No.511806

魏エンドアフター~摩天楼~

かにぱんさん

(´▽`)

2012-11-24 19:29:03 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:7869   閲覧ユーザー数:5780

朝、いつものように目覚め、とりあえず横を確認。

 

「すぅ……すぅ……」

 

あの日から俺と一緒に小さな女の子が眠るようになっていた

 

名前を「明花」あの村の母親の子供だ。

父親は3年前の戦で徴兵されそのまま戦死を遂げたらしい

俺の出した指令で死んでしまった兵士の中にこの子の父親はいたのだろうか。

まだ幼かった事もあり顔も覚えていないらしい。

それがこの子にとって救いだったのかはわからない

初めこそ皆で面倒を見ていたものの、なぜか俺にばかり懐きこうして寝台を共にしている

もちろん皆のことを嫌っているわけではない。

華琳や春蘭、桂花にすら懐いている

というか基本的にこの国の武将は子供が大好きなようで、暇があれば構っているところを何度か見ている

さすがに子供相手に酒を勧めている霞を見かけたときはびっくりしすぎて耳が大きくなりかけたが

そして今俺の中で問題が起きている、それは──

 

星「おや北郷殿、お目覚めですか。

  せっかく目覚めの接吻などをしてさしあげようと思っていたところを──」

 

窓からの侵入者。

趙雲こと星。

なぜ彼女がここに居るのかというと──

 

あの騒動の後、蜀、呉は皆で帰った──はずだった。

しかし夜、俺が自室へ入るとさも当然かのように彼女が眠っていた

理由を聞いてもうまくはぐらかされてしまう。

蜀の皆も何故か笑みを浮かべる星を悔しそうな顔で見つめしぶしぶ了承していた

……この人は一体何をしたのだろうか。

とまぁそんな感じで──いや本来ならそんな感じで済ませてはいけないのだがここに留まる事になったらしい

最初こそ皆何故か星を責めずに俺のみを責めてきたが、諦めたのだろう。

一週間が過ぎた頃には何も言わなくなった

 

しかし

 

風「おはようですよお兄さん、おやおや。星ちゃんいけませんよ。ちゃんと扉を使わないと」

 

星「おぉ、風か。うむ、どうにも北郷殿の部屋に入るときは窓からのほうがいいような気がしてな」

 

星が留まるようになってから毎朝俺の部屋に侵入してくる星、そして決まってそのすぐ後に風

 

華琳「あら、早いのね。おはよう一刀。そこの二人も」

 

凪、真桜、沙和「隊長、おはようございます(やで)(なの~)」

 

春蘭「北郷!!朝だぞ──って華琳様!?お、おはようございます!」

 

秋蘭「ふむ、随分と出遅れたようだな。おはようございます、華琳さま」

 

霞「か~ずと~♪おはよー♪」

 

桂花「ちょ!?何この人数は!毎度毎度飽きないわね!!」

 

稟「そういう貴女もです、おはようございます。一刀殿」

 

季衣「兄ちゃん!!おっはよ~!!」

 

流琉「兄さま!おはようございます!」

 

続々と皆が俺の部屋へ入ってくる。

そう、星が来てからと言うもの。何故か皆朝になると俺の部屋に集まりだす

まて、ちょっと待て。

……何?これ。

 

一刀「うむ、常々思っていたことがある。心して聞いていただきたい」

 

皆が俺に何か文句でも?と言いたげな視線を送ってくるが今日という今日は言わせてもらおう

 

一刀「なぜ、毎朝、決まった時間に、ここが集合場所であるかのように、皆で集まるのでしょうか」

 

はい、怖くて強くいえない俺に乾杯

 

華琳「あら、星や風が良くて私たちは駄目なのかしら」

 

そう、最初は星と風のみだった。

しかしその情報がどこでどう漏れたのかは知らないが数日後にはこうなっていた

 

風「いえいえー特に意味はないのですよ」

 

いや……意味無く皆が集まる必要は無いんじゃないかと。

しかも朝っぱらから

 

真桜「こんなべっぴんが何人も朝起こしに来てくれてんねんで?

   感謝こそされても迷惑がられる要素はどこにもないで」

 

いやまぁ確かにそうなんだけど。

もう少しやり方ってもんがあるんじゃないかと

 

一刀「いや……そもそも何で皆急に集まりだしたんだ?」

 

俺は疑問に思ったことをそのまま口にしただけなのだが

 

一同「……はぁ」

 

なに!?なんでそんな疲れた目で見られなきゃいけないの!?

 

明花「んん……」

 

ほら!そんな空気に耐えられずにこの姫様が目覚めてしまいますよ!

 

一刀「と、とりあえずさ、星にも風にも言っておくから朝皆で集まるのはやめよう」

 

お願いします。僕に朗らかな朝をください

 

華琳「……まぁいいでしょう。それより一刀、今日はあの日よ」

 

一刀「え?なんだ華琳今日は生──」

 

ドゴォ!!

 

朝一顔パン頂きましたー。

 

華琳「それを本気で言っているなら今すぐに殴り飛ばすわよ」

 

い、いや……もう行動に移してます……

 

一刀「わ、わかってるって。徐晃との手合わせだろう?覚えてるよ」

 

華琳「そう、結構。では──」

 

一刀「あ、でも俺刀が一本折れちゃってるからなぁ……本気で闘うのは勿論だけど

   どうしても力は落ちるよ、それでもいい?」

 

華琳「……それは問題ね。真桜、一刀の得物を作るのにはどれくらい掛かるかしら」

 

真桜「ん?ああ一応あの大会の後すぐに取り掛かったからあと一日あればできると思うで。

   ええもんも手に入れたしな」

 

華琳「そう、なら徐晃との手合わせは明日にしましょう。それでいいわね?」

 

一刀「ん、了解」

 

明花「んぅ──あ」

 

おっと、少し騒ぎすぎたな。

まぁこれだけ騒いでて今まで起きなかったのもすごいけど

 

一刀「おはよう、明花。よく眠れたか?」

 

明花「……うん、おはよう。とうさま」

 

一応説明しておこう。

この子は俺の娘ではないが、いつの間にか俺の事をこう呼ぶようになっていた

なんでお母さんでとうさまなのか、その辺も謎だがあれか?お母さんとパパみたいなもんか?

