No.520144

ソードアート・オンライン ロスト・オブ・ライトニング 第十七話 終わる役目

やぎすけさん

最近またPCが不調気味なので不定期更新になっています。
すみません。

2012-12-18 22:13:37 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2311   閲覧ユーザー数:2218

デュオ サイド

デュオ視点

SAOの転移に似た感覚の後、俺の視界に入ってきたのは伝説の空中都市などではなく、曲線の描いてカーブする真っ白な廊下だった。

 

デュオ「やはり空中都市なんてなかったな。まあ、あの須郷(ゴミ)がそんなものを真面目に作るわけがないか。」

 

とりあえず剣を背中に戻してから、俺は廊下を歩き出した。

医学研究施設のような印象を受ける飾り気の無い廊下を歩いていくと、とある部屋の前に差し掛かった。

 

デュオ「実験体格納室・・・ずいぶん堂々と書いてあるじゃねえか・・・」

 

湧き上がってくる怒りを抑えながらそう呟いて、近づくとスライドドアが左右に開く。

足を踏み入れると、内部は途方も無く広大な空間だった。

廊下と同じく真っ白な室内には、無数の短い柱のようなものが整然と並んでいる。

そしてその上には、サファイアを加工したような青紫色の半透明素材の脳髄が浮かんでいる。

 

デュオ「悪趣味極まりないな。」

 

これ以上見ていると須郷を現実で殺してしまいそうなので、俺はそれだけ言うと部屋の奥に向かった。

そして部屋の最深部に達すると、そこには黒い立方体がぽつんと浮かんでいた。

俺は、それに触れると差し込まれたままになっている世界樹から降ってきたものと同じカードをスライドさせる。

すると、効果音とともに薄青いウインドウとホロキーボードが浮かび上がった。

浮かび上がったキーボードをタッチして操作していくと、【Exit virtual labo(仮想ラボ離脱)】と書かれたボタンを見つける。

俺がそれをタッチしたその瞬間、突然伸びてきた触手に四肢を絡め取られた。

捕獲者は俺の体を半回転させると、自分と向き合わせた。

そこにいたのは、オレンジの光彩の巨大な目が4つ付いた巨大なナメクジだった。

 

?「またあの()がかかると思って待ってたら、今度はガキかよ・・・」

 

ガッカリそうに言うナメクジは、間違いなく須郷の部下だろう。

今すぐ縛り上げて須郷とアスナの居場所を吐かせてやりたいが、鋼鉄のワイヤーのような触手はしっかりと俺の体を捉えてピクリとも動かない。

 

?「で、あんた、一体何してんの?こんなとこで?」

 

デュオ「そうだな。害虫以下のクズがやってる実験の処理かな。」

 

俺はそう言うと同時に腕輪のプログラムを発動、俺のアバターにノイズが走り全身に痺れるような感覚が襲ってくる。

突然の出来事に対応できなかったナメクジは、触手を緩める。

その間に、俺は拘束されていた右手を背中に回して剣を引き抜くと、ナメクジの触手を切り裂いた。

 

?「ぎゃああああぁぁぁぁ・・・・っ!!」

 

触手を斬られたナメクジは、本当の痛みがあるかのようにのた打ち回る。

理由はわからないが、おそらく痛みをカットするペインアブソーバーをオフにしていたのだろう。

無様に転がるそれを見下しながら俺は言った。

 

デュオ「人間の姿より、その姿の方がまだ似合ってるなクズ。」

 

俺は、腕輪のモードを放出から削除に変更すると、転がっているナメクジの端に剣を突き立てた。

その瞬間、ナメクジの体が少しずつ崩壊を始める。

 

?「ぎゃああああぁぁぁぁ・・・っ!!体が千切れる・・・!!」

 

デュオ「良い様だな。本当は貴様をここでミクロ単位まで切り刻んでやりたいところだが、時間が無いからな。」

 

ペインアブソーバーを切っているということは、体がcm単位で切り裂かれ消滅する痛みがそのまま奴に襲い掛かっているということだ。

叫び声を聞くのも不快だが、こいつが苦しまないで消えていくことよりはマシなので、そのまま放置するとコンソールを操作してSAO未帰還者たちをログアウトさせた。

だが、アスナのアカウントだけは特殊なロックが掛かっていてGMにしかログアウトできないようになっていた。

俺は須郷を殺しに行こうかと考えたが、上に向かったキリトの事を考えて思い留まった。

 

