No.512054

真・恋姫無双呉ルート(無印関羽エンド後)第57話

海皇さん

 読者の皆さん、お待たせして申し訳ありません!
 ようやく57話投稿完了いたしました!

 冗談抜きで読者の皆様にそっぽを向かれかねないくらい久しぶりの更新になってしまい本当にお詫びいたします。
 

続きを表示

2012-11-25 13:37:07 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2610   閲覧ユーザー数:2377

 軍勢side

 

「進め進めえ!!我等の土地に土足で踏み込んだ愚か者共を踏み潰せえ!!」

 

「此処まで来て引くことは許さん!!押して押して押し返せ!!」

 

戦場で、怒号と悲鳴が飛び交い、剣戟が響き矢が飛び交う。

現在、劉繇軍配下の太史慈率いる別働隊の奇襲を受けた孫呉軍が、必死の迎撃に追われていた。敵軍は全身を鎧で固めた重装備の長槍兵で固めており、後方からの射撃の援護を受けつつ孫呉の軍勢に進撃していた。一方の孫呉軍も、奇襲攻撃に最初は混乱していたものの、徐々に持ち直し、現在は重装備の敵に手こずりつつも何とか侵攻を食い止めていた。

 

「どけええええ!!!雑魚共があああああ!!!!」

 

 太史慈の怒声と共に二対の鞭が振るわれ、孫呉の兵二人の頭蓋がかち割れた。太史慈の背後には、同じように頭を割られた兵、背骨をへし折られた兵の死体が地面を埋め尽くしていた。

 

 敵の重装兵も厄介であったが、一番の難敵はこの太史慈であった。

 

 自らの主である孫策と合いまみえ、そして引き分けるほどの実力を持ったこの猛将の進撃を、呉の兵士達は止められずにいたのだ。

 それでも太史慈一人ならば何とかなったであろう。しかし、彼女の背後には、前の奇襲で散々苦戦させられた重装兵軍が居る。太史慈一人を集中攻撃するわけにもいかず、かといって重装兵軍にかかりきりになると太史慈に突破されかねない。

 だが、既に奇襲については軍全体に伝わっており、さらに既に援軍要請の伝令は送っている。だから此処で持ちこたえればまだ希望はある・・・・!

 

「持ちこたえろ!!援軍は必ず・・・「やかましい。その口を閉じろ」・・・」

 

 声を張り上げる孫呉兵の頭部を、太史慈の鞭が容赦なく叩き潰す。

太史慈は鞭を振るってこびりついた血や肉片を落とすと、辺りを睥睨する。

 

「これだけ暴れているのだ、援軍もじきに来るだろうな」

 

 むしろ来てくれなくては困る。太史慈はそう呟いてにやりと笑った。

 と、太史慈の前に軽装な鎧を纏った兵士が走り寄ってきた。

 

「報告です!!張遼、黄蓋、華雄、呂布の四将がこちらに兵を率いて接近中です!!」

 

「ほう、随分でかい獲物が、それも四頭も喰いつくとは。だが流石に全部相手にするわけにはいかんな。呂布は私がやる。残りは例の作戦通りにやれ」

 

「はっ!!」

 

 太史慈の命を受けた伝令の兵士はすぐさま部隊に指示を伝えに走る。それを横目で見ながら太史慈は大きなため息を吐いた。

 

「ふう・・・、こういう手口は好きではないのだがな・・・。まあ我が軍の劣勢なのだ。卑怯だなんだと言ってられぬか・・・」

 

 そう呟いた太史慈の表情は何処か不満そうであった。

 

 孫呉軍side

 

「っちい!!急いでいるときに!!」

 

華雄は次々と飛んでくる矢を戦斧で払い除けながら毒づく。その足元には先程まで自身を背に乗せていた馬が倒れていた。

 

「華雄っち!!んな文句言うてる暇ないで!!この矢に触っちゃあかんで!!」

 