ふぁぁぁぁっと何とも微笑ましい欠伸を一つ、目を擦り

 

明花「お腹すいた、朝ごはん食べよう?」

 

一刀「あぁそうだな、ほら皆もこんな狭い部屋に居ないで食堂に行こう」

 

霞「それもそうやな、ほな行くで~」

 

ぞろぞろと部屋から出て行く重臣の皆さん

傍から見たら圧巻なんじゃなかろうか。

 

明花「んん……」

 

まだ少し眠そうな明花を抱きかかえ、俺も部屋を後にした

 

 

 

 

昼ごろ、真桜に呼ばれたので彼女の聖地へ向かう──溶鉱炉だけどさ。

 

一刀「おーい、真桜。どうしたんだ?」

 

俺が呼ばれたのは多分刀の事だろう。

何か良いものを手に入れたとか言ってたし

 

真桜「おお隊長、ちょっとまってや」

 

作業を一旦中止し何かを持ってくる

 

一刀「すごい綺麗な石だな、なんだそれ?」

 

真桜が持ってきたそれは紅色とも桃色とも取れる綺麗な色の石だった

 

真桜「せやろ?いやぁまさかこんな上等なもんが手に入るなんておもわんかったわぁ」

 

嬉々とした表情を浮かべながら話す。

なんだろう、真桜にとってはそんなにうれしい代物なのだろうか

 

真桜「これは蛍楼石言うてな、めっさ硬い上に美しい色合いを出す鉄が含まれとる鉱石や。

   相当な希少品やけど隊長の得物作るんやったら絶対これ使いたい思ってたんや。

   けどなかなか手に入らなかってん……で、この間ようやく手に入ったっちゅーわけや」

 

……何かそんな高価なものを使ってもらうのはかなり気が引けるんだけど。

 

一刀「そんな希少なものを俺の武器なんかに使ってもいいのか?」

 

真桜「当たり前やん。むしろこの鉱石を使えるんは隊長の武器くらいしかないで」

 

一刀「そうなの?」

 

真桜「これは大きさこそでかいけどな、これから取れる鉄はかなり少量や。

   それにウチらみたいな叩き切るような武器にはこんなもん使わんでも十分なんや。

   隊長の刀言う武器は切り裂く事に特化しとるみたいやしなにより細いし軽い。

   このすべてを活かすにはこれしかないねん」

 

一刀「そ、そうなのか。何か悪いな、無理言ってるみたいで。ごめんな」

 

申し訳ないと頭を下げようとすると

 

真桜「隊長とウチの仲やろ?そんなこと別にええねん。

   ま、今度何か高いもん奢ってもらうさかい、気にせんでええよ」

 

そういってニヒヒっと笑ってくれる

 

一刀「はは、俺の財布が空にならない程度に頼むよ」

 

真桜「それは約束できひんな。

   んじゃまそうゆうことやから完成を楽しみにしとってや」

 

後ろ手に手をひらひらさせながら奥へと戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

そして夜、明日は詩優との試合を控えているので一応身体を動かしておく。

この一ヶ月間、骨折のため激しい動きはできなかったがようやく完治。

久しぶりの激しい運動

これ筋肉痛にならなければいいけど──と思いつつも鍛錬をしていると

 

星「おや、一刀殿。こんな夜更けに鍛錬とは。なんとも雅ですな」

 

何が雅なのかはわからないが嬉しそうに近寄ってくる、酒を片手に

 

一刀「酒盛りならできないよ?明日のために少しでも身体を慣らしておかないといけないんだ。

   ごめんね」

 

星「む、それは残念ですな。せっかく華琳殿が酒を作ってくださったと言うのに

  ……ふむ、それでは私も一つ、鍛錬に混ぜていただくとしましょう」

 

一刀「……え?」

 

星「それとも私が相手では不服でございますか?一刀殿」

 

そう言っておもむろに竜牙を取り出し、構える

 

一刀「……いや、むしろ付き合ってほしい。

   星が相手なら不足はないしね。ありがとう」

 

星「ふふっ、礼には及びませぬ。

  私も少し身体を動かしたくなっただけですので」

 

一刀「ははっ、じゃあ遠慮なく──行くぞ!」

 

星「全力で参られよ!」

 

深夜なのに迷惑な事この上ない轟音が響き渡った

 

 

 

 

 

 

一刀「ぶはっ……はぁ、はぁ……もう……無理」

 

大会で一度勝利はしているものの今は刀一本。

一本であの連撃を防ぐとか無理だろ……

 

星「この程度で疲労していてはこの先やってはいけませぬぞ?」

 

一刀「はは……俺の体力の無さは最大の弱点だからね、それに一月も身体を動かしてなかったし──」

 

星「ふむ」

 

一刀「確かに……こんなんじゃ駄目だね……こんなんじゃ──」

 

星「…………」

 

急に星が黙ってしまう……何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか

 

一刀「えーっと……星?どうかした?」

 

星「貴方のその想いに。私は魅せられたのです」

 

一刀「え?」

 

星「貴方は以前、私がここに留まることにした理由を聞いてこられたであろう?」

 

一刀「え?ああうん、そうだね」

 

星「一月前にあの村の襲撃があったとき、貴方と華琳殿のやりとりを聞いてしまいましてな」

 

……あまり気持ちの良いことではない

 

星「失礼は重々承知です。

  しかし、大会の時に感じた貴方の想いがどれほどのものなのかを知りたくなりましてな」

 

星はその名と同じ、夜空に浮かぶ星を眺めながら呟く

 

星「そしてあの時、貴方の慟哭を聞いたとき、確信致しました」

 

そう言って星は姿勢を正し

 

星「貴方を私の主としたい。いかかでしょうか?」

 

……ん?

 

一刀「い、いやいや。いきなり何を言っているんだ。君の主は劉備さんだろ?」

 

星「ああこれは失敬、言い方を間違えましたな。

  つまりは貴方に惚れているということです」

 

そう少し頬を赤らめた彼女が言った

 

……え?ほれた?……掘れた?何が?

 

と、彼女の爆弾発言に頭がいい感じに壊れてきた

 

星「三国が平定した今、国に拘っている理由はない。ならば」

 

俺の壊れ具合を無視した星が言葉を続ける

 

星「惚れた殿方の傍に居たいと思うのは自然なことでありましょう」

 

一刀「ちょ、ちょっと待って星!えっと、つまり……俺に?」

 

星「先程からそう言っているではありませんか。

  それとも一世一代の乙女の告白を無かった事にするおつもりか?」

 

至極当然の事を言っているかのように淡々と告白をされている俺

 

一刀「で、でもさ、星が俺に惚れる要素なんてあったか?

