬山周りで名古屋に向かい、地下鉄に乗り、

伏見で乗換えて、あのお嬢の本拠地〈大須観音〉を目指す、超遠周りコースを

私は選んだ。

 本当ならすぐにでも兄さんの顔を見たいところなんだけど、

嫌いなハーフ女(※かわいらしいイギリス人といかがわしい日本人のハーフは

特に嫌)と顔を合わせる時間を少しでも遅らせたいのと、あの大須という街は

朝十時過ぎないと本腰が入らないので、それに合わせて到着してやる意味もある。

 敵が本調子でないときに、一戦交えようとするのはフェアじゃない。

 しかし、これだけ長時間電車を乗り継いでいると、私と同じ高校生の、

のぼせた男子や同姓好きの女の子がひっきりなしに声をかけてきて、とてもウザい。

 

 そりゃあ確かに……

 久しぶりに……

 顔を合わすんだから……

 この日の為に一週間前から準備して、

 朝の三時に起きて徹底的に〈身繕い〉したんだから……

 その効果も少し位はないと怖いんだけど……ね。

 車窓に映る頬が赤い。

 

 いい加減ウザいのと、早起きのせいでポ~~ッとしてきた頃、

ようやく大須観音前に到着した。

 人慣れして怖がらないくせに、いざ捕まえようとするとさりげなくかわす、

おちゃめなハトの大群としばし戯れながらその目前にそびえるマンションを見上げる。

「ここなのよね……」

 あいつと十二の頃に一度、手合わせした時の事を思い出す。

 あのお嬢は、小さい頃からお付きのメイキッド・ヴァーン・グレイスと

いうイギリス人のメイドさんから截拳道(ジークンドー)を習っている上に、

大の大人相手に(特に軍人)実戦慣れしてるんで、細身の私が繰り出す日本拳法と

互角のいい勝負をしていた。

 だけど今の私は、あの頃とは違う。今の私には発酵能力がある。

 発酵能力からくる〈発泡爆砕〉がある。刃向かったら、あのお嬢は粉微塵だ。

文字通り、元は人だった粉になって風に吹き飛ぶ。

 当然あのお嬢も〈候補者〉として何か能力を身につけているはずだが

私の敵じゃない。

 

 ブブーン。

 

携帯が震えた。現在九時ジャスト。

兄さんに会う前にシャンとしないと。

 それにおなかも少し減った。

 近くに喫茶店がないか通りを探していると〈コンパル〉という名前の喫茶店が眼に留まった。

 入店して手短に注文を済まし、ソファーに座り待っていると、エッグサンドと

ホットコーヒーのセットが運ばれてきた。

 しかしなんだろう。このパンに挟まれた異様なタマゴの量の多さは……

どうやって食べろと言うんだろう? こんなものを上手に食べられる人

なんているんだろうか?

 そんなのがいたら、それって人間じゃないと思う。

しょうがないので箸をマスターに頼んだら、その食べ方は邪道だと言われた。

 過去にコレを見事に一口で食べきったお客が三人もいたそうだ。

 そんな、恥知らずな人間たちと私を一緒にしないでくださいと言い返してやった。

 全く見苦しいにもほどがある。

 もし私の身内にそんなのがいたら、切腹ものだ。

 少々不愉快な気分になったものの、空腹が満たされ、身体も温まり

ウォーミングアップをバッチリ済ませた私は店を出てマンションに向かった。

 大きな受付の入口から管理人に一声掛けてリーナの事務所の玄関へと向かう。

 このマンションは実質的には、全部リーナの両親の所有で、五年前の

とある事件で大儲けした収入を使い、リーナが一階と二階を父親から買取り、

自分と兄さんの住処兼事務所にしている。

(二人きりだと同棲だから、問答無用でぶち殺すけど、しっかり者の

ヴァーンさんが一緒なので特別に許す)

 事務所の途中には、生意気に六つの空き部屋を吹き抜けにして、天井も

二階までぶち抜き、採光窓には綺麗なステンドグラスを数十枚埋め込んで

大改装した豪華な温水プールがあったが無視する。

 玄関先には呼出チャイムと〈ただいまおやすみ中〉とネコのキャラクターが

描かれた札が、つり下げられていた。

 もう朝の十時だ、いつまで寝てるんだなめとんのか?!と思いつつチャイムを鳴らす。

「ハーイ、おはようございます。どちら様でしょう?」

 インターホンから明るくきれいな声がした。グレイスさんだ。

「おはようございます。お久しぶりです。私、木野晴美です。本日は兄のことで

おじゃま致しました。」

 玄関のドアが開いた。

 三白眼だが眼差しは優しい、金髪を三つ編みに編んだ美人のメイドさんが

にっこり微笑む。

「ああ、ハルローさんの妹さんね……、お久しぶりです。すぐお通ししますね。

ハルローさ――ん、お食事中の所すみませんが、妹さんがおみえです!!

