「聞き間違いじゃない…一刀と恋が…戦う」
その場にいた誰もが一様に言葉を失う。
そうしてる間にも呂布ちゃんはどこからともなく武器を取り出し、芝生の中にぽっかりとあいた運動場で戦闘モードに入る。
「一刀殿、本当に恋と戦うおつもりですか?」
愛紗が顔を近づけて、そっと耳打ちする。
ねぇ。俺だって今の状況を素直に飲み込めてない。
むしろ、こういう場合は第三者の方が冷静に物事を判断できるんじゃないのかな。
「いや、俺としてはあまり…というか全然戦いたくないんだけど」
呂布ちゃんが戦うという事で、いつの間にかギャラリーが先ほどよりも増えている。
さっきの呂布ちゃんの声が聞こえていたのか、群集は既に対戦相手が俺だと判っているようで、「あの御遣い様、またバカなことやってるよ」みたいなオーラをにじませている。
その中でも明命は一際期待を込めてこっちを見てくる。
「まぁ、やらないわけにはいかないのかな。このまま、『戦いたくないんで、やめます!』って言っても多分みんな納得してくれないだろうし」
ギャラリーの中には、数年前に俺が鍛えた兵士も何人か見える。平和になって、見回り番とかに回されたんだろう。
「でしょうね。それに、私としても御遣い殿の実力がどれほどのものか、この目で見届けたいとも思っております」
ああ、ここにもとてつもない期待のまなざしを持った人が増えてしまった。
「うーん。まぁ、やってみようかな」
正直な話、俺としてもこの世界で自分の力がどれほど通用するのか試してみたいしね。
……試す相手が、あの『呂布』って言うのは何とも贅沢な話だけど。
「それじゃ、ふたりとも準備はいいかしら?」
戦いの話を聞きつけた華琳がいつの間にかいつものポジションにおさまっている。
………この人ホントに仕事してるんだろうか。一年近く支えてきたけど、信じることができない。
恋は口をつぐんだままコクリと、俺は「うん」と返事して互いに戦闘態勢に入る。
「一刀、あなた『そのまま』やる気なの?」
「うーん…なんかこういう真剣勝負で戦う前から変身してるとズルい気がしない?西部劇で最初からピストルに手つけてます…みたいな」
「あなたねぇ、こういう勝負にずるいも何も…!」
華琳の周りには、はてなマークが浮かんでるようですぐには納得できないようだったが、横にいた秋蘭がそっと耳打ちする。
「そう。なら、いいわ」
説得できたみたいだ。さすが秋蘭。グッとサムズアップをする。
ちなみに、先日の未確認の襲撃でこの城と町の人には『クウガの力』をすでにお披露目済みだ。
初見になるのは他国組かな。
緩んだ緊張の糸をはりなおし、華琳がひとつ咳払いをする。
「では…はじめ!!」
「変身!!」
華琳の号令とともに俺は変身のポーズをとる。
しかし、呂布ちゃんの動きは予想の範疇を大きく上回っていた。
「ぐっ!!」
開始からものの2秒で俺は後ろに20mはあった壁に強くたたきつけられていた。
大きな衝撃が背中を襲う。
「まだ…終わりじゃない」
俺が立ちあがるか立ちあがらないかのうちに呂布ちゃんは攻撃の手を緩めようとせずに突っ込んでくる。
こっちの姿が変わったことなどお構いなしだ。
猛進してきた呂布ちゃんの攻撃に合わせて、横へとローリングしてかわし、そのままバックステップで大きく距離をとる。
さっきまで俺がいたところにあったはずの壁は大きく削られ、残骸と化していた。
「りょ、呂布ちゃん…殺す気はないよね?」
俺の言葉に呂布ちゃんはキョトンと首をかしげ、ふるふると頭を振って、
「違う。愛紗たちと戦うときはいつもこう」
ああー、なるほど。皆さん腕っ節が自慢ですもんね。まいったなぁ。
呂布ちゃんは、また構えをとる。
「今のは小手調べ…次からは全力でいく」
俺もそれに合わせてしっかりとした構えをとりなおす。
こうなったら、もう言葉はいらない。ただ、拳を交えるのみだった。
突っ込んできた呂布ちゃんの攻撃に合わせ、横にローリングし、すぐに攻撃に転じる。
