第11話 蘇るもの
それはずっと前、ある世界の正史で起こった事であった。
「ふう………」
青年、北郷一刀は部活の剣道を終え、帰る途中であった。
「あ、寮に戻る前に買いたいもんあったんだ」
北郷一刀は街の方へと出て行った。
「え~と、あれがありそうな場所は……」
北郷一刀は道を歩く。
「すみません」
「うん?」
北郷一刀の所に一人の老婆が声をかけてきた。
「何でしょう?」
「駅への道を聞きたいのですが…」
「駅ですか。それでしたらこの道をまっすぐ行って、次の信号を左に行けばいいですよ」
「すみませんね~」
「いえいえ……」
北郷一刀はおばあさんの後姿を見送ると……。
「すみません」
「うん?」
北郷一刀が振り向こうとした瞬間であった。
「え?」
北郷一刀は刺された。
「な、なんで?」
「お前が邪魔なんだよ、北郷一刀」
北郷一刀は倒れる。
「俺が……邪魔? ……俺、誰かに恨まれること……」
「ああ、この正史じゃ何もしてない。
だが外史にとって、…我々管理者にとっては別だ。貴様は忌み嫌うべき存在だ」
「外史……管理者…」
「貴様が知る必要はない。ここでもう一撃加えておくとしよう」
北郷一刀を刺した人物は倒れた北郷一刀にトドメの一撃を刺す。
「恨むなら、貴様自身を恨むんだな。北郷一刀という存在そのものを……」
刺した者はその場から消え去った。
(俺……なんで……)
道端で血を流して倒れる北郷一刀。
(ここで……死んじまうのかな……)
意識が薄れてしまい、考える力も無くしていく。
(なんで……なんでだよ……)
北郷一刀の目の瞳の輝きが消えていく。
(もし……ここで死ぬなら…………生まれ変わりたい……………)
そして北郷一刀は死んだ。
どこか、よく分からない空間。
「北郷一刀、まさかこんな結末になるとは……」
「本当、意外だわ~」
そこにはとても変態チックなムキムキマッチョマンのおかまが二人と巫女服のような服を着た少女が一人いた。
「管理者の中には過激なのもいるのは知っておったが、まさか正史にまで手を出そうとは……」
「本来あってはならないことですね」
「それはそうよ~、まだ外史で起こった事なら納得できるけど、管理者は本来、正史に干渉してはいけないものよ~」
「ええ、困ったものです」
三人は少し考える。
「こうなったらご主人様を転生させるしかないわね~」
「やはりそれしか手はありませんか」
「しかしダーリンを転生させるにしても誰にするべきか…」
「様々な正史と外史でも北郷一刀は転生をしている例があります。
まだ転生したことがない人物となると……」
「……見つけたわ~、劉璋がいいわね~」
「劉璋か」
「正史では暗愚とされていますけど、彼ならその心配はありませんね」
「そうね~、一応正史でいるのは厳顔だけだけど、心配だから他にもご主人様の知り合いのいる外史にしましょうかしら~」
「そうなると黄忠に魏延じゃな。後は……黄権、法正、張任辺りでも問題なかろう」
「ではすぐに北郷一刀さんの意識を送りましょう。
ただ……」
「あら、管輅ちゃん、何か問題でも?」
「私達がその外史に干渉するのはやめましょう。
下手に干渉したことがばれればまた命が狙われます。
それと記憶は封印します。今の彼には何故自分が狙われたのかを受け止められる気力はないでしょうし…」
「だが何故狙われたのかを説明しておく必要もあるじゃろ」
「だったら、その説明とかも記憶と一緒に封印しておいたらどうかしら~。
時期が来たらその封印が解けると………」
「……そうしましょう」
「それではそこに送ろう」
おかま二人と管輅は北郷一刀の意識をその外史の劉璋へと変えて、送るのだった。
「う……う……」
「一刀! 一刀!」
一刀は誰かに声をかけられる。
「一刀!」
「うん…」
一刀はようやく目を覚ました。
「一刀!」
「ここは……」
「成都ですわ」
「お館様は6日も眠っておられたのですぞ」
「6日か…………曹操は?」
「それなら問題ないぜ」
「問題ない? それってどういうことだ?」
「曹操の方から色々申し出があったの。
助けられた恩は返さないといけないって……。
それで曹操は国を一刀に渡すと……」
「けど、一刀様はこんな状態だったので保留ということになってますけどね…」
「そうか……」
一刀は頭に手をやる。
「一刀様?」
「まだ具合が悪いの? 一刀」
「いや、そうじゃない。これからどうするかだ」
「曹操の申し出を受けるか?」
「それもあるけど、俺が今一番考えてることはそれじゃない」
「じゃあ何なんですか?」
「俺が寝ている間に思い出したこと、すべてだ」
「思い出した? 思い出したって何を? 一刀」
「俺の本当の名、真名(まな)ではない真名(しんめい)と言うべき名前と俺の正体、俺自身が本当は何者かであると言うことを……」
『一刀(さん)(様)(お館様)の正体……』
「皆、これから言うことは全部事実だ。
信じられないかもしれないけど、とりあえず全部聞いてくれ」
一刀は話した。
自分が元々は北郷一刀と呼ばれる青年であること。
この世界が外史と呼ばれる作られた世界であること。
様々な世界で北郷一刀と言う存在が関わったために殺されたこと。
