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IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第五十六話 ~クロウ、再会する~

Granteedさん

第五十六話です。

久々の投稿でございます。最近は碌に小説を書く時間が取れず、一ヶ月投稿がデフォルトになってきている今日この頃。

しかし、冬休みに入れば改善する……かもしれない。

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2012-11-29 19:21:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:8617   閲覧ユーザー数:8030

クロウがドイツ入りしてから一週間、とうとう契約期間が切れてIS学園に戻る日がやってきた。朝早くに手早く荷物をまとめたクロウは、食堂で最後の朝食をとっている。その周りには一週間でクロウに懐いた隊員達が円を作って口々に後悔の言葉を放っていた。

 

「ああ……こんなに早くクロウさんと別れだなんて!」

 

「こんな事なら隊長に頼んで、クロウさんが一ヶ月位いられるようにしてもらうんだった……」

 

「まあそう気を落とすな。頼まれたら来年にはまた来るからよ」

 

「ぜ、絶対ですよ!」

 

やいのやいのと話している中、ラウラとクラリッサが揃ってやって来た。クロウにとってはこの光景ももう見慣れた物で、基地内では二人のセットが当たり前の様である。朝食を乗せたトレーを持ってクロウの近くのテーブルに二人で座る。

 

「クロウ、ありがとうございました」

 

「私からも礼を。感謝する」

 

「構わない。ちゃんとした契約だったしな。ラウラはどうするんだ?」

 

「本日私は少し会議がありますので、申し訳ありませんが見送りは……」

 

今日の予定を述べていたラウラが急に押し黙る。周囲の隊員達も、言葉を詰まらせたラウラに違和感を感じたのか、総じて首をかしげていた。数秒考えるような表情をしたラウラは、急に対面に座っているクラリッサを手招きする。

 

「クラリッサ、耳を貸してくれ」

 

「構いませんが……」

 

クラリッサがテーブル越しに顔をラウラに近づける。ラウラは両手でクラリッサの耳を覆うと、ごにょごにょとつぶやき始めた。聞いている内にクラリッサの顔がみるみる輝いていく。その顔はクロウ達に自分にとっての聖書(バイブル)を語っている時と同じ顔だった。

 

「イイ……凄くいいです、隊長!!」

 

「そ、そうか?」

 

「ええ!それはもう感動的なまでに!!それでは私は手配をしてきます!!」

 

一人立ち上がったクラリッサはラウラに敬礼を送ると、一目散に駆け出していった。クロウと他の隊員達は状況が全く分からず、揃って首を傾げる。

 

「クロウ、今後の予定は?」

 

「お前も知っての通り、IS学園に一直線だ。特にやる事も無いんでな」

 

「それでは、最後に私の護衛をしてもらえませんか?」

 

「護衛?」

 

「ええ。これから会議に出席するのですが、私とクラリッサだけでは少々心もとないので。クロウが来てくれれば心強いのです」

 

「まあ、その位なら構わないぜ。アフターサービスのつもりでやらせてもらう」

 

「それでは、後ほどクラリッサを迎えに行かせますので。これで失礼します」

 

席を立ってクロウに一礼すると、ゆっくりと去っていく。残されたのはボーッとした顔をした隊員達と、食器を持って立ち上がったクロウだった。そのまま食器を返して歩いていくと、後ろに隊員達がくっついてくる。

 

「隊長が護衛を頼むなんて珍しくない?」

 

「やっぱりクロウさんがいる方が落ち着くんじゃない?」

 

「まあ、好きな人と頼れる人は違うもんね」

 

クロウの後ろを金魚のフンの様にくっついている隊員達は三者三様の意見を述べる。正直言って他にやることは無いのかとクロウは思うが、軍が暇だと言うのはある意味で幸福だと思っているのも事実だった。

 

「ラウラが護衛を頼むなんて、そんなに珍しいのか?」

 

「はい、いつもは一人で外に出るか、お姉様だけを連れて行くんですよ。こんな風に誰かを連れて行く事は珍しいんです」

 

「ほぉ、そうか」

 

話しながら歩いていた集団はクロウの部屋の前にたどり着く。ドアを開けて部屋に入ろうとしたクロウに隊員達が最後になるかもしれない言葉を投げかけた。

 

「お世話になりました。訓練で見送りは出来ませんが、お元気で!」

 

「手紙とか送ってもいいですか?」

 

「あ、ずるい!私も!!」

 

「また絶対来てくださいね!約束ですよ!!」

 

「ああ、お前らも元気でな」

 

「はい、クロウさん……いえ──」

 

