無数の剣戟が青空に響き渡り、遠く戦場の喚声が本陣にまで届く。馬蹄の巻き上げる砂塵は前曲を覆い隠し、それが幕僚を狼狽させた。
「落ち着きなさい! ……凪達に任せた騎兵から合図は?」
「申し訳ありません。まだでして」
私が訊くと、すぐさま秋蘭が答えてくれる。しかし内容は望んだものではない。
「全く。一晩で悠に三百里は踏破できるようにしておきなさい」
「そですね。これからは五胡との戦を考える必要がありますからー」
雲は緩く、風の声もいつも通り。ただ、目の前で久しぶりの戦が起こっているだけだ。
三国同盟を成した後の、初めての戦い。政務ばかりで記憶にないが、二度ほど季節は巡った気がする。その平和を打ち破る蛮族。許せるわけがない。
「春蘭は?」
「今のところ我慢しているようですが、姉者の事ですので前に出たくてうずうずしているのではないかと」
「はぁ。秋蘭、お願い。折角敵本隊を釣り上げたのだから、魏の恐怖を存分に味わわせなくてはね」
「御意」
秋蘭が前曲へ向かう。
その後姿は懐かしく、かつて戦っていた時のようについその言葉を発してしまっていた。
「それで戦況は? かず……」
……どうかしてる。本格的な戦闘は、あの蜀侵攻戦以来とはいえ。
やや後退して丘陵に上り、二里先の戦場を見晴るかす。
そこでは濃い砂塵が右に左に移動し、敵騎馬が前曲を押しているらしい事が分かる。こちらは三人一組となってそれを防ぐよう通達してあるが、機能しているかどうかも見えない。
春蘭達ならば押し返す事など容易にできるだろう。が、それだけでは駄目なのだ。魏軍の恐ろしさを刻みつけなければ。この地を穢す罪の重さを知らしめる為に。
「凪は、北の迂回はまだ……」
言いさしたその時、私の後方が何やら騒々しくなった。
「稟。何か分かる?」
「私にはなんとも」
などと適当に話すうちに、騒動の元がこっちにやって来たらしい。人垣が割れ、その先には。
「華琳さまっ!!」
「…………、な、け、桂花?!」
「はい華琳さま! ああっ……三日ぶりの華琳さまの御声……」
「っ城は!? 貴女なら政務もこなせると思っ……何でこっちに来てるの!!」
「そ、その、華琳さま、私では判断できない事があっ……」
「黙りなさい!」
パァン。勝手に動いていた私の右手が、桂花の頬に炸裂した。
ありえない。じゃあ今、城に将は? 私の、命に背いて?
そのまま膝をつき謝罪の言葉を口にする桂花。その嗜虐心をそそられる姿態に私は幾らか心を落ち着け、詰問する。何故ここに来たのかを。
「申し訳ございません、華琳さま……」
「早く理由を言いなさい。それ如何で、謝罪を聞いてあげる」
「は、はいっ、実は昨日、倭からの使者という者が謁見を求めてきたんです」
「使者?」
倭と言えば先の朝廷も一応の交流があったようだけど……丁度戦闘中のこの時期、怪しい事この上ない。
「はい。本物かも分かりませんが、東の海を越えてきた、と」
「それだけで城を放り出して来るなんて、貴女らしくないわね。桂花?」
「申し訳ありません。危急の時、とか言って使者が暴れそうでしたので、その」
「帰ってもらいなさい。私達は今、戦をしているの」
「はい、華琳さまっ」
全くありえない。
この子の事だから、それにかこつけてこっちに来たかっただけの気もするけれど、どちらにせよきついお仕置きが必要ね。東夷の使者なんて、そんなもの待たせていれ……ば……。