 リーナお嬢様――っ、晴美さんがおみえですよぉ~~っ、仕事で

お疲れでしょうけど、そろそろ起きて下さぁ~~い!!」

「んん……? 晴美が来たって? なんであいつが?」

 背の低いオダギリジョーといった風采の、セーターを着て、トーストを

くわえた兄さんの姿がグレイスさん越しに奥にチラリと見えた。

 うぅーん、やっぱりイイなあ♪、電車に揺られた疲れや

身支度疲れもこの一瞬で吹き飛んだ。

「ふわわ……ぁ、ああ、おふぁよぉ、はるみんどしたのぉ?」

 赤毛のポニーテールがスズメの巣になった、起きたてホヤホヤの

パジャマ姿のリーナお嬢が目をこすりながら顔を出した。

 吹き飛んだ疲れが倍返しで戻ってきた。こんにゃろが――っ。

「あんたねー、セリフが平仮名ばっかりじゃない、ちったあ、やる気出せっ!

 それに兄さんの前でしょう、でっかい胸して、ちゃんとブラつけなさいよブラ!!

 はしたない!!」

「えぇぇ……?、いいじゃん、ハルローそんなの見ないから、気にしなくったって」

「そ、そりゃあ、兄さんは紳士だから変質者のマネなんかしないからいいけど♪……って、

そういう問題じゃないっっ!! そんなカッコで兄さんの前を歩き回るなぁぁ~~っ!!」

 朝ボケのリーナを奥の部屋に無理矢理引きずっていき、乱れきった髪の毛を

櫛で梳いてやり、そのへんに転がっていた服を適当に選んでちゃんと着替えさせる。

 私より見劣りするような服を選んだつもりだけど、くっそ~~っ、こいつスタイルいいし、

地がかわいいから何着せても映えやがる(泣)

「ほらっ、グレイスさんに今コーヒー頂いたから、飲んでシャンとしなさいよシャンと!!」

「ん……、ありがと」

 ゴクゴクとマグカップのコーヒーをおいしそうに飲み干し、しばらく惚けていたが、

脳みそにカフェインが回ってきたのか、ようやく本調子になってきたらしい。

「いやあ、まいったまいった、エンタープライズやらイージス艦やら、F35ライトニングとか

凄い数で、追いかけ回してくるんだもん、返り討ちにするのに手間どっちゃってさぁ。

  しまいには○○総理なんか飛んできて泣きついてきちゃうし、事後処理してたら

徹夜になっちゃった。あはは」

 なにやらかしたんだコイツ……?!

「まさかたった一人の女の子が摩擦係数0(ゼロ)の結界作って、一夜にして

アメ○カ太平洋艦隊の半分と新鋭機百機全滅させちゃったなんて、一般人は

誰も信じないからいいようなものの、手加減というものを少しは考えてくださいよ」

「兄さん、お気づきですか?、私と会うたびに加速度的に、相手にしてる人たちの

スケールが大きくなってるの?!

  お願いですから、こんなハタ迷惑な性悪娘と永久に縁を切って、

私と一緒に蔵の跡を継いで平和に暮らしましょう」

「世界を敵に回しても俺は彼女を守る!! ってカッコイイよね~~」

「おだまりなさい!! ホントに世界を敵に回して守らせるんじゃないわよ!!」

「ところではるみん、今日はなんの用事?」

「はるみんはるみん言うなっ!! 晴美さんとか木野さんとかって呼びなさいな、

仮にもイギリスの名門プライトニング家のお嬢でしょ、あんた?」

「お母様、スットコ親父と結婚したときに本家から絶縁されちゃったから、

ホントは私、お嬢さまとか言われる立場じゃないんだけどね。ハルローは

昔からスットコ親父直属だし、ヴァーンさんだって本当はお母様付きのメイドさん

なんだけど、お母様が、いつもそばにいて世話してあげられなくてごめんねって、

私に付けてくれただけだしさあ。学費と事務所の経費で、実質タイトロープ状態だもん。

あ~~あ、本物のお嬢様になりたいよ~~」

「あんな馬鹿でかい温水プールなんか趣味で作るから経営が傾くんです。

あなたの場合、資金運営がヘタクソなだけでしょ!」

「フ~~ンだ、早く結婚して玉の輿にのるからいいもんね――っだ」

「いっときますけど、あなたの遠大な将来設計から私と兄さんは、

はずさせてもらいますからね!!」

「はるみん、式の時にハルローの〈親族席〉でこっち見てたりして」

「いっ、今、背筋が凍ることボソっと言わなかった?」

 無意識に私は両側からリーナの頬を思いっきり引っ張っていた。

 

 

はるみん強襲!!《後編》につづく

 


 
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