しかし、その攻撃は簡単に避けられ、呂布ちゃんは俺のわき腹を槍の柄で払いのける。
「ぐぁ!!」
衝撃の方向に飛んでなんとかダメージを軽減する。
なんて攻撃だ、39号の攻撃みたいだ。
これは、武器のリーチの差が絶対的すぎる…となれば。
「超変身!!」
青のクウガに変身するとともに、近くにあった兵隊から槍をかすめ取る。
その槍はすぐに手になじみ、次の瞬間には形を変え、見慣れた形になる。
すぐに追ってきた呂布ちゃんの槍の柄に棒を合わせて弾き、その勢いのまま体を反転させて反対側のロッドを叩きこむ。
…はずが透かされ、その攻撃は空振りに終わる。
そのまま空振ったロッドの先端を地面に突き刺し、それを軸にとび蹴りを放つ。
呂布ちゃんも避けきれなかったようで、まともに当たるも、青だから力が弱いのか後方へと後ずさるのみだった。
「なかなか…強い」
対戦相手が予想の範疇を越えていたのが嬉しいらしく、口の端が少し上向く。
「次は…恋の番」
「うっ…ぐぅっ!!」
態勢を立て直した呂布ちゃんはさっきまでと明らかに違うスピード・パワーで痛烈な攻撃を放つ。
地面に突き刺したまま防御したものの、ロッドは真っ二つに折れ、そばにあったパーティ用の資材置き場に吹き飛ばされてしまう。
「なんて力だ…」
瓦礫を崩し、悪態をつきながら立ちあがる。
呂布ちゃんはさっきの攻防があったところに立ちつくし、俺の出方をうかがっている。
折られたロッドの片方が足元に転がっているが、次の瞬間には元の槍に姿を戻す。
俺はさっきの呂布ちゃんの言葉を思い出した。
「今度はこっちの番…ってことかな」
コクリと小さくうなずく。どうやらそうらしい。
「だったら…超変身!」
今度は紫で勝負だ。
さっきまで持っていたロッドのもう片方は形を変え大きな剣になる。
「いくぞ!」
距離を詰め、切りかかるもその攻撃は少し彼女の顔を歪ませただけで、ほとんど効いていない。
しかし、こちらの防御力も青に比べてはるかに上昇している。
つばぜり合いから繰り出された呂布ちゃんの蹴りをくらってもダメージはない。
そのことを見て悟ったのか後方に跳ぶ。
「ふっ!!」
一瞬タメを作って、すぐに攻撃に転じる。
俺はその攻撃を避けようとするも、避けきれずに肩を切られてしまう。
「くっ」
今までも何度か装甲を切られたことはあったがそのどれもが強敵だった。
目の前の女の子が同じ力を持っているとはいまだに信じられないが。
「紫でも防ぎきれないか…だけど」
しかし、気をつけるべきは槍の刃だけだ。
集中し直し、呂布ちゃんの攻撃に集中する。
数多繰り出される剣戟から目を離すことなく、こちらにあたりそうな攻撃は防御し、隙を見て攻撃を繰り出す。
「へぇ…一刀もなかなかやるじゃない」
華琳は目の前で続く激しい攻防に満足げに頷く。
「はい、武将と戦ったのは初めて見ますが、まさかその相手が恋とは」
秋蘭は呆れた顔をしてため息をつく。
「ほんとにね。まぁ中途半端な子とやるよりは判りやすくて手間が省けるわ」
これで一刀が負けたらさらに下と戦わせてみれば、いつかは彼のレベル、ひいては敵の強さにおおよその見当がつく。
とはいいつつも、華琳はそんな気は露ほどもしていない。
あの『呂布』が自ら戦おうと言い出したのだ。
そこからも彼女が戦う事を認めたという事にほかならない。
彼女の戦いに関するセンス、勘はこの大陸のだれもが理解している。
ならば…
「この勝負の結果によっては…さっきの雪蓮の話、考えてみましょう」
そう呟き、彼女はまた目の前の戦いに意識を戻した。
1分ほどの剣と槍との攻防が続いた。
「やあっ!!」
「はっ!!」
まずい。明らかにこちらの攻め手の回数が減っている。
途切れさせることのできない、集中力に精神が摩耗していくが、呂布ちゃんはお構いなしに次々と攻撃を繰り出す。
緑の力を使ってる時なみに精神を持ってかれる。