   大会で手合わせしたぐらいしか接点ないよ?」

 

星「先程も言いました通り、私は貴方のその一途な想いに魅せられた。

  貴方のその狂おしいまでの「守る」という気持ちに、皆を想う優しさに惚れたのです」

 

……どうしよう。

何を言っていいのかわからない

 

星「無論、顔良し、器量良しということでもありますが」

 

そう言ってぐっと俺に接近してくる

 

一刀「星は……本当に俺なんかでいいのか?」

 

正直、俺は自分に自信が無い。

あの村の人たちだって救えなかったのだから

 

星「なんと言われようが私は貴方の伴侶になると決めたのです。こればかりは譲れませぬ」

 

……ここまで女の子に言わせておいて断るのは男ではないと思う

なにより最初は俺をからかっているのかと思っていたが彼女は真剣に俺を想ってくれている。

だけど──

 

一刀「星の気持ちはすごく嬉しいんだ、でも俺は魏の皆を──」

 

星「それは重々理解しております。しかしその程度で諦めるような柔な想いではありませぬ」

 

そう言って、俺の手をぎゅっと握る。

 

星「この趙子龍。必ずや貴方を手に入れて見せますぞ」

 

満面の笑みを向けてくる彼女はどこまでも綺麗だった

 

 

 

 

 

 

 

真桜「なぁ~に桃色な雰囲気漂わせとんねん種馬」

 

ちょっと!ちょっとちょっと!形だけとはいえ上司に向かってなんて言い草!

 

真桜「ったく人が夜通し隊長の武器作っとったっちゅーのに……」

 

一刀「い、いやいや真桜。それは大きな誤解だ。俺と星は只一緒に鍛錬をだな」

 

星「おっと李典殿。私も北郷殿の嫁候補として参戦させて頂きます故」

 

ちょっと!話ややこしくしないで!

 

真桜「ふんっ!上等やないの、ウチかて伊達に北郷隊に3年以上居るわけや無いで?

   もうウチは隊長の女にしてもろてん。ウチの方が一枚上手や」

 

何をこっ恥かしい事を口走っているのだろうこの子は。

 

星「むぅ……一刀殿、近々閨にお邪魔致します。よろしくお願いしますぞ」

 

閨に来て何をよろしくするのだろうこの子は。

っとこんな話をしている場合ではない

 

一刀「そういえばここに来たって事は武器ができたのか?」

 

二人の間で激しい火花が散っているがそれはスルー

 

真桜「ん?あぁせや!隊長!これはすごいで!

   今までウチが作っもんの中で最高傑作かもしれんで!」

 

鼻息荒く興奮した様子で真桜が身を乗り出し訴えてくる

 

一刀「おお?そ、そうなのか?」

 

あまりの迫力にろくな反応が示せなかったが真桜の最高傑作か……すごそうだ

 

真桜「見て驚くなや──これや!!」

 

そう言って取り出した一振りの刀。

長さは楼蘭よりも少し長く、桜炎よりも少し短い

鞘から柄にかけての部分は黒塗りの上に桜の花びらが描かれている。

何とも高級感溢れた出来栄えだ

真桜からそれを受け取り、鞘から抜き、刀身を見てみる事にする

 

一刀「うお──」

 

言葉を失った。

それほどまでにその刀身は美しかった。

刀独自の反り、この薄い紅色とでも言うのだろうか

峰は黒い漆で塗ったかのような綺麗な漆黒。

刀身の地から刃にかけては薄い赤。

光が当たれば桜のような美しい色に見える。

それが地の綾杉肌と合わさりさらに美しく映える。

しかし俺が最も驚いたのはその軽さ

 

普通頑丈に作れば作るほど重くなっていくのは至極当然の事

しかしこれはそんな常識を覆してしまう程に軽い。

 

真桜「どや?すごいやろ?いやぁ~苦労したで。蛍楼石の硬さとあの美しさを残すんは」

 

ドヤァ……と聞こえてくるような完璧なドヤ顔だが、そんな表情になってしまうのも無理はない。

 

一刀「ああ──言葉が見つからないよ」

 

星「ふむ、これはなんと美しい──」

 

真桜「その硬さはウチの予想以上や。

  打撃にかなり弱かったからなぁ。

  それを無くすためにいろんなもんと混ぜて試行錯誤した末にできた、まさに唯一無二の武器や」

 

確かに見ただけでもわかる。

これほどまでに完成された刀は他にないだろう。

 

真桜「ウチの辞書に不可能っちゅー文字はないで?」

 

ナ○レオンもびっくりの発言だ

 

俺と星がその刀の美しさに見惚れていると

 

真桜「できたてほやほややからな、名前はないねん。隊長決めてや」

 

一刀「え!?お、俺が決めるの!?」

 

かなり責任重大だぞ──この美しさに値するほどの名前が思いつかない

 

星「……ふむ、ならばこんな名はいかがでしょう」

 

俺と真桜は星の発する言葉を待つ

 

星「──摩天楼」

 

真桜「……摩天楼?」

 

摩天楼って言うとあのめっさ高い建物を指す言葉──だっけ?

 

星「北郷殿の「守る」という天をも貫く程の一途な想いを込めたつもりですが──いかがか?」

 

摩天楼か──

 

真桜「ウチはええと思うで。字も刀身の色合いが入ってるし

   ──天をも貫く強き想い。かっこええやん」

 

守る想い──真桜が鍛え、星が名付けたこの刀は俺の想いを叶えてくれそうな気がした。

 

一刀「そうだな……よし、この刀の名は──」

 

刀の切っ先を空高く掲げ、皆でその名を呼ぶ

 

一刀、星、真桜「─摩天楼」

 

 

 

 

 

 

翌日、詩優との手合わせの日。

何も知らされていない詩優はいきなり呼び出され

自分が何かしてしまったのではないかとビクビクしながらやってきた

……教えてあげたらいいのに。

 

詩優「あ、あの北郷様、私……何かしてしまったのでしょうか……?」

 

そりゃそうだ、華琳を中心に魏の重臣達が勢ぞろいでいるのだから。

ちなみに明花は俺の部屋でぐっすり。

ほら、何か俺がすごい悪い事してる気分になってきた

 

一刀「いや、違うよ。今から行われるのは君の武将への昇進試験みたいなものだよ」

 

詩優「……え?」

 

一瞬自分が何を言われたのかわからず間の抜けた声で聞き返してくるが、すぐに

 

詩優「え、えぇぇぇええぇぇえ!?」

 

いや……そんなに驚く事なのだろうか。

俺なんかいつの間にか武将扱いされてたし。

 

詩優「あ、あのあの……それはどういう──」

 

一刀「えっとつまり、俺と試合をして、華琳の眼鏡に叶ったら昇格──ってことかな」

 

詩優「ほ、北郷様と試合!?そ、そそそそんな!無理です!」

 

首が取れるんじゃないかと思うくらいぶんぶんと横に振る。

この子おもしろいな

 

一刀「大丈夫だって、俺が見ただけでも詩優の力は相当のものだよ」

 

どうやらここの世界の徐晃は強いのに新人という設定になっているようだ。……チート?

