No.513709 真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ十二2012-11-30 21:31:55 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:6556 閲覧ユーザー数:5054 |
一刀達が順調(?)に益州攻略を進めているのと同じ頃、雪蓮は蓮華の
軍勢を破った張怨率いる賊の軍勢と対峙していた。
雪蓮は幾度も攻撃を仕掛けるも、その度に張怨の軍勢は散開し、焦れた
孫呉の軍が深追いして来たその瞬間に伏兵を四方八方より仕掛けさせて
突出して来た部隊を壊滅させるという戦法で孫呉の軍を苦しめ、孫呉の
軍は日を追う毎に死傷者を増やす結果となっていたのであった。
「孫策様、これまでの戦闘で損害は既に二割を超えております。このまま
では…『わかってるわよ、そんな事!!』…は、はい!失礼しました!」
現在の状況を報告していた兵に雪蓮は苛立ちの声をぶつけてしまう。
「落ち着け、雪蓮。お前までそれでは兵の精神が持たんぞ…すまなかった、
下がって休め」
冥琳が間に入り、何とかなだめようとしているが、雪蓮の機嫌は悪くな
っていくばかりであった。
「ううっ…ああ!もう我慢出来ない!!やっぱり私が突っ込んで奴らを皆
殺しにしてくる!!あの山にいる事はわかってるんでしょう!?」
「だからそれは何度も言っただろう!?お前がそうする事をおそらく張怨
は待っているはずだ!それでは蓮華様の二の舞を踏む事になりかねん」
「ぐっ…でも私なら」
「それがダメなのだ!!おそらく張怨は孫家が持つ激情たるその性格を
知った上でこのような作戦に出ているはずだ。ここは我慢しろ。奴を破る
方策は私達が考える」
このように敵軍に一人突撃をかけようとする雪蓮を冥琳が必死に抑え続
けて既に数日が過ぎようとしていたのであった。
しかし、考えるとは言ったものの、徹底的な位のゲリラ戦法に冥琳も頭
を悩ませていたのが事実ではあった。
何とかして情報を得ようと何度も間者を送り込んでみたものの、全てが
首となって返ってくるに及び、完全に手詰まりになっていたのであった。
(このままではまずい…今は我慢してくれているが、このままでは雪蓮が
暴発するのも時間の問題だ…何とか糸口でも掴めないものか…)
そう考えながら冥琳は陣の奥にある一つの天幕に向かう。
「どうされました?冥琳様」
中に入って来た冥琳にそう問いかけてきたのは穏であった。彼女は雪蓮
による右腕の切断の結果、順調に回復していたのである。雪蓮や冥琳は
彼女に一度後方に退いて養生に専念するように言ったのだが、穏は頑と
してそれを拒否し、戦陣に留まっていたのである。
「うむ…それがな」
そうは言ったものの、冥琳も何をどう言えば良いか分からず、歯切れの
悪い返事になってしまっていた。その態度を見て、状況と心の内を察し
た穏は突然とんでもない事を言った。
「こういう場合、朱里ちゃんだったらどう戦況を覆すんでしょうね~」
「穏…それはどういう意味だ?まさか益州にいる朱里に方策を聞いてこい
とでも言うのか!?」
それを聞いた冥琳は半ば食って掛かるように聞く。
「そんなの私だって嫌ですけどね~。このままじゃ雪蓮様が敵陣に一人で
突っ込んでしまうのも時間の問題です~。それを防ぐ為ならば、それも
止むを得ないのではと…うっ」
穏はそう言ってため息をついた瞬間、痛みに顔を歪める。
「あまり無理をするな、穏。もし体にさわるのなら何時でも後方に下がれ。
今お前にまた倒れられたら我々の損失は計り知れないものになる」
「出来ればもう一人軍師がいれば何かいい知恵も出そうなんですけどね~」
「軍師か…正直、北郷の所が羨ましいな。朱里一人でも我らなど足元にも
