~聖side~
「麗紗!!!?」
俺の声が届いているのかいないのか…。麗紗は振り返る事無く走り去っていった…。
一体、何があったのか…。
「御使い様…。お連れ様が…。」
「あぁ…。どうしたんだろな…。」
「追いかけないのですか??」
「いやっ、心配だし直ぐに追いかけるよ…。」
「そうでございますか。 少し、出過ぎた事やもしれませんが…。」
「ん?? なんだ??」
「お連れ様を怒らないであげて下さいませ。そして、話を聞いてあげてください。」
「…あぁ、分かった。 女将さんは、麗紗が走っていった理由が分かるのか??」
「はい。何となく…でございますが…。」
「じゃあ、教えてくれないか? 一体何が…。」
「あくまでこれは私の推論でございます。その様なものを、御使い様にお聞かせすることは出来ません。 ちゃんと、その理由はご本人様からお聞きくださいませ。」
「…それも、そうか…。しかし…一体どうして…。」
「……女の子とは、難しい生き物なのでございますよ…。 では、御使い様。 お代は結構ですので、お早く追いかけてくださいませ。」
「分かった…。 また、お代は払いに来るからその時で…。」
「はい。お待ちしております…。」
俺は、椅子から立ち上がると、店から出て、人の往来が激しい道を、麗紗を探すために走りだした。
その頃、先ほどのお店では…。
「これで、よろしかったのですか? 雅様?」
「えぇ、朱熹。手伝ってもらってありがとね。」
「それにしても…急に、『この店の女将さんをやって欲しい』と言われた時は、吃驚致しましたよ。」
「でも、結構はまってたよ? ひーちゃんだって気付いていないみたいだし。」
「その様でしたね…。私としては、少し嬉しいような、気付いてもらえなくて悲しいような…。」
「あ~あ。ここにも、ひーちゃんに傷つけられた娘が…。 ひーちゃんも罪深いね~…。」
「それで、確りと約束は守っていただけるのでしょうか??」
「えぇ。ちゃんと、ここに…。あった!! はい、『ひーちゃんの予定表』。これで、ひーちゃんが何時暇かが一目で分かるよ。」
「ふふふっ。これで私も…。」
「さて…麗紗ちゃん。 後はあなた次第だからね…。」
雅は微かに笑った後、朱熹と一緒に、その店の主人に聖たちの御飯のお金を支払って、満足そうに城へと戻っていった。
「お~い!!!麗紗~!!!! 麗紗~!!!!!」
声を張り上げるが、目的の人物は見つかりそうに無い…。
「はぁ~…。一体何処に行ったんだ??」
探し始めてから大分時間が経ち、日は暮れ、辺りは闇夜の装いを見せ始めている。
早く見つけないと麗紗が何かの事件に巻き込まれてしまうかもしれない…。または、既に巻き込まれてしまったかもしれない…。
最悪のシナリオが頭を過ぎる…。
俺は頭を振り、その思考をかき消した後、再び麗紗を探すために走り出す。
……一体、何処に行ったんだよ…。
「あれっ? お頭じゃないっすか!! どうしたんすか?血相を変えて。」
通りを走っていると、向こうから来た勇に呼び止められた。
「勇か…。悪いな、今急いでいるんだ…。」
それだけ言って脇を通り過ぎようとすると…。
「何かあったんで? さっき、麗紗の姉御も走って行きやしたし…。」
と、耳を疑う返答があった。
「何っ!!? 麗紗を見たのか!?」
「へぇ…。さっき、この通りを走って行きやしたよ。」
「麗紗はどこに向かったか分からないか!?」
「そうでさぁね…。あの方向だと…森の方に向かったんじゃ…。」
「森だな!? よしっ、行ってみるか。 助かったぜ、勇。警邏頑張れよ!!」
「はぁ……。」
キョトンとしたままの勇から離れ、森へと向かうことにした。
「はぁはぁ…。 ……森って言ったって、こう広くちゃな…。」
森へと着いた俺だったが、捜索面積は膨大…。
探し出すのは不可能に思える…。
「そう言えば…。麗紗が最後に小川に行きたいって言ってたっけ…。 ……行ってみるか。」
最後の希望を託し、小川へと向かう。
その小川は決して大きくは無く、長江へと流れる支流のほんの一本でしかない…。
その小川沿いには、作られたかのような休憩所がある。
大きな石で作られた椅子、その椅子に座る人を直射日光から守るように生える木々、水浴びをするのに適した流れの小川。
それはまるで、現代で言う小川沿いのキャンプ場のような。その様な雰囲気を醸し出している。
勿論、誰かが手を加えたのではない。自然によって出来た天然物である。
広陵に住む人々は、この自然によって出来た場所を、『神様がお休みになる神聖な場所』として大事に守っている。
俺も、その話は町長さんから聞いていたし、その存在は知っていたが、来たのはこれが初めてだった。
ふと、椅子の一つに座っている人影を見つける…。
「麗紗…。」
「………お兄…ちゃん…。」
声をかけるとこちらを振り向く麗紗。その目は赤く、目の周りは腫れていた…。
「…へへへっ…見つかっちゃいましたね…。」
「麗紗…どうして、いきなり走って行っちゃったんだ??」
俺は、素直に自分の一番の疑問をぶつけてみた。
「……全部…お兄ちゃんが悪いんですよ…。」
「俺が…?? 俺が何かしたのか??」
俺の問いに、麗紗は静かに縦に首を振った。
「何だ?? 俺が一体何をしたんだ?? 教えてくれ麗紗。」
「そう言う…鈍いところも問題なんですよ…??」
「えっ…??」
「…お兄ちゃんは…私のことをどう思ってますか??」
「どうって……そりゃ、本当の妹の様に…。」
ギリッ!!!
