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真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第50話【月拠点】

葉月さん

お久しぶりです。
忘れられていないか心配な葉月です。
まあ、とりあえず生きているので、更新は続けますよ!

世はクリスマスらしいですが、私はいつも通りいきますよ!

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2012-12-23 19:14:11 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:6370   閲覧ユーザー数:4714

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第50話 月拠点

 

 

 

 

【私の陽だまり】

 

 

 

《月視点》

 

「ふんふふんふ~~ん♪今日も良い天気だな」

 

晴れ渡る空を見上げて眩しさに目を細める。

 

「これなら直ぐに乾きそうだね、詠ちゃん」

 

「そうね」

 

詠ちゃんも洗濯物を干しながら同意してくれました。

 

「ふぅ……それにしてもなんでこんなに洗濯物があるのよ」

 

籠に山積みの洗濯物を見て愚痴を言う詠ちゃん。

 

「仕方ないよ。それにこれが私たちのお仕事なんだから、文句を言ったらだめだよ」

 

「分かってるわよ。ただ言わないとやっていけないのよ」

 

「もう、詠ちゃんたら」

 

詠ちゃんの言葉に思わず苦笑いを浮かべました。

 

「おっ!精が出るね」

 

「あ、ご主人様」

 

「げっ」

 

洗濯物を干していると、ご主人様が声をかけてくださいました。

 

「げっ、は無いだろ詠」

 

詠ちゃんの態度に怒ることなく苦笑いを浮かべるご主人様。

 

「そんな事より何の様よ。見ての通りボクと月は忙しいんだからあんたと話してる暇は無いんだけど」

 

「なら俺が手伝えば少しは楽になるよね」

 

ご主人様は笑顔で答えると、籠から洗濯物を手に取り、干し始めました。

 

「え、ち、ちょっと!」

 

「ご主人様!流石にそこまでして頂く訳には!」

 

「良いから良いから、俺も学園の寮で一人暮らししてたからね、これくらいどうってことないよ」

 

私と詠ちゃんは慌ててご主人様を止めようとしましたが、受け入れてくださいませんでした。

 

「と、兎に角、ご主人様だけにやらせる訳にはいかないよね」

 

「そうね。はぁ、ホント迷惑なんだから……ほらほら、そこ邪魔よ!ボクの場所取らないでよね!」

 

「お、競争か?負けないぞ」

 

「ふん!メイドで磨き上げたボクがあんたに負けるわけ無いでしょ」

 

詠ちゃんは溜息を吐くと洗濯物を手に取りご主人様を押しのける形で干し始めました。

 

「ふふふ……私も負けてられないよね。ご主人様~、そこどいてくださいね~」

 

私も洗濯物を手にご主人様と詠ちゃんが洗濯物を干し合っている中に参戦していきました。

 

………………

 

…………

 

……

 

「ふぅ、早く終わりましたね、ご主人様」

 

「まあ、このバカが行き成り競争なんて始めたからね」

 

洗濯物は一列に干され風になびいていました。

 

「お疲れ様です、お茶をどうぞ、ご主人様」

 

「おっ!サンキュー、月」

 

「さ、産休?私、まだご主人様の子供なんて宿していませんよ」

 

「ああ、ありがとうって意味なんだよ……て、ちょっと待て月」

 

「はい?」

 

「今、なんていった?」

 

「え?子供なんて宿していませんよ、と言いましたけど」

 

「いや、もう少し前なんだけど」

 

「もう少し前ですか?えっと、ご主人様の子供、なんて……へう!」

 

自分の言った言葉に一気に体が熱くなった。

 

へぅ~、わ、私なんてことを言ってしまったのでしょう……恥ずかしい。

 

「っっ!月になに言わせてるのよ、このボケ一刀!」

 

(げしっ!)

