最終話 最期の果て
「でゃあああああ!!」
「ふん!」
一刀の刀と張世平の蹴りがぶつかる。
「ふあああ!」
蘇双が手刀で一刀を襲おうとするが、一刀は紙一重でそれを避け、蘇双を蹴る。
蹴られた蘇双は張世平の方によろけ、張世平とぶつかる。
「でゃああああ!!」
一刀は張世平と蘇双を一緒に斬ろうとするが、二人はすぐに避ける。
「本当に怪我をしてるのか?」
「いい動きをしてるな」
「こうなることを想定して、戦う訓練をしてたもんでな。
それに見た目より怪我は軽いんでな」
「謀ったということか」
「面白い。だが、たとえ怪我をしてなくても俺達には勝てないぞ」
「人間の可能性、……見せてやるよ」
「可能性などない」
張世平が一刀に襲い掛かる。
張世平の素手を一刀が刀で受け止める。
「せやああああ!!」
張世平が刀で止められてる手の一つを放し、その放した手で強力な突きを繰り出し、一刀の腹部を狙う。
しかし……。
「ぐう!」
張世平の突きが来る前に一刀は刀の鞘を張世平の腹部に当てた。
「ああああああああああ!!」
一刀はほんのわずかによろけた隙を突いて、張世平を斬った。
「ぐううううう!!」
張世平はそのまま倒れる。
「バカめ、再生……。出来ないだと!?」
張世平は再生しようとしたが、再生できないことに気づく。
「何故、再生できない?」
「俺もよくは分からないけどな、どうやら俺を転生させると同時にお前達管理者に有効な力が俺に宿ってたみたいだ」
「……油断した……」
それからすぐに張世平は消滅した。
「…………」
その場には一刀と蘇双しかいなくなった。
「よくもやってくれたな」
「あとはお前だけだ」
「さっきのを見せられた以上、俺は油断しないぞ。
そして身体能力は張世平よりも俺は上だ」
「そ……」
一刀はそっけなく答えた。
「………!」
蘇双が蹴り技で一刀を襲う。
一刀はそれを紙一重で避けるが、蘇双はすぐさま拳を振るい、一刀の顔面に当てようとした。
「っ!」
一刀はそれを刀で受け止めた。
「ふん!」
蘇双は鉄山靠を繰り出し、一刀を吹き飛ばす。
「くうう!!」
一刀は地面を引きずりながら、飛ばされる。
「ちぃ……」
一刀は起き上がろうにもなかなか起き上がれなかった。
「今までのダメージがある……にしては……」
「俺の鉄山靠をそんじょそこらの攻撃と一緒にするな。一撃でもくらったら、瀕死だぞ。
まあ、お前はギリギリのところで体を後ろに下げてたみたいだけどな。
だが、今までのダメージのせいで動けないみたいだな」
「………はぁああああああ」
一刀は氣を体全体に広げ、何とか立ち上がる。
「まだ立てるとはなかなかだな」
「俺はここで……まだ死ぬわけにはいかないからな」
「いや、お前はここで死ぬ。俺に殺されてな」
「はぁ……はぁ……」
一刀は血を流し過ぎていることもあって、意識が朦朧としていた。
それでも倒れないのは一刀の氣と一刀の氣力、そして一刀の負けられないという思いが一刀を支えていた。
「なら、次のこの一撃で決めてやろう」
蘇双の右手に氣が溜まっていくのを一刀は感じる。
「……」
一刀も刀に氣を込め、そして鞘に一度しまった。
「居合か。面白い!」
二人はしばらくその場にこう着状態になる。
「「!!!!」」
二人同時に駆け出した。
「ぬううううう!!」
「でああああああ!!」
一刀の刀を抜く速さと蘇双が拳を振るう速さはほぼ互角だった。
そして刀と拳がぶつかり合う。
その二つがぶつかった衝撃はさすまじいもので、そこを中心に半径5メートルが衝撃で吹き飛んだ。
「な、何が起こった?」
「なんなのだ~?」
「ただ事ではないぞ」
「何かの爆発……」
「でも……大きすぎるよ……」
関羽や張飛に趙雲、軍師である諸葛亮や鳳統も何が起こったのか理解できずに吹き飛ばされた。
諸葛亮と鳳統は何とか関羽や趙雲がかばってくれたので、無事に地面に着いた。
そして蜀の将達は衝撃の原因がなんとなく分かっていた。
「一刀……」
「本気であれを出したのね」
「けど、これほどの衝撃は……」
「ご主人様の相手も……」
「並々ならぬ氣を使っておる」
「勝ってね、一刀さん」
「勝って! 一刀!」
『一刀(ご主人様)(お館様)(さん)!!』
蜀の将達が叫ぶ。
「くうううう……」
「どうした?」
わずかにだが、蘇双が押していた。
そんな時であった。
一刀の名前を叫び蜀の将達の声が一刀の耳に聞こえた。
「俺は……俺はーーーーーーーーー!!」
一刀の氣がさらに高まり、刀に集まっていく。
「何!?」
「だああああああああ!!」
一刀の刀が蘇双の拳を切り、そして蘇双の体を横一文字に斬った。
「な……ん……だと!?」
蘇双の体は地面につく。
「はあ……はあ……」
一刀は刀を地面に刺し、膝をつく。
「これが人の可能性だと? 信じられん」
「信じられないだろうな。人を見下してるお前達なんかに……」
