No.520398

超次元ゲイムネプテューヌXWorld 第三十八話 【状況(ひとまず)終了】

ME-GAさん

三十八話て…凄いッス。
参加してくださっている作者様方、見てくださっている読者様方マジで感謝です。

恒例の通り、他キャラの作者様ごめんなさい。

2012-12-19 18:50:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1546   閲覧ユーザー数:1390

「あー、もうっ! どうしてこうなるんだよっ!」

 すでに遠くに見えてしまった二つの影を目で追いかけながら、キラはがしがしと頭部を掻きむしって吐き捨てた。

 クァム――というよりもミラージュ――とエスターという少年が戦闘を開始してから数分の間しか経過していないが、二人の戦いは苛烈を極めていた。

 ミラージュの身体の周りには微細な赤色の粒子が舞っており、まるで身体全体が赤く発光しているように見える。さらにその手にはいつの間に用意したのか、身の丈と同じほどの大剣が握られており、華奢な身体に見合わぬ豪腕でそれを軽々と操っている。

 驚異的なスピードでエスターの周囲を蝶のように舞いながら、大剣で蜂のように刺す。さながらひとつの荒っぽい円舞を見せられているように錯覚させられる。

 だが、それでも戦闘の均衡が崩れるということはなさそうだ。

 エスターもまた、ミラージュと相対できるほどの能力を持っているからである。

 ミラージュの飛行軌道に激しい乱気流を発生させることでその動きを制御し、さらに鎌先から放たれる凝縮された風の刃の塊で的確にミラージュを追撃する。

 どちらかが優勢に立てば、必ずもう一方が逆転する。

 その一進一退の攻防が、戦闘のバランスを保っているのだ。

 とにかく早くミラージュの加勢に向かわなければ――キラは倒れているネプギアに駆け寄り、顔色を確認する。

 幸い気を失っているだけのようで、大きな怪我も目立ってない。

 キラは呆然と立ち尽くしたままのアイエフとコンパのもとにネプギアを届ける。

「この子を早く安全な場所へ!」

「ま、待ちなさいよ! あんた一体……!」

 追いかけようとしたところでアイエフに後ろから肩を掴まれて足を止める。

 キラとしてはすぐにでもミラージュを助けに行きたかったが、無下にしておくこともできない。くるりとアイエフに半身だけ振り返る。

「俺はキラです。詳しいことはあとで説明しますから、いまは早く安全なところに逃げてください!」

 キラがアイエフを振り払って駆けていこうとしたとき、

『やれやれ……なんでこう、幾つになっても男の人って大事な説明をしようとしないのかなー?』

 不意に足下から少女のものと思われる声が聞こえてきた。

「え……っ?」

「な、なんですか、この声!?」

 びくっと身体を大きく振るわせて、コンパが若干涙目で周囲を見渡す。

 アイエフはキッと視線をさらに鋭く尖らせて、袖口から一対のナイフに似た形状の武器を構え、キラもまた刀の柄に手を伸ばした。

『あーあーあー、そう警戒しないでよ。少なくともそっちの女の子三人組には手出すつもりは毛頭ないからね』

 ということは、こっちには手を出す可能性があるのか――と心中でつぶやき、キラはさらに警戒を強めて刃を鞘から覗かせる。

 いったいどこから、どういった手段で声を届けているのだろうか?