「だから!! それが鈍いって言ってるんです!!」
麗紗の突然の大声に開いた口が塞がらない俺…。
「私は……私はこんなにも…お兄ちゃんのことが好きなのに…。お兄ちゃんは、私のことを女としてみてくれなくて!!!! いつまで経っても妹から抜けられないんじゃないかって不安で!!!! 挙句の果てに…私にお兄ちゃんの実の妹を重ねるようになって!!!! ……このままじゃ、私という人を一生見てくれなくなるような…そんな気がして…。 そしたら、胸が締め付けられるように苦しくて…。」
涙を流しながら言葉を紡いでいく麗紗。
その言葉からは、どれだけ俺が麗紗を苦しませていたかがありありと伝わる。
……馬鹿だな俺って。皆を幸せにするってこの前誓ったばかりじゃないか…それなのに…。
「もういっその事、この軍から抜k『麗紗!!』…。」
確りと、離さないように麗紗を抱き締める。
「そこから続きは口にしては駄目だよ、麗紗…。一度口を突いて出た言葉は二度と消すことは出来ないからね…。」
「……ぐすっ……えっぐ…。」
言葉にならない嗚咽を漏らしながら、麗紗も俺に抱きつくように手を回してくる。
「ゴメンな…。俺、麗紗の言うとおり、麗紗に自分の妹を重ねて、そして、妹に接するように色々としてきた…。でも、それっておかしな話だよな…。麗紗は麗紗、妹は妹なのに…。」
「……。」
「さっきので、麗紗の気持ち凄く伝わって来たよ…。ありがとう。」
「…そ…そんな恥ずかしいこと…言わないで…ください…。( ///)」
麗紗は、赤くなったであろうその顔を隠すように、より一層抱き締める手に力を入れた。
お互いの体は隙間無くぴったりと張り付き、お互いの心臓の鼓動が伝わってくる。
「…麗紗の鼓動…早くなってるね…。」
「…お兄ちゃんだって…早鐘を打つみたいに…早くなってます…。」
「そりゃね…今までは妹としてみてたから大丈夫だったけど、一人の女の子として麗紗を見たら、やっぱり可愛くて…自然と鼓動も早くなっちゃうんだよ…。」
「……ふふっ…嬉しいです…お兄ちゃん…。」
麗紗は上目遣いに俺を見上げるので、俺は少し屈んで視線を麗紗と合わせる。
「お兄ちゃん……私は…私はお兄ちゃんのことが大好きです!!」
「ありがとう、麗紗…。俺も、麗紗のこと大好きだよ…。勿論、一人の女の子とし『お兄ちゃん!!』んっ…。」
いきなり俺の唇を塞ぐ麗紗の唇。
それは唇を重ねるだけの簡単なものだったが、麗紗の気持ちが入った熱い口付けだった。
「…んっ……はぁ……お兄ちゃん…。」
「…はぁ…麗紗…良いのか??」
「うん。お兄ちゃんなら…いえ…お兄ちゃんが良いんです……来て……ください…。」
*ここから先は皆さんのご想像にお任せします…。
「大丈夫か、麗紗??」
「う~~~ん……。まだ変な感じがします…。」
今俺達は、森から城に向けて帰宅中。
アレの所為で腰が抜けた麗紗をおんぶしながら、暗い森の獣道を歩いていた。
「なぁ、麗紗。一つだけ聞きたいことがあったんだが…。」
「何?? お兄ちゃん。」
「何で小川に行きたかったんだ??」
「それはですね…。これを見せたかったんです…。」
そう言って、俺の顔を上げさせる麗紗。
俺の目に入ってくるのは……満天の星空。
俺が始めにこの世界に来て見た星空となんら変わらない輝きを放つその星空を、麗紗は俺に見せたかったのだそうだ…。
「お兄ちゃんは…星を見るのが好きだと…そう、芽衣さんから聞きましたから…。」
「でもなんであそこ何だ? 休むだけなら色んな場所があるだろうに…。」
「お兄ちゃんは、あそこが『神様の休む場所』と呼ばれているのをご存知ですか?」
「あぁ。町の人がそう呼んでいるのを聞いたことがある。」
「天の御使いであるお兄ちゃんが、休憩しながら星が見れる場所として、これ程うってつけな場所は無いと、そう思いましたので…。」
「成程ね…。確かにぴったりかな。」
俺達はその後もたわいない話をしながら部屋へと戻った。
後日談だが、麗紗の俺への気遣いで行った星を見せる行為が町民に知れ渡り、町民はあの場所を、天を眺める場所として、『天眺台』と呼び、毎月整備をしては保全しているそうだ…。
勿論、そこでナニがあったということは知られてないみたいだが……。
とある日、俺が何気なく城下を歩いていると…。
「あらぁ~お兄さん。ちょっとぉ見ていかなぁい??」
……変態に声をかけられた。
「いえ、結構です。」
「そんな事言わずにぃ。ほぉら、こっちよ~ん。」
「や~め~ろ~!!離せ!! 俺にそんな趣味はねぇ~!!!」
俺は何とか逃げようともがくが…。びくともしない…。何だこの馬鹿げた力は!!?