白装束の正体と自分が命を狙われた理由を………。
「そんなことが……」
「悪いが事実だ。とは言っても寝ている間に思い出したことだし、俺自身も少し信じられないところがある。
けれどそれだと色々説明が付いたりするんだ」
「信じる」
最初に口を開いたのは綾だった。
「綾…」
「一刀、あなたは嘘をついたことはあってもこんな緊迫した状態で嘘を言ったことはない。
仮に嘘をつくとしても身近に……それに現実的なもののはずだ」
「そうね。規模が大きすぎると嘘だと思えないもの」
美咲も綾に賛同する。
「そうそう、それに幼馴染が信じてあげなきゃ誰が信じるって言うの?」
千歳も……。
「お館様の言葉、この厳顔、信じましょう」
「黄忠も同じく…」
「桔梗様に同じく……」
桔梗、紫苑、焔耶も信じると言った。
「まああんたのことを信じるって言ったのはあたしだ。あたしも信じるぜ」
「たんぽぽもだよ」
翠に蒲公英も…。
「皆、ありがとう」
一刀は涙を流していなかったが、声は泣いていた。
「それで一刀様はこれからどうするのですか?」
「奴らと戦う。
正直な話、あいつらは止まる気がないだろうから選択肢はそれしかないだろうけどな」
「けどさ、戦うって言っても、具台的にどうするんだよ?」
「これは完全に憶測だけど……、あいつらは劉備軍を使ってくるはずだ」
「劉備軍を?」
「今劉備達がどこにいるか分からないってのは皆知ってるだろ?」
「ええ」
「記憶を取り戻す時に入って来たことなんだけど、あいつらはほとんどなんでもありなんだ。
どこかの土地を人から隠すことも可能。あいつらは劉備達をどこかで匿っている。
だから見つからないんだ。どこを探しても……」
「そうだったのか…」
「そんで匿ってる理由としては…」
「俺とぶつけるためだ」
「しかしなぜ劉備なのでしょうか?」
「戦力で見るなら、孫策や曹操の方がいいだろうに……」
「まあ呂布の力は別だけどさ……」
「人当たりがいいってところを狙われたんだろうな。
後は…矛盾を持ってるところだな」
「矛盾?」
「そう言えば一刀……様」
「様付けしなくていい。今は私事だ。それに本来俺は劉璋でもないみたいだしな」
「……それで一刀、矛盾って何?」
「劉備の抱えてるものさ。
劉備は人を助けたいという思いを持ちながらも人を傷つけている。
その矛盾に気づいていない…」
「気付いていない?」
「ああ。今の俺はともかく、今までの俺は人を傷つけたくない……と言うより命を失うことが嫌だったんだ。
けど戦わなければいけなかった。……守りたい命があった。だから俺は自分の前に立ちふさがる障害を倒してきた。
だがその障害は俺が守ろうとしていた命でもあった。そして俺はそれが矛盾していることだと気づいていた。
けれどさっきも言ったように守りたい命があった、だから戦った。
けど矛盾しているのに守りたい、その葛藤の中で泣いていたんだ」
「そうだったのですか…」
「正直、記憶が戻ったから……少し客観的に見れるようになったから分かったことだ。
記憶が戻らなかったら、泣いてた理由、分かってなかっただろうな……」
一刀は悲しい顔をする。
「けれど劉備はそれに気づいていない。
劉備にだって守りたいものや貫きたい理想はある。それは分かる。
だけどそのために誰かを傷つけることに対して何も考えていない。
心をいちいち痛めろなんて今の俺にはそんな聖人じみたことは言わないけど、痛めないんだ。
倒してきた敵に対して心を……」
一刀の言葉で皆が少し凍りつくように感じた。
「それを付け込まれたんだと思う。
まったく……、とんでもない甘ちゃんだよ…、あの子……。
それで仮に劉備軍がまた攻めてきた時は皆、俺に力を貸してくれるか?」
『もちろん(です)!』
「そうか……、それじゃあ念のためだ兵達に戦の準備を怠らないように通達を……」
『はっ!』
「しかしお館様、その前にやることが…」
「曹操の件だったな。とりあえず会ってみるか……」
それから一刀は曹操と面会。
曹操は一刀に国を渡すとし、魏は蜀領となったが、一刀は漢中や呉のように魏領を今まで通り曹操達に治めさせることにし、自分達は成都の方へと戻っていくのだった。
おまけ
作者「衝撃の第11話!」
一刀「結構あっけない理由で死んでるな。俺」
作者「言っておくが死に方は最初っから決まっていた」
一刀「しょぼ」
作者「いいじゃないか。しかし問題は次回だ」
一刀「何が問題なんだ?」
作者「前半と中盤と後半部分の書いた時期さ。
前半は第11話からそこまで空けてないけど、中盤以降がかなり空いてる。2,3か月は経った後に書いたはず」
一刀「空きすぎだろ!」
作者「そのためにモチベーションが変わっていたりして、ちょっとキャラの性格変化していたりするかもしれない。そこは前もって許してほしい。一応そんなことは次回の作品説明にも書くつもりだ。
それと何度も言っているが少し細かい戦闘は省略したりしてるけど、大方大きな流れや書きたいことはきちんと書いている。
それでは!」
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この作品は作者が最近見かけている「転生もの」の影響を受けて書いたものです。