 遠くから直接声を届けている感じではないし、魔法か何かの類だろうなとキラは見当を付ける。

 だが、キラがそこまで思考したところで、それは中断せざるを得なくなった。

 キラの身体を、強い力で締め付ける何かに捕らわれてしまったからである。

「ぐ……ッ!?」

 一見すると黒い帯のようにも見えるそれが、キラの足下の影から伸びている。

 その影の帯の先が人の手のように五つに分かれ、キラの首を締め付けようとじりじりと侵攻してくる。

 そして、背中の辺りの影の帯からずるりと何か大きなものが垂れ下がった。

 それは艶やかな長い黒髪をした幼い少女の上半身だった。

「な、なん……」

「はい、ちょっとごめんねー」

 キラが訊ねるより先に少女は鮮やかな手際で両手をキラの首に回すと、呼吸ができるかできないかの加減で締め上げた。

「意識はあるよね? 喋れるよね? とりあえず私の質問に――あだっ!」

「調子に乗るな」

 少女は言い終わる前に悲鳴を上げた。

 解放されたキラが首を回して背後を見ると、黒髪の少女の後ろにキラよりも少し背が高い女性が、大きな剣を黒髪の少女の頭に叩き付けていた。

「な、なにするのよお!」

「調子に乗るなと言った。できるだけ厄介事に持っていきたくないのよ。あんたのオリジナルはもうちょっと弁え……いや、そんなに変わらないか」

「ちゃんとわたしだって弁えているよ」

「どうだか」

「あのー……」

 何だか二人だけで話を進めてしまっている気がして、キラはおずおずと声を上げた。

 すると二人は、「あ」と言ってキラを見た。どうやら口論にのめり込みすぎて、本当にキラを忘れていたらしい。

「お二人はどなたで……?」

「ああ、自己紹介が遅れたな。私の名は“フウカ”。で、こっちの変なのは“アリス”だ」

「変なのとは失礼な」

 茶髪の女性――フウカが告げた紹介に黒髪の少女・アリスが文句を垂れる。

 先程から二人の様子を見ていたキラだが、どうもこの二人は波長が合っていて見ていて面白いなと場違いに感じた。

 そんなキラを余所にフウカとアリスはボソボソと二言三言を交わし、再びキラに視線を向けた。――剣の切っ先をキラの眉間に向けて。

「……っ」

「質問に答えろ。嘘偽りは通用しないつもりでな」

 つぅ……と頬に汗が流れた。

 あまりに間の抜けた二人のやりとりにいつの間にか心を許してしまっていたのだ。

「お前は女神に対してどう思っている? ……まずはそれだけ聞かせろ」

「……よからぬ事は、考えていないつもりですけど」

「ふうん……」

 とはいえ、それだけで信用してもらえるとはキラも毛頭思っていない。

 フウカも未だ警戒を解かず、剣も下ろさず、キラを睨め付けている。

 アリスによる影の拘束も解かれてはいない。

「…………」

「……ま、いい。本当によからぬ事を考えてるならいつでも機会はあっただろうしな」

 フウカはスッと剣を下ろし、背中に背負いなおした。

「信用するの?」

「ひとまずはな。アリス、さっさと拘束を解け」

「はいはーいっと」

 フウカが指示すると、アリスはキラの身体から影の帯を解き、一度地面に吸い込まれたかと思うとキラの影の隣から少女の姿を現した。

「とにかく落ち着いて話がしたい。お前の仲間は?」

「まだ戦ってます。一人はあそこに、あと二人は近くにいるはずです」

 キラが言うと、フウカは考え込むように腕を組んだ。

「アリス」

 しばしそうしていたフウカがやがて横目にアリスを見ると、アリスは面倒くさそうな顔をしつつも再び地面に潜り、影となったアリスがどこかへ向かっていった。

「ええと……」

「あいつは訳ありでな。アイエフはネプギアとコンパを連れてどこかに隠れてろ」

「だから人の話を――!」

「行くぞ」

「は、はいっ!」

 フウカは華麗にアイエフの言葉を無視して、キラの肩を掴んでミラージュとエスターが飛んでいった方向へ駆け出した。

 背後でアイエフが怒声を上げていたが、それを気にしている暇はキラにはなかった。

 

   ☆ ☆ ☆

 

「そらァッ!」

「くッ!」

 レオンの手から飛鳥剣が離れ、左右から弧を描きながら飛来する。

 テラは苦悶に満ちた声を上げ、右手に握った斧剣を両手に構えて、左右の飛鳥剣の中央を駆けた。

 テラが動いたことで二つの飛鳥剣は獲物へと向かう為に軌道を変え、無理なカーブでテラの背後から迫ってくる。

 それでもテラは速度を緩めずにレオンへと突っ込むのをやめない。

 ここさえ抜けきればレオンは徒手空拳である。

 だが、そう上手くはいかない。飛鳥剣が加速したのである。

 このままの速度でレオンの元までたどり着けるか!?