「うむ!!これは掠っただけで死ぬ毒矢じゃぞ!!避けることに集中せい!!」

 

「分かってる!!くそっ!!こんなことなら私も鎧を着てくれば良かった!!」

 

 霞と祭の声に返答を返しながら華雄は矢を交わし、弾き、たたき落とし続ける。

 

 彼女達は急襲を受けている自軍の援軍に向かっていたのだが、その途中で敵の別働隊の襲撃を受けることとなったのだ。何とか恋は切り抜けられたものの、残る三人とその部隊はここで足止めを喰らっていたのである。

 

無論彼女達は歴戦の勇将、並みの兵ならば束になってかかっても勝ち目はないだろう。その気になればこのような矢の雨など掻い潜って敵軍を叩きつぶすことも造作もない。

 しかし、彼女達にはそれが出来ない理由がある。それは・・・・。

 

 「ぐはっ!!」「ぎゃあっ!!」

 

 突如華雄の隣にいた兵士二人の腕に矢が当たり、兵士二人が悲鳴を上げ、地面に倒れる。そして、口から泡を吐いて痙攣した後、そのまま息絶えた。

 

 そう、敵軍が射ている矢はただの矢ではない。矢じりの先端に毒が塗られた毒矢なのである。華雄達の馬もこの矢を受けて死を迎えた。そんな毒矢が無数に飛んできている為、華雄達は碌に進むことも出来ずに立ち往生することとなったのである。

 今のところ華雄達は何とか毒矢を喰らわずに居るものの、正直いつまで避け続けることが出来るかは分からない。自分達の体力が尽き、動きが止まりでもしたら周囲で倒れている自軍の兵士達同様確実に毒矢の餌食になるであろう。

 

 「くそっ!!この毒矢でなければ・・・」

 

 「呂布っちは抜け出せたみたいやけど、これじゃあウチらは加勢に行かれへんな!!」

 

 「全くじゃ!!・・・奴ほどの腕なら一人でも大丈夫であろうがの」

 

 祭は心配そうな表情を浮かべたが、目の前に迫る毒矢の雨に再び表情を引き締めた。

  太史慈side

 

 「ふ、どうやらおいでになったか」

 

 孫呉兵を狩っていた太史慈の耳に、自軍の兵士達の悲鳴が響いてきた。

 

 「申し上げます!!呂布がこちらに接近中!!」

 

 「御苦労、直ぐに他の兵達に引くように伝えろ。まともにやっても死体の山が出来るだけだ。あいつは私がやる」

 

 「はっ!!・・・があっ!!」

 

 伝令の兵士が返事をした瞬間、兵士の体が一瞬で両断された。

真っ二つになった兵士の陰から現れたのは、先程から自軍の兵士を殺し続けている孫呉、否、三国最強の武将・・・。

 

 「呂 奉先か・・・」

 

 「・・・・・・・」

 

 太史慈の言葉に恋は返事を返すことなく、先程兵士を斬り捨てた刃を、太史慈に突き付けた。表情は喜怒哀楽をうかがい知れない無表情ではあるものの、その全身からは刃のごとく鋭い殺気が放たれている。その殺気を感じた太史慈はにやりと好戦的な笑みを浮かべた。

 

 「ふっ、最初から臨戦態勢、か・・・、貴様ら!!」

 

 太史慈は周囲に展開している自分の兵士達に向けて怒鳴り声を張り上げる。

 

 「いいか!!こいつは私がやる!!死にたくなければ今すぐ離れていろ!!万が一介入しても命の保証は無い!!」

 

 「「「「は、ハハッ!!」」」」

 

 太史慈の命を聞いた兵士達はすぐさま二人の周囲から引き下がった。それを満足そうに見た太史慈は両手の双鞭を構える。

 

 「さあ、これで邪魔は入らん。存分に競い合おうか、呂奉先?」

 

 「・・・・分かった」

 

