No.519282

IS x アギト 目覚める魂 09: 約束の記憶

i-pod男さん

少し短めです。戦闘はナシです

2012-12-16 17:03:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3329   閲覧ユーザー数:3123

その夜。一夏は自室にて、膝を抱えてベッドの上で座っていた。

 

「おかしい・・・・・」

 

自分の手を見つめる。頭の中では秋斗に言われた言葉が頭の奥で響く。

 

『ギルスとは不完全なアギト。それ故に何らかの副作用がある筈だ。だが、お前にはそれが見えない。木野さんにも診せたい所だが、生憎まだ出られない。アンノウンは出来るだけ俺が始末する。可能な限り変身は避けろ。向こうには木野さん、津上さん、氷川さん、一条さん、それに芦原さんがいる。心配無い。』

 

「そうは言われてもな・・・・」

 

(コンコン)

 

「開いてるから。」

 

中に入って来たのは、鈴音だった。

 

「・・・・・何だ、お前か。」

 

「何だとは何よ。」

 

「別に。何か用か?言っておくけど、部屋替えろって言っても無理だからな。寮長である千冬姉を説得出来る必勝法があるなら別だが。」

 

「それもあるけど・・・・」

 

「じゃあ何だ?俺は早めに寝たいんだよ。用事があるなら早くして欲しい。」

 

「昔の約束、覚えてる・・・・?」

 

「(約束・・・・・?中学時代の、約束・・・・?・・・・・・・・・ああ、あれか。)覚えてるぞ。あれがどうかしたか?まさかまた俺を実験台にしようってんじゃないだろうな?病院送りになるのはゴメンだぞ。」

 

「失礼ね、上達したわよ!」

 

「どうせ酢豚だけだろ?」

 

一夏は立ち上がると、鈴音を押しのけ、シャツを脱ぎ捨てると、タオルを棚の中から取り出した。

 

「ちょ、どうしたのよ、その背中・・・!!」

 

背中にある抉られた様な傷。その痛々しさは未だに消えていない。

 

「昔、家族全員でフェリーに乗ってた頃海難事故に遭ってな。その時波で船が大きく揺れた拍子にガラスに叩き付けられた。」

 

「聞いてないわよ、いつよそれ!?」

 

「ずっと昔の話だ。お前に会う以前のな。それに、聞いてないのは当たり前だ、俺だって話してないんだから。用事がそれだけなら帰ってくれ。」

 

「一夏、あんたどうしちゃったの?昔はもっと」

 

「昔は昔、今は今だ。昔の俺と今の俺・・・・比べるだけ無駄なんだよ。過去はもう、乗り越えた。俺は昔の俺とは違う。それが現実だ。受け入れろ。目を背けても、何も変わらないし、解決しない。分かったらもう帰れ。クラス対抗戦も近いしな。」

 

一夏は冷たいシャワーを浴び始めた。凍る様に冷たいシャワーを。

 

(会いたい・・・・また会いたいよ・・・・・簪ちゃん・・・・俺を助けて・・・・もう、どうにかなりそうだよ・・・・)

 

歯を食いしばり、溢れんばかりの涙を流していた。それを隠す為に、水を流し続ける。鈴音は静かに一夏の部屋を出て、自室に戻った。本能的に感じ取っていた。何かがおかしい。あそこまで人と関わりを持ちたく無くなるとは、自分が知っている幼馴染みじゃない。クラス対抗戦で、聞き出してやろう。そう心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

(あかつき号・・・・・あの船に、あいつらが、織斑家が全員いた・・・・・間違い無く。一条さんと氷川さんが乗客全員を救出した。だから、アギトの光を・・・・けど、織斑千冬は未だに覚醒していない・・・・どうにか出来ない物かな・・・・・)

 

秋斗は現在部屋で過去を振り返っていた。あの船、あかつき号での事を。その乗客全員が、アギトの光を浴びて、超能力者となった。当然自分も、木野も、真島浩二も、そしてあの時だけいた織斑一家も。