デュオ「ここ(ALO)での役割は終わった。俺は現実に戻るか。」

 

俺はウインドウを操作して、ALOからログアウトした。

大地視点

俺は自室のベッドの上で目覚めると、部屋の中は真っ暗だった。

外を見ると、すでに外は真っ暗だ。

 

大地「さてと、俺は掃除に出かけますかね。」

 

俺はナーヴギアを外して起き上がると、作り置きしておいたサンドイッチを食べ、続いてPCを使ってレクトのサーバーに侵入しあの須郷(くず)へお土産を送りつけた。

 

デュオ「さてと、雪が降ってくる前に病院に向かうか。」

 

俺はそう言って外に出ると、自転車に跨り、アスナのいる病院へと向かった。

和人 サイド

和人視点

ALOから帰還した俺は、スグと少し話してから病院に向かっていた。

雪の中一度タイヤを滑らせそうになりながらも、丘の上に立つ病院へとたどり着く。

所々の部屋に灯りは付いているが、人影はなく、どことなく恐ろしげな雰囲気も感じさせていた。

正門はと言うと、高度医療専門の機関であるため急患の受け付けはしておらず、この時間になると既に門は堅く閉ざされている。

俺は駐車場の方まで進むと、職員用に開放されている小さな門から中に入った。

降り続く雪の中、駐車場に自転車を止めると、俺は自転車から降りるや否や、小走り気味に受付の方へと歩き出した。

駐車スペースを1つ分開けて止まっていた白いセダンと黒のバンの間を抜けようとした時だった。

バンの後ろから俺の前に人影が現れ、危うくぶつかりそうになった。

 

和人「あ・・・」

 

「すみません」と言おうとしたその時、生々しい金属の輝きが視界を横切り、次の瞬間右腕の肘辺りに鋭い痛みが疾る。

同時に雪ではない白いものが大量に舞い上がる。

それは俺のダウンジャケットの断熱材だった。

俺はよろけ、白いセダンのリア部に衝突してどうにか踏みとどまる。

いまだ状況が理解できず、俺は近くに立っている人影を凝視した。

そして、驚愕のあまり言葉を失う。

 

?「遅いよ、キリト君。僕が風邪引いちゃったらどうするんだよ。」

 

俺の目の前には大ぶりのサバイバルナイフを持った黒いスーツ姿の男がいた。

奇妙なほどに粘り気のある高い声、髪が乱れ、髭の影が見える顔でこちらを凝視している。

メタルフレームの眼鏡の奥にあるその眼は異常で、右目、丁度俺が突き刺したその位置にある瞳の瞳孔が、大きく開いた左眼と違い小さく収縮したままなのだ。

ネクタイをほとんど首に下げたままに成程ゆるくしたその姿は数日前に会った時とはだいぶ印象が違うが、それが誰であるかなど、考えるまでも無かった。

 

和人「す、須郷・・・」

 

俺が呆然と呟くと、須郷が軋る声で言う。

 

須郷「酷いことするよねえ、キリト君。まだ痛覚が消えないよ。まあ、良い薬が色々あるから、構わないけどさ。」

 

須郷は、ポケットからカプセルをいくつか摘み出して口に放り込むと、こりこりと音を立ててそれを咀嚼する。

俺は乾いた唇をどうにか動かして言い放った。

 

和人「須郷、お前はもう終わりだ。あの仕掛け誤魔化しきれるものか。おとなしく法の裁きを受けろ。」

 

須郷「終わり?何が?何も終わったりしないさ。まあレクトはもう使えないけどね。僕はアメリカに行くよ。僕を欲しいって企業は山ほどあるんだ。僕には今までに蓄積した膨大なデータがある。あれを使って研究を完成させれば、僕は本物の王に・・・神に・・・この現実世界の神になれる。でもその前に幾つか片付けるはあるけどね。とりあえず君を殺すよ。」

 