 恋はそう呟くや否や方天牙戟を太史慈目がけて振り下ろす。太史慈はすぐさま反応して背後にバックステップする。

 直後、轟音と共に地面が陥没した。鞭で受けていたら圧し折れていたかもしれない。

 

 「やるな、これほどの剛撃は久しぶ・・・(ブオン!!)・・・っと!!少しは話くらいさせろ!!」

 

 太史慈が避けたと見るや恋は追撃に方天牙戟を振るう。太史慈は話を中断させられたことにいらつきながらもその攻撃を回避する。

 そして戟を振るって一瞬がら空きになった懐に入り込み、鞭を恋の腹部目がけて振るうが・・・。

 

 「・・・ふっ・・・」

 

 「なっ・・・・・!?」

 

 恋は振るわれた戟の遠心力を利用し、戟と一緒に回転する。そして回転して戻ってきた方天牙戟の柄が太史慈目がけて衝突する。

 

 「ぐうっ!!!」

 

 太史慈はとっさに鞭で受け止めるものの、恋の方天牙戟の柄は、鉄を束ねて作られたものであり、その柄で殴りつけただけでも馬の首すら圧し折ってしまう代物である。それが恋の怪力で、さらに遠心力まで加わっているのだから・・・・、

 

 「がああ!!」

 

 太史慈は吹き飛ばされて地面を転がる。幸い鞭は手放さなかったものの、右腕はあの重い一撃を受け止めた痺れが走り、地面に激突した体に痛みが走る。

 体に走る痛みに耐えつつ立ち上がると、既に呂布は戟をこちらに向けて振り上げていた。

 

 「くっ!!」

 

 太史慈はまだ痛みの消えていない体に鞭打ち横跳びに戟を回避する。そして未だに痺れの残る右腕に握りしめた鞭を恋に突き付ける。

 

 「全く・・・・、さすがは三国無双と謳われるだけはある・・・。流石に私一人では厳しいか・・・」

 

 「・・・面倒、そろそろ終わらせる」

 

 「お、ようやくしゃべったか」

 

 太史慈はようやく口を開いた恋に苦笑する。が、恋はそんな太史慈に構わず方天牙戟を振りかぶってきた。

 

 「ふう・・・・、やれやれ私に攻撃する前に一つ忠告しておくが・・・・、

 

 

 

 

 右を見てみろ、まずいことになってるぞ?」

 

 「・・・!?」

 

 太史慈の言葉に思わず右を向いた恋は、身を強張らせた。

 

 恋の視線の先には、無数の矢が自分目がけて飛んでくるのが見えた。

 

 

 一刀side

 

 現在、祭さん達は劉繇軍の奇襲部隊と交戦中だが、かなり苦戦しているらしく援軍の要請が送られてきた。何でも敵は毒矢を使ってきているとか・・・。

 

 「毒矢・・・、嫌なことを思い出すわね・・・。分かったわ、直ぐに援軍の用意はする。祭達に何とか耐えてって伝えて!」

 

 「はっ!!」

 

 雪蓮の焦ったような声に兵士も返事を返すとすぐさま俺達の前から走り去った。

 

 「毒矢、ね・・・。今の今まで使ってこなかったから全く警戒してなかったわ・・・」

 

 「それは私も同じだ。毒矢は確かに強力だが戦場であまり使える代物じゃないからな。私も警戒の外から外していた」

 

 雪蓮の隣で冥琳も険しい表情をしていた。

 実際戦場で毒矢を運用するのは意外と難しい。

 毒矢は確かに素人でも一撃で敵を殺せるほどの威力は持っているものの、万が一にも味方に誤射してしまった場合の危険度は普通の矢よりも上である。

 ゆえに乱戦ではあまり使われることは無かったし、この世界の戦場でも毒矢を使う勢力は全く見なかった。まあ許貢の刺客が使ったものを勘定に入れなければ、だけど・・・。

 

