この作品は【 恋姫†無双 】【 真・恋姫†無双 】の二次創作です。
三国志の二次創作である物に、さらに作者が創作を加えたものであるため
人物設定の違いや時系列の違い。時代背景的な変更もありますので
その辺りは、なにとぞご容赦をお願いいたします。
上記をご理解の上、興味をお持ちの方はそのままお進み下さい。
汜水関の戦いが終わった
各軍の補給、部隊の編成を汜水関にて終えた連合軍。
連合軍の中陣に位置していた袁紹軍を先陣に構え、早くも虎牢関への進撃を開始していた。
その道中――
「ふむう……」
「舞流?」
腕を組みながら天を見上げ唸っていた舞流に一刀は声を掛ける。
常に元気ハツラツな舞流が珍しく、純粋に何かを考えているような表情をしているのだ。
気にしないようにする方が無理というものだろう。
そしてこれもまた珍しく、忠義一本。常に自身が仕える主のことを考えている舞流がここに来て初めて、隣に立った一刀の存在に気付き、顔を向けた。
「む?ああ、殿。御用でござるか?」
「いや、なんか考えてるみたいだったから。なにか気になることでもあった?」
「気になることというか……華雄殿のことを考えていたでござる」
「華雄の?」
聞き返した一刀に舞流は神妙に頷く。
だがその瞳に悔しさや怒りや自身の不甲斐なさを嘆く色は無く、ただ純粋に澄んでいた。
まるで幼子が自分の知り得ていないことをただ単純に、純粋に聞く時のように。
「話してみ?俺が力になれることかもしれないし」
「かたじけない。では、僭越ながら。某は華雄殿と対し大敗を喫したでござる」
「おお、えらく直球だな」
「しかし事実でござる。個人の力量、覚悟、隊の練度、全てにおいて某は甘かった。某の数歩上を行っている華雄殿が勝つのは当然のことでござる」
「……」
「ですが殿。華雄殿は董卓軍の将。我ら反董卓連合が討つのを目標とする董卓殿に仕える武将でござる。そして董卓殿は洛陽の都にて暴虐の限りを尽くす悪逆非道の者。……おかしくはござらんか?」
「おかしいって……舞流は何がおかしいと思うんだ?」
分かっていた。
舞流が何に対して違和感を感じているのか。
だが自分自身明確な正体を掴めてない今、一刀は敢えて舞流にその違和感の先を促す。
「華雄殿は高潔な武人。某はもちろん、関羽殿もそれは感じ取っているでしょう。その確信はあります。なればこそ、とても悪逆非道の者に仕える将とは思えないのでござるよ」
「……ふむ、確かにな」
「あ、星」
音も無く近付いてきていた星が話に加わり、相槌を打つ。
舞流の疑問を肯定する形で。
「趙雲殿もそう考えているでござるか?」
「華雄とは相対していないから一概には賛成できんが、私は張遼と剣を交えたからな。舞流よ、お前の言いたいことは理解できる。私も張遼が董卓に仕えている姿など思い浮かばん。……董卓の評判が噂の通りなら、な」
「どういうことだよ、星」
「おや白蓮殿、いつからそこに?」
「お前と一緒にここに来たんだから居るよ普通にっ!」
「はっはっは、冗談ですよ」
恨みまがしい目でカラカラと愉快そうに笑う星を睨む白蓮。その背後には付き人のように立つ燕璃の姿もあった。ひとしきり笑って満足したのか、星は真面目な表情に戻り話を元に戻す。
「いやなに、我らは董卓の噂を人伝でしか聞いていないということですよ」
「うん。確かに俺もそこは引っかかってた」
「一刀もか?」
「ああ。まず俺達が董卓の専横を知ったのは袁紹の檄文だ。で、それ以降は何の話も聞かないし、ある意味その他の情報を手に入れるすべも持ってない」
自分たちの置かれている現状を口にし、一刀は顔を下に向ける。
董卓。その名を聞く時はでっぷりと肥え太ったオッサンを脳裏に思い描くことになるだろう――そう思っていたが、不思議とそうならなかった自分に驚いたものだ。