 

え?今、詠ちゃん。ご主人様の事を……

 

「まったく、油断も隙もないんだから」

 

「いてて……別に蹴らなくても良いじゃないか」

 

「うっさい!あんたが月に変なことを言わせようとしたのがいけないんでしょ」

 

だけど、詠ちゃんはさっきの一回きりでいつもの呼び方に戻っていました。

 

「いや、最初に言ったのは俺じゃなくてゆっ」

 

「……」

 

「何でもありません……」

 

ご主人様は詠ちゃんに睨まれて何も言えなくなってしまいました。

 

「まったく……油断も隙もないんだから……それで?」

 

「え?」

 

「え?じゃないわよ。ボク達に用があったからここに来たんでしょ。早く要件を言いなさいよね」

 

「そうだった。実はお願いがあってさ」

 

ご主人様は詠ちゃんに指摘され、ここへ何をしに来たのかを思い出したようでした。

 

「はぁ?面倒事じゃないでしょうね。さっきも言ったけどボク達忙しいんだけど」

 

「違う違う。ちょっと買い物に付き合って欲しいんだよ」

 

「十分面倒ごとじゃないのよ、買い物なんて一人で行けばいいじゃない」

 

詠ちゃんは冷たくご主人様を突き放そうとしていました。

 

「もう、詠ちゃん。なんでご主人様にだけそんなに冷たいの?」

 

「だけじゃないわよ。それにボクが冷たいのはいつもの事でしょ」

 

「そんなことないよ。詠ちゃんはとっても優しいよ」

 

「う゛……」

 

「そうですよね、ご主人様」

 

「ああ、なんだかんだ言って詠は手伝ってくれるからね。助かってるよ」

 

「ほらね」

 

「と、とにかく!ボクたちは忙しいんだから行かないわよ!」

 

詠ちゃんは顔を赤くしてそっぽを向いてしまいました。

 

「私は構いませんよ、ご主人様」

 

「ちょ!月!?」

 

私がご主人様の買い物に着いて行くというと詠ちゃんは凄く驚いた声をあげました。

 

「な、何考えてるのよ月!別にあいつの買い物なんかに付き合う必要ないでしょ」

 

「でも、私たちはご主人様のメイドなんだよ?」

 

「それはそうだけど……そ、そうよ!まだボク達にはやらないといけない仕事があるじゃない!」

 

「でも、この後のお仕事ってお昼過ぎまで無いはずだよね」

 

「うぐっ!」

 

この後の予定を思い出して詠ちゃんに伝えると、詠ちゃんは黙ってしまいました。

 

「ぼ、ボクは用事があるのよ」

 

「そうなんだ……」

 

「ぅ……」

 

少し残念そうに答えると詠ちゃんは済まなそうな顔をしていました。

 

「ご主人様、すみません。ご一緒することは出来ません」

 

残念だけど仕方ないよね、詠ちゃんが無理なら私一人で行くなんて出来ないし。

 

「ゆ、月……」

 

「そっか、それじゃ仕方ないね。また今度誘うよ」

 

「はい、その時はぜひ」

 

「ち、ちょっと待ちなさいよ!」

 

「え?」

 

「詠ちゃん?」

 

詠ちゃんの大声にご主人様も私も驚いた。

 

「あんたねえ!どう考えたってここは月を連れて行くところでしょうが!」

 

「え、だ、だって」

 

「だって、じゃ無いわよ!いい!?月を悲しませるようなことをしたら許さないんだからね!」

 

「は、はいぃ!」

 

詠ちゃんに言われ返事をするご主人様。

 

「それじゃ、月。ボクは用事を済ませてくるからあの馬鹿の買い物に付き合ってあげて」

 

「……うん。ありがとう、詠ちゃん」

 

「べ、別にボクは何もしてないわよ」

 

詠ちゃんは頬を染めて恥ずかしそうに言っていました。

 

ありがとう、詠ちゃん。私のために気を使ってくれたんだよね。

 

詠ちゃんは少し素直じゃないところがあるから、きっと私がそう言っても違うって言い張っちゃうから言わないでおきました。

 

「それでは、ご主人様。お買い物へ参りましょう」

 

「ああ。それじゃ、詠。少しだけ月を借りていくね」

 

「詠ちゃん、それじゃ、ちょっと行ってくるね」

 

「気を付けるのよ、月。こいつに変な事されたら大声で叫んで助けを呼ぶのよ」

 

「ご主人様はそんなことしないよ?」

 

「ありえないわ。いつも愛紗や桃香さちをはべらしてるんだから」

 

「は、はべらしてるって人聞きが悪いな」

 

「事実でしょうが、それともなに?愛紗たちと居て何も無いって言いたいわけ?」

 

「いや、それは……」

 

「そらみなさい。だから月。直ぐに助けを呼ぶのよ」

 

「もう……ご主人様はそんなことしないと思うけど、詠ちゃんがそう言うなら気をつけるね」

 