 視界に映るレオンはニィと不敵な笑みを浮かべていた。すでに勝利を確信しているような表情だった。テラはきゅっと唇を締めた。

 そこでふと気配を感じて空を見上げると、そこには一条の光跡が見えた。

 テラは表情を緩め、加速を止めなかった。

「これで――」

 レオンが言う。

 

「終わりだ!」

 

 それを遮ってテラは叫んだ。

 レオンがそれに思わず驚愕の色を込めた表情に一変する。

 それとほぼ同時、テラの頭上から飛来したそれによってテラの背後から迫っていた飛鳥剣の二つが爆発した。

 レオンは愕然と空を仰いだ。

 そこには、双銃剣を構えた冥獄神状態の紅夜の姿があった。

 双銃剣から放たれた魔法性の銃弾が飛鳥剣を撃ち抜き、二つの光芒を作ったのである。

「ち……ッ! ライの野郎、しくじったのか!?」

 忌々しげに吐き捨てたレオンが、双銃剣から放たれる新たな光線を瞳で捉えて、その場を飛び退いた。

 その間に紅夜はテラの横に降り立つ。調子が悪いのか、紅夜は降り立ったのと同じに額を押さえて少しふらついた。

「大丈夫か?」

「……ちょっとした副作用だ。問題ない」

 顔色は優れないようだが、それよりも今は目の前のことに集中する。テラは斧剣を握りしめ、距離を開けた場所にいるレオンに視線を戻した。

「テラ、その格好は?」

 背後の紅夜からそう声を掛けられる。

 言われることだろうとは思っていたが、テラは苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。

「説明したら長くなる、集中しろ!」

「……ああ!」

 紅夜がうなずいたとき、レオンがいる場所から轟音が聞こえた。

 アスファルトを割って、巨大な水柱が姿を現した。

 先刻にレオンが使用していた攻撃魔法である。直接的な攻撃力こそあまり期待はしないものの、追尾性能が高くこちらの動きを牽制する厄介な魔法だ。

 レオンがくいと指で合図を出し、水柱がそれに従う。

 計四つになった水柱はそれぞれ二つずつ、テラと紅夜を追って向かってくる。先端が上下に分かれ、まるで龍を思わせるそれが猛威を振るってくる。

「紅夜、行けるか!?」

「当然!」

 テラは右手に闇色の焔の球体を、紅夜は双銃剣に魔力を込め、互いに真逆の方向へと走り出す。

 それを追尾して四つの水柱が針路を変えたところでテラは振り返り、闇の焔をその場に落とす。

 焔は地面に落下したところで水のように弾け、そこから水柱の龍と対照になる黒色の大蛇の姿を象って衝突した。

 一方、紅夜は十分に水柱の二つを引き付けたところでブースターを展開、直上に飛び、双銃剣から射砲撃を放つ。

 存分な衝撃を浴びた四つの水柱は四散し、その姿を消す。

 それを眺めていたレオンは、いっそう表情を苦くして屈めていた身体を起こした。

「どうした? 終わりか?」

「いい加減にやめたらどうだ」

 テラ、紅夜に続いて言われて、レオンは大仰に肩を上下させた。

「……そうだ、な!」

 語気を強め、レオンは右手を大地に突き立てた。

 刹那、レオンの周りから洪水のような水流が溢れ出し、視界を奪った。

「な、なんだ……ッ!」

「目くらましだ!」

 紅夜が叫ぶが、この水流の中では身動きひとつ取ることもできない。

 数秒後、水流は徐々に勢いを失って、やがて水気一つなくなり、そこにレオンの姿は影も形もなくなっていた。

「逃がしたか……!」

「完全に気配を消してる……。これじゃあ後は追えないな」

 レオンが自分から逃走を図った以上、とりあえず短い間の再度の襲撃はないだろう。紅夜が変身を解いたのを見届けて、テラも鬼神化をやめる。

 紅夜が崩れ落ちそうになるのを慌てて支えてやる。

「悪い……」

「いや、相当リスクがあったみたいだな。しばらく休め」

 近くの濡れていないベンチに紅夜を横たえ、テラは大きく一息を吐いた。

 遠くではまだ戦いが続いているらしい。それが、レオンの言っていた女神をおびき出す為の刺客と女神の誰かが戦っているものなのか、それともクァムかキラのどちらかの戦闘なのかは知れないが、こうしているわけにはいかない。