三国志の中の董卓。名を聞けば間違いなく不快感を感じると思っていたのにその名を聞き、まず感じたのは『懐かしさ』だった。
「え、えと……一刀様?」
「……ん、ああ、ごめん雛里」
そこで初めて一刀は自分が呆けていたことに気付く。
先ほどまでこの場にいなかった雛里がいて、自分のことを申し訳なさそうに見上げているのを見る限り、みんなの時間を黙ったままの自分に付き合わせてしまったのだろうと今更ながらに恥じいった。それをごまかすように雛里の髪をくしゃりと撫で、再び白蓮たちに向き直る。
「とにかく、今の俺達にはどっちが正しいのか判断するだけの時間が無い」
「なるほど。一刀殿は董卓側に義があるかもしれぬと?」
「ああ。もちろん、俺の勝手な推測だし白蓮の立場も分かってるから、この戦を止めようとは言わないけどな」
「ええ。公孫殿がここで戦線を離脱すれば他の諸侯からも厳しい目を向けられるでしょうし、何より北郷さんの懸念している事も分からなくなります」
「いや、別に私の立場はどうでもいいんだけどさ。でも一刀の言ってることも分かるよ。だって麗羽の奴、何か隠してるし。多分、一刀の言ってることが合ってたらなんかしら関わってると思う」
白蓮がおそらく自分にしか分かり得ぬ感覚で一刀の推測を肯定する。
ただ、珍しく白蓮が明晰なところを見せたにも関わらず、公孫賛軍の面々が気にしたのは前半の一言だったが。全員が全員、「まったくこの人は……」という顔をしながら苦笑する。
そんな中で白蓮だけが唯一釈然としない表情を浮かべていた。
「……でも虎牢関、か」
「ん?どうしたんだよ一刀。浮かない顔して」
「う~ん……浮かないと言えば浮かないんだけど。多分俺の杞憂だから気にしないでもらえると助かるかな」
「ああ、うん。そう言うなら気にしないけどさ」
一刀の言葉で素直に納得する白蓮。
ただ、言葉の上では気にしないと言ったものの未だに浮かない表情をしている一刀を見れば徐々に気になってくるのが当たり前。いつしか白蓮までも浮かない顔、というか言葉では表しがたい複雑な表情になってしまっていた。
「一刀殿。何か懸念があるなら我らにも伝え置いてくれると助かりますな。なにせほら、伯珪殿が世にも奇妙な表情になってしまっている。これを見られでもしたら伯珪殿を嫁に貰おうと言う者が減りかね――」
「余計なお世話だよっ!」
星の指摘に噛みつく白蓮。その様子を見た一刀は苦笑する。
それだけで周囲の空気が和らぎ、一刀の表情も自然な物へと変わった。
「まあ実際、虎牢関に関することならば一人で溜め込むよりも皆で話し合った方が良いでしょう。先陣が袁紹とはいえこれから攻める場所だ。不確定要素は出来るだけ少なくしておいた方が良いかと思いますが?」
「はは、そんなに深刻な話でも無いんだけどな。でも星の言う通りこういうことは皆を交えて話した方がいいか」
「そうだぞ?うちにもやっと正式な軍師が出来たんだ。もし良かったら雛里の意見も聞かせてもらえると有り難いよ」
「あわわ……そんな大げさです」
白蓮の言葉に被っていた帽子を両手で押さえ、赤くなった顔を隠す雛里。
それを見て少し頬を緩ませた一刀を流し眼で見つつ、燕璃が口火を切った。
「まず現状を整理しましょう。我々連合軍は虎牢関に向けて進軍中。そして先陣は袁紹軍。中軍に曹操軍と袁術軍。後方に我ら公孫賛軍と劉備軍、そして西涼軍が汜水関の事後処理にまだ残っている状態ですね。もうしばらくすれば西涼軍も我らに追い付いてくるでしょうが。既に先だって進撃している袁紹軍はもうしばらくすれば虎牢関で接敵するでしょう」
「相変わらず袁紹からの具体的な指令が無いし。だから各軍も連携出来てないけどな」