 

詩優「そ、それはですね、幼い頃から祖父に鍛えられておりましたので……」

 

一刀「じゃあ俺に君のその力を見せてくれないか?

   強い人と戦ってみたいと思うのは武人として当然なんだろう?

   だからこれが試験だなんて思う必要は無いよ。

   皆が見に来てるのはどうせ良い退屈しのぎを見つけたからだろうし」

 

いやこれは本当。

本来なら俺と華琳だけで行うつもりだったんだけど、華琳があんな場所で言うもんだから

皆が次から次に我も我もといった感じで今の状態が生まれた。

うん、華琳が悪い。

その証拠にほら

 

霞「かずと~!!がんばやでぇ~!!おっとそっちのべっぴんさんもなぁ~!!」

 

……お前なんでこんな時間から酔ってるの?

 

風「お兄さんお兄さん。負けたら馬小屋行きですよ?ちょうど今は繁殖の時期でして──」

 

俺にそれをどうしろと。

 

桂花「あんたの死に様を見れるなんて、これは見逃すわけには行かないわ」

 

勝手に殺さないでくれ。

そもそもお前政務はどうした。

 

稟「か、一刀殿がか弱い女子をその獣のような欲望で無理やり──ふっはああーー!?」

 

風「はいはい稟ちゃんとんとんしましょうねー」

 

朝からすっ飛ばしてますねー稟さん。

さては華琳の閨から朝帰りか。

 

季衣「兄ちゃん頑張れー!!!」

 

流琉「頑張ってください!!兄さま!!!」

 

何ていい子達なんだ……君たちは奴らの毒牙に犯されないようにね。

 

凪「頑張ってください隊長!隊長なら大丈夫です!」

 

真桜「せやで!いつまでも種馬根性ばっかり見せとる場合やないで!」

 

沙和「そうなの!!たまには隊長らしいとこ見せろなのー!」

 

あぁ。君もすばらしい子だね、凪。

二人はあとでちょっと話し合う必要がありそうだ。

 

星「私との秘密の特訓、徒労に終わらない事を祈っていますぞ、一刀殿」

 

何故その表現をチョイスしたのか。

わざと?わざとなの?

 

風「むむ、秘密の特訓とは。これは後でお兄さんにお話を伺う必要がありそうですね」

 

華琳「あら奇遇ね風。私も同じことを思っていたわ」

 

ほらね。

いやまぁ本当に普通の鍛錬していただけなんですけど。

 

星「いやしかし昨夜はあれほど激しくなさったのですから無理はせぬようお願いしますよ」

 

風「何をどう激しくしたのか。後で詳しく伺う必要がありそうですね」

 

華琳「あら奇遇ね風。私も同じことを思っていたわ」

 

ものすごいジト目と殺気の篭った目が向けられている気が無きにしも非ず。

星、君とも少し話し合いの場を設けようと思う

 

ちなみに真剣勝負ということで

その名の通り真剣を使うわけで──あれ?もしかして俺は今生命の危機に瀕しているのでは?

華琳本人は緊張する詩優を見つめて嬉しそうにしているが──

あ、この子は貞操を守りきれるのだろうか

 

詩優「は、はぁ、何と言うか……以前から思っていたのですが、

   北郷様と皆様はなんというか……強い絆のようなものを感じますね」

 

一刀「え?」

 

詩優「警邏の時も思っていました。

   我々のような下っ端の者にもとても優しくて──そんな北郷様を隊の皆も好いております」

 

一刀「そうかな?……そうだといいけど」

 

ちょっと内心嬉しくなりながらも

 

詩優「はい。私にとって、この国の在り方は理想なんです。

   北郷様のその別け隔てない優しさが理想なのです」

 

ほ、褒めごろしか?褒め殺して俺を骨抜きにしようという魂胆か?

 

一刀「と、とりあえずはじめようか。まだ警邏があるんだろ?なら早く済ませよう」

 

詩優「え、あ、はい!よろしくお願いします!」

 

うん、良い感じに緊張も解けてくれたようだ。

これなら大丈夫だろう

 

華琳「秋蘭、お願いできるかしら?」

 

秋蘭「御意」

 

 

 

 

 

 

 

 

秋蘭が皆の居る場所から離れ、こちらに近づいてくる

 

秋蘭「では、これより徐晃対北郷の試合を執り行う、両者、構え!」

 

詩優が少し緊張した面持ちで両刃の薙刀を構える

俺はというと──桜炎を抜刀状態で構える

 

 

 

 

 

秋蘭「──初め!」

 

開始の合図と同時に詩優がかけだした

 

詩優「せあっ!!!」

 

おっと、この子は見た感じパワータイプではない、俺と同じスピードと技で戦うタイプかな。

 

詩優「はぁ!!!」

 

両刃の薙刀を振り回し、突進してくる

 

後ろへ飛び、それを回避するが

 

一刀「ぅお!?」

 

その両刃を活かし、振り下ろした反動でそのまま後ろの刃を叩きつける

全力で後ろへ下がり、回転し迫ってくる詩優を

 

一刀「はっ!!!」

 

詩優「くあッ!?」

 

桜炎で居合い。

回転の勢いを殺し、懐へもぐりこみ踏み込みと同時に掌低。

詩優は体勢を立て直すため、打たれた腹を押さえながら後ろへ飛ぶ

 

詩優「や、やはり速さでは勝てませんね……」

 

一刀「この速さが俺の唯一の武器だからね」

 

詩優「行きます!!せあッ!」

 