 テラはコートを紅夜に被せ、脳内で鬼神化を唱えると宙に舞い上がった。

 

   ☆ ☆ ☆

 

 大鎌を操りながらエスターは小さく舌打ちした。

 ライ、それに続いてレオンの気配の消失。

 彼らがやられたということは考えにくいし――相手にしている奴らはそんなことをできる肝っ玉の持ち主ではないし、別に彼ら自身を信用しているわけではないが――撤退したと考えるのが妥当だろう。

 ――まったく、薄情とは言わないが、役に立たない連中め。

 エスターは自分のことは散々棚に上げて、先に撤退していった仲間に毒を吐いた。

 できることならエスターが真っ先に撤退したかったのだが、目算を立てていた女神候補生ではなく、まったく目を付けていなかった餓鬼一人にこんなに手こずらされるとは、エスターも夢にも思わなかった。

 しかも、この餓鬼の姿は……

(トランザムかよ……!)

 以前、GANTZに誤って別世界に転送されたときのことである。確か、“モビルスーツ”と呼ばれる機械に搭載されている動力部“GNドライヴ”に貯蔵されている“GN粒子”を解放することで性能を向上させる“トランザムシステム”とか、氷室が誰かと話しているのを流して聞いていただけなので、聞こえた言葉だけをエスターは思い返した。

 小難しいことはどうでもよかったが、エスターにとっては性能アップというのがとにかく気にかかった。

 エスターに及ぶとは思えなかったが、クァムだかミラージュだかのスピードは常人のそれを遥かに凌駕している。

 それだけならまだしも、この餓鬼は攻撃力を変身以前よりも大幅に向上させている。スピード重視で攻撃能力がそれほど高くないエスターにとって、真っ向からのぶつかり合いは少しピンチだった。

「おら、どうしたァ!」

 ミラージュが繰り出してくる剣撃を大鎌の柄で防ぎ、エスターはその場を離れる。

 ステータスが全開状態なら、あの程度のスピードなどエスターには止まって見えるというのに如何せん今は昼なのだ。ダンピールのエスターには状況が悪い。

 ギッと頭上で燦然と輝く悪しき太陽を睨み付け、エスターは追ってくるミラージュに視線を戻した。

「待てや、腰抜けぇぇぇえええええええええええええええええええッ!」

 ミラージュが高揚した声で叫んだ単語にエスターのプライドが反応する。

 “腰抜け”。

 ――誰がそうであるか。

 空中で姿勢を制御して、追ってくるミラージュに向き直る。

 頭上で大鎌を回転させ、さらにその上に巨大な乱気流を発生させる。

 ビリビリと密接している空気を伝って街全体が震える。エスターはニヤリと不敵に微笑み、切っ先をミラージュに指す。

 乱気流の塊から幾つもの風の刃がミラージュを襲う。

 速度を落とさずに接近してくるミラージュにエスターはさらに風刃の数を増やしてミラージュの回避を余儀なくさせる。

 だが、徐々に二人の距離が縮まってくる。

 エスターが表情を歪めて舌打ちを零したとき――。

『エスター、戻れ』

 氷室の声が聞こえて、エスターの背後に黒い焔が現れる。

 これがエスターの仲間である氷室の移動法であることは知っている。

 けれど、このときエスターは一気に気分を悪くした。

 せっかくボルテージ上がってきたっつーのに!

 だが、これだけ近くに焔を出現されては、焔が持つ吸引力に寄せられて為す術もなく吸い込まれるしかない。

「ちィ……! おい、餓鬼! また殺り合おうぜィ……!」

 人さし指を突き付けながら、焔に吸い込まれるエスターはミラージュに言い放った。

 景色が闇に包まれ、頭上に氷室の気配を感じる。

 それと同じところにレオン、ライがいる。だが、エスターは首を捻った。

 ……誰か一人、知らない奴がいるではないか?

 


 
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