「ええ、公孫殿の言う通り袁紹軍側からの作戦立案が全くと言っていいほどないので各軍が状況に応じて臨機応変に動かなければなりません。ただ、皆さんも分かっているとは思いますがこの連合軍、連合軍と呼称するにはあまりにもお粗末。ある意味、連合という言葉に対する冒涜と言っていいほど酷いです」
「そうなのでござるか!?」
「……話を続けますが、各軍がそれぞれの思惑で動いている以上まともな連携は取れないでしょう。しかし今、戦力として期待が出来る曹操軍、袁紹軍、劉備軍、西涼軍、袁術軍、そして我ら公孫賛軍。その中に、頼りに出来るであろう軍勢が一軍だけでもあるのは僥倖と言えましょう」
「いえ、状況によっては二軍あります」
燕璃の説明を遮るように雛里の澄んだ声が話に割り入った。
気を利かせた燕璃が手で先を促し、雛里はそれに一礼をして続ける。
「軍義の際に白蓮様が曹操さんを援護する発言をなさってましたから、当てに出来る軍は劉備軍と曹操軍の二軍になると思います」
「借りってことか?でも曹操のやつ、その後にお礼言いに来たぞ?」
「はい。ですが軍義で感じた曹操さんの性格から考えると、言葉だけでは借りを返していないと思っている筈です。形として借りを返さなければ曹操さんは納得しないでしょうから……」
「へえ……凄いな、雛里」
「あ、ありがとうございます……」
一刀が感嘆の声を漏らすのを聞き、一瞬だけ軍師モードから素に戻る雛里。
しかし他の面々から、自分が軍師として見られている状況を思い出し表情を引き締める。
「我が軍は最前線の配置でもありませんし、今のところ曹操さんに助けてもらう様な事は起こってないですけど、そういう風に曹操さんが考えているだろう、ということは皆さん念頭に置いておいてください」
もしかしたら何かの材料に仕えるかもしれません――そう締めくくった雛里の言葉に、その場にいる全員が頷いた。
「くしゅんっ!」
袁紹軍の後方。
袁紹軍の次に虎牢関に近い位置をゆるりと行軍する曹操軍の中で、曹操は眉根を寄せる。
「……誰かが噂でもしているのかしら」
「か、華琳さま!まさかお風邪ですか!?た、大変!すぐに薬師を――!」
「はぁ……落ち着きなさい桂花。風邪では無いわ」
突然慌てふためきどこかへ行こうとする荀彧を冷静に窘めた曹操はスン、と一度鼻を鳴らし自らを仕切り直す。
すぐに先刻から聞こえている喧騒が耳に戻ってきたのを確認し、また一つ溜息を吐いた。
今度は呆れに多少の不快を混じらせて。
「……それにしても邪魔ね」
「はい。ああも門の前に広く布陣されては我が軍が展開できないばかりか、満足に攻め寄せることもままなりません」
「それが目的なのかしらね。……それを見越した上での布陣とは思えないけれど。なぜ私を自分の後ろに配置したのかしら。あなたはどう見る?秋蘭」
「そうですね。単純に……」
一瞬だけ口ごもる夏候淵。
「単純に?」
「おそらく袁紹は華琳さまに対抗意識を燃やし、自分の戦を見せびらかしたいだけでは?」
「……ありうるわね、麗羽の考えそうなことだわ」
曹操と夏候淵。
二人は前方に上がる砂煙を見やりながら会話する。
虎牢関の門に大軍で攻め寄せる軍には黄色い『袁』の旗印。
物量に任せて軍を広く展開している為、そこからは凄まじい砂煙と怒号が響く。
……おまけに自分の軍の背後にに袁術の軍が布陣しているのも曹操としては気に食わない。まったくそれを意図していない阿呆×2に挟まれている状態――賢明な者なら不快感を感じるのは当たり前だった。
「やたらめったらに攻め寄せてどうにかなるものでもないでしょうにね」
「というより、あの状態でまともに統制が取れていることが不思議ですが――」
「大方、文醜や顔良辺りが四苦八苦しているのでしょうよ。大変ね、あの二人も」