「桂花、待ちなさい」
「は、はい!」
分かってる。馬鹿な妄想だって。でも、どうしても。確か、そう。
「東。つまり日の本から来たのよね。ニッポン、とか言ってなかったかしら、その使者は」
「……すみません。覚えてないです……」
「はぁ。連れてきているのでしょう? ならばここに通しなさい。それと」
行きかけ、振り返る桂花。柔らかい髪がふわりと舞った。
「城に帰ったらお仕置きしてあげるわ。春蘭と、一緒に、ね」
あの子の目の前で春蘭だけをずっと可愛がってたらどうなるのかしら。きっと床に座り込んで、あの泣きそうな瞳で私を見上げ、懇願してくるに違いない。
そんな事を考えているうちに、その使者とやらが桂花に連れられてきた。戦闘の方はまだ合図もない。春蘭達が突破されるとは思えないし、会話する余裕くらいはある筈だった。
「お初にお目にかかります。私は邪馬台……」
使者を見据える。
…………、その装束は私達と大差なく。
駄目で元々だったにもかかわらず、失望させられている自分がいた。
「過日、我が国の王が逝去されて以来かの地は戦乱絶える事なく……」
「お前の話に興味はないわ。それより、ニッポンという地名に心当たりはない?」
「は、ニッポンでありますか。群雄渦巻く我が国周辺でもかような国は知らず……」
「ならばよい。話は終わりよ、桂花」
「な、覇王様! 私の話をお聞き下さい、覇王様!!」
大声で騒ぎ立てる使者を近衛兵が両脇から抱え、下がっていく。そこに、
「華琳さまー、凪ちゃん達から光が届きましたよー」
吉報が入った。
「そう。では春蘭、秋蘭に伝令。銅鑼と共に包囲に入る!」
「覇王!!!!」
「華琳さまは今忙しいの。男なんかに構ってる暇なんてないんだからっ」
煩い使者に背を向け、丘を下る。
そういえば光を反射させるというこの通信方法も……と考えかけ、やめた。天命なのだ。これは。私は私の道を行くしかない。
……でも、もしやり直せるなら。絶対に、逃がしてなんかやらないのに。
首を振って思考を中断させる。
「確実に西の一角を薄くしておく事。霞、敵がそこから脱出したら存分に追撃しなさい。目標は九割死傷よ」
私の命令に、霞が声を張り上げて応えた。あとは銅鑼を待つばかり。
金属的な、臓腑に染み入る銅鑼の音が鳴り響く!
「反撃せよ!!」
その刹那。
強烈な光が、脳裏を灼き尽くした――――――――!
◆◆◆◆◆
――――作られた外史。それは新しい物語の始まり。
脳髄に響いてくる音。声を出そうにも何故か口が動かない。
――――望まれれば突端は開かれ新生する。物語は、無限大なのだから。
凪達の騎兵の剣が反射した光が強すぎたのだろうか。こんな白昼夢を見るなんて。
――――そしてその外史の行き先は、ひとえに貴女の心次第。
…………、心次第、ね。私が物語を描くなら、きっと幸せな結末にしよう。
――――さあ。
現実は私のものを奪っていくから。みんなずっと、私のものなのに。
――――今より新しき物語の幕が……。
声が聞こえなくなってきた。光がまた強くなる。お願い。少しくらい物語を描かせて。
『――――う操ちゃん、――――――――ぇん』
何かが聞こえた気がした。しかし私は、動かない瞼を閉じるだけで精一杯で――――――。
◆◆◆◆◆
ドォン……!!