そこで一人の隊員が一旦言葉を止めて、他の隊員達を見回す。全員が一様に頷く中、クロウは首をかしげることしか出来なかった。そして全員が同じタイミングで同じ単語を発する。

 

「「「お兄様!!」」」

 

「……は?」

 

「さ、さようなら!!」

 

隊員達はキャーキャー喚きながら足早に去っていった。残されたのはぽかんと口を開けたクロウのみ。クロウは何とも言えない顔をしながら、部屋に入っていった。

 

 

「暇だ……」

 

クロウはベンチに座りながら、青空を見上げる。ラウラとクラリッサと三人で車に揺られること数時間、三人はとある施設に到着していた。本日はここでラウラが参加する会議があるはずなのだが、部外者であるクロウは勿論参加する事は出来ない。何をしていればいいかラウラに訪ねた所、含みのある声音で“待っていてください。会議自体は一時間程で終わるので”と言われ、手持ち無沙汰になったクロウは施設の中にある緑地で空を見上げている最中だった。

 

(結局問題は何も起きなかった……俺が来た意味あったのか?)

 

「隣、よろしいですか?」

 

(ん?)

 

唐突に声をかけられたクロウがベンチから体を起こして顔を上げると、ベンチの近くにいつの間にか一人の女性が立っていた。

 

「……他にも座る所はあるが?」

 

「少々暇を持て余していまして。誰かと話したい気分なのですよ」

 

女性は柔らかな微笑みを浮かべながら言葉を返す。女性はこの場には似つかわしくないメイド服を着ていた。断る理由も無いので、クロウは無言のまま体をベンチの端へ移動させる。

 

「失礼します」

 

メイド服を優雅に折り畳みながら、女性は静かにベンチに座った。しばし無言を貫いていた二人だったが、慎まやかに女性が先に口を開く。

 

「ここへはどの様な目的で?」

 

「今会議に出ているのに、知り合いがいてな。そいつの付き添いだ」

 

「それはそれはご苦労様です。お仕事ですか?」

 

「……まあ、仕事と言えば仕事だな。アンタは?」

 

「私も似た様な物です。お嬢様が会議に出席しているので、使用人として同行しています」

 

「お勤めご苦労さん。アンタ、会議がいつ終わるのか知ってるか?」

 

「もうそろそろです。あと十分と言った所ですね」

 

「そうか……」

 

小さく呟きながら再びクロウは空を見上げた。点々と浮かぶ雲の下を、数羽の鳥達がのんびりと飛翔している。クロウが無心で空を眺めていると、不意に女性から質問が上がった。

 

「……あなたは“強さ”とはどの様な物だと思いますか?」

 

「何だと?」

 

「この定義は曖昧です。純粋な腕力を指し示す意味もあれば、心の強さを指す物でもある。自分を貫き通す事も強さと言えるのならば、全てを捨てて他人を守る事も強さであると言えるでしょう。あなたは“強さ”を何だと考えますか?」

 

神妙な顔をしながら女性が聞いてくる。顔を覗き込まれていたクロウは大きなため息を着くと、女性の顔を真っ向から見つめた。

 

「アンタには悪いが、俺に言わせれば“強さ”なんてのは言葉遊びだ」

 

「……その意味は?」

 

「俺が知っている奴らは色んな強さを持っていた。たった一人の肉親である妹の為に世界を相手にする志を持ったやつ。自分の周りの人間と父親が残してくれた、ささやかだが温かな家庭を守ると子供ながらに踏ん張っていたやつ。世界から戦争を無くしたいと思って自分が人柱になる事も厭わなかったやつら……本当に色んな奴らがいたもんさ」

 

「……」

 

「だから人それぞれで“強さ”ってもんは違う。アンタが言った通り力そのものを指す意味もあれば、意思の強さを意味する時もある。人間、主義主張も違えばそれぞれの価値観も違う。それと同じだ。アンタには悪いが、これが俺の答えだ」

 

「……そうですか。参考になりました」

 

「おいおい、参考になる様な事は何一つ言ってないぜ?」

 

「いえ、“答えが無い”という事が、あなたの示してくださった答えです」

 

スッと良い姿勢で立ち上がった女性はそのままくるりと振り返ってクロウに微笑みかけた。

 

「ありがとうございました。今の言葉、お嬢様にも聞かせて差し上げたかったです」

 

「そりゃ良かった。そう言えばそろそろ時間か?」

 

「ええ、一緒に参りましょう……クロウ・ブルースト様」

 

その言葉を聞いた途端、クロウの顔が強ばる。自分は名前を明かしていない、それにも関わらず目の前のメイドは自分の名前を知っている。

 

(こいつ……何者だ?)

