「西洋魔法使い達の動きが活発になっている?」
あの蛇神騒ぎから六年が経って麻帆良の運営にも慣れてきた頃に、泰春が俺とクラマが住んでいる家を訪れてきた
傍らに楠根さんと久慈奈ちゃんを伴って
「ああ。恐らく狙いは十中八九、此処。麻帆良だろう。世界中の持つ魔力は莫大だからね。奴らの魔力も、使ってくる魔法も遥かに強くなっている」
「麻帆良を獲るためなら、そこまで強さを求める必要は無い。政治の方向から攻めればいいだけだ。何故、強さに拘っているんだ?」
俺がふと疑問点を指摘すると、泰春の表情が変わった
「…推測に過ぎないが、君が欧州でお尋ね者として手配されている事が原因だと思う。六年前に君たち二人が襲われて、実行犯を取り逃がしただろ?そいつから君の存在が漏れた可能性が高い」
成る程ね…。たまに欧米で情報収集してるけど、俺はもうキティと並んで伝説的な存在になってるからな
そんな状況下で俺を発見したと報告が来たりしたらどうなるか?是が非でも真実を確かめて、あわよくば始末しようと言うことになるだろうな
「僕としては麻帆良に神鳴流の手練たちを送って、君たちを護衛しようと思っている。勿論、龍宮家の方々も」
泰春が真剣な目をして、一同を見渡す。反対意見は無かった
―――ただ一人を除いて
「待ってくれ。泰春」
「何だい疾風君。悪いが、今回ばかりは譲れない。君が何を言おうとしてるかは大体わかるよ。長い付き合いだしね。けどもう一度言うよ。僕は今回ばかりは
譲れない」
「それでも、俺は関西呪術協会に。泰春に迷惑をかけたくは無いんだ。最悪死者が出ることも有り得るし、何より呪術協会のこれからにも関わってくる」
「どう言う事ですか?確かに護衛としてくるのなら、死者が出ることもあると思います。しかし協会のこれからとはどういうことか、私には解りかねます」
六年が経ち、すっかり『女の子』から『女性』となった久慈奈ちゃんが尋ねてくる
その目には不安と言う二文字がありありと見て取れた
「俺がお尋ね者ということが問題なんだ。ただの一般人を神鳴流が護衛しているのであれば問題は無いんだ。依頼ということがあるからね。だけど、俺の場合は『犯罪者』なんだ。犯罪者を護衛しているとなれば、その組織の信用は地に落ちる。『神鳴流は依頼人を選ばない。犯罪者からの依頼だって平気で受ける』ということに成りかねないんだ」
「でも国が違うんですよ?他国で誰が何をしていたかなんて、分かる筈がありません。西洋魔法使いだってそのくらいは理解しているでしょう?」
俺が犯罪者という言葉で自分を蔑んだことに腹が立ったのか、久慈奈ちゃんは語気を荒げて反論してくる
「そう言う事じゃないんだ。あちらとしては神鳴流、ひいては呪術協会を糾弾できる理由があればいいんだよ。魔法使いは日本に魔法を広めて陰陽術を衰退させようとしている。こんなに都合の良い理由は無いんだ」
理由には納得したのか久慈奈ちゃんは矛を収める。しかし俺が犯罪者という言葉を使ったのは未だ許せないようだった
「むう…。分かりました。でも今後は、自分のことを『犯罪者』なんて蔑まないでください。母と私を助けてくれた人が自分で自分を傷付けるようなことは、余り気分が良くはありませんから」
「わかった。善処するよ」
「話は終わったかい?とにかく、僕も引くつもりは無いよ。君達を助けるためなら僕は、僕達神鳴流はその為の力を惜しまない。たとえ呪術協会が潰されようともね」
泰春は俺を睨みつけて威圧する。しかし、俺も負けてはいられない
ここで俺が折れてしまえば、近い将来呪術協会は完全に根絶やしにされてしまう
それほどの力を西洋魔法使いは、いや
たかが一国の協会相手が歯向かえるような組織でないのを、俺は知っている
だからこそ今、泰春に負けるわけにはいかないのだ
神鳴流が納得できなくとも、これは必ず将来の布石になり得る
泰春が納得しないのなら、最悪―――
「泰春。お前が納得しないのなら、俺にも考えはある」
「ほう?どんな考えだい。僕らの決意を覆せる様な策なのかい?」
泰春は俺を試すように尋ねる
それに対して俺は、無言で万華鏡写輪眼を発動させる
「この瞳で、お前に洗脳をかける。脅しじゃないぞ。これにはその位の力はある」
「…ちなみにどんな洗脳だい?」
泰春は冷や汗を掻いている。それもそうだろう。まさか泰春だって、自分に洗脳をかけられるとは思っていない
それに、俺が
「そうだな。『波風疾風を神鳴流の長、青山泰春が西洋魔法使いに突き出す』というのはどうだろう?確実に外交上の切り札になるぞ」
「そんな事ッ!!」
俺の左隣に座っていた久慈奈ちゃんが激昂する
楠根さんは諫めもせず、ただ黙って成り行きを見守るだけだ
部屋に嫌な静寂が訪れる
張り詰めた緊張感で息苦しい
空気が、重い
―――何十秒そうしていただろうか