銅鑼の轟音が大気を震わす。私はそれを耳にしながら、奇妙な既視感に囚われていた。だがその感覚も自問する前に霧散し、そんな感覚があった事さえ忘れていく。
「っ、反撃! 曹魏の誇り高き精兵達よ、鮮卑のものどもにその矜持を刻み付けてやりなさい!!」
「「「おおおぉぉぉおおぉぉおぉ!!!!」」」
腕を振るい、胸を張る。しかし至近からの反応が薄い。将の誰もが一瞬別次元にいたような、そんな油断が見て取れた。
「季衣、流琉! 私達も前進するわよ!!」
「……は、はい!」
それも1秒に満たない間だけ。後でこの子達皆の性根を叩きなおすとして、今は眼前の戦に集中しなければ。
ドロドロと進む。前曲は春蘭が左、秋蘭が右に展開し、中央に近衛隊が入っていく。突然の攻勢に敵は怯むが、流石に勇猛を謳う騎馬民族。多少騎兵を下がらせるや、弓兵の目立つ我が軍右翼に突撃をかけてきた。
「――――歩兵、方――――――――!」
秋蘭の号令がここまで届き、その無事を確認する。
右翼は一度目の突撃をなんとか凌ぐと、お返しとばかり一斉射、次いで各個射撃に入った。馬が倒れ、あるいは棹立ちとなり、投げ出されていく敵兵。さらに矢を運よくかわしたとしても、次の攻撃が彼らを襲う。
林と丘を頼りに敵後方へ回りこんだ凪達の部隊だ。騎兵だけに包囲の密度は薄いものの、それが迅速な行動を可能にしていた。
薄い砂塵の向こうに楽、于、李の旗印がはためき、それが敵の混乱に拍車をかける。
「ここで全て殲滅させる気でぶつかりなさい!」
「「おおおぉ!!」」
「霞、掩蔽は?」
「わかっとる! ウチの判断で行ってええな?」
「ええ、信じてるわ」
自分でも戦場に不似合いだと思う、微笑。何も考えず、余裕を持ってその仕草ができたのはいつ以来だろうか。戦は精神を集中させてくれる。
「息をつかせる間も与えるな! 曹魏の地から追い落とせェ!!」
春蘭の怒声が左翼を包む。突撃、突撃。ここまでくると、中の敵兵の表情すら見えてくる。絶望。それだけが奴らを支配していた。蹂躙しかしてこなかったであろう敵将に、自らより強大な戦力に抗う術など、ない。
春蘭の一撃が最後の防波堤を破ったのか。ついに西の一角から敵が逃げ出した。一人二人だったその流れは一瞬で奔流となり、われ先にとそこへ雪崩れ込んでいく。
「みなさんこの調子で肉まんのよーに突っついちゃいましょー。ぐにゅー」
言い回しに多少難があるものの、適切な指示が風から飛ぶ。その言葉に従い本陣の兵も敵を押し込んでいく。斬り、突き、追い立て。もはや敵将などどこにいるのかすら解らなくなる勢いの中、数を激減させていく敵兵。軍から連、連から大隊へ。包囲した地面には累々と人馬の屍が横たわり、それらを踏み越えて生き残った者が脱出していく。
我が軍の、完全勝利だった。
――――勝った。そう確信した途端、自身が急速に冷え込んでいくのを感じた。
「霞は?」
「は。生きている敵兵の脱出がほぼ完了したところで進発いたしました」
「ふふっ。反応が早いわね。ありがと。稟」
「…………ッッふぐぁ‥‥!!!!?」
はいトントーン、などという風達のいつものやり取りを適当に聞き流しながら、西の方を見やる。なるほど確かに離れゆく砂塵が見える。一方は疲労困憊のように鈍足、もう一方はきびきびした動きで。
今頃、一人また一人と敵を斬り捨てていっているだろう。仮に魏の領土から西に脱出し果せたとしても、そこは涼州。なれば錦馬超らに後始末を任せても大丈夫だった。
当然、十数人を敢えて北へ逃がしてから、だけれど。
「ッ聞け、同胞よ! 我らは、我らの手でこの地を守ったのだ!!」
左翼先頭へ立ち春蘭が声を大にして得物を高らかに掲げるのを、私は遠く本陣から眺める。その光景は酷く現実感が希薄で。兵の前で声を張り上げる春蘭も時々見ているし、蜀侵攻戦から変わった事など一つしかないのに、私は魏王以外に居場所はないのだと実感させられていた。
「……桂花。使者をここに」
「はっ!」
戦はそれだけに集中できる。でも、それが終われば今まで慣れていた筈の感情が再び襲い掛かってくる。二年前の戦闘終結と共に消えた居場所をあてどもなく探す、愚かな自分が。それに、初めて気付いた。
「華琳さま! 呼んで、参りまし、た……」
桂花の声が小さくなっていく。そういえばあの時もまず声を掛けてきたのは桂花だった。それほど私は今酷い顔をしているのだろう。
それを振り払うように咳払いをし、屹然と言い放つ。
「倭の使者よ。これからお前の話を聞き、しかるのち前向きに援助の検討をさせてもらう」
「は、ははぁ、ありがたき幸せ! 戦に専念されておられると思うておりましたが、なんと私めの話まで覚えておいでとは……」
「そんな事はいいわ。早く詳細を述べなさい」
使者が語り始める。が、そんな時に限って邪魔してくるのは、
「よいか、此度の勝利を忘れなければ五胡など恐るるに足らんのだ! では……」