こちらへ突進し、助走をつけ回転。

そのまま遠心力を乗せなぎ払い、それを弾くと逆からのなぎ払い

そして薙刀を思い切り叩きつけ、そのまま反動と腕力で宙へ舞い振り下ろす

 

それを全て回避、相手の着地地点へ移動し腹部へ棟での一閃

しかしそこに手ごたえは無く、視界の隅に薙刀を捉え、なんとか刀を地面に突き立て防御

 

今のは危なかった──というか今何したんだ?この子

 

相手の動きを目で追う事ができなかったのは呂布以外では初めてかもしれない

この子も俺と同じタイプなのか……

でも──

 

 

 

 

 

 

 

華琳「なかなか速いわね、あの子」

 

春蘭「はい、北郷よりも若干劣るようですが、そうですね、霞と同等くらいでしょうか」

 

霞「せやな、ウチとええ勝負できそうや。

  でもそれは速さでの話や。春蘭はあの子とやったら負ける思うか?」

 

春蘭「……いや、相手が速い分こちらは動かずにその場で態勢を整えていればいいだけだからな」

 

華琳「そう、では一刀の場合はどう?」

 

春蘭「必ず勝てる──とは言えません」

 

華琳「あら、どうして?」

 

霞「一刀は速い上に相手の闘い方に合わせてくるんや。

  しかもその速さを自分の移動に活かすんやのうて

  踏み込み、一撃、回避行動のみに活かしてるんや。

  一番厄介なのは氣の爆発で一瞬で懐に入ってくるところやな。

  最初から相手が速ければウチらは苦労せん」

 

春蘭「あの徐晃という者のように常に自分の最高速度で動いていれば

   逆に我々はその動きに慣れてしまいますから」

 

華琳「なるほどね」

 

いかに速く動けると言っても所詮は人間。

動きに限界が来る。

常にその速さで動いていれば嫌でも慣れてしまうのだ

それに引き換え一刀はここぞという時にその恐るべき速さが発揮される。

それは闘っている相手にとっては厄介な事この上ない。

速さに緩急をつけられると、いつどのタイミングで踏み込んでくるかわからない。

された方は並みの人間であればパニックになり勝負どころではなくなってしまう。

ましてや霞達は一刀のあの動きを何度も見ている上に「北郷一刀」という人間を知っているから冷静でいられる

初めて彼を目の当たりにし、闘うものは恐怖さえ抱くかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

詩優(おかしい……!闘っている最中なのに──なんで!?)

 

詩優は混乱していた。

なぜならば今、目の前に居るはずの人間を一瞬見失う。

こんな奇妙な体験はしたことがない

 

一刀「ふッ!」

 

詩優「!!!!」

 

全速で横を通り過ぎると同時に抜き打ち。

そのまま逆刃にし渾身の逆胴

 

咄嗟の判断で攻撃を受ける事ができたものの、あまりの剣速に身が強張る

その速さは悪魔の如し、普段の彼からは一切感じる事などない「恐怖」

しかし徐晃も武人として祖父に育てられてきた。

恐怖に屈するような柔な人間ではない

 

詩優「はぁぁぁ!!!!!」

 

自身の持つ最高の速度、最高の一撃を持って応戦する。

頭上で回転させ振り下ろし、身体ごと回転させなぎ払い、その反動で叩き伏せる

 

一刀「くッ……!」

 

詩優のこの猛襲を何とか受ける事ができたものの、もう一度やられたら受けきれるとは思えない

そしてそれは未だ止まず、得物を逆手に持ち、こちらに突進してくる

桜炎を鞘に収め、双振りの刀を両脇に構え、腰を落とし、相手を見据える。

──そして

氣を溜めた双刃が襲い掛かる。

 

 

詩優「きゃッ──!?」

 

一刀「うお!?」

 

詩優はあまりの衝撃に後ろへ弾き飛ばされ、一刀もバランスを崩す

 

な、なんだ!?

 

 

 

 

 

 

春蘭「……?北郷はどうしたのだ?

   あの娘が弾き飛ばされたのは分かるが、なぜあいつまで体勢を崩す?」

 

霞「……もう片方の得物を扱いきれてないんとちゃう?」

 

華琳「そうみたいね、今の驚いた顔を見るに、自分の一撃が予想外のものだったのでしょう」

 

今の一刀の攻撃、もう一方の得物は完全に目では捉えられなかった──

 

星「ふむ、それほどまでに摩天楼は完成されたものだということか」

 

真桜「あたりまえやろ?──といっても隊長が扱いきれん程だとは思わんかったけど」

 

華琳「摩天楼──あれが一刀の新しい得物?」

 

真桜「せや、めっちゃ苦労したんやで?

   あの透き通るような薄紅色と鉄よりも硬い強度、そして何よりもあの軽さを出すんは」

 

稟「確かにあの染み渡るような──とても深みのある色、とても美しいですね」

 

真桜「せやろせやろ!?いやぁ頑張った甲斐があったわぁ」

 

 

 

 

 

 

両者が体勢を立て直すため、一旦間合いを抜ける

 

この刀……まるで手に吸い付いてくるようだけど……なんていうか、抑え切れない。

桜炎も見事な刀だがこちらの方が少し重い、その重さが逆に手に馴染むんだけど。

しかしそれによって刀の振りに若干の誤差が出てしまう

まぁこれは鍛錬で慣れていくしかなさそうだな

 

肩で息をし、驚いた表情でこちらを見ている詩優。

まさか自分のあの攻撃が止められるとは思っていなかったのだろう

 

 

氣を足で爆発させ、一瞬で間合いを詰める

 

詩優「──え?」

 

今まで間合いを抜けていたはずの彼が目と鼻の先に居るのを目視したときにはもう反応できる範疇ではなかった

 

氣の爆発による速度に更に速さを乗せた摩天楼での一閃。

それは彼女の得物を容易く弾き飛ばした

 

 

 

 

秋蘭「勝者、北郷一刀!」

 

 

 

 

 

春蘭「うむ、あの徐晃と言う者もなかなか見事であった」

 

霞「せやな、あれは鍛えたら相当なもんになるで」

 

華琳「そうね……でもあの得物、あの子には合っていない気がするわ」

 

霞「あ、それウチも思っとった。

  あんだけ速く動いとんのにあんな重いもん持っとったら自分の長所殺してまうで」

 

春蘭「そうだな──真桜。あの者の得物を作ってやってはくれないか?」

 

真桜「ん?ええですよ?けど何作るん?」

 

春蘭「そうだな──」

 