及ばぬのに、輝里に雛里に…今度新しく加わった風もなかなかの才の持主
のようだしな…まあ、無い物ねだりをしていても仕方が無いか」
そう冥琳もため息をついたその時、兵が天幕の外より冥琳を呼ぶ。
「申し上げます!荊州より来た者が周瑜様に面会を求めておりますが…」
その言葉に冥琳と穏は顔を見合わせる。
「荊州から…?一体、誰が?」
「朱里ちゃんからの使者だったらそう名乗るはずですしね~」
「私に面会を求める者の名は聞いたか!?」
「はっ、呂蒙と名乗っておりますが…」
「呂蒙?聞かぬ名だな…『あっ、そういえば…』どうした?知っている者か?」
「確か、前に荊州へ留学を希望した者の名がそうだったような…」
「ああ、そういえば…とりあえずここへ来るよう伝えろ!」
「は、初めまして。呂蒙と申します」
天幕の中に入り、二人の前に頭を垂れるのはそう名乗る一人の少女であった。
「ここまで何の用だ?荊州での留学が修了したのであれば、まっすぐに建業へ
帰れば良いはずだが?」
「いえ、あ、あの、その…実はまだ水鏡先生から修了のお許しを得たわけでは
ないのです。孫権様が賊の軍勢に敗退し、孫策様も苦戦しているという話を
聞き、いてもたってもいられずに…」
そこまで言って呂蒙は顔を大き目の袖の中に埋没させるような勢いで隠す。
「ほう、お前はかの水鏡殿に師事したのか?それで洛陽ではなく、荊州へ?」
「はい、学問の師としてこれ以上の方はいないと思い立ち…水鏡先生も政務に
お忙しくはありましたが、私の様な者にも優しく教えていただきまして…」
「ならば、もう呉下の阿蒙ちゃんではないのですね~」
「穏は元々この者を知っていたのか?」
「今、思い出しました~。確か最初は小蓮様の親衛隊の一員だったはずです。
それが何かの不手際で解雇となって、懲罰も兼ねて他所へ留学する事になっ
たのですよね~。そして洛陽ではなく、荊州を希望したのが珍しいと記憶に
あったんです~」
穏の話を聞いた冥琳の目が鋭く呂蒙を捕らえる。
「も、申し訳ありません!本当はもう一年は留学に行ってないといけない事は
わかっていたのですが…」
その冥琳の視線を咎め立てと判断して呂蒙は縮こまって謝罪を繰り返す。
「いや、咎めるつもりは無い。留学先に荊州、しかも水鏡殿の所を選んだその
先見の高さに少しばかり感じ入ったまでの事だ。しかし、それを途中で投げ
出してまでここに来たという事は、何かしらの考えがあるという事か?」
冥琳のその言葉に恐縮した雰囲気はそのままに、呂蒙は話し始める。
「はい、おそらくというより間違い無く、張怨は孫家の方々の持つ激情を利用
して一連の作戦を立てているものと推察します。なのでこのままでは孫策様
が暴発して一人で突撃するのは時間の問題です。ならば我らはこちらから攻
め込むのではなく、向こうの軍勢を燻り出しそこを叩く作戦が良いかと思い
ます。ただ、向こうは自分の城の堅固さを頼みにして必要以上に出てこない
ので、まず城を破壊する術を講じる必要があるかと」
呂蒙のその言葉に冥琳は驚く。
「城だと?あの山が城だというのか!?」
「はい、造りが巧妙に隠されていますが間違い無くあれは城です。だからおそ
らくあの中に入った間者は全て捕らえられ、殺されたはずです」
「ああ、確かにな…そうか、城か。それでは何時までたっても攻略出来ないわ
けだな。よし、ならば攻略の筋道は決まった。誰かある!皆を中央の天幕に
集めよ!!」
・・・・・・・・・
「なるほどね、城攻めか…確かに野戦の態勢で城に攻めてたら成功するわけが
無いわよね。さすがあの水鏡に師事しただけの事はあるわ…よし!あなたの
懲罰は今日を限りにおしまい。このまま軍師の一員として参加するように」
雪蓮のその言葉に呂蒙は目を白黒させながら礼を取る。