その静寂を最初に破ったのは、以外にも楠根さんだった
「では折衷案として、私と久慈奈。つまり龍宮家を神鳴流さん達が護衛をする。疾風さん達には戦力の増強。神鳴流の秘伝や、陰陽術の禁術などを伝授して差し上げれば良いのでは?ですが、あくまでもこれは私個人の意見です。教えるわけにいかない術などがあるのも分かっています。ですので、この部分は京都の神鳴流の剣士さん達、呪術協会の重鎮さん達と協議して決めればよろしいと思いますが」
楠根さんが挙げた提案の意味を、頭の中で咀嚼してよく吟味する
たしかにこれなら、神鳴流が表立って俺達に力添えをしているとは言い切れないだろう
秘伝などを使っても、あちらにも俺の情報はある程度入っている筈だ。勿論、魔法がコピーされることも
それならば『波風疾風を討伐しようとした時に、術を模倣された』とでも言えばいい話だろう
泰春もそれならば、と納得したようだ
「…仕方ないね。疾風君も頑固だから、それで良いだろう。神鳴流の奥義なら僕の一存で決められる。でも陰陽術に限っては僕じゃ決められない。これは呪術協会の回答待ちになるね」
渋々、といった顔でその条件を承諾する
しかし何故か、その顔は一瞬でニヤニヤ笑いへと変わった
「それに戦力の増強なら、ほら何だっけ?あの、ぱくておーとかいう奴をする必要があるんじゃないのかな?確か、便利な道具が手に入るんだよね?」
その言葉に俺は背筋に冷たい汗が流れて、逆にクラマはキラキラした眼を俺に向けてくる
「よし疾風。
「ちょ、ちょっと待てクラマ!行き成りそういう事をするのは、その…心の準備がいるし、それに久慈奈ちゃん達に見られても良いのか!?お前は!!」
「何を乙女な事を言うておる!たかが接吻じゃろうが。それに疾風となら、見られても構わんし。…それとも疾風はワシと接吻するのは嫌、かの?」
クラマはピンと立っていた耳を垂らして、涙目で俺に問いかけてくる
クッ、この涙目は反則だろう…。この目で見られて断れる奴がいるだろうか。いやいない!
「いや、な訳が無いだろう。俺はクラマのことが好きだぞ?ただするんだったら、人に見られない所でやりたいんだが」
「わかった。では僕達は出て行こう。さっきの条件の詳細は後日、京都に呼び出したときに詰めようか」
すっくと泰春が立ち上がり、部屋を出て行く。その後ろを楠根さん、久慈奈ちゃんと続いて出て行く。何故か久慈奈ちゃんはクラマを恨めしそうに睨んでいたが
そして、その間にクラマは着々と
あれ何これデジャヴュ?
「疾風?さ、さあ。早く…!」
クラマは魔方陣の中で眼を閉じて待っている。真赤な顔で催促をするその状況は、何故だかとても可愛く見えた
光を放ち、風を靡かせている魔方陣の中に入る
そして、クラマの顔が視界いっぱいに広がり―――
―――二つの影が、一つに重なった
その瞬間一際激しい光と風が放たれ、二人の間にカードが舞い降りる
カードに描かれていたのは橙の着物に身を包み、九つの勾玉を円形にに背負っているクラマだった
「クラマ?終わったぞ」
「ふぇ?も、もう終わってしまったのかの?もう少し、感触を味わって居たかったというのにぃ…」
恥ずかしいことを平気で呟くクラマにコピーのパクティオーカードを渡す
「とりあえずアーティファクトを出してみろ。今回のはそれが目的なんだからな」
「分かっておるわ。『
クラマが呪文を紡ぐとパクティオーカードが眩い光を放つ。余りの光量に眼を瞑らざるをえなかった
光が収まり眼を開けてみると、絵柄と同じ九つの勾玉を背負ったクラマが佇んでいた
「ほう…?面白い効果ではないか。流石ワシと疾風の
「なんでお前らはアーティファクトに副音声を付けるんだ?」
数十年前のキティとの
まあそれはいいやと気を取り直し
「その効果ってのは何なんだ?」
「これはの。ワシと同じ『尾獣』の力を引き出せるらしいぞ。流石に本物と同程度の力は難しいじゃろうがの」
そう言いつつクラマは背中から明緑色の大きな翼―――七尾の翼を出していた
「うわあ…。それなんてチート?」
「こういう効果なんじゃから仕方なかろう。ちなみに名前は…ふむ。『
またとんでもない物を引き当ててしもうたのう?と笑うクラマを横目に決意する
魔法使い達に、負けはしない
最悪でもクラマだけは護る
そう心に決意をしてながら、無視されて機嫌が悪いクラマを諫めるのだった
またオチにクラマを使ってしまったwww使いやすいんですよね。何でか
今回、疾風ははクラマとの
そしてクラマのアーティファクトが…何これチート
さて次回は急展開です。キンクリの可能性があります。端折れるところは端折らないと、また話数がかかるので…申し訳ありません
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第十四話です。お楽しみいただければ幸いです