須郷はナイフを振り上げると、ゆっくりと俺に迫ってくる。

俺は立ち上がろうとするが、雪のせいで足が滑って立ち上がれない。

その上、後ろは車に塞がれていて逃げ道が無い。

 

須郷「死ねええええぇぇぇぇ!!」

 

須郷は叫ぶと同時に、思い切りナイフを振り下ろした。

俺が死を覚悟したその時、俺と須郷の間に何者かが割り込んだ。

須郷のナイフが振り切られると、赤い液体が飛び散り、白い雪に紅の斑点を作り出す。

 

?「はぁ、はぁ、ギリギリセーフってところだな。」

 

息を切らしながら発せられた声で、俺は目前に現れた人物が誰なのかを悟った。

大地視点

病院に着くと、キリトがスーツを着た男に襲われているのを見つけて間に割り込んだが

それによって俺はキリトを襲っていた男のナイフで切り裂かれた。

ナイフは俺の左胸から右脇腹までを切り裂き、長さ30cm、深さ6mm前後の傷を作った。

 

和人「デュオ!!」

 

後ろから、キリトの声が聞こえると、続いて前から須郷(クズ)の声が聞こえる。

 

須郷「誰だい君は?悪いけど、僕の邪魔をしないでくれないかな。」

 

大地「友達が殺されそうになってるのを見て、はいそうですかって言うバカがどこにいるんだよ。」

 

俺がそう言い返すと、須郷は再びナイフを振り上げる。

 

須郷「なら、お前も死ねええええぇぇぇぇ・・・!!」

 

大地「ふざけるな!!」

 

ナイフが振り下ろされる前に、俺は須郷の左頬に右ストレートを打ち込んだ。

その瞬間、切られた部分に鋭い痛みが疾るが構わず腕を振り切る。

拳が直撃すると、須郷はあっさり吹き飛び、同時にナイフが俺の足元に落ちる。

 

大地「はぁ、はぁ・・・ざま見やがれ・・・」

 

俺はそう呟くと落ちていたナイフを拾い上げる。

 

和人「デュオ!!大丈夫か!?」

 

すると、ようやく起き上がった和人が駆け寄ってきた。

心配そうな顔をする和人に俺はなんとも無いように答える。

 

大地「デュオじゃなくて大地な・・・このくらいの傷なら平気だ。」

 

もちろん嘘だ。

出血量からして、止血しなければこのままだと10分と持たないだろう。

だが、俺はたとえ自分が死ぬことになっても、友達を傷つけた、俺から友達を奪おうとした奴を許すことは出来ない。

 

大地「カズ、少し下がってろ。俺はあれを片付ける。」

 

和人「ダメだ!そんな怪我で動いたら・・・」

 

大地「ウ ル サ イ ジャ マ ス ル ナ」

 

俺はもう我慢の限界だった。

俺を止めようとする和人に、声にならない声で叫んだ瞬間、周りが見えなくなった。

もう何も無い。

何も考えられない。

須郷(あれ)を殺すこと以外何も。

俺はナイフを握り締めたまま、無様に転がっている須郷に近づいた。

そして、その髪を左手で掴むとアスファルトの上に叩きつける。

 

須郷「・・・!!」

 

声にならない悲鳴を上げる須郷の体を思い切り踏みつけると、俺はナイフを見せびらかしながら言った。

 

大地「サ イ ショ ハ ド コ カ ラ キ ッ テ ホ シ イ」

 

須郷「ひっ・・・ひいぃぃぃぃ・・・!!」

 

俺が問うと、須郷は耳障りな奇声を上げて暴れ始める。

俺はナイフを振り上げると、暴れている須郷の首の横に突き立てた。

 

大地「マ ズ ハ ユ ビ ヲ カ ン セ ツ ゴ ト ニ ヤ ッ テ ヤ ロ ウ カ」

 

そう言う俺と目が合った瞬間、須郷は目をこれでもかというほど見開いて気絶した。

和人視点

俺は見た・・・いや、見てしまった。

須郷のことを踏みつけて、ナイフを持ち上げている大地の表情を。

それはまさに恐怖を具現化したものとしか言いようの無いものだった。

薄笑いを浮かべ、須郷を見下している大地の表情が表していたのは、怒りでも、悲しみでも、恐れでも、そして殺意でも無い。

大地の表情が表しているのは、間違いなく歓喜である。

それを見た瞬間、俺は背筋が凍りつくのを感じた。

あれは人間のものではないとさえ思えてくるほど恐ろしい表情をしていた。

 