 「あーもー、これじゃあまともに戦えないじゃない!!掠っただけで死ぬらしいし。こんなことなら少し動きづらくなっても鎧持ってくるべきだったかなー・・・」

 

 「いまさら言っても遅い、全く・・・。私はずっと前から万が一の為に鎧くらいつけて行けと言っていただろうが・・・」

 

 「だって~・・・、あれって重いし動きにくいし・・・」

 

 「毒矢喰らって即死するのとどっちがいい・・・」

 

 「そりゃあ・・・まあ、命には変えられないけど、ねえ・・・」

 

 雪蓮は口ごもりながら顔をそむけた。

 しかし前から思っていたがなんでこの世界には鎧を着ている武将が少ないんだ?

 いくら自分の腕に自信があるからと言っても限度があるだろうに・・・。

 大多数の人間が「重い」「動きにくくなる」とかが理由らしいけど、それでも生き残る確率上がるから着るべきだと思うんだが・・・。

 愛紗に聞いても、「別に鎧など必要ありますまい?」と不思議そうな顔をしているし、どうやらこの世界の武将は俺達の世界の武将よりもよほど自分の腕に自信があったらしいな・・・。

 

 「も、申し上げますー!!」

 

 俺が悩んでいると突然伝令の兵士が俺達の前に現れた。その表情はかなり焦っている様子で、いかにも緊急事態があったという様子だ。

 

 「ん?一体どうしたのよ、そんな焦った表情で・・・、ま、まさか祭達に何か!?」

 

 雪蓮の言葉に俺達もギョッとした。何しろ報告が正しければ祭さん達は今敵の毒矢の雨を掻い潜っている最中だ。まさか祭さん、霞、華雄のうち誰かが、それとも全員が毒矢を喰らったのか!?そうなったら直ぐにでも救出しなければ!!

 だが兵士の口から出た言葉は、俺が、いや、此処にいる全ての人間の予想とは大きくかけ離れたものであった。

 

 「ち、違います!!呂布将軍が、呂布将軍が太史慈との戦いで重傷を負われました!!」

 

 

 太史慈side

 

 「・・・ぐあっ・・・」

 

 「ふっ、矢に気を取られて失敗したな、呂布よ」

 

 太史慈の鞭は、恋の右腕に食い込んでいた。確実に腕の骨は折れているだろう。

恋は激痛のあまり方天牙戟を取り落としてしまいそうになる。それでも何とかバックステップで太史慈から離れた。

 

 「まさか私以外から攻撃を受けるとは思わなかっただろう?だが悪く思うな。ただでさえ今は劣勢なのだ。卑怯だなんだと言っている暇は無いのでな」

 

 太史慈は恋の非難と憎悪がまじりあった視線を無視しながらそう言った。

 

 王朗が太史慈に授けた策はこうだ。

 

 まず敵の守りが薄いところを攻撃し、敵の援軍を引きずり出す。

この時は出来る限り有力な将が居る部隊が望ましいが、そうでなくても問題はない。

有力な将が率いる軍が来るまでは重装兵団による攻撃で敵を蹴散らし、来たときに初めて、毒矢を交えた攻撃を開始する。

 確かに毒矢は誤射をすれば自兵への被害が大きく、集団での戦いでは敬遠されがちだが、これが全身に重装備をした劉繇軍ならば話は別である。劉繇軍の着ている鎧は厚い鉄板で覆われており、さらに下には鎖帷子も装着している。このため、並みの矢ならばはじき返すことが出来、毒矢による誤射もほとんど苦にしないのである。よって、重装兵団はそのまま敵軍への攻撃を続行することが出来る。

 毒矢と重装兵団による波状攻撃、これによって敵軍、敵将共に殲滅することが可能である。が、万が一にも呂布や天将のような規格外の猛将が来た場合には、これでも突破されかねない。その為、そのような武将が現れた場合には、太史慈の所に誘導し、太史慈と一騎討ちを行わせる。そして、一騎討ちで相手の意識が太史慈に向いたところで、敵将に毒矢を射かける。無論、太史慈に当ててしまわないように選び抜いた選りすぐりの弓兵に行わせる。たとえ相手が矢を凌いだとしても、その隙に太史慈の攻撃が来る。これで相手を戦闘不能に追い込むのである。