袁紹軍にどこか同情めいた視線を投げ掛ける曹操。
ただおそらくその憐れみの対象に袁紹その人は入っておらず、その下で健気に尽くす少女二人のみに向けられていることだろう。
その心情を正しく理解している夏候淵と荀彧は人知れず笑みを浮かべた。
そこへ――
「華琳さま」
後方へと物見に出していた楽進が駆け寄る。
「凪、なにか問題でもあったか?」
「はい。後方、袁術軍が我が方へ突撃してきます」
夏候淵の問いに見たままを簡潔に伝える楽進。
なにかしらの動きがあれば伝える、という役目を実直に遂行する楽進に曹操は好感を持つ。
しかし、それは部下を愛でるという重要なことを後に回すには充分な内容だった。
「桂花。確か袁術の先鋒は孫策だったわね」
「はい。ですが先鋒とはいえ数はあまり無かった筈。……まったく、袁術はいったい何を血迷って混乱を助長させようと――」
「ふふ、そうね。袁紹が攻め寄せているところへ寡兵の孫策が乱入――二つの異なる指揮系統入り混じれば間違い無く戦場は混乱するわ」
荀彧の言葉に笑みを浮かべる曹操。
孫策の行動に意を得たり、とその表情が物語っていた。
「混乱……寡兵……なるほど。そういうことですか」
「あら、秋蘭は分かったようね。孫策が何を考えているか」
「えぇ?!も、もう分かったっていうの!?」
曹操の台詞に納得するように首を縦に振る夏候淵。
その様子を見て、荀彧は焦り始める。その焦った表情を見て楽しむ曹操。ある意味、曹操軍のこれが日常的な風景であった。当然、時と場合により各人の立場は変わるが。
「桂花はもう少し考えを柔軟にしたほうがいいわね。といっても戦場で武を振るう人間でなければ分からない感覚もあるでしょうけれど。……そうね、桂花。あなた、孫策が野心を持っていることは見抜いているでしょう?」
「は、はい」
「だけど今は袁術の力が強く、その機では無い。こういう時、あなたならどうするかしら。ただその機会が訪れるのを待つ?」
少し笑いを含んだ曹操の言葉に表情を消し、頭をフル回転させる荀彧。
然程時を待たずしてその表情が変わった。
「それじゃあ孫策は――」
「そういうことよ。凪、皆に部隊を左右に展開するよう下知を出しなさい」
「華琳さま、それでは袁術軍が素通りすることになってしまいますが……」
「構わないわ。……さて、孫策はどんな面白い物を見せてくれるのかしら……楽しみね」
「敵を引きこむ?」
曹操が全てを見透かした上での深い笑みを浮かべる数分前。
袁術軍先鋒、孫策が率いる軍勢の中に疑問符が混じった声が響く。
「そ、いいでしょ?」
「ま、待て伯符!それだけの説明で私が納得したと思っているのか?」
「うん、思ってる!……ちょ、ちょっと冥琳!冗談だから本気にしないでよー!」
親友のこめかみがピクンと引きつるのを目にした孫策は慌てて周喩を宥めに掛かる。
その慌てように嘆息し、周喩は自分の額を押さえた。「……まったく、頭が痛い」と言わんばかりに。
「説明してくれ伯符。前(さき)の話、ちゃんと考えがあってのことなのだろう?」
「う~ん……一応?」
「……」
「う、うそうそ!ある!凄いあるってば!」
「なら聞かせてくれ」
「はーい。……もう、ほんとに冗談通じないんだから」
ちょっと拗ね気味の孫策を見やりながら周喩は目で説明を促した。
その様子を近くで見ながら呉の宿将、黄蓋がカラカラと笑っていたが周喩は敢えて無視を決め込む。
「だから引き込むのよ、敵を」
「だから引き込むとは具体的にどういうことだと聞いている。そもそも――」
「私達は今、不本意ながらも袁術の客将という立場に甘んじているわ。私の望みは孫家の復興。それにはまず袁術の元から独立しないと話にならない。でも袁術の持つ兵力は私達より遥かに上。それに母さんの兵もまだ少し奪われたまま。そんな私達が独立するにはまず何が必要?」