 

 

 

 

 

 

詩優「あ──負けちゃいました……」

 

そう言って顔を伏せ、落ち込んでしまう

 

詩優「もう少し対抗できると思っていたのですが……まだまだですね、私」

 

一刀「いや、そんなことは無い。

   君は強いよ、これは確かだ。

   それにどうしても相性ってものがあるからね」

 

この子の闘い方は俺によく似ている。

しかし如何せん得物が重い。

よって俺のほうがどうしても有利になってしまうのだ

 

一刀「んー……詩優はなんであの得物を使ってるの?」

 

詩優「はい、あの得物は私の祖母が使っていたものなんです。

   祖父の剣術とは全く違いますが、祖母の形見のようなものでしたから」

 

一刀「でもそれだと闘い辛くない?」

 

詩優「実を言うと……とても使いづらかったりします」

 

少し困ったように笑う。

ふむ、真桜に頼んでみるか

 

一刀「ま、その辺は追々考えるとして。君の将への昇進だけど──」

 

そういうと彼女は一瞬「は?」みたいな顔をするが、本来の目的を思い出したのか

 

詩優「ハッ!わ、私こんな無様な姿を曹操様に!?あ!?それどころかもう皆さんに!?」

 

ぁぁぁぁ……と項垂れる彼女を可愛いと思ってしまうのはいけないことだろうか。

いやだって可愛いんだもん

まぁそれは置いといて。

これだけ慣れない得物で闘えるのだから華琳も何も文句はないと思う

 

一刀「で、どうだった?華琳」

 

項垂れている彼女はとりあえずそっとしておこう。

 

華琳「そうね、何の問題も無いわ。

   それに彼女の得物の件だけど、

   春蘭が今の戦いを見てぴったりなものを真桜に作らせると言っていたわ」

 

うむ、流石は春蘭。

見ただけでその人に合う武器を思いついてしまうとは

 

一刀「ってことだよ、詩優」

 

詩優「ぁぁぁぁ──え?」

 

華琳「貴女はこれから我が軍の武官として働いてもらうわ、頑張りなさい」

 

詩優「え?え?……え?」

 

一刀「要するに、合格って事。

   よかったね、詩優。おめでとう」

 

華琳「それと、貴女に私の真名を預けましょう。これからは華琳と呼びなさい」

 

詩優「え、ええぇぇぇえええぇえぇええ!?」

 

うん、いつ見てもいい反応だ。

 

詩優「え!あのあの!!でも──」

 

華琳「あら、私の決めた事に何か文句でもあるのかしら?」

 

……素直に褒めてあげればいいのに

 

詩優「い、いえ!わ、私の真名は詩優です!

   よろしくお願いします!皆さんも!よろしくお願いします!」

 

そう言って深々と頭を下げる。

うん、基本的にはすごくいい子なんだ。

ただ過剰に反応してしまうだけで

 

華琳「ふふ……かわいいわね」

 

……そこが好きだから華琳はこうしてわざと弄っているんだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼ごろ、いつものように警邏へ出かける。

今回の組み分けは俺と沙和で回ることになった

街の見回りも一通り終わり、飲茶をしながら一息入れている。

うむ、平常運転。

 

沙和「……」

 

あの沙和が黙っていること意外は。

会話は沙和にとって呼吸のようなもののはず。

言わば生命エネルギー、五大栄養素、染色体、ミトコンドリア。

泳がなければ息ができないマグロのようなもの

 

沙和「隊長から失礼な念を感じるの~」

 

一刀「え?マグロか?」

 

沙和「まぐろ?そんなものどうでもいいの~」

 

あぁそう

 

沙和「……」

 

それにしてもあの沙和が真剣に考え事をしているなんて──はっ!?

まさか何かの兆候か!?大地震!?天変地異!?

 

ガッ!

 

沙和「隊長からとてつもなく失礼な念を感じるの!」

 

ぉ、ぉぉおま、す、脛は効くぜぇ……

 

沙和「──隊長!!」

 

一刀「ぅぉお何だよ!?」

 

バンッ!と机を叩き立ち上がる。

悶絶している最中だったので死ぬほどびっくりした

 

沙和「凪ちゃんはもっとかわいくなれると思うの!!」

 

 

 

…………

 

 

 

一刀「は?」

 

いきなり何を言い出すのだろうか、このマグロちゃんは。

 

沙和「は?じゃないの!!凪ちゃんはもっと可愛くなれると思うの!?」

 

何でちょっと疑問系なんだよ。

 

一刀「い、いや前にも凪を可愛くするための事はしたろ?それにあれ以上可愛くなったら大変だぞ」

 

只でさえ破壊力は核兵器並みだと言うのに更に拡散波動砲を装着させる気か

 

沙和「隊長ってば何年前の話してるの~、女の子は常に新しい可愛さを求めるものなんだよ?」

 

む、確かに凪のイメージチェンジをしたのは3年も前だったな。

いやしかし、あの凪以上の可愛さの凪を公衆の面前に出すなど──

 

あああでも……見たい!沙和の服のセンスは間違いなく俺のどストライクど真ん中どストレート。

まさに男の欲望をすべて満たしてくれている!

 

ぁぁぁ!どうしよう!どうしよう俺!?

 

「やりましょう!隊長!!」

 

一刀「ぅぉお!?な、何!?」

 

漢の俺と紳士の俺が葛藤を繰り広げている中、いきなり後ろから声が響いた

 

「ですから!!!楽進様を可愛くしちゃおう計画です!!!」

 

……いや、そんな計画名ついてないからさ。

つか君たちも何言ってんの。

 

「考えて見てください……退かずの楽進とうたわれたあの方の恥らう乙女の姿を──」

 

そう言って兵士は空を仰ぐ、それに釣られ北郷隊全員が空を仰ぐ

 

所々から「すっげ!!まじすっげ!!!」「うはあたまんねぇ!?」とか聞こえるのはスルーしよう

そしてそんな男の負のオーラに影響され、俺も空を仰ぐ

あの手に吸い付くような玉の肌を惜しげもなく晒す凪。

普段から鍛えられ、しかし柔らかさを失わないあの引き締まった太もも──

 

一刀「──マーベラス……」

 

自分の顔が果てしなくだらしない顔になっているのがわかる。

あ、やべ。つい本音が

 

「きた!!北郷隊長が我らの味方についたぞ!」

 

「ぅぉおきたこれ!!さすがっす隊長これで勝つる!!