 

「エルロードォ・・・・・・」

 

その言葉を呟いた。そして、手に握っていたマグカップを、その握力で粉々に砕いた。破片が手に突き刺さり、中に入っていたスポーツドリンクと血が地面に滴り落ちる。

 

「絶対に奴を・・・・・殺す・・・!!!」

 

一瞬、ほんの一瞬だが、そのマグカップを握り潰した手から、微量の炎が揺らめいた。

 

 

 

 

(コンコンコン)

 

「はい・・・・」

 

一夏はドアを開け・・・・・・思わず口を馬鹿みたいにあんぐりと開いた。少々撥ねっ毛の水色の髪の毛、飛燕草の髪飾り・・・・

 

「やっと見つけた・・・・・!一夏・・・・!」

 

「その髪飾り・・・」

 

「「飛燕草か(だよ)。」」

 

一夏は彼女の手を取って部屋の中に引っ張り込み、思い切り抱きしめた。

 

「簪・・・ちゃん・・・・?」

 

「そうだよ・・・・私だよ、一夏。十年振りだね。」

 

いつもと変わらぬあの笑顔。一夏の目頭が熱くなり始めた。

 

「会いたかった・・・・ずっと会いたかった。」

 

「やっと会えたね・・・・・」

 

簪も、泣いていた。一夏は壁を背にしてゆっくりと座り込み、簪も一夏に凭れ掛かる様に膝立ちになった。

 

「今まで、どこでどうしてたの・・・・?」

 

耳元で囁く様に会話を続ける。互いの温もりが安心感をもたらしていた。互いの心臓の鼓動が聞き取れる程に更に体を密着させる。

 

「俺も色々あったんだ。まだ付けてくれてたんだ、ソレ。」

 

「私の宝物だもん。」

 

自慢げに笑う簪。その優しい笑顔は朧げな一夏の記憶の中で鮮明に蘇った。

 

「気に入ってくれたなら良かった。所で・・・・俺と同じ一年、だよな?」

 

「うん、四組。」

 

「遊びに行くぞ。」

 

「良いよ。お弁当作って待ってるから。」

 

「そりゃ楽しみだ。」

 

「・・・・・ねえ、始めて会った時の事覚えてる?」

 

「ああ。確か、苛められてたのを俺が死ぬ気で守ったんだっけか?」

 

「うん。その時に、この傷が出来た。石投げられて、血が出たから怖かったなあ。」

 

髪に隠れていたが、こめかみには薄い小さな傷が出来ていた。そこに軽く唇を当てる。一夏はくすぐったそうに身を揺すったが、拒みはしなかった。簪の顔を両手で包み込み、唇に軽くキスしてやる。

 

「初めてこうしたのも、こんな体勢だったな。」

 

「うん・・・・なんか、今更恥ずかしいけど。」

 

「おいおい、五、六歳辺りでキスする様なマセガキ二人が今更何を恥ずかしがる事があるんだ?」

 

「そうだけどぉ・・・・ンムッ・・・」

 

それから五分近くはキスに耽っていた。ようやく離れて時計を見ると、十時を既に回っていた。

 

「ずっと、こうしたかった。」

 

「私も。」

 

「んじゃ、俺、そろそろ寝るから。」

 

「うん。お休み。」

 

「送って行こうか?」

 

「大丈夫。じゃあ、また明日。」

 

一夏は立ち上がると、流れた涙の後を払拭する。座り込んでいた付近に、封筒があった。中には、十字形の剣のペンダントトップが付いたロザリオの様なネックレスが入っている。革紐やビーズから見て、恐らく手作りだろう。薄く笑うとそれを首に掛けた。

 

「ありがとう。」

 

それから五分程して夜の稽古から戻った箒が一夏の様子がおかしい事に気付いた。妙に機嫌がいい。

 

「どうしたのだ一夏?」

 

「昔の知り合いに偶然会ってな。嬉しいんだよ。久し振りに良い事があった。」

 


 
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