外史、つまり連続ドラマの出演者に用意される楽屋の一室にて。
「私は白馬将軍、または白馬長史と呼ばれている。姓は公孫、名は賛、字は伯珪。真名は……」
「……肉まん」
「そう、肉まん……って恋!! そんな訳ないだろ!!」
「……おなかすいた」
「もー、伯珪はうるさいのだ。鈴々と恋は真・恋姫無双の出演に備えて、台本の読み込みで忙しいのだ。出番のない人は黙ってて欲しいのだ」
「私だって出番あるわぁっ!!! ……いや、実はそれで頼みがあるんだよ。私の真名を一緒に考えてくれないか? ヒロインの一人として、さすがに真名がないってのはまずいだろ」
「……肉まん食べさせてくれるなら」
「友達の頼みだから、鈴々も協力してもいいのだ。でも真名を考えるのなら、華雄は呼ばなくていーのかー?」
公孫賛、鈴々の肩にそっと手をおく。
「華雄の事はそっとしておこう。それが大人の事情って奴だ。鈴々も大人の女なら分かるだろ?」
大人の女という言葉が効いたのか、勢いよく頷く鈴々。
「もちろん分かるのだ! 奥さん、ボクはボクはもう!! いけません、主人が帰ってきますで、アハンウフンが大人の痴情なのだ!!」
「痴情じゃなくて事情な。それにそういうの、どこで覚えてくるんだ?」
「朱里や紫苑が、よくそういう本を読んでくれるのだ」
額に手を当て、無言で天を仰ぐ公孫賛。
「あいつらは……いや、それより私の真名なんだが」
「んー、馬が好きで胸の大きさが並みだから、馬並(マーヘイ)とかどうなのだ?」
「……馬並(ウマナミ)?」
公孫賛、即座に土下座する。
「マーヘイって読み方もあれですが、ウマナミって読み方は激しくイヤなので勘弁して下さい」
「むー、鈴々のは気に入らなかったみたいなのだ。今度は恋が考えてあげて欲しいのだ」
「……白湯(パイタン)」
立ち上がって絶叫する公孫賛。
「だから、お前は食べ物から離れろー!!」
「ちょっと待つのだ。白という部分は、白馬将軍を連想させていいと思うのだ」
ここでガチャリとドアが開き、麗羽が入ってくる。
「あら、何を騒いでいるんですの?」
「あっ、いい所に来たのだ! 今、伯珪の真名を考えてるのだ。白という字を使って、何か思いつかないかー?」
麗羽、満面の笑みで答える。
「では、白影(パイエイ)というのはどうですの?」
「おおっ、白い影か、格好いいな! で、その心は?」
「それはもちろん、影が薄い。つまり存在感がないからに決まって……うぎゅっ」
「落ち着くのだ伯珪!! 麗羽の首を絞めても、良い名前は出てこないのだ」
「……影も濃くならない」
「なんか麗羽よりも、恋の一言の方が傷ついたぞ」
落ち込んだ公孫賛、気絶した麗羽を放り投げる。
「なあ、ホント頼むよ。なんかいい名前つけてくれよ。私達は同じ恋姫無双のヒロイン、一蓮托生じゃないか」
「……はす」
「それなのだ!! 白い蓮で白蓮(パイレン)というのはどうなのだ? すごくきれいな名前なのだ」
「おおっ!! 白蓮か!! いいっ! すごくいいぞ!! よし、我が魂魄の全てをかけ、外史に刻み込む為に名乗るぞ。私は姓は公孫、名は賛、字は伯珪、真名は……」
どこからか小さな声がする。
「おっ」
「白蓮(パイレン)!! ……って、何か変な声がしなかったか?」
「鈴々には聞こえなかったのだ。恋には聞こえた?」
「……(ふるふる)」
「そうか、気のせいかな? まあいいや、じゃ約束通り肉まん奢ってやるよ、食べに行こうぜ」
「……(こくこく)」
「わーいなのだ!!」
三人が出て行った後、ロッカーの中から星登場。
「ふっ、私の気配に気づかないとは、あの三人もまだまだ甘い。しかし、真名の丁寧な呼び方に気づいてもらえなかったのは、いささか寂しいな。白蓮を丁寧に言うと、オッパイレン。うむ、実にいい呼び名ではないか」
満足げに何度も頷く星。
後に皆は知る事になる。恋と星が発した些細な一言により、とある外史に公孫賛の真名が肉まん、そしてオッパイレンと刻まれたという事を。かの外史における公孫賛の悲嘆ぶりは、真名の無い頃の比ではなかったと言う。
公孫賛。真名が無ければ無いで、あればあるで残念な結果となる人物であった。
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発想の原点は、DVD2巻の出張版ラジオです。
白蓮、および白蓮ファンのみなさん、ごめんなさい。