 伊達に魏の種馬なんて呼ばれてねぇっす!!」

 

よ~しお前後で覚えとけよこのやろう

 

というかこの異常な士気の高さはなんだ──

もしやこいつら御前訓練のとき写真欲しさに新兵とは思えない動きを見せた奴等か?

人間としては最低だが男として、いや、漢としては最高にかっこいいぜ……

いやしかし冷静になって考えてみろ。

こんな不純な、ましてや男の欲望を満たすために凪のイメージチェンジを図ったと知れれば──

終わりだ……

 

そんな俺の肩にぽんっと手を置かれた。

振り返ると

 

「隊長……死ぬときは皆一緒ですΣd」

 

爽やかな笑顔浮かべてサムズアップしてんじゃねぇよこの野郎。

しかも言っていることは非常にかっこいい。

動機は凄まじく不純だが

 

く……くそぅ!見たい!

俺だって見たいがこんな危ないやつらの前にあんな核兵器をぶち込んでみろ。

何が起こるかわかったもんじゃない。

 

「隊長……!!」

 

また別の場所から呼ばれそちらに振り返る。

そしてまたも俺の肩に手を置く

お前ら隊長隊長呼んでるくせに隊長なんてかけらも思ってないだろう。

 

そんな兵士の目には涙

 

「ずるいっすよ!!隊長ばっかりずるいっす!!」

 

「隊長はあの方の身体の隅から隅まで知っているんだ……」

 

うん、とりあえずこんな往来で真昼間から猥談はやめような。

 

「せめて──せめて私たちにあの方の胸きゅん姿を見せてくれたっていいじゃないですか……!」

 

肩を震わせながらも語るそいつらの目からは血涙のようなものが流れていた

胸きゅんて

 

沙和「くそ虫どもー!!!凪ちゃんの可愛い姿が見たいかー!!!」

 

「さーいえっさー!!!!!!!!!」

 

沙和「だったら黙って沙和についてきやがれなのぉー!!!!!」

 

「さーいえっさー!!!!!!」

 

まるで何かの宗教のような一致団結をかましながらぞろぞろと大行進

 

だからこんな往来で変な掛け声はやめような──って

そんな冷静なツッコミを入れている場合ではない

この青い暴走列車と化したこいつらを止めなくては!

どうやら俺の頭の中で行われていた第一次欲望大戦は紳士の俺が勝利を収めたようだ

 

一刀「ま、まてお前ら!!!そんなことはさせんぞ!この俺が成敗してくれる!」

 

しかしその青い暴走列車の前にはすべての力が無力だということを悟る

 

ば、ばかな。

足がすくんで動けねぇ……

 

そのまま撥ねられ地面に突っ伏する俺。

あぁ、凪──ごめんよ……

 

うつ伏せに倒れていると地響きのような振動が伝わってくる。

 

ん?何だこの地響きは?

 

 

 

凪「隊長!!!!ご無事ですか!?」

 

ぅぉぉ凪……なんて事だ。

ターゲットの君がこんな所に来たら……!

俺を抱きかかえる凪が暴走列車に目を向ける

 

沙和「目標確認!!!全速前進なのー!!!!!」

 

「さーいえっさー!!!!!」

 

そして凪目掛けて欲望の海が流れ出す。

あぁ凪、逃げるんだ……

 

凪「さぁぁぁわぁぁぁぁぁ……」

 

しかし目標とされている本人は周りの空間が歪むほどの何かを発し、

ゴフーッ!と口から白いブレスを吐き出しゆっくりと立ち上がる

そして全身にとんでもない大きさの氣が溜まり始めた

 

沙和「た、大変なの!!全軍退避!!!退避ー!!!!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

ゆっくりと拳を振りかぶり

 

凪「警邏の途中で……それも隊長に何をしてるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

特大の氣弾が沙和+北郷隊へと飛んでいく

 

「我が人生に一片の悔いなし!!!」

 

どこかの世紀末覇者を思わせるセリフを吐き捨て、皆が姿を消した。

まだ何もしてないのに悔いはないんだね

 

ていうか……あれ?もしかして蒸発しちゃった……?

 

あわわわわわわわ……

 

 

 

その日一日帰ってこなかった沙和&北郷隊は次の日奇跡の生還を果たし

凪が破壊した民家を半日で修理させられるという過酷な任務を言い渡されていた

 

 

 

 

 

夜、いつものように庭へ鍛錬をしにいく途中

……明花?あんなところでなにしてるんだ?

一人、暗い庭でポツりと佇んでいる。

両手を合わせ、見つめている

その両手は何かを持っているのだろうか、少し中に空洞ができるように握られている

しばらくして明花が両手を広げる。

 

 

 

すると中から淡い光が漏れた──え?

ほんの数秒、ほんのわずかなものだったが確かに明花の手から光が漏れた

 

氣……じゃないよな?でも何だろう。

その不思議な光景は不自然ではないように思えた。

 

明花「……あ、とうさま」

 

その光景に見惚れているとこちらに気づいた明花がてててっと走りより腰に抱きつく

 

頭をうりうりと撫で回しながら

 

一刀「明花は今何をしてたんだい?」

 

明花「んー?んー……おまじない」

 

一刀「おまじない?」

 

明花「うん、皆が幸せで居られるおまじない、お母さんに教えてもらったの」

 

お母さんに──氣ではないようだったけどまぁ俺の氣も氣ではないみたいな事言われたし……

 

一刀「そっか──そうだね、ずっと幸せに暮らせたらいいね」

 

明花「うん、ずっと幸せ。

   お母さんも毎日言ってた」

 

無邪気に笑う明花。

胸がチクりと痛む。

この子はなんて強いのだろう

 

一刀「あぁ。ずっと幸せだ」

 

この子はこれから幸せになる。

幸せにならなければならない。

これ以上の苦しみを与えるなら、俺はそれが神だろうと許さない

腰に抱きついている明花を先に寝ているようにと促し、光が消えていったほうを見る

まだ花が咲く季節ではない。

木々は緑に覆われている、しかし

明花の放った光が触れた枝には、綺麗な花が咲いていた

 

 

 

 

 

星「おや北郷殿、今日も鍛錬ですか?精が出ますな」

 

待ってましたと言わんばかりに星が竜牙を抱え、立っている

 

一刀「まぁね、今日もお願いするよ。星」

 

星「ふむ、あの子の為──ですか?」

 

先ほどの様子を見ていたのか、何かを思案するような仕草をし、俺に問う

 

一刀「……単なる俺の我が儘だよ」

 

そう、皆を守りたいという俺のわがまま、自己満足かもしれない。

それでも──

 

星「ふふ。やはりは私の見込んだお方だ」

 

一刀「我が儘なのに?」

 

星「我が儘だからこそ。です」

 

両者が得物を構える

 

星「──では行きますぞ、一刀殿」

 

一刀「あぁ、よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものように政務をこなしていたある昼過ぎ

……?何の音かしら?庭のほうからするようだけど

一通り目を通したので、休憩がてら様子を見に行く事にする。

 

霞「ここや!!」

 

一刀「甘い!!」

 

……?霞と一刀が何かやっているようだけど……

二人の掛け声から何か勝負をしているのは分かる。

しかし聞きなれない音が響いている

庭に出る。……あれはなに?

