No.52242

三羽烏との絆

Zero Pさん

今回SS初投稿です。

元ネタは真・恋姫†無双の魏ルート。

魏ED後のIfストーリーです。

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2009-01-15 01:01:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:12089   閲覧ユーザー数:8913

 

「………」

 

夜の静寂の中、私は城壁の上に佇んでいた。

考え事をする時、一人になりたい時、私は此処に来る事にしている。

…?誰かがこっちを見ている…?

 

「…!!誰だっ!!」

 

すかさず私は拳を構え、気を放とうとした。だが、聞こえてきた声は私の良く知る者達だった。

 

「ま、待ってぇな!!凪、ウチや!!真桜や!!」

 

「さ、沙和も居るのなの~!!」

 

「何だ、二人ともどうかしたのか?」

 

慌てて出て来た二人の様子を訝りながら、私は城壁から降りた。

 

「それはこっちの台詞や!!部屋に行ってみたら居らんし…」

 

「それに最近元気が無いの~…」

 

「…やっぱ隊長の事か?」

 

「………」

 

問いかけて来る真桜。私は答えなかった。その様子を見ていた沙和は、

 

「正解みたいなの」

 

「………」

 

図星だ。言い返す言葉も無く私は押し黙った。その様子を見かねてか、真桜が切り出した。

 

「なあ、凪。もう諦めよ」

 

「…何っ!?」

 

その一言は私の感情を一気に高ぶらせた。何でそんな事を言うのだろうと思い、拳が震えた。

そして、真桜はとどめの一言を言い放った。

 

「隊長はもう帰って来ん。もう、三年やで?いつまでも待っとったって、しゃあないやろ?」

 

「真桜…!!」

 

その言葉で私は切れた。

私は真桜の胸倉に掴みかかった。だが、真桜は哀れみの視線で、私を見つめるだけだった。

 

「お前は本当にそれで良いのか!?隊長を忘れられるのか!?」

 

「………」

 

答えない真桜。私はそんな真桜にイラつき、さらに詰め寄る。

 

「凪ちゃん………」

 

「諦められるのか!?納得できるのか!?…っ!?」

 

驚いて私は止まった。一瞬何が起こったのか分からなかった。

落ち着いてみると、真桜が私の頬を叩いていた。

 

「ま、真桜ちゃん…?」

 

「アホか!!諦められるわけ無いやろ!!ウチかて嫌や!!」

 

今度は真桜が私の胸倉を掴み返した。

 

「納得なんかできるわけないやろがぁ!!」

 

真桜の目から涙が流れ落ちた。そこで私はハッとした。

 

「せやけど、いつまでもグダグダと悲しんどったって、しゃあないやん…」

 

「真桜ちゃん…ぐすっ…」

 

沙和の目からも涙が零れ落ちた。

 

「………」

 

沸騰していた頭が、急速に冷えていくのを私は感じた。

そうだ。この二人が悲しんでいないわけが無い。

なのに、私は自分一人だけ悲しい気分になっていた。

私の目からは知らず知らずの内に涙が溢れていた。

 

「悲しんで…、泣いて…、それで隊長が帰ってくるんやったら、幾らだって泣いたるわい!!」

 

「………」

 

「けど、ちゃうやろ!?そんな事したって、結局悲しいのはウチ等だけや!!」

 

「うっ、うぅ~…!!」

 

沙和が我慢できずに泣き出してしまった。

華琳さまや春蘭さま、秋蘭さまも、流琉も、季衣も、霞さまも、風も、凛も、張三姉妹も皆、

悲しんでいたのに。あの桂花さまだって、貶す相手が居なくてつまらなそうにしていた位なのに。

皆我慢していた筈なのに…。

 

「だから、もう終わりにしよ?」

 

「真桜…」

 

「今夜は好きなだけ泣いたらええ。でも明日からはもう絶対笑顔や!!皆笑顔や!!ええな!!」

 

私の心を縛り付けていた鎖が切れた。もう限界だった。

 

「うん…ありがとう………っ!!うあああぁぁぁぁぁあん!!!!!!」

 

「よしよし、辛かったなぁ…。でも、ウチ等は何時だって三人や!!一人で抱え込む事なんか無い!!」

 

「ぐすっ…!あー!!凪ちゃんだけずるいのなのー!!私も~!!」

 

泣きつく私を真桜は優しく抱きとめてくれた。沙和も一緒に抱きしめてくれた。

 

「全く、あの種馬と来たら、こんなにええ女達誑かしといて、泣かして帰るたぁ…ええ度胸やん…」

 

苦笑しながら悪態をつく真桜。その時だった―――。

 