「まさかこんなところで俺が終わるなんてな……。
管理者の仕事を全うできなかったことは……別に気にしてない。
だが、北郷一刀、貴様を倒せなかったことが……な」
「なんで俺をそこまでして狙った」
「お前が数多にある外史に関与しているからだ。
北郷一刀と言う存在は本当に厄介でな。様々な正史から外史を生み、そして外史に行く存在。
外史は増えすぎてはいけないものでな……。それを管理する管理者だ。
だから、お前が外史に行く前に正史でお前を殺しておこうとした」
「それであいつは……俺と言う存在そのものを恨めと言ったのか」
「……そういうことだ」
「だが、俺は……自分を恨む気はない」
「それはそうだ」
「だが、ある意味では感謝している。俺はこうして仲間達に会えたんだからな……」
「ふ。だが俺が見る限り、今の氣の使い過ぎでお前のそれはもう完治不能。
時間の問題だ」
「わかってるさ……」
「だが死なせるなら、俺の手で死なせたかっただがな………はっ」
蘇双は完全に死に、消滅した。
「…………っ」
一刀は蘇双の消滅を確認し、倒れた。
「……と」
「………」
「かずと……」
「…………」
「一刀!」
「!」
一刀は目を開ける。
そこには美咲や綾に千歳をはじめとする蜀の将達が自分の目の前にいた。
「よかった。目を開けた」
「お前達……無事だったか」
「怪我は少ししてるけどな」
「ご主人様が敵の大将を倒したので、白装束の兵士達は皆消えました」
「そうか……」
「今手当を……」
「もう遅いよ」
「一刀さん! そんな、弱気なことを言わないでよ!」
「弱気とかそんなものじゃない。感覚的なものだ……。
俺はここで死ぬ」
「一刀……」
「お館様、我らはどうすればいいのですか!
我らはお館様について行くと決めたのですぞ!」
「だったら、これからはお前達が曹操、孫策、そんでもって劉備を支えてやればいい。
せっかく俺のおかげで一つにまとめられそうになったのにその俺が……こうして死ぬのはふがいないというか、無責任かもしれないけど……」
「無責任すぎるわ!」
「俺もそう思う……。けど、許してくれ…………。
ああ、マジで意識が無くなってきた……」
『一刀(ご主人様)(お館様)(さん)!!』
「最後に……いや、これが俺の最後の言葉だ。
みんな……元気に生きてくれ……」
一刀は目を閉じ、そして息絶えた。
『一刀(ご主人様)(お館様)(さん)ーーーーーーーーーーーーー!!』
そして皆、一刀の死を感じ、泣き叫んだ。
「………………」
青年は目を開ける。
そこは見慣れぬ天井、そして自分の顔に覆いかぶさっている白い布。
そこに扉が開く音が聞こえてき、青年はその扉の方を向く。
「!?」
その扉に入って来たのは一人の看護婦だった。
青年が顔を横に向けたために白い布は床に落ち、青年の顔が見えるようになった。
「すみません、ここどこですか?」
「!! 先生ーーーーー!!」
看護婦が急いでその場から走り去り、そしてこう叫ぶ。
「北郷一刀さんが……息を吹き返しましたーーーー!」
それから何か月が経った。
北郷一刀は前までの高校生活に戻っていた。
「…………」
季節は冬。
外は寒く、雪がいつ降ってきてもおかしくない空模様だった。
「…………」
一刀は立ち止まり、空を眺める。
「あいつらもこれと同じ……、いや、ここよりもキレイな空を見てるのかな……」
一刀は劉璋として生きた記憶を持ったままこの世界に戻り、再び命を取り戻したのだ。
「すみません」
「うん?」
一刀の所に一人の老婆が声をかけてきた。
「何でしょう?」
「駅への道を聞きたいのですが…」
「駅ですか。それでしたらこの道をまっすぐ行って、次の信号を左に行けばいいですよ」
「すみませんね~」
「いえいえ……」
一刀はおばあさんの後姿を見送る。
そして一刀は思わず後ろに警戒して思わず、少し前に飛び、後ろを向く。
そこには誰もいなかった。
「誰もいなかったか」
一刀は再び空を眺める。
「蘇双や張世平は俺と言う存在が外史に行くとかいろいろ影響があると言ってたな……。
もしかしたら、また会えるかもしれないな。
その時が来たら、なんて言おうかな」
一刀は再び前を向いて歩き出す。
(とにかく、俺は元の世界でまた生きるんだ。時が来たら、また会えるだろう。
紫苑、桔梗、焔耶、翠、蒲公英。そんで千歳、美咲、綾、それまで待っててくれよな)
一刀は今ここにある自分の生をかみしめながら、生きるのであった。
また会えるであろう、劉璋として生きた自分の仲間、そして自分の幼馴染たちとの再会を信じて……。
完
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この作品は作者が最近見かけている「転生もの」の影響を受けて書いたものです。
そして今回で最終回(最終話)です。