大体あの子に決まっている。振り向いてみるとあの子――春蘭は腕を振り、勿体ぶったように大きく息を吸い込んだ。
「ッ皆のもの、勝ち鬨を上げよ!!」
「「「「「うおおぉおぉぉおぉおおおおおおお!!!!」」」」」
地の底から唸る、二万の喚声。「見えない何か」を願うかの如きそれは、高く侵略者の跋扈する北へ轟く。
それ自体は好ましいのだけれど。
「春蘭」
こっちの都合も考えなさい。
そう忠告しようと私が身体ごと向こうを向いたその時、兵達の掲げる剣と槍の煌きが、私の眼球を貫いた。
一瞬にして白と黒に視界が覆い尽くされ、どこかで経験した事のあるような、不思議な浮遊感が私を支配した。
◆◆◆◆◆
なんだろう、これは。前にも来た事があるような。
――――望めばこれより天下の道と人の道、どちらかの道へ進み始める。
天の問答? ……私が望むなら、きっと後者。だって。
――――天下はもはや閉ざされ……。
だって。天下はこれから私が私の力で勝手に歩むもの。だから、望むなら人。
できれば、「私」の居場所をくれる……。
――――外史は、再び動き始めた……。
その瞬間、虚無の光が辺りを包んだ。
◆◆◆◆◆
色が戻ってくる。身体の感覚は正常に機能し、視界には変わらず兵と春蘭が映っていた。ただ唯一、先程の光景と違ったのは。
凄まじい発光体が、唐突に死体だらけの包囲中央に落ちていた事。
初めに気付いたのは兵達。私は彼らの視線の先から零れる光を視認するや、我知らず駆け出していた。
兵を押しのけ、逸る感情を押し殺して。だって、ありえない期待をしていってもし違っていたら、兵士の前なのにきっと立てなくなる。
桂花の声が聞こえた気がしたけれど、私の足はあっちへ向かう。兵達が私に気付き、道をあける。目の前には次第に弱くなっていく光源への一本道が続き、それを私は必死に駆けていく。
「か、華琳さま! あれはいつぞやの……?!」
「もしや、その……」
「言わないで……!」
最前線でこちらを向いていた春蘭、秋蘭の脇を抜ける。背に微動だにしていないであろう万の精兵の視線を感じ、私は速度を緩めた。悠然と、魏の覇王に相応しく。
光がいよいよ確かな形を成していく。
右足、次いで左足。下から順に光が消えて。この世界に見慣れない――私の見慣れていた妙な光沢の衣服が、目に入った。
胸は早鐘を打ち鳴らす。ドクドクと血が通うたび、視界が白く縁取られる。
震える足で、慎重にそれに近付いた。
「っ……つー……こういうの……」
心地良い音色が耳朶を打つ。びく、と自分でも知らないうちに身体が反応する。
「……前もあった……よう、な……っ」
ワケが分からないといった体で尻餅をついて座り込むソレに、ゆっくりと歩を進める。
ゆっくり、精一杯王者の風格を漂わせ。
その腕を。その首筋を。その口唇を。その鼻梁を。……その、瞳を。
揺らぎそうな視界におさめていく。絶対に弱みなんか見せないように。私らしく泰然と、あの冷笑を湛えて。
ソレの相貌は面白いくらいに変わっていく。
呆然として、辺りを見回して。場所としては凄く無粋だけれど、そんな事に文句を言われても困る。その後でソレはもう一度私の方に向き直ると、あろう事かバツが悪そうに目を逸らした。
「…………、おはよう」
できる限りの力を込めて。百万言の想いを押しとどめ、私は震える息を短く吐いた。
「……お、おはよ……」
それだけなのかと言いそうになって、やめた。その前にはっきりさせておかないといけない事があるのだから。咳払いをして、続ける。
「あなたは、何?」
「……は、え、っと、え、何だろう……?」
「な・あ・に?」
「え、と、北郷一刀です?」
「…………」
もどかしくて、でもあったかい。こんな馬鹿だからこそ安心する。
「……え、あ、天の御遣い……?」
「あなたは、なに?」
「…………も、元警備隊長?」
はぁ。本当に。
「……馬鹿」
いつの間にか私は腰をかがめ、その愚鈍な唇を奪っていた。
ほんの一瞬、触れ合うだけの交わり。後ろが何か騒がしいけれど、絶対誰にも止めさせない。
体重を預け、馬乗りになる。左手で相手の頭を地に押し付け、両手を両膝で押さえつけ。二度目の交わり。歯がコツと当たって上唇から血が滲み出た。それを私は舐め取り、馬鹿の口内へ送り込む。僅かに鉄の味が広がる。
「……っん、あなたは、私の、っふぁ……、下僕」
舌を突き出し、唾液を絡め取る。鼻腔をくすぐる吐息が漏れ、その匂いが私の脳髄を刺激した。口端から唾液が零れるままに、私は馬鹿の口内を貪り味わう。
馬鹿の舌が私のそれに呼応して、ゆっくりと、確かめ合うようにざらりと交わる。私の口内へ、馬鹿の唾液が侵入してくる。
「ん、こく……あなたは……私のもの。っは、何度も言ってる、でしょう……」
「……ああ。俺は華琳のものだから……華琳が捨てない限り、消えちゃ駄目だよな」
っううぅ――――! 卑怯、卑怯、卑怯! 何で名前だけでこんなになんないといけないの……!