ご主人様は私たちが嫌がるようなことは決してしないので全然気にしていなかったけど、詠ちゃんを安心させる為に頷きました。

 

「それじゃ、詠ちゃん。行って来ます」

 

「行ってらっしゃい、月」

 

「行ってくるよ、詠」

 

「月に変な事したら地獄の果てまで追い掛け回すんだから、覚悟しなさいよ」

 

「だからしないって」

 

「ふん、どうだか……まあ、あんたも気をつけて行って来なさいよ」

 

「ああ」

 

文句を言いながらも、最後にはご主人様の心配をする詠ちゃん。普通に気をつけてって言えばいいのにね。

 

「それでご主人様。何を買われるのですか?」

 

街を歩きながらご主人様に何を買いに来たのかを伺いました。

 

「ん?ああ。筆5本と硯2個に槍を1000本、あとは朱里に本を頼まれた」

 

「あ、あの、ご主人様?それってお遣い、ですよね?」

 

「ま、まあ、そうとも言うかな」

 

ご主人様は苦笑いを浮かべていました。

 

「まあ、みんな次の軍行の為に忙しいみたいだからね。せめてこれくらいは引き受けないとさ」

 

「ご立派だと思いますよ、ご主人様」

 

「そうかな?」

 

「はい」

 

「そっか。ありがとうな、月」

 

(なでなで)

 

「へぅ」

 

ご主人様にお礼を言われ、頭を撫でられてしまいました。

 

ご主人様の手はとても大きくて暖かくて、そんな手で頭を撫でられるのが私は好きです。

 

「よし、まずはここからだな」

 

「そうですね」

 

まず一件目、筆と硯を売っているお店を見つけました。

 

「すみません!」

 

「へい!っ!こ、これはこれは御遣い様!何かご用でしょうか」

 

「筆を5本と硯を2個欲しいんだけど、あるかな」

 

「し、少々お待ちを!」

 

お店の店主さんは慌てて店の奥へと駆け込んで行ってしまいました。

 

「そんなに急がなくても良いのにな」

 

「ご主人様が買い物に来たから驚いたんだと思いますよ」

 

「なんで?」

 

「それはご主人様が御使い様でこの蜀を救ってくださるお方だからですよ」

 

「大げさだな」

 

「大げさではありません。ここに住んでいる民たちはそれだけご主人様に期待をしているんですよ」

 

「そうだね。みんなの期待に応えられるように頑張って首都に行って国を建て直さないとな」

 

「あっ!す、すみません、強く言い過ぎました」

 

少し強い口調で言ってしまったことに慌てて謝りました。

 

「いや、お礼を言うのは俺の方だよ。少し、自覚が足りなかったみたいだ。ありがとう、月」

 

「そ、そんな……」

 

逆にご主人様からお礼を言われてしまいました。

 

「お待たせしてすみません!こちらがご注文された筆と硯でございます」

 

「全然待ってないよ、むしろ早い方だよ。お題はこれで足りるよね」

 

「め、めめ滅相もございません!御遣い様からお金を頂くなど!」

 

「何言ってるんだよ。品物なんだからちゃんとお金を払わないと泥棒になっちゃうだろ?それとも店主は俺たちを泥棒にしたいのかな?」

 

「ま、まさかそのようなことは決して!」

 

「なら、はい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「うん。それじゃ、お店頑張って繁盛させてくれよ」

 

ご主人様はお店の店主にお代を渡すと店から出ました。

 

「よし、それじゃ次に行こうか」

 

「はい」

 

そして、ご主人様と私は次々とお使いをこなしていきました。さすがに槍1000本は持って帰れないのでお城に運んで貰うように頼みましたが。

 

「あとは朱里さんたちの本だけですね。どこの本屋さんなんですか?」

 

「えっと、確かここら辺のはずなんだけど……おっ!あったあった。あそこだよ」

 

辺りを見回していたご主人様は一件のお店を見つけて駆け寄って行きました。

 

「月も早くおいでよ!」

 

「はい!」

 

ふふふっ、ご主人様ったら子供みたい。

 

ご主人様はたまに子供の様に屈託なく笑います。その笑顔がとても可愛くて思わず微笑んでしまいました。

 

「すみませーん!」

 

「へい、いらっしゃっ!?み、御遣い様!?」

 

お店に入ると他のお店と同じように店主さんはご主人様を見て驚いていました。

 

「えっと、諸葛亮がここで本の注文をしたと思うんだけど、届いてるかな」

 