「暴れないでぇ~お兄さん。もう直ぐだからぁ♪」
「いや~~~!!!! た~す~け~て~!!!!!」
俺の叫びもむなしく…筋肉隆々なのにピンクのビキニに、おさげヘアーの変態に俺は連れて行かれるのだった。
「さぁ、着いたわよん。」
連れてこられたのは古びたお店…。並べられているのを見る限り…骨董品屋みたいなものか…??
「……で?? 俺に何の用事だ?」
「何の用事って…私はただぁ客としてあなたを…。」
「とぼけるのもいい加減にしてさっさと理由を吐きな…。」
剣を抜き、奴と対峙する。
「ふぅ~乱暴ねぇ…天の御使いは…。」
「貴様…何故それを…。」
「それはねぇ~…。うっふん、ひ・み・つ♪」
ドカッバキッボゴォ!!!
「……少しは言う気になったか?」
「ふいやしぇん…言ひあす…。」
「よし。ならば答えろ!!」
「それはねぇ~…。私が天帝ちゃんと同じ、管理者だからよ。」
「何っ!!!?」
雅が天帝だということは既に知っているが……管理者?? 何だそれは…??
「管理者ってのは一体何のことだ?」
「良いわん。教えてあげる。」
その後、貂蝉からこの世界、外史と言うものとそれを治める管理者なるものが存在することを教えられた。
と言うことは、もしこいつの言っていることが事実なら、こいつは俺をこの世界に呼んだ張本人かもしれないわけだ…。
「ど~う…?驚いたぁ~??」
「だぁ!! 気持ち悪いから顔近づけんなハゲ!!」
「誰が、ハゲ達磨じゃごらぁああああ~!!!!!」
「そこまで言ってねぇよ!!!!」
「あらぁ?? そうだったかしらぁん。」
「……まぁ、百歩譲ってその管理者だとしとこう…。そしたら、俺に会いに来た目的は何だ??」
「今回は顔合わせとプレゼントに来たのよぉ。」
「プレゼント…だと…??」
「これから先、あなたに必要だと思ってねぇ…。」
そう言って、パンツの中からプレゼントボックスを取り出すそいつ。
……正直触りたくない…。
俺は、箱の蓋を抜刀術で切ると中には…。
「……カツラ??」
「えぇ。それはカツラよ。それも、女の子様のねぇ。」
「何でまた、こんなものが…。」
「あなたは顔立ちが中性的じゃない。だから、このカツラを被って喉仏を隠し、大き目の服でその身体つきさえ隠せば、立派な女の子として堂々と色んなとこに侵入できるってわけよん。」
そう言われて、こいつが言いたいことがなんとなく分かってきた。
つまり、これは変装用の道具ということだ…。
これから先、俺が自分の身を隠す必要があるときにこれを使えと…そういう事か…。
「うふふっ…。使い方はあなたに任せるわぁ~ん。じゃあ、私はもう行くから、じゃあね。」
「ちょっと待て!! お前の名は!?」
「私は貂蝉…。傾国の美女、絶世の美女、貂蝉ちゃんよ♪」
そう言って貂蝉と名乗る男は消えた。
残った俺は…。
「嘘だ~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!」
と、大声で叫んでいた。
後書きです。
今話で遂に聖が義妹にまで手を出しました!!!!
な~に~~やっちまったな~~!!!!!
また、あの有名人が遂に聖の目の前に現れました。
彼(?)の目的は果たして何なのか………。
今後ともご期待ください。
次回は水曜日に上げようかと思います。
また、事情によりその次の投稿が一週間以上空いてしまいますが、ご了承ください。
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どうも、作者のkikkomanです。
第六章第四話の投稿となります。
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