 

霞「これなら──どや!!!」 

 

一刀「ぬ!く……まだまだぁ!!」

 

庭で広がる光景はとても奇妙なものだった。

二人の武将が何か小さめのものを持って何かを打ち合っている

 

一刀「勝機!」

 

スパン!!!

 

一刀「ぶるぁぁぁぁぼぅ!!!!」(ブラボー☆)

 

霞「ぁああ!くっそー!もっかいや一刀!」

 

なにやら一刀が意味の分からない事を叫び、それを打ち落とした。

 

華琳「……二人とも、何をしているの?」

 

脳を全力で回転させ理解しようとしたが無理だったので聞いてみる

 

一刀「ん?おぉ華琳か。

   いやぁやっぱ運動っていいよね、いい汗かいたぁ」

 

霞「あほぉ!まだ勝負ついとらんやろ?勝ち逃げはゆるさへんで!」

 

一刀「はいはい。あぁこれね。

   俺の世界での運動だよ。ちゃんと大会もあるんだぞ?」

 

霞「か~ず~とぉ~!!!!はよせんかい!!」

 

どうやら霞は負けているためか機嫌が悪い。

どんな事でも勝負と名がつけば負けたくないようだ

 

それにしても──

 

華琳「一刀、あなたの世界の運動はこんなに激しいものなの?」

 

正直、あの飛び交っている物体を受けたら無事で居られる気がしない

 

一刀「ははっ、本当はもっと安全なんだけどね。

   いかんせん霞の運動神経がそれを許してくれなくて──」

 

それについていける貴方も普通ではないと思うのだけれど。

事の発端は二人で昼食を食べに行くとき、霞の一言で始まった

 

霞「なぁ一刀、勝負して負けたほうが昼食おごらへん?」

 

一刀「お、言ったな?よし、受けてたとう。何にする?」

 

霞「ん~、一刀が決めてや」

 

一刀「俺が決めていいのか。ん~──じゃあバドミントンで」

 

霞「ばど──何?」

 

一刀「まぁあとで説明するからさ。とりあえずは材料を集めないと──」

 

材料を集めるために使った金が昼食代を大幅に超えているのは気づいていない二人

そして今に至る、ということらしい

 

華琳「……で、昼食は食べたの?」

 

一刀「それがまだなんだよね、もう俺がおごるって言ってるのに霞が納得してくれなくて」

 

霞はもう昼食はどうでもいいらしく、どうしてもこの勝負に勝ちたいようだった

 

霞「かぁぁぁずぅぅぅぅとぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

一刀「じ、じゃあもう行くから!またな!」

 

そう言って何やら線で囲った中に入り構える

 

霞「いっくでぇ~!!!せや!!」

 

バシン!!

 

一刀「ほっ!」

 

バシン!!

 

さすがは武将。

両者とも動きが尋常ではない

 

バシン!!バン!!!パシン!!!パン!!!パン!パン!パン!

 

段々と速度が上がっていく、もう弾いているものは見えない

 

パパパパパパパパパン!!!!!!

 

……よく打ち返せるわね。

終わりそうにないので残っている政務を片付けることにした

 

 

 

 

 

 

 

そして夜

 

霞「でえぇぇぇい!!!」

 

一刀「ふんぬ!!!!」

 

鉄と鉄がぶつかり合う轟音が響いているので見に来てみれば。

まだやっていたの……?それに内容が変わってる。

一応説明を。

これは「ばどみんとん」とか言うものの音ではなく、得物が重なり合う音

なぜここまで発展したのかといえば、どう頑張っても一刀から点を取れない霞が

 

「ウチは初心者やねんで!元々知っとった一刀はせこいんとちゃうか!?」

 

という聞くに堪えない言い訳の結果試合をすることになったらしい。

 

霞「はぁ、はぁ……はっ、膝がわらっとるで?一刀!」

 

一刀「ぜぇ、ぜぇ……いやいやなんの。まだまだ余裕ですとも」

 

……何をここまで意地になっているのかしら

 

霞「もっぺん言っとくで、これで負けたほうは夕飯全部献上やで」

 

一刀「わかってるって、霞こそ負けたからって自分の発言を覆すなよな」

 

霞「あったりまえや!」

 

そしてまた得物を噛み合わせる二人。

……戦いこそすごいもののその動機が果てしなく残念。

 

一刀「絶対!!!昼食分夜飯も食ってやる!!」

 

結局昼は何も食べていないのね

 

霞「こっちのセリフや!絶対負けへん!!」

 

食べ物の恨みは恐ろしいって言うけど……これはどうなのかしら

 

華琳「いつまでやっているの?」

 

霞「もち!!この勝負がつくまでや!!」

 

一刀「飯ぃぃぃぃぃ!!!」

 

あまりの空腹のためかよりいっそう戦いが激しくなる

 

華琳「まぁどうでもいいけど、もう夕飯は無いわよ。

   貴方達が遅いから季衣や春蘭が食べてしまったわ」

 

一刀、霞「……は?」

 

得物を重ね合わせた状態で信じられないものを見たという表情でこちらを見る

 

華琳「貴方達も明日は朝から仕事なのだから早く寝なさい。じゃあ私は行くから」

 

そう言ってすたすたと城内へ戻っていく、庭にはこれまでの轟音が嘘のような静けさが漂う

 

…………

……

 

一刀「腹、減ったね」

 

霞「せやなぁ……」

 

二人は何かを悟ったように膝を抱え、空を仰いだ。

そこは満点の星空、まるで心が洗われるようだった

 

 


 
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