「し、諸葛亮様のご注文の品ですね!?す、直ぐにお持ちいたします!」

 

「あっ、別にそんなに急がなっ……行っちゃった」

 

「そうですね」

 

ご主人様は苦笑いを浮かべて言ってきました。

 

「それにしても、朱里さんはどんなご本を注文されたのでしょうね」

 

「多分、これからの戦いに必要な軍略書とかじゃないのかな。朱里や雛里は勉強熱心だからね。ホントいつも助けられてるよ」

 

「そうですね」

 

ご主人様は自分の事の様に朱里さんたちの事を褒めていました。

 

「もちろん、月や詠にも身の回りの世話をしてもらって助かってるよ。ありがとうな、月」

 

「へぅ~、き、急にそんなことを言われると恥ずかしいです。それにご主人様の身の回りのお世話をするのが私と詠ちゃんのお仕事ですから」

 

「はははっ、ごめんごめん、でも、本当の事だからさ。改めてお礼を言っておきたかったんだよ」

 

「へぅ~」

 

ご主人様の労いのお言葉に嬉しさがこみ上げてきました。それと同時に胸の鼓動も強く、そして早くなってきていました。

 

へぅ~、恥ずかしいです。

 

「お待たせしました、こちらが諸葛亮様がご注文された御品になります」

 

しばらくすると、一つの包みを手に店主さんが戻ってきました。

 

「ありがとう。はい、これ御代ね」

 

「ま、毎度ありがとうございます!」

 

「それじゃ、出ようか」

 

「はい」

 

「さて、これで全部回ったかな」

 

ご主人様はなにやら竹簡を見ながら確認をしていました。

 

「?ご主人様、それはなんですか?」

 

「ん?ああ、これ?これはメモだよ」

 

「め、も、とは、どんなものなんですか?」

 

「ちょっとした事を書きとめておくものだよ。本当は紙を使うんだけど、紙は貴重だからね。こうして竹簡に書いてあるんだよ。見てみる?」

 

「よろしいのですか?」

 

「ああ、これがみんなに頼まれたものを書き留めたメモだよ」

 

そういって、ご主人様は私に見せてくださいました。

 

「これは便利ですね……こうして書き留めておけば忘れることがないですし」

 

「うん。だけど、これには問題があるんだよね」

 

「?どのような問題なんですか?」

 

こんな便利なものに問題なんてあるのでしょうか?

 

「それは……かさ張るんだよ。だから、大量に持てない」

 

「あっ、確かにそうですね」

 

ご主人様は竹簡を重ねる振りをして納得しました。確かに大量には持てないですね。

 

(ドンッ!)

 

「きゃっ!」

 

「大丈夫か、月」

 

通行人にぶつかってしまいよろけてしまいました。

 

「は、はい。大丈夫です」

 

「大分、人が多くなってきたな」

 

「そうですね」

 

陽も高くなり買い物をする人、露店を出す人たちが徐々に増えてきました。

 

「まだ時間あるよね、月」

 

「え?あ、はい。夕餉の支度までまだ時間はあります」

 

「そっか、ならちょっと着いて来て」

 

「え?あ、え?」

 

ご主人様は私の手を取り突然歩き始めました。

 

ど、どこに行くのでしょうか……

 

「……」

 

ご主人様は無言で私の手を取り、どんどんと歩いていきました。

 

へぅ……気のせいかもしれないけど、段々お城から離れているような気が……

 

「……っ!」

 

気のせいじゃありませんでした。辺りを見回し、お城を探してみると私たちの背後の方にわずかにお城の屋根が見えるほどでした。

 

「あ、あの、ご主人様。お城から離れているようですが、大丈夫なのでしょうか?」

 

不安になり、ご主人様に話しかける。

 

「大丈夫だよ。そんなに遠くじゃないからね」

 

「そ、そうですか」

 

遠くは無いとご主人様は言っていますが、前方に外周の城壁が見えてきていました。

 

「ご主人様、もしかしてお城の外に……」

 

「……」

 

躊躇いがちにご主人様に話しかけると、ご主人様は微笑み、人差し指を口に当てて秘密であることを言ってきました。

 

「へぅ……」

 

愛紗さんたちに怒られないかな?

