「ほら、これボクがつくったんだよ。義之くんへの愛情をいっぱい込めたんだから」
「ちょっと、さくら何言ってるのよ。義之くん、こっちはあたしが作ったの。さくらよりもたっぷり愛情をこめたんだから」
朝飯のとき、あーん、と左右からさくらさんとアイシアに箸を出される。
「……二人とも、落ち着いてください。自分で食べられますから」
「もう、アイシアに遠慮なんてしなくて良いんだよ? 義之くんは母の愛が詰まった料理が食べたいよね?」
「あはは、何言ってるのよ、さくら。義之くんは奥さんの愛情たっぷりの手料理が食べたいに決まってるじゃない」
二人とも俺の話を聞かず依然どっちが俺に食べさせるのかで言い争っている。
片や、世界から弾かれた存在だった女性。
今は俺の恋人で芳乃家に一緒に住んでいるアイシア。
彼女がいなければ俺は枯れない桜を枯らした後に消えてしまっていただろう。
アイシアが動くたびに彼女の甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
もう一人は、枯れない桜を生み出し、俺という存在を願ってくれた女性。
枯れない桜の前で会ってから母親のような存在になってくれて、実際に母親だった人。
アイシアと反対側でさくらさんが動くとアイシアとはまた違ったさくらさんの匂いが俺に届いた。
この二人のどちらか一人でもいなければ俺は……
そんなことを思っていても事態は一向に良くなるはずもなく、先程から向けられている向かい側からの二つの視線はより厳しくなるのだった。
「ねぇ、お姉ちゃんが参加出来ないなんておかしいよね? お姉ちゃんも弟くんにあーん、ってやりたいのにぃ」
「……良いご身分ですね、兄さん。さくらさんとアイシアさんにそんなことしてもらえて。困ったような顔してますが、鼻の下のびてますよ」
結局二人の争いは俺が食べ終わるまで続いたのだった。
朝飯の後、特に予定もなかったのでアイシアとさくらさんと三人で商店街に買い物に来ていた。
女性の買い物は長いのは知っていたがこの二人も例外では無いようで一つの店を結構な時間をかけて見るが物はほとんど買わずにいた。
そんな感じでも、俺の少し前を歩く二人は楽しそうにあの店のあの商品は良かったの、色々と話している。
「ちょっと義之くん、早く来なよ。そろそろお昼だからどっかで休憩していこうよ」
俺の右腕に抱きついてさくらさんが引っ張ってきた。
すると、案の定
「あぁ、さくら何義之くんに抱きついてるのよ。早く離れなさいよ。義之くんに抱きついて良いのはあたしだけなんだから」
アイシアはそう言ってさくらさんを俺から離そうとしたが彼女は、にゃはは、と笑って俺から離れなかった。
そんなことをしていたら
「あら、義之じゃない。奇遇ね」
「杏か。お前も買い物に来たのか?」
「ええ、ちょうどこれから茜の家でお菓子を作りに行くからその材料を買いにね。園長先生とアイシアさんもこんにちは」
「こんにちは、杏ちゃん」
「こんにちは」
そして杏は俺たちの状況をみて
「にしても、さすが義之ね。こんな商店街の中でも義之を巡って争いが起きているなんて……
」
「杏、お前何いって」
「義之は何で私に靡かなかったのかしら? 体型的にはこの二人と似たようなものなのに」
何を考えているのかわからない笑みを浮かべながら俺に近づいてきた。
「ダメー。義之くんに抱きついちゃダメー」
「はぁ……、杏、アイシアをからかうのはやめてくれ。……さくらさんもですよ」
俺は頭が痛くなりながも、アイシアがいて、さくらさんや音姉、由夢、杏たちといった悪友がいる、これからもこんな日常が続いていってくれることを願っていた。
Tweet |
|
|
4
|
0
|
追加するフォルダを選択
かなりひさびさのD.C.Ⅱのssです。
相変わらずアイシアルートその後を想定した芳乃家のお話です。
……これ書いたときはD.C.Ⅱの話書くの二年ぶりくらいでした。