No.528078

アップグレード

codamaさん

時代の流れは本当に早いですね。携帯からスマホにするかと考えた結果、こんな話が出来ました

2013-01-05 15:47:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:380   閲覧ユーザー数:380

 広大な宇宙を一隻の宇宙船が移動していた。小型宇宙船の為か、パイロットは二人だけと少ない。年配のジャスティンと、若い青年のケビン。彼らは地球から遠く離れた惑星の探査に向かい、未知の物質を持ち帰るというミッションをこなし、今地球へと帰る帰路の途中である。

「ケビン。私たちが地球を出発してから、何年経つんだろうか」

「計器だと、二〇年と少しでしょうか」

「二〇年か、長かったなあ」

「地球の時間は二〇年も経ちましたけど、私達はそこまで歳をとってませんよ」

「とは言っても、もう五年も経つんだ。長かったよ、今回のミッションは」

 そう言って、ジャスティンは胸のロケットペンダントを開け、中の写真を見つめる。そこには、彼の妻と子供が笑顔で映っている。

「もうすぐ会えますよ」

「成長した息子の姿が楽しみだよ」

「ですが、油断は禁物です。地球まで、もう少しかかりますから」

「そうだな、帰るまでがミッションだもんな」

 そう言って、二人は笑い合った。

「そういえば、私たちが惑星に向かう際に、何度か流星のようなものが見えたことがありましたよね」

「ああ、あれは綺麗だったね。青いレーザーのような速度で流れていったからね」

 そんな今までのミッションを振り返りながら、二人はしばらく談笑を続けた。

 

 しばらくして、地球が徐々に大きく見えるようになり、いよいよ帰還となる。

「こちら、ケビン。応答願います」

 ケビンが通信機を使って、地球と連絡を取り合う。

「こちら、ケビン……おかしいな、まだ距離が足らないのか?」

「どうした?」

「いや、通信機に異常はないと思うのですが、向こう側の反応がないんですよ」

 それを聞いて、ジャスティンは首を傾げたが、すぐににこりと笑って。

「なあに、もう向こうは二〇年も経っているんだ。多少の対応が遅れることもあるだろうさ、まだ慌てるような距離ではないし、もう少しこの地球をゆっくり眺めていよう」

「そうですね、わかりました」

 そう言って、宇宙船は地球の近くを少しの間漂う事となった。

 

 一〇分くらい経った頃だろうか、彼らに地球から連絡があった。

「こちら、××。対応が遅れてしまって、申し訳ありませんでした」

 丁寧な対応の割に、後ろからは笑い声が聞こえていた。

「こちら、ケビン。たった今ミッションから戻りました。着陸するので、手配をお願いします」

「ケビン……ああ、二〇年前の! いやー、お疲れ様でした。早速、着陸の体制を整えますので、気を抜かずに地球へと降りてきてください」

「了解しました、では後程」

 そう言って、ケビンは通信を切った。

「これでようやく地球へ帰れますよ」

「そうだね。すっかり忘れていたけど、きっと重力の影響がすごいことになっているんだろうね。しばらくは、立つこともままならないかも知れないよ」

「はは、遠くから帰って来た英雄が、へっぴり腰では笑われてしまいますよ」

 そんなことを話しながら、彼らは地球へと降りて行った。

 

 結局、重力に慣れないへっぴり腰となってしまった二人は、職員らに脇を支えられて地球へと降り立った。

 しかし、彼らを待っていたのは多くの民衆ではなく、一部の報道者と宇宙船の関係者だけだった。遠くの星から帰って来たという、本来なら偉業を成し遂げた二人を歓迎するムードは、そこには存在しなかった。驚きに二人は顔を見合わせた、一体どういうことなのだろうと。

「いやー、お疲れ様でした」

 そう言って、先ほど通信していたと思われる男が彼らの前に現れた。

「申し遅れました、私、あなたたちの担当をさせておりました、クリスと言う者です」

 そう言って、クリスは軽くお辞儀をする。

この国に、お辞儀をするような文化はあっただろうかと、二人は首を傾げる。

「お二人には非常に申し訳ないのですが、今回のミッションは既に他の方が完遂してしまったのですよ」

 それを聞いて、二人は耳を疑った。

「完遂!? ちょっと待ってください、私たちは五年もかけて、遠い惑星までミッションを行いにいったのですよ。それがどうして、他の人に出来ると言うんだ!」

 ジャスティンが興奮気味に話す。

「非常に申しあげにくいのですが、あなた方が出発してからおよそ二年程で、時代は圧倒的進化を遂げました。あらゆる職や物に限らず、デバイスをアップデートするかのように、地球はがらりと変わりました。もちろん、ロケット技術も。おそらく、あなたたちは目にしたことがあるでしょう、青いレーザーのような光を」

 そう言われて、二人は先ほど話していた内容を思い出す。

「まさか」

「そうです。あのレーザーのように見えたものこそが、私たちが開発した、新たな宇宙船なのです。速度をはじめとした全ての性能が、今までとは比べ物にならないほど進化を遂げたのです。その結果……」

 そう言って、クリスはポケットから何かを取り出す。

「こ、これは!?」

 ケビンが驚きの声を挙げる。

「ええ、あなた方が取りに向かわれた未知の物質です。まあ、進化した技術によって、調査された今となっては、未知でも何でもないのですが」

「じゃあ、今まで私たちがやって来たことは何だった言うんだ!」

「途中で連絡を入れるつもりだったのですが、あいにくそういうわけにもいかなくなりまして。むしろ、発展前に旅立った唯一のシャトルとして価値を見出されたのです。あなたたちは、歴史を作ったのです、これほど素晴らしいことはありませんよ!」

 クリスが両手を広げ、力説する。しかし、彼らにもうその声は届いてはいなかった。自分たちのやって来たことが、完全に無駄だったと知ってしまった今となっては。

「映像を中継して、あなた方の様子は全世界に届けられていました。昔はこうだったのか、こんなに不便なものを、どうして平気で使えるのかなどと。参考となり、より一層便利で、理想的で、豊かな暮らしを求めるように意識が変わりました」

 うつろな目で、ジャスティンはあたりを見渡す。そして、そこに違和感を覚える。

「そういえば、エリーはどこにいるんだい?」

 それを聞いて、クリスの表情が沈む。

「エリーさんですか……。今、彼女は別の男性と幸せに暮らしています」

「そんな、どうして」

「時代の流れとでも言うのでしょうか、この二〇年間の変化はすさまじいものでした。誰もが、利便性を求め、効率のいい人生を送りたいと、あなたがたの映像が背中を押したのでしょう。そして、彼女はあなたより顔が良く、年が若い、あなたを一段階グレードアップしたような方を選んだのです」

 それを聞いて、ジャスティンは泣いていた。ケビンもやりきれないといった顔をしている。

「人類の進歩に犠牲は付き物です。しかし、あなたたちはただ犠牲になったというわけではありません。地球を離れた五年間、つまりは二〇年間を最先端の技術でカバーし、すぐにこの地球に馴染めるようにして差し上げます」

 クリスの笑みに少し影がかかったように見えた。

 重力慣れしていない為、彼らはずるずると引きずられるようにして、施設へと運ばれる。

「ご安心ください、あなたたちのしたことは決して無駄などではなかったのです。ただ、時代の進化が早すぎたのです。でも心配しないでください、これからはその技術に慣れ、新しい生活が待っているのです」

 そう言って、彼らは施設へと入っていく。抵抗の術もなく。

 

 そして、彼らが施設を出るときには、先ほどの事がなかったような笑顔で、楽しそうに、最先端技術の詰まった地球へと飛び出して行った。

 


 
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