 

ご主人様はいつも一人で散歩に出かける癖があり、いつもそれで愛紗さんに注意されていました。

 

「……へう!?あ、あのご主人様!?」

 

考え事をしていると行き成りご主人様に目隠しをされてしまいました。

 

「ここからは秘密ね」

 

「ひ、秘密!?」

 

「それと……よっと」

 

「へう!?」

 

ふわりと体が宙に浮くと背中と膝裏に腕が添えられました。これって抱っこされてる!?

 

「目的地まではこのままでいくよ」

 

「……へぅ」

 

目隠しをされて不安もありましたが、それよりもご主人様に抱っこされていることの方が凄く恥ずかしいです。

 

「直ぐに着くからちょっとだけ我慢してて」

 

「は、はい……」

 

ご主人様の優しい声に頷き、首に手を回しぎゅっと抱き着きました。

 

「……」

 

しばらく無言で歩くご主人様。

 

街の喧騒は遠くなり、徐々にでしたが肌寒くなってきた気がしました。

 

(~~っ!)

 

「寒い?」

 

「は、はい。少しだけ……」

 

「ごめんね、もう少しで着くから」

 

「随分歩いているみたいですが、どこへ案内してくれるのですか?」

 

「それは着いてからのお楽しみだよ」

 

目隠しをされ表情は分かりませんでしたが、何となくご主人様が優しく微笑んでいるような気がして少し頬が熱くなってしまいました。

 

へぅ……は、早く着いてくれないでしょうか、とてもはずかしいです。

 

で、でも、こうしてご主人様に抱きかかえられるのも滅多にあることじゃないよね。へぅ……わ、私どうすればいいのかな、詠ちゃん。

 

私はここには居ない親友の名を呼んだ。

 

………………

 

…………

 

……

 

「っ!?」

 

「む?どうかしたか詠よ。話の途中で」

 

詠と愛紗が軍の事で言い争いをしていると詠は急に辺りを見回した。

 

「いや……なんだか月に呼ばれたような気がしたんだけど」

 

「月ならご主人様と買い物に行き、まだ戻ってきていないであろう」

 

「そうよ。あなた達があの馬鹿に買い物なんて頼むから月も付き合う羽目になったんだったわね」

 

「い、いや、あれはご主人様がついにで何かないかと聞かれたので……つい」

 

「つい、ね……まったく」

 

「まあまあ、月ちゃんにも息抜きは必要だと思うんだよ、だからご主人様は誘ったんじゃないかな?」

 

詠の追及に桃香は愛紗に助け舟を出す。

 

「まあ、確かに息抜きは必要だとは思うけど」

 

「うんうん、そうだよね」

 

「だからってあいつと一緒に居て何もないって言い切れるわけ?」

 

「「っ!?」」

 

桃香と愛紗は二人して動きを止めた。

 

「そ、そそそんなことあるわけがないではないか……で、ですよね、桃香様!」

 

「うんうん!ご主人様は絶対嫌がるようなことはしないし!」

 

「月が嫌がらなかったら?」

 

「「っ!?!?」」

 

「わ、私はご主人様を信じている!」

 

「わ、私だって!」

 

「ふ~ん……ああ、きっと月は今頃あいつと楽しく買い物でもしてるのかしらね」

 

「……」

 

「……」

 

「そして、仕舞いには良い雰囲気になって……」

 

「~~っ」

 

「~~っ」

 

「最後はひとつに……」

 

「愛紗ちゃん!」

 

「桃香様!」

 

「あ、ちょっと!……少し煽りすぎたかしら」

 

まさかこんなに効果があるとは思わなかったのか詠は頭を掻きながら二人が出て行った扉を見つめながら呟いていた。

 

………………

 

…………

 

……

 

「さあ、着いたよ」

 

目的の場所に着いたのかご主人様は私を降ろして目隠しを外してくれました。

 

「わぁ……綺麗」

 

ご主人様に案内された場所は林の中に一部だけ日の当たる場所だった。

 

「ご主人様、ここは?」

 

「たまたま見つけた俺の昼寝の場所」

 

「ひ、昼寝、ですか……」

 

「そ、昼寝」

 

笑顔で答えるご主人様に対して、私は少し苦笑いを浮かべました。

 

もしかして愛紗さんがご主人様が居なくなったって慌ててる時っていつもここで昼寝を……

 

「ほらほら、そんなところで立ってないでこっちにお出でよ」

 

「え?あ、あれ?」

 

いつの間にかご主人様は私の横から日の射す場所で寝そべっていました。

 

「ほらほら座って座って」

 