 

 「さて、私としてもこんな決着は不本意極まりないが、ここで消えてもらおうか、呂奉先」

 

 「・・・ぐ、う・・・・」

 

 右手を砕かれた恋は、何とか方天牙戟を構えなおし、太史慈に矛先を向ける。

しかし、利き腕を砕かれた痛手は大きく、右手は精々添えるので精いっぱい、実質左手で扱うようなものだ。無論普通の兵や並の武将ならば片腕のみの戦闘でも苦にはならないが、太史慈ほどの武将ではこのハンデは致命的だ。

 そして、恋目がけて太史慈の鞭が襲ってくる。

恋は鞭をなんとか方天牙戟で防ごうとする、が、予想以上に一撃が重く、片腕では受けきれない。

 

 「・・・!?」

 

 「ふっ、どうした?片腕を無くして流石に全力が出せなくなったか?」

 

 「・・・・うるさい!」

 

 さっきとは違い余裕がありげな太史慈に対して、恋は怒りを露わにしながら戟を振るう。とはいえ片腕となった痛手は大きく、一撃一撃が先ほどよりも軽くなっている。故に太史慈は悠々とそれを避け、受け止め続ける。

 

 「やれやれ、あまり長引かせるのもあれだ。そろそろ終わらせるか・・・」

 

 太史慈は両手の鞭を同時に戟に叩きつける。二つの鞭が激突した衝撃と振動が恋の腕に走り、思わず方天牙戟を取り落としてしまう。そして、休む間もなく鞭が恋の腹部を殴打した。

 

 「・・・ぐうっ!!」

 

 その衝撃に恋は地面に倒れ伏す。太史慈は地面に倒れた恋に近づくと、右手の鞭を振り下ろそうとした。

 

 「ではさらばだ呂奉先よ。お前とは出来れば正々堂々とした勝負をしたかったものだ」

 

 そして、そのまま鞭が恋の頭蓋を打ち砕くかと思われた。

 

 ・・・が、次の瞬間、何処からか飛んできた矢が太史慈の鞭を吹き飛ばした。

 

 「ぐっ!、な、何!?」

 

 「恋!!無事かっ!!」

 

 と、いつの間にあの矢の雨を抜けてきたのか祭、霞、華雄の三人の姿が遠くに視認出来た。

 

 「っち、まあいい。これで呂布はこの戦では使い物になるまい。敵軍もだいぶ殲滅できた。・・・全軍引き上げるぞ!!」

 

 太史慈は取り落とした鞭を回収すると、すぐさま全軍に撤退命令を出す。

 

 「・・・待て!!」「落ち着きや呂布ちん!!危ないで!!」

 

 撤退する太史慈になおも追いすがろうとする恋だが、霞に羽交い絞めにされて引き止められる。

 まだこちらに向けて矢で狙っている連中が居る以上、へたに追撃を仕掛けようものなら狙い撃ちにされかねない。それが毒矢なら致命的だ。掠りでもしたらたとえ恋でも一瞬であの世行きだ。

 

 「・・・ぐっ」

 

 先程のダメージのせいで力が出ない恋は悔しげに退却していく敵軍を見ているしかなかった。

 

 「ふう・・・ようやく撤退したのう・・、と!恋よ、怪我は大丈夫かの!?」

 

 「ちょっ!!右腕折れとるやん!!医者に見せんとあかんで!!」

 

 恋の右腕が折れているのを知った霞は心配そうに恋を軍医に診せに行こうとするが、恋は痛みに耐えつつそれを拒否する。

 

 「恋・・・、大丈夫・・・。これくらい・・・ぅっ!!」

 