周喩の言葉を遮り、先ほどまでふざけていた人間とは思えないほど真面目な表情で孫策は雄弁に問う。その凛とした雰囲気に、少しだけ残っていた頭の熱が冷めて行くのを感じた周喩はその問いに淀みなく答える。
「まずは物資、人材、名声。そしてなにより兵力だ」
「物資は懇意にしている商人たちから。人材は独立するだけなら充分。名声はこの戦の中で手に入れる。冥琳の言った通り、今最も急務なのは兵力よ。でも今の私達では呼びかけてもそこまで多くの兵は集まらない」
「だからこの戦で名声を得る。そうすれば我らの呼び掛けに応える人間も多くなるだろう」
「うん。でもそれだけじゃ足りない。正直なところ焼け石に水よ」
親友が冷静に自軍の現状を、自分以上に把握し考えていることを頼もしく思いながら、周喩は続く言葉を待つ。
「ならどうするか。私達の兵力が増えないのなら、敵の兵力を減らせばいいと思わない?」
「ああ。……ん、待て。分かってきたぞ、伯符。お前の言わんとしていることが」
「さすが冥琳。今前線は袁紹が遮二無二攻め立てて安定した戦とは程遠い。ならそこに第三者が割って入ることで何が起きるか」
「間違い無く戦場は混乱するな。敵とて正規軍。頭の無い者だけの集まりではないだろう。籠城戦が長くは持たないことも分かっている筈だ。つまり混乱する敵前線を見て董卓軍は何を思うか、か」
「はっはっは、我が軍の軍師殿が悪い顔になってきたのう」
段々と表情が変わっていく周喩を見て、孫策の傍に移動してきた黄蓋が愉快そうに笑う。
「つまり釣れた敵を袁術の元まで引っ張って来る気じゃな?策殿」
「あら祭。話が早いわね」
「なんの、我らが王の爛漫ぶりを見ていればこそ。して、どうするんじゃ公謹。策殿の提案に反対か」
「……正直あまり諸手を上げて賛成とは言えませんね。ですが現状をどうにか動かすにはそれしかないのも事実。……黄蓋殿、爛漫娘のお守をお願いできますか?」
周喩の頼みを聞き、ニイ……と笑う黄蓋。
それは同じく周喩も笑みを浮かべていたからに他ならない。昔から見慣れた悪戯っ子の様な笑みを。
「心得た。ただ儂一人には荷が重い。なんせ手の掛かるじゃじゃ馬だからのう。思春も連れて行くが、よいか?」
「分かりました。こちらは私と穏でなんとかやってみせましょう」
「決まりね。それじゃあ私、袁術ちゃんのところ行ってくるわ」
言うが早いか孫策は走り出す。
あっという間に姿が見えなくなったその方向を見る呉の将二人。
「おうおう。張り切っとるのう」
「張り切っていると言うよりあれは戦場に出たくてウズウズしていただけでしょう。はぁ……大丈夫かしら」
「はっはっは、軍師で無くなると途端に過保護じゃな。まあ心配するなというは無理な話じゃろうが安心はせい。儂と思春が付いておるからのう」
「……思春、頼むぞ」
「はっ」
黄蓋にではなく
いつのまにか後ろに立っていた甘寧に念を押す周喩だった。
「討って出る準備!?籠城の備えではないのですー?!」
虎牢関に甲高い声が響く。
その大きな声を咄嗟に耳を塞ぐことで遮断した張遼。
とはいえ甲高い声を出した張本人――陳宮が何を言うかも分かっていたのでこの後に続く会話には何ら支障はなかった。
「有り難いことに袁紹の阿呆が連合の編成でえらい時間掛けてくれた。今も阿呆な攻め方で時間作っといてくれてるんや。詠が言うとったぐらいの時間は充分に稼げた――そうウチは判断する」
「で、でも出来るだけ時間を稼いだ方が良いのではないのですか!?」
「阿呆!そんなんいつまでもしてたらウチらが御陀仏や。詠は『出来るだけ』言うたった。ならこれがその『出来るだけ』や。音々、ウチらはウチらだけの命持っとるんやないねんで?」