「それでは私の真名である雪蓮と呼ぶ事を許すわ。あなたの真名は?」
「は、はい!『亞莎(あーしぇ)』と申します!!」
こうして孫呉の陣営は新たな軍師を得て、体制を立て直して張怨の城に当た
る事にしたのであった。
場所は再び益州に戻る。
張任(実質は王累)からの命を受け、南部に出現した南蛮軍を追討する為に
派遣されてきた法正はそこで旧知の仲である輝里と思わぬ再会を遂げたので
あった。
「久しぶりね、燐里。あなたが水鏡女学院への留学を終えて帰った以来かしら
ね。まさかこんな所で会うなんて…あなたは思ってなかったわよね」
その言葉を聞いた法正は、はっと息を飲む。
「それじゃ、輝里は私がここに来るって知ってて…まさかここに南蛮軍が来た
というのは私を誘き寄せる為の虚報だというの!?でなければ、北郷軍にい
る輝里がここにいる理由が…」
「それは半分だけ正解ね。ちゃんとここに南蛮の兵はいるわよ」
輝里が指差した先には一見すると猫にしか見えない南蛮の兵が戦闘態勢を保
ったまま待機しているのが見える。
「くっ、そういえば虚と実を織り交ぜて策を立てるのはあなたの得意技だった
わね。でも、ここに来たのが私じゃなかったらどうするつもりだったの?」
「それは無いわ。ここで騒ぎを起こせば劉璋…いえ、王累は間違い無く厄介
払いも兼ねて、あなたをここに派遣するであろう事は十分に予想出来る事
だったしね」
「まさか…あなたは王累殿がこの益州を操っている事も知ってたというの!?」
法正は驚きを隠せないままそう問いかける。
「それを知ってたのは私じゃなくて我が軍の正軍師、諸葛亮だけどね」
それを聞いた法正はさらに驚く。
「諸葛亮って、あの…?その知謀は既に神の領域に達しているという噂は本当だ
というの!?」
「ええ、でも本人見たらもっとびっくりするわよ。『これが、あの!?』ってね」
「ふうん、でもどうやって?幾ら何でも、成都の内部の事まで筒抜けになるわけ
は無いはず…」
「あなたが半年位前に水鏡先生宛に手紙を書いていたわよね?その中に一言だけ
劉璋が王累に全て政務を丸投げして、話も聞いてくれないっていう愚痴が書い
てあったのを水鏡先生から私が聞いたのよ。そしてそれを諸葛亮に話したら、
『ならば、その法正さんは随分王累さんに疎まれているのですね』って。今回
もその事を思い出して、南蛮の軍を使って騒ぎを起こせば、王累は間違い無く
あなたを派遣するだろうから私にその対処を任せるって言われてね。正直な話
私も半信半疑な所があったんだけど、本当に燐里が来たんで実は私も驚いてた
所だったりするのよ」
輝里はそう言って、少し苦笑いを浮かべる。
しかし、対する法正の心の内は、
(輝里がこんな事を言うなんて…私が今まで見て来た知恵者の中でも輝里に勝る
者なんてほとんどいなかった。本当に諸葛亮は人の何倍も先を見据える力を持
っているという事なの!?)
今だかつて無い驚きに彩られていたのであった。
「でも、輝里。私をここに引っ張り出してどうするつもりなの?王累殿は成都の
守備も考えて私には八千、しかも正直な話お世辞にも練度が高いとは言い難い
兵しか与えられなかったわ。幾ら北郷軍といえども張任殿率いる本隊を相手に
正面から戦って勝てるわけが無いはず」
「じゃあ、あなたならどう攻める?」
「どうって、私なら正面からではなく側面を衝くようにするけど…まさか!?」
法正は輝里からの質問に一瞬にして思い当たるものがあり、驚愕する。
「だから、それを思い当てる事が出来るであろうあなたを引き離そうとしたわけ。
そして足止めするのが私の役目」
それを聞いた法正は身体の震えが止まらなかった。
(ダメだ…王累殿や張任殿程度で太刀打ち出来る相手じゃない。このままでは本隊
は既に北郷軍の待ち伏せにあうのは必定…どうする?どうすればいい?)