 「何が大丈夫だ、バカモン。そんな様子で戦場に出るな。早く医者に診てもらってこい」

 

 顔を痛々しげに歪めて痛みに耐える恋に、華雄は呆れた表情で軍医の下へ連れて行く。それを眺めながら霞は祭と話をした。

 

 「・・・あかんな、これは」

 

 「うむ、一線級の武将の一人が利き腕を故障したのでは、の・・・。あれではこの戦では戦えまい・・・」

 

 「まだ関平が残っているからいいが、へたをすれば士気に影響するな・・・」

 

 祭達は不安げな表情で運ばれていく恋を見送った。

 

 

 一刀side

 

「恋!!大丈夫か!!」

 

 俺達は太史慈の軍勢が撤退したという知らせを聞くや否や、恋が治療を受けているという傷病兵用の天幕に向かった。

 急な攻撃だったために少々組立てが雑ではあったがこのようなときに贅沢は言っていられない。俺が天幕に入ると、そこにはさっきまで恋を治療していたのであろう軍医と、右腕を固めて首から吊るしている恋が座っていた。

 

 「・・・ご主人様、ごめん・・・。敵、逃がした・・・」

 

 「そんなことはいい!恋、無事でよかったっ!!」

 

 俺は恋が無事だったことの嬉しさで抱きしめようとしたが、流石に怪我人にそんなことするわけにはいかないため、頭を撫でる程度にとどめておいた。恋は目を細めて気持ちよさそうにしていたが、やはり吊るされた腕が何とも痛々しい。

 

 「で、恋の腕の調子はどうなの?」

 

 「はい、出来る限りの治療は施しましたが、いかに早くても一カ月は動かすことは出来ないかと・・・」

 

 「ということは、この戦では武器を振るうことは不可能ということか・・・」

 

 「・・・残念ながら」

 

 軍医の言葉に雪蓮と冥琳は険しい表情を浮かべた。俺の隣では、愛紗も悔しげな表情を浮かべている。

 

 「くっ、まさか不意打ちをしてくるとは・・・。すまない恋。せめて私が行っていれば・・・」

 

 「関平・・・。気にしなくていい・・・。恋、大丈夫・・」

 

 愛紗は悔しげな表情で恋に謝るが、恋はそれを押しとどめて、ほんの微かにだが笑みを浮かべた。

 

 「しかし、まさか太史慈が不意打ちを仕掛けてくるとはね・・・。あいつはそんな卑怯な手を使う奴じゃないって思ってたんだけど・・・」

 

 「敵も切羽詰まっているということだろう・・・。それよりも、我が軍の武の要の一角である恋が負傷とはな・・・。しかも先程の奇襲で兵力が相当削がれた。士気に影響が少なからず出るだろうな・・・・」

 

 雪蓮と冥琳は暗い表情で会話する。確かに、愛紗を除けば孫呉最強の戦力である恋が戦えない以上こちらの戦力も減らざるを得ない。それでも指揮を執る将に関しては祭さんや六花さん達が居るから何とかなるけど、さすがに孫呉最強の武将が消えたのは士気に多少なりとも影響があるだろう・・・。

 

 「ですがいかに恋が居なくてもこの私が居ます。恋が居ない穴は私がなんとか埋めて見せましょう」

 

 若干暗い二人に愛紗は力強くそう言った。確かに今の愛紗の実力は恋以上だ。恋の代わりも十分こなすことも出来るだろうけど・・・・・。

 

 「関平・・・」

 

 「すまない、迷惑をかけるな・・・」

 

 「ご主人様共々世話になっているのです。気になさらないでください」

 

 雪蓮と冥琳の申し訳なさそうな表情に頼もしい笑みを浮かべて気にしていないと返事を返した。だけど、俺はそれでも愛紗のことが心配であった。

 

 愛紗には出来るだけ戦場に出てはほしくない。愛紗に人を殺してほしくないのもあるが、一番の理由は、愛紗に傷ついてほしくないのだ。

 