 

「その様な顔をなさらないでください。別に私は怪しい者ではございません」

 

「……アンタ、誰だ?」

 

「それは我がお嬢様からお聞きください。私はお嬢様をお迎えにあがります、一緒にどうですか?」

 

「……ああ」

 

クロウも立ち上がって女性と一緒に施設へと入っていく。如何にも軍隊と言った無機質な廊下を歩いている間、二人はずっと無言だった。そしてとうとう大きな両開きのドアの前に辿り着く。

 

「……どうやらもう少しかかる様ですね」

 

「そうだな」

 

クロウはドアと反対側の壁に背中を預け、女性は扉の横に姿勢良く直立している。クロウは目の前の女性について終始考えていた。

 

(“お嬢様”ってのがこいつの上にいるのか……だったらそこから情報が漏れたとしか考えられねえ。だがそもそも、こんな所で俺を狙うメリットがあるのか?)

 

「そんな怖い顔をしなくても、私は何も致しません。寧ろ、何かをするのはお嬢様です」

 

「……アンタのお嬢様の名前は?」

 

「それは──」

 

その時、バタンと音を立てて扉が開いた。ぞろぞろと多くの人間が外に出て部屋から去っていくその中に、クロウが待っている人物は見えない。

 

「お、来たな」

 

集団の最後尾に黒い軍帽を被っているクラリッサを見つけた。ラウラは背が低いので、集団の中に紛れ込んでいるのだろう。やがて人混みも薄れ始め、クラリッサが部屋の外に出てきたその瞬間、クロウの視線が固まった。

 

「お前……」

 

その視線はクラリッサでもラウラでもなく、二人の隣にいる第三者を捉えていた。その人物はパリッとした白いスーツに身を包み、片手にはクリップボードを抱えている。その人物もクロウを見つけた途端、金縛りにでもあったかの様に動きを止めていた。

 

「な、何故貴方がここに……」

 

「ご紹介します。周知だとは思いますが、こちらの方が──」

 

金糸の様な髪を靡かせ、青色の瞳は驚きで見開かれている。欧米人特有の白い肌は驚きと喜びで紅潮し、その視線は真っ直ぐクロウを捉えていた。

 

「セシリア・オルコット。私がお仕えする、お嬢様です」

 

クロウの目の前にいる少女、セシリア・オルコットはメイドに紹介された後も驚きで動けず、只々クロウを見つめるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

クロウとセシリアが出会っている時、遠いIS学園の宿直室では──

 

「もっと呑みたまえ、山田先生」

 

「も、もうそのくらいにしておいた方が……」

 

「うるひゃい!私の酒が飲めないのか~」

 

真耶が千冬を静止に入る。既に二人の周囲には何本もの空き瓶が転がっている。しかも千冬の片腕にはまだ中身が八割程残っている“鬼○ろし”と書かれた酒瓶が抱かれていた。当の千冬の顔は真っ赤である。

 

「そ、そろそろ部屋の掃除もしないと……」

 

そう言って真耶は部屋を眺めた。まるでゴミ屋敷か、と思うほど部屋には物が散乱している。授業に必要な教材もあれば、どう見てもゴミとしか思えないようなものまで一緒くたに転がっている。

 

「そんな物知るか。ほら、呑め」

 

「も、もうそろそろクロウさんも帰って来るはずですよ。迎える準備をした方がいいんじゃないですか?」

 

「……クロウ」

 

(ま、まずいです……)

 

その名前を聞いた途端、千冬の表情が明らかに変わった。今まで緩んでいた顔がまるで泣き顔の様に崩れ始める。涙は流さないものの、顔を伏せ気味に片手に持ったコップになみなみと酒を注ぐ。

 

「……どこに行ったぁ!!」

 

千冬は大きく吠えると、一息に酒を飲み干す。そして机に突っ伏すると物凄い勢いで愚痴り始めた。

 

「本来だったら私とクロウは同じ位の年齢なんだもっと交流があってもいいじゃないかそれをあの小娘共同じ学生だからといって人の目も構わずにイチャイチャしおってまだクロウにその気が無いのが救いだが私だってクロウと一緒に訓練したり何処かに遊びにいったり普通に会話がしたいんだこの夏休みに距離を縮めようと思ってもいいじゃないかだから勇気を出して誘ってみようと思ったのにアイツはいないし確かにあいつは夏休みの間は“学園にいる”と言ったんだそれに──」

 

怒涛の如く千冬が愚痴を並べ立てる。本人としては本心を吐露しているに過ぎないのだが、会話の相手からすればたまったものではなかった。真耶は辟易しつつ、綺麗な天井を見上げる。

 

(クロウさん、早く帰ってきてくださ~い!!)

 


 
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