「このままじゃ…はっ!!」
一瞬のこちらの隙をついて繰り出される攻撃をまともに食らってしまい、大きく後ろにはじけ飛ぶ。
「はぁ…はぁ…」
いつの間にか息が切れている。
「やっぱり強いなぁ」
数年前に春蘭たちが戦っているのをみているだけでもその強さは十二分に伝わってきたが、今こうして剣を交えているとその何倍もの強さを感じる。
このままじゃ、ジリ貧。
そばにあった弓を手に取り、一瞬青に変身して城壁の上へと飛ぶ。
「超変身!!」
緑へと変身。彼女の射程範囲内から戦う作戦へと変更する。
この手は使いたくなかったが、相手は『呂布』だ。
『金の力』がない今、いくらこっちの全力を出しても足りないことはあっても、出しすぎるという事はない。
いつものように超変身した瞬間、手に持った弓は銃へと変わる。
すぐに構え、発射する。狙いは足をかすめる程度にする。
捉えた!!と思った、次の瞬間。
『ガっ』という鈍い音ともに彼女の槍が振られる。
当たっていれば、さけるはずの肌は綺麗なままだ。
「そんなっ…」
俺は目の前で起こったことに目を疑う。
当たって無傷ならまだ話はわかる。実際に何度もそう言った場面には出くわした。
だけど、見えない弾を弾くなんて…
今更ながら、彼女の底知れない力に身震いを起こす。
この力が通じないと分かった今、この色でいても仕方がない。
白になってしまう前に赤へと戻る。
呂布ちゃんは首をかしげて、
「もう…終わり?」
私はまだやれる、と言わんばかりの目を向けて聞く。
「そうだね…これで最後だ」
右足に精神を集中させ炎を宿す。
これまでたくさんの敵を倒してきた技だ。
その気迫を感じたのか、彼女は俺の構えと呼応するように構えをとる。
「いくよ…呂布ちゃん」
その言葉に彼女は一瞬下を向き、すぐにこちらのに視線を戻して、
「恋…恋でいい」
この戦いの中で認めてくれたのだろうか、彼女は俺に真名で呼ぶことに赦しを出す。
「うん…いくよ、恋」
あの『呂布』…いや、恋が認めてくれたことについ口元がにやけてしまう。
華琳が見たらおこりそうだな。よかった顔が見えなくて。
数歩うしろにさがり、城壁のへりから離れる。
そのまま助走をつけて、一気に駆け抜け恋めがけて回転を加えて飛び降りる。
「ぅおりゃぁっっ!!」
「……くっ」
俺の足と、彼女の槍がぶつかり合い、その凄まじい衝撃で後ろに吹き飛ばされる。
地面に転がれ出されたのを何とか立て直して彼女に向き直ると、
「……壊れた」
彼女の槍の刃はボロボロに砕け散っていた。
「そこまで!!勝者、北郷一刀!!」
華琳の号令とともにわずか数分における戦いに終止符がうたれた。
「まぁ、最後のは反則すれすれね、おまけよおまけ」
湧きあがる歓声の中、華琳がぽつりとつぶやく。
たぶん聞こえていたのは秋蘭とクウガになってる俺だけだろう。
変身を解いて、恋へと歩み寄る。
「やっぱり、俺の思った通りキミは強かったね、恋」
苦笑しながら、話しかけるも、彼女は砕けた槍をぼぉっと見つめている。
この槍は真桜が作ったレプリカだからそんなにショックではないはずだけど。
心配になった愛紗も恋の顔を覗き込む。
「どうした?恋」
「……愛紗」
「なんだ?」
「…決めた」
「なにを?」
いまいち要領を得ない恋の受け答えに愛紗は相槌を打つ。
「恋、一刀についていく」
「「えっ?」」
愛紗と俺の口が完全にシンクロする。
そんな、俺たちにお構いなしに、彼女は俺に向き直って。
「……よろしく。……ご主人様」
いつもと変わらないように見える無表情な顔でそう言った。
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皆さま大変、大変お久しぶりでございます。
言い訳する気はございません。
思う存分殴る蹴るしてください。
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