 愛紗は俺の大事な人だ。

 

 俺が以前の外史で初めて出会い、そして俺と共に着いてきてくれた大事な半身ともいえる存在だ。

 

 そんな彼女が傷つき、死ぬことなんて考えられない。

 

 俺は思わずネガティブに考えてしまうが、そんな俺を安心させるかのように愛紗は微笑んだ。

 

 「心配いりませんご主人様。私はどんなことがあっても死にはしません。必ず、ご主人様の下に戻ってまいります」

 

 「あい・・・・関平、うん、分かった。信じてるよ」

 

 「はい、ご主人様」

 

 花のような愛紗の笑顔に、俺は少しだけ安心感が生まれた。

 

 「・・・あー、惚気るんだったらこの外でやってねー、お二人さん」

 

 「「!?!?!?」

 

 劉繇SIDE

 

 「よし、呂布を使い物にならなくしたか。でかしたぞ睦月!」

 

 「・・・及第点、よし」

 

 「ありがとうございます、劉繇様、王朗殿」

 

 一方会稽の本陣に帰還した太史慈は劉繇と王朗からねぎらいの言葉を受けていた。ちなみに厳白虎は現在陣地を見まわっており不在である。

 

 「しかし連中もこれで懲りはしますまい。必ずや此処まで来ましょう」

 

 「んなこたハナからわかってる。問題はねえ。策はあるんだろ?束紗」

 

 劉繇の言葉に束紗は黙って頷く。

 

 「承知いたしました。では私は本隊の指揮に当りますので」

 

 「おうよ、奇襲に使った兵達は城に戻しとくぜ。疲労してる兵じゃああんまし役には立たねえし」

 

 「御意、では私はこれで」

 

 太史慈は二人に礼を返すと下がっていった。その姿を見送った王朗は、劉繇に質問する。

 

 「・・・いいの?兵力、少なくなるけど・・・」

 

 「いくら多くても疲労してたら役にも立たねえだろ。それに、城の警護の兵も残しておくべきだろうが」

 

 「・・・そう、ね・・・」

 

 劉繇の言葉に王朗も頷いた。

 やはり孫策以外に自分達を狙っている第三勢力を気にしているのだろう。

 今回の奇襲攻撃は妨害されなかったものの、いつ会稽の本拠を攻められるか分かったものではない。だから会稽の防御も少しでも固めておくべきと、劉繇は考えたのである。

 

 「申し上げます!!」

 

 「ん・・・?来たか」

 

 「ハッ、只今孫呉の軍勢を確認!全軍迎撃準備は完了しております!!」

 

 劉繇は兵士の報告を聞いてニヤリと笑みを浮かべた。

 

 「よっしゃ、んじゃあ一つ派手に連中を潰してやるかね。策は既に伝えてある通りだ!!連中を此処から生きて返すな!!」

 

 「御意!!」

 

 伝令の兵士はひざまずいたまま礼を返すとすぐさま立ち上がって天幕から出て行った。

 

 「さて・・・、行くか、束紗」

 

 「・・・・(コクッ)」

 

 劉繇は鎧を着込み、己の参謀と共に戦場に向かった。

 

あとがき

 

 申し訳ありません。だいぶ更新が遅れてしまいました。

 

 なんとか十月中には更新したいと思っていたのですが、まさかここまで遅くなるとは・・・。

 

 仕事の関係もありまして欠く暇があまりなかったもので。このままじゃ年内に揚州攻略編終わるかどうか・・・。

 

 取りあえず今回の話なのですが、恋は合肥の戦い前にリタイアという形にさせていただきました。さすがに死なせるわけにはいかないので腕の骨が折れるにしておいたのですが・・・。

 

 次でようやく合肥の戦いになります。できればこの話で始めたかったのですが・・・。

 

 では今回はこれにて・・。

 


 
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