「は、はい」

 

ご主人様に言われるまま、私は寝そべるご主人様の横に腰を下ろしました。

 

「どうだ、風が気持ちいだろ?」

 

「確かに気持ちの良い風が通りますね。それになんだか微かにですが花の香りが混じっているような」

 

「月は鼻が良いな。この先に花畑があるんだよ。風もその花畑から吹いて来てるからそれに乗って運ばれてきてるんだ」

 

「お花畑……」

 

「ああ、あとで行ってみようか?」

 

「はい、ぜひ」

 

「それじゃ……」

 

「?……」

 

ご主人様はちょいちょいと笑顔で手招きをしてきました。一体なんでしょうか?

 

「……それ♪」

 

「へう!?あ、あのご主人様!?」

 

ご主人様は私の手を取り、無理やりに引き寄せられ、そのままご主人様の横に倒れてしまいました。

 

「月もいつも仕事で大変なんだからたまにはこうやってのんびりしないとね」

 

「で、ですが……へぅ」

 

ご主人様のお顔がこんなに近くに……は、恥ずかしいです。

 

「ん~!気持ちが良いな……そう思わないか?」

 

「そ、そうですね」

 

頷きはしたものの、ご主人様の横にいてそれどころではありませんでした。

 

「……あ、あの、ご主人様」

 

しばらく経ち、恥ずかしさに耐えられなくなった私はご主人様に話しかけました。

 

「ご主人様?」

 

しかし、話しかけてもご主人様からの返事はありませんでした。

 

「……?……あっ」

 

「すー、すー」

 

不思議に思い少し体を起こしてご主人様の様子を見ると寝息を立てて気持ちよさそうに寝てしまっていました。

 

「ふふっ」

 

私はご主人様の無防備な寝顔に思わず笑ってしまいました。

 

「ふぁ……」

 

そして、暖かい日差しと心地よい風に私も眠たくなってきてしまいました。

 

「……少しだけなら、いいよね?」

 

思わず周りを見渡し、誰も居ないことを確認して独り言を言った私は、ご主人様の腕を枕に寄り添うようにして隣に寝ました。

 

「……へぅ。ちょっと大胆だったかな?」

 

自分の取った行動に頬を赤くした。

 

「でも、誰も見てないから良いよね?」

 

そして、私はそのままご主人様の横で目を瞑った。

 

なんでかな。こうやって目を瞑ってご主人様とご一緒していると凄く安らげる。

 

最初のうちは恥ずかしさで心臓の音が早かったのに、そのうちに段々と穏やかになってきた。

 

やっぱり……ご主人様、すご……い……な……

 

徐々に私の意識が遠くなり始めてきた。

 

おやすみ、なさい……ご主人様……だい、す……

 

私は、最後に何かを言おうとしてそこで意識を落とし、眠ってしまいました。

 

「…………さま……………………かっ!」

 

ん……誰かの声が聞こえる。

 

寝ていた私の耳に誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「ご…………さま!ゆ……………………おいで…………すかっ!」

 

この声は……愛紗、さん?

 

「っ!」

 

声の主が愛紗さんだと分かり、私は勢い良く起き上がった。

 

「あ、あれ?さっきまでは空は青かったのに……」

 

先ほどまで陽が私たちを照らしていましたが、その太陽はいつの間にか無くなり、代わりに月が私たちを照らし出していました。

 

「ご主人様!月!どこに居るのだ!」

 

「ご主人様~~~!月ちゃ~~~ん!どこ~~~~!」

 

遠くから愛紗さんと桃香様の私たちを呼ぶ声が聞こえてきました。

 

「た、大変!きっと帰るのが遅くなっちゃったから……っ!ご、ご主人様、起きてください。ご主人様!」

 

(ゆさゆさ)

 

「んっ……もう少し寝かせてくれ、月……ぐぅ」

 

「だ、ダメです~」

 

ご主人様を起こそうと揺すってみたが一向に起きる気配がありませんでした。

 

「お前たち!ご主人様を見つけ次第、直ぐに報告しろ!あとはこの一帯だけだ!」

 

「「はっ!」」

 

声が段々と近づいて来てる。早くご主人様を起こさないと。

 

「ご主人様、もう夜なんです。起きてください」

 

(ゆさゆさ)

 

「ん~……月」

 

「はい。起きて頂けましたか、ご主人さっ」

 

「月も一緒にねよ~~」

 

(がばっ!)