「そう……よ……かずとは一生涯、私の……もの、なんだから……!」
「俺は一生華琳のものだ。……ずっと、愛してる」
ううぅうぅうぅ――――――――!!
「わた……も、……い……る、あい……てる、っいしてる!!!!」
かずとの両手を解放し、私からかずとをかき抱く。私の胸にかずとの顔を押し付け、きつく、きつく。髪がくすぐったいけれど、もう離してやらない。絶対に、絶対に!
…………。
あったかい。不思議なくらい、心が落ち着く。
……。
どれだけそうしていたか。後ろのざわめきが耳障りになってきた頃、私は深呼吸して声を発した。
多少上擦った声を、抱き締めたままで。
「っ、春蘭、秋蘭!」
突然の名指しに狼狽した気配が背後から伝わってくる。足音が近付いてきた。
「何でしょうか、華琳さま」
「……これは、私のものよ。あ、貴女達が『借りたい』時は、私に断ってからになさい」
「は? ……ぁ、いえ、御意!」
「桂花、季衣、流琉。凪に真桜、沙和。稟と風も!」
皆に響き渡るように、呼びかける。霞にも追撃から帰ってきたら言って聞かせないと。
「一刀を私に無断で抱く事は絶対に許さないわ! 分かった?」
「か、華琳さまぁ……」
肩越しに後ろを見ると、恥ずかしそうに駆け寄ってくる桂花と、いかにも楽しげな風がいた。
「大声でそのような事をおっしゃらないで下さい……」
「桂花ちゃん桂花ちゃん、いいんですか? 華琳さまのあーんな所にお兄さんの顔が……」
「う、うううるさいっ! わた、私だって……! でもでも、華琳さまがあんなになってるんだもん。仕方ないでしょ……」
「わ・か・っ・た・わ・ね?」
私の念押しに、焦って首肯する桂花。風の方はむしろあっけらかんと明日の夜辺りに早速言ってきそうな気がする。勿論、今日は完全に離さないのだけれど。
……もう、きっと消えたりしない、よね。今日は私、明日は風、その次も予定をびっしり書き入れてやる。だから。
「っぐ、ぐるじ……!!」
「……そうね。私の部屋で暮らしなさい。一刀は私のものなんだから」
「ッぷは……! って、り、了解」
「……だから、主人として命じるわ」
――――私の前からいなくなるなんて、今後一切許さない。
将達が動いた事で、兵を縛り付けていた雰囲気も解けたのだろう。警備隊上がりの兵から始まったのであろう喚声は瞬く間に全軍へ伝播し。
その中で私は、彼の存在と私の居場所を確かめるように、再び一刀の唇を塞いだ。
<了>
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様々な場所で多く書かれているのでしょうが、御多分に漏れず魏ルートアフターです。
ジェバンニが一晩で……もとい、貂蝉が一瞬でやってくれました。外史設定が結構適当でも許せる寛大な方向けです。
できるだけ短くしようと思っていたらあまりキャラを遊ばせる事ができず、やや後悔。
華琳様のイチャラブ(非エロ)は最後の方にあります。