和人〈デュオ、お前は一体何者なんだ?〉

 

俺がそう言うより早く、大地が動いた。

振り上げたナイフを投げ捨てると、ネクタイを引き抜いて須郷の手を縛ってから振り向く。

 

大地「終わったぞ。さあ、アスナを迎えに行こう。」

 

その声を聞いた瞬間、重力が無くなったのではと思うほど周りの空気が軽くなった。

 

和人「あ、ああ・・・」

 

反射的にそう答えると、いつの間にか元に戻った大地に連れられて病院の中に入った。

通常視点

ナース「すぐにドクターを呼んできますから、待っていてください!」

 

ナースステーションで事情を話すとすぐに警備員が呼ばれ、駐車場へと向かって行った。

和人の腕は初めの一撃で浅いが切り裂かれており、その怪我を治療するため待っていろと言われたのだが、今の和人にそれは無理だったようだ。

和人は周囲に誰もいないのを確認すると、小走りでナースステーションに近づき、受付の内側からカードキーを引っ張りだした。

 

大地「一応言っとくけど。それ犯罪だからな。」

 

和人「知ってる。」

 

大地「やれやれ・・・」

 

大地が呆れてそう言うと、和人はエレベーターの方へと走る。

もう一秒たりとも和人は待てないのだ。

自分の思い人との再会を。

エレベーターの中に乗り込み、僅かな上昇感覚が二人を包む。

 

和人「それより、傷の方は大丈夫なのか?」

 

大地「見た目ほど酷く無いさ。俺が元気なのが1番の証拠だろ?」

 

和人「それもそうか。」

 

そんなやり取りをしていると、エレベーターが止まり扉が開く。

踏み出した足は、先程までと比べると幾らかゆっくりだ。

不意に、大地が和人に問う。

 

大地「怖いのか?」

 

和人「・・・ちょっとな。」

 

大地「大丈夫だって。きっと起きてお前を待ってるさ。もし起きてなかったら、また探すの手伝ってやるさ。」

 

和人「なんか複雑だな・・・」

 

軽口を叩きながら歩いていくと、ついに明日奈の病室の前へとたどり着いた。

 

和人「あ・・・」

 

スリットにカードキーを差し込もうとして、その手からキーが滑り落ちる

 

大地「何やってんだよ。」

 

大地はそれを拾い上げ、和人に手渡す。

 

和人「悪い・・・」

 

和人はカードを受け取ると、今度こそしっかりスリットに差し込んで滑らせる。

扉がスッと小さな空気の音を残して開く。

扉を超えた向こうに、カーテンで仕切られた一角がある。

その向こうにはジェルベットがあるはずだ。

だが、和人は急に足を止めた。

今まで何度もここに来てそのたびに覚醒していないアスナの顔を見ていたため、入るのが怖いのだ。

すると、大地はそっと和人の肩に手を置き、振り向いた和人に言った。

 

大地「早く行ってやれ。」

 

和人は頷くと、病室の中へ入っていった。

大地視点

扉の向こうから、小さな嗚咽が聞こえる。

先程まで和人の歓喜の声だったそれは、今は明日奈のそれとなって響いている。

扉を解放のままにしておくのもどうと思い、ボタンを離すと、数秒後に扉が音も無く閉じた。

ふと、廊下の行き止まりにある、窓ガラスからから、大粒の雪がちらちらと舞っているのが見えた。

その奥に、一つの人影が見えた気がした。

赤いロングコートに身を包み、背中に大剣を背負った少年。

あの世界に住む、劫火の名を冠する剣士。

彼は俺に向かって不敵な笑みを浮かべると、振り向いて右手を上げながら暗闇に消えていった。

その時彼は、「俺の役目は終わった。」と言っていたような気がした。

 

大地「これで俺の役目は終わった・・・かな・・・」

 

俺はそう呟くと同時に、床に倒れ、意識が途切れた。


 
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