「ホントだよ。何処の馬鹿野郎だよな、ソイツ」

 

凄く聞きなれた声がした。とても懐かしい声だった―――。

 

「でも、誑かしてるのあたりは訂正してほしいかな」

 

振り返った先には、ポリポリと頬を掻いている隊長が立っていた。

 

「た、隊長…」

 

「うそ…」

 

「ホンマかいな…」

 

私達は驚きの言葉しか出てこなかった。すると、隊長は苦笑し、

 

「ゴメンな、皆。突然居なくなったりして」

 

と言った。私は我慢できず、

 

「た、隊長~!!!」

 

隊長に抱きついていた。力いっぱい抱きついた。

 

「ぐふぅ!!!な、凪…さん…?か、加減を考えて…あ、あばらが…」

 

「凪!!その辺にしとき!!隊長、今度こそ本当に逝ってまうで!!」

 

「あ~、隊長のお顔が真っ青なの~…」

 

「さ、沙和…見てないで…助け…っあぁ!!!!凪、ストップ!!スト~ップ!!!」

 

なにやら隊長が叫んでいるが、気にしない。だって、久しぶりの隊長なのだ。

ああ、良い匂い…。私は腕にさらに力を込めた。

 

「あ、あああぁぁあぁあぁああああぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

「あかん!!沙和!!皆呼ぶで!!凪を止めんと、隊長の命に係わる!!」

 

「う、うんなの!!隊長!!もう少しだけ待っててなの!!」

 

「え!?ちょ!!二人とも!!!!助けてくれ!! 」

 

「自業自得や、後でちゃんと助けたるから、もう少しそのままで居れや♪」

 

「そうなの~私たちの分も凪ちゃんにお任せなの~♪」

 

「焚きつけるな!!早く!!救援を!!」

 

「隊長…!!突然居なくなって、本当に、本当に寂しかったんですから…!!」

 

「悪かった!!謝るから!!だからこれ以上腕に力を入れるのは止めてぇ~!!」

 

こうして私は、華琳様達が到着するまでの間、隊長にひっしとしがみ付いていた。

その後の隊長は悲惨だった。号泣した春蘭様の拳が、隊長の鳩尾に思い切り炸裂したのだ。

他の皆は止めるか眺めるかのどちらかだった。いや、止めたのは秋蘭様と流琉ぐらいだった様な…

 

「寂しさの裏返しって恐ろしいのかも…」

 

「お、お前がそれを言うか…凪…。ガクッ…」

 

私は、隊長の部屋の寝台で包帯グルグル巻きの隊長を笑顔で眺めていた。

何だかんだで、隊長も笑っていた。手荒い歓迎は予想済みだったらしい。

この人が居てくれれば、私はきっと大丈夫。いや、絶対に大丈夫だ。

 

「隊長…んっ…」

 

私は隊長の唇にそっと口付をした。その時―――

 

「抜け駆けはアカンなぁ~、凪ぃ~?」

 

「ずるいのなの~!!私たちもするの~!!」

 

二人が部屋に入ってきて、隊長に口付をした。そして、耳元で何やら囁いていた。

 

「んむっ…このスケコマシ、今度勝手に消えたら、承知せえへんからな!!」

 

「ちゅっ…そうなの~、女の恨みは怖いのなの~」

 

「う、ううぅ…」

 

隊長が唸っていた。どうやら碌な事を吹き込んでいないらしい。だが、私も耳元に寄って、

 

「隊長、三人まとめて愛してくれる約束…忘れたとは言わせませんからね…?」

 

今度は三人同時に隊長に口付けをした。それと同時に隊長が目を開け、

 

「忘れるわけ無いだろ、俺の自慢の三羽烏達の事を」

 

「何や、狸寝入りやったんか…」

 

「隊長ずるい~」

 

「ははっ、ゴメンゴメン。でも、もう消える事は無いよ」

 

あっけらかんと言い放つ隊長。

 

「ほ~、その根拠は?」

 

「魏の皆や三羽烏達との絆…かな…?」

 

「「「!!!」」」

 

「こんなに思ってくれている子達が居るんだ、神様が空気を読んでくれたのさ、きっと」

 

そう言うと、何かを思い出したように隊長が、

 

「あ、そうだ、すっかり忘れてた。ただいま!!皆!!」

 

と、笑顔で言った。私達は顔を見合わせ、

 

「お帰りなさい!!隊長!!」 「隊長、お帰り!!」 「隊長、お帰りなさいなの~♪」

 

と、城中に、町中に聞こえるように大声を張り上げて言った。

 

この絆があれば、どんな困難も乗り切れる。

 

私達は『北郷』の『三羽烏』なのだから―――。

 

 

 

 
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