「……そ、それは」
「……霞、ちんきゅーいじめるの良くない」
「あははー……いじめとるんちゃうんやけどなぁ」
「……でも霞のいってるのもわかる」
「……恋」
いつものポヤーっとした顔で、呂布は張遼を見つめる。
その傍らで陳宮は、呂布を見上げていた。
「……死ぬのよくない……霞が死んだら恋は悲しい。……音々も月も詠も同じ……みんなしんじゃったらみんな悲しい」
シンプルな考えだが、それはきっとここにいる全員が持っている、心の根底にある想い。呂布のどこまでも純粋な瞳を見返し、張遼はニヤッと笑った。
「そうや。せやから今からする戦は死ぬ為にする戦やない。逃げて生き抜く為にする戦や」
「むー……恋殿が言うなら仕方ないのです」
「頼むでー音々。恋は戦以外はからっきしなんやから誰かが面倒みてやらへんとな」
「当たり前なのです!恋殿のお傍は誰にも渡さないのです!」
ひしっと呂布の足にしがみつく陳宮を微笑ましげに見つめる張遼。
一瞬だけその場を穏やかで落ち着いた空気が包む。
『報告!』
それは兵の張った声により、同じく一瞬で掻き消されてしまったが。
「なんや!」
穏やかな空気に身を浸す暇も無く、武人の顔で張遼は応する。
『見てもらった方が早いかと!』
その言葉を聞き、何かが起こったと悟った張遼は兵に案内され城壁から身を乗り出して眼下を見やった。砂煙がもうもうと立ち込め、大軍が門に攻め寄せているのは変わらない。だが、一つだけ先刻とは違うことがあった。
「なんやあの赤いの?」
『旗印は『孫』!おそらく汜水関で華雄将軍を挑発した孫策の軍かと思われますが……』
言う通り、趣味の悪い(張遼目線)金色の軍勢の中で赤い軍勢がちらほらと見え隠れしていた。『袁』の他に『孫』の旗が張遼の視界にも映り込む。だが真に気にするべきはそれではないと既に張遼は理解していた。
敵の事情は知らないが指揮系統の違う二つの軍が門前に攻め寄せているという事実。
そして敵の前線は――『混乱』していた。
――策かもしれない。
一瞬だけそんな考えが頭をよぎる。だがそれ同時に――こんな機会は今後訪れない、と直感が囁き掛ける。理性と直感。相反するその二つ。
「――すぐに突撃の準備しい!!敵の前線ぶち破るでぇぇ!!」
虎牢関内部に大声が轟く。
その声に含まれている自信に背を押され、兵達が駆けて行く。
張遼が選んだのは武人としての直感。
この出来事から然程時を置かずして、張遼は自身の判断が正解だったと知ることになる。
【 あとがき 】
真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-27
【 虎牢関開幕 各陣営の思惑 】
更新させていただきました。
皆さまお久しぶりです。
じゅんwithジュンです。
一年と数カ月ぶりの更新でございます。
ほぼ音信不通、消息不明状態でしたが戻って来れました←(ここ重要です)。
これから細々と更新して行き、いずれは決まった更新頻度(毎週○曜日とか三日感覚とか)になって行けばいいかなと考えています。ちなみに今回は少し急いでの投稿です(汗)。
しばらくの間、一線を離れていたのでキャラやシナリオの書き方に違和感を感じるかと思いますが、お付き合いのほどをよろしくお願いします。
もちろん誤字脱字の指摘やその他のコメント、感想は大歓迎ですのでお気軽に。
それでは。
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一年と数カ月の間をあけての更新です。
土下座をしながら更新と言う器用な真似ができればしたかったのですが画面が見えませんので……(汗)
またよろしくお願いします。