 

「へ、へぅ!?」

 

ご主人様が私の名を呼んでくれたので起きてくれたと思ったのですが、そのまま私を抱き寄せてまた眠ってしまいました。

 

「ご、ご主人様!」

 

「ん~……月は良い匂いだな……」

 

「っ!へぅ~~」

 

ご主人様の寝言に恥ずかしくなり顔を赤くする。

 

「月~!どこにいるの、月~~~!」

 

「っ!」

 

い、今の声は詠ちゃん?

 

恥ずかしがっていると更に近くから詠ちゃんの声が聞こえてきました。

 

(ガサガサッ!)

 

「まったく、どこに言ったの、よ……」

 

「え、詠ちゃん」

 

茂みを掻き分けて文句を言いながら私たちを探していた詠ちゃんは抱き合っている、厳密には抱き付かれている姿を見て動きを止めました。

 

「な、なにしてんのよ、あんたはーーーーーっ!!!」

 

詠ちゃんは肩を震わせて怒鳴った後、ご主人様のお腹目掛けて飛び乗ってきました。

 

「んっ~~……ん?……ぐはっ!?……な、なんだ?」

 

眠って無防備だったご主人様は詠ちゃんがお腹の上に飛び乗られ、その痛さで目を覚ましました。

 

「え、詠!?な、何で俺のお腹の上に……」

 

「……何でですって?あんたが月に不埒なことをしてたからでしょうが!」

 

(ぎゅ~~っ!)

 

「いひゃい、いひゃい!」

 

「詠ちゃん、別にご主人様はそんなことしてないよ」

 

ご主人様の頬をつねり上げる詠ちゃんに、私は何もされてないことを伝えた。

 

「ひょ、ひょうだぞ。まだ、ふへには手をだひてなひほ!」

 

「まだですって!?それじゃ、手を出そうとはしてたってことよね!?」

 

「ち、違っ!」

 

「いいえ!言い訳は無用よ!愛紗ーーーっ!こっちで一刀が月にいやらしいことをしようとしてたわよ!」

 

「なっ!?」

 

(ドドドドドドッ!)

 

詠ちゃんが愛紗さんを呼ぶと同時に凄い勢いで何かが近づいてきました。

 

「ご~しゅ~じ~ん~さ~ま~~~~っ!」

 

「あ、愛紗!?」

 

「見つけましたよ、ご主人様」

 

腕を組みご主人様を睨み付ける愛紗さん。

 

「このような所でな・に・をしておいでだったのですか?」

 

「い、いや、そ」

 

「月に抱き着いて寝ころんでたのよ」

 

「ち、ちょっと詠!」

 

「なによ、別に嘘はついてないでしょ。そうよね、月」

 

「う、うん」

 

詠ちゃんは私に同意を求めてきた。

 

「それみなさい」

 

「……ご主人様。あちらで桃香様がお待ちです。じっくりとお話を聞かせて貰いましょう。そのあとは遅れた政務の続きをしてもらいます」

 

「で、でも今日は」

 

「い・い・で・す・ね!」

 

「……はい」

 

「では、参りましょうか」

 

「ち、ちょっと待ってくれ、愛紗」

 

「まだなにか?」

 

「月」

 

「は、はい?」

 

「今日は助かったよ、ありがとうな。それと、月と一緒に買い物が出来てすごく楽しかったよ。それじゃ」

 

「……」

 

ご主人様は笑顔で私のお礼を言うと愛紗さんに連れられて行ってしまいました。

 

「まったく……本当に人騒がせなんだから……月も災難だったわね……月?」

 

「……」

 

「月?ちょっと、どうしたの?」

 

「へう!?え?あ、な、何かな詠ちゃん」

 

いつの間にかボーっとしていた私は詠ちゃんに揺さぶられて我に返りました。

 

「何かな?じゃないわよ。どうしたのよ」

 

「う、うん……やっぱりご主人様は恰好が良いなって思って」

 

「はぁ?どこが恰好が良いのよ。だらしないし、いつもニヤニヤ笑ってるし。恰好が良い所なんて一つもないじゃない」

 

「そんなことないよ。ちゃんとみんなの事を気にかけてくれるし、困ってると直ぐに来てくれて相談にも乗ってくれるし。それに……」

 

『月と一緒に買い物が出来てすごく楽しかったよ』

 

それに、いつも言って欲しい言葉を言ってくださるから……

 