その悩みを見透かすかのように輝里が言葉を続ける。
「何故、あなた一人を引き離す為にこんな事をしたか分かる?」
「…どういう意味よ?」
「私達は劉璋軍が例え何十万いようとも恐れる事はなかった。黄忠・厳顔といった
勇将もまたしかり。けれどね、法孝直、あなた一人の知謀を恐れたからよ」
「私を?でも、そっちには諸葛亮が…」
「その諸葛亮が最もあなたが劉璋軍本隊の指揮を執る事を恐れたのよ」
それを聞いた法正は震えが止まらなかった。
(あの諸葛亮が私を…?そこまで考えてこの一連の動きを…)
「悔しいわね…そこまで恐れさせておきながら私は何も出来なかった。私の負けね。
いいわ輝里、私の首をあげる。あなたになら首を刎ねられても悔いは無いわ」
「勘違いしないでほしいの。確かに私はあなたを足止めするように命じられたけど、
ただそれだけの為に来たわけではないわ。どう?死ぬ覚悟があるのなら、生まれ
変わったつもりで我が主、北郷一刀に仕える気は無いかしら?」
「まさか輝里…その為に?」
「ええ、どちらかというとそっちが主な目的かしらね?」
そう言って輝里は微笑む。
それにつられて法正も微笑む。
(そうね…どうせこのまま劉璋様や王累殿に従ったっていい事なんて無い。ならば、
少しでも私を評価してくれる人の下で働く事が出来るのなら…)
「わかったわ、まずは…」
法正は馬上から降り、輝里に対して礼を取る。
「私、法正は北郷軍が軍師、徐庶殿に降伏します。後の我が身の事はあなたにお任せ
しますが、どうか兵達は無事に故郷へ帰れるよう取り計らっていただきたく、懇願
する次第にございます」
「わかりました。法正殿、あなたの願いはこの徐庶が全力を以て聞き届けてもらえる
よう、主に懸け合わせていただきます。でも何か皆、こっちに従ってくれるみたい
よ。さすが燐里、慕われてるわね」
それを聞いた法正が振り向くと、従ってきた兵全員が法正と同じように礼を取って
いた。
「皆、何で…?」
「我らも劉璋様や王累様のなさりようには失望しか感じておりませんでした。そして
噂に聞く北郷様に法正様が従うというのなら、我らもまたそれに従う所存にて」
法正の側にいた古参の兵がそう答える。
「ふふ、どうやら兵の人達の中ではもう決まっていたようね」
輝里がそう言うと、その場は笑いに包まれる。
「皆、ありがとう…ならば、我らは今より北郷軍に従い成都を攻める!!しかし、
目的は劉璋様の首にあらず、この益州の民を救う為である!皆、それを肝に命じ
行動せよ!」
その声に法正に従ってきた八千の兵は皆、力強い声で応える。それは先程法正が
言った『練度の低い兵』の物ではなかった。皆、やる気を失っていただけだった
のだ。
こうして法正は輝里や南蛮の軍と共に成都へと進軍する事となったのであった。
ちなみに、この時輝里の心の内では…、
(う~ん、さすがに『朱里が燐里一人を恐れた』なんて言い過ぎたかな?さすがに
朱里もそこまで言ってなかったしな…まあ、いいか。燐里が味方になってくれたし、
嘘も方便よね。終わり良ければ全て良し!)
そんな事を考えていたとは、誰も思っていなかったのであった。
一方その頃、張任は本隊を引き連れて成都を出発し、綿竹関を出て巴郡へ向かう
途中であった。ちなみに劉璋軍の全軍十五万の内、厳顔達が率いていたのが二万
五千、法正が率いていったのが八千、成都の守備に五万、他の各城の守備に一万
と割いていたので、この本隊は五万七千、さらにその内三千は後方の荷駄隊の護
衛に当たる為、実質戦力は五万四千であった。
「出来ればもう一万は連れて行きたかったが…まあ、厳顔達の兵と合わせれば大丈
夫であろうが…」
張任も多少は不安を残しながらもそう言い聞かせていたのであったが、巴郡の留守
部隊より厳顔達の敗戦を伝えられると途端に浮き足立っていた。
そしてそれによりそこに留まっていたのが、彼の運の尽きであった。
張任達がそれに気付いた時には目の前に矢の雨が降ってきていたのであった。
張任は何とかそれを弾いたものの、それにより兵の一割近くが倒されたのであった。
「誰だ!!俺を張任と知っての狼藉か!?」
そう何とか声を張り上げた張任が見たのは『十』の牙門旗と白く輝く服を着た一人の
青年であった。
「我が名は北郷一刀!!お前達は既に囲まれている、命が惜しくば今すぐ投降せよ!!」
続く(だろうとの事です)
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回は苦戦を続ける孫策軍に現れた救世主(?)登場と
北郷軍の新戦力加入のお話でした。
一刀達がどういう道を辿って来たのかは次回にて。
一応もう少し益州編は続きますので、王累の悪あがきに
もう少しお付き合いください。
それでは次回、外史動乱編ノ十三にてお会いいたしましょう。
追伸 焔耶さんや紫苑さんももう少し頑張る予定…。
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お待たせしました!
今回は一刀達の益州討伐戦と時を同じくして
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