「それに?」

 

「……秘密♪」

 

首を傾げる詠ちゃんに私は微笑みながら答えた。

 

「ちょ!そこまで言っておいてそれは無いんじゃない、月」

 

「ふふっ、そのうち詠ちゃんにもわかるよ」

 

「あ!ま、待ちなさいよ、月!ボクを置いて先に帰らないでよ!」

 

ご主人様を好きになって本当によかったっと私は心の中で思い、改めて思いました。

 

《To be continued...》

葉月「ども、お久しぶりです。みなさん覚えていますか?葉月です」

 

愛紗「忘れたな」

 

葉月「ひどい!」

 

愛紗「これだけ間を開けていれば言われても仕方がないだろ」

 

葉月「うぐっ!だ、だって……仕事が忙しかったんだもん!」

 

愛紗「可愛く言っても可愛くないぞ」

 

葉月「分かってますよ。自分で言ってものすごく後悔しましたから」

 

愛紗「まったく……さて、ダメな葉月は放っておき来客だ」

 

葉月「ダメって酷いな……さて、気を取り直して今回のゲストは月です!」

 

月「お、お久しぶりです」

 

葉月「へぅ ( ゜∀゜) 。彡゜」

 

月「へう!?」

 

愛紗「な、なんだその奇妙な記号は」

 

葉月「これですか?これはTINAMIの恋姫ラウンジの挨拶らしいですよ。今晩はへぅ ( ゜∀゜) 。彡゜みたいな」

 

愛紗「な、なんと……」

 

葉月「愛されてるってことですかね」

 

月「へぅ……なんだか恥ずかしいですね」

 

葉月「ここで突然!そんな恥ずかしがりやな月に質問です!」

 

月「へう!?」

 

葉月「一刀とのお昼寝はいかがでしたか?」

 

月「~~~~~~っ!?」

 

葉月「ほうほう、顔を赤らめ声にならないほど幸せだったと。そう言いたいんですね。次の質問です!」

 

月「へう!?」

 

愛紗「お、おい。月が困ってっ」

 

葉月「やっぱり、一刀との子供は欲しいです、ぶはっ!」

 

月「は、葉月さん!?」

 

愛紗「はぁ……はぁ……き、貴様は……なんてことを聞いているのだ!」

 

葉月「いてて……いきなり何するんですか。パーじゃなく、グーで殴りましたね。グーで!」

 

愛紗「当り前だ!月も答えなくて構わぬぞ」

 

月「……です」

 

葉月・愛紗「え?」

 

月「そ、その……御主人様との子供が欲しい、です……へぅ、は、恥ずかしいです!」

 

葉月「だ、そうですよ、愛紗さん」

 

愛紗「え?あ、いや……そ、そうか……」

 

月「だ、だから……愛紗さんにも桃香様にも負けません!……」

 

葉月「月からの宣戦布告!これに愛紗はどう答える!?」

 

愛紗「あ、いや……ごほん!わ、私も負けるつもりは無いぞ。私もご主人様との子が……っ!」

 

葉月「子が……なんですか?(ニヤニヤ)」

 

愛紗「き、貴様は私に何を言わせるつもりだーーーーーーーーっ!!」

 

葉月「ぶべらっ!……くっ!ま、またグーで殴りましたね!」

 

愛紗「うるさい!貴様の口が開かぬようにしてやる!」

 

葉月「どわっ!?ま、またその展開ですか!?いい加減、得物を振り回して私に襲い掛かるの飽きてくださいよ!」

 

愛紗「貴様が私を煽るようなことをしなければ済む話であろう!」

 

葉月「それは無理な相談ですね!」

 

愛紗「では、私も無理な相談だな!」

 

葉月「それじゃ、いつも通りの展開で!では、皆さん!多分、今年のアップはこれで最後になると思います!じ、次回は我らがマスコット、優未ちゃんのお話です!ど、どうぞご期待、どわっ!?く、くださいーーーーー!」

 

愛紗「では、みなのもの!今年、残りわずかだが、元気に暮らすのだぞ、葉月以外はな!はぁああああっ!!」

 

葉月「ひぃーーーっ!で、では、またお会いしましょう!」

 

愛紗「さらばだ!」

 

月「……ふ、二人とも行ってしまいました……え、えっと、来年もどうか作者である葉月をよろしくお願いします。それではみなさん、良いお年を」


 
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