No.511438

SAO~菖蒲の瞳~ 第十三話

bambambooさん

十三話目更新です。

今回はずっとアルゴのターンです。よってシリカはでません。

《プログレッシブ》幕間のヒゲの理由の導入です。

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2012-11-23 18:19:55 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1446   閲覧ユーザー数:1373

第十三話 ~ 鼠の依頼 ~

 

 

【アヤメside】

 

宿屋にチェックインしてからシリカたちとたっぷり二時間くらいお喋りを楽しんだあと、俺は自分に割り当てられた部屋に入った。そして直ぐにインナー以外の装備を解除して寝間着に使っているジャージに着替えた。

 

すると、さっきまで装備していた防具や短剣が光の粒となって消え去り、代わりに自分にしては大きいサイズの濃紺のジャージが現れた。少し、動きづらい。

 

「自分に合うサイズにすればよかったじゃないか」と思うだろうが、このサイズしか売って無かったんだから仕方がないだろ。

 

「それにしてもシリカ、やたらとアルゴとの馴れ染めについて聞いてきたな」

 

袖とズボンの裾を適度な長さに調節しながら、ふとそんな事を思った。

 

なんだが鬼気迫るものがあったな……何故だ?

 

少しの間理由を考えてみたが、判断材料が少なすぎるので全く分からなかった。

 

俺は部屋のベッドに腰掛け、今日一日の緊張を解きほぐすように息をついた。

 

すると、疲れがドッときた。

 

第一層迷宮区を二十階まで登り、ボスを攻略してからほぼ休まず第二層の未知のフィールドをウルバスまで踏破。そして最後にシリカの尋……質問責め。改めて思い返すと、なかなかのハードワークだ。

 

思っていた以上に疲れが溜まっていたらしい。

 

「それにしても、こんな路地裏に宿屋があるなんてな。……アルゴのヤツ、どんだけ事細かに調べてるんだよ」

 

キリトに案内された宿屋は、ウルバスの路地裏の奥の奥にひっそりと佇む小さな建物だった。

 

到着するまでの間、シリカやアスナが不安がっていたのは言うまでもない。

 

俺はベッドに横になり、ウィンドウを引っ張り出してアイテム欄を開き、流し見るようにスクロールさせた。

 

「……そろそろ整理だな」

 

手をベッドに置き、溜め息をつくように呟いた。

 

アイテム総重量の限界が近付いてきたのだ。

 

この世界では、全てのアイテムにそれぞれ《重さ》が設定してあり、その合計値が各プレイヤーの運べる限界値を越えると、どんなアイテムだろうと持ち運ぶことは出来ない仕様になっている。

 

つまり、このままでは、明日以降の攻略で入手出来るアイテムを手に入れることが出来ないのだ。

 

アイテム蒐集癖のある俺としては、これはかなりキツいこと。

 

しかし、それと同時に、アイテム欄に空きを作るためにアイテムを売ったり捨てたりするのも、俺にとって同じくらい辛いことだった。

 

「……はあ……」

 

俺は一度、深い深い溜め息をついてから売却するアイテムに目星を付けることにした。

 

作業中、何度も未練がましく溜め息をついた。

 

こんな姿、個人的尊厳として皆に見せられないな。

 

「こんなもんだな」

 

その後、十五分ほど作業して(そのうちの十四分は選ぶか否かの葛藤)ある程度の目安が付いた。

 

「……水でも飲んでくるか」

 

この宿屋はいくつかのドリンクを有料で提供していて、唯一水だけが無料で提供されているようなのだ。

 

部屋を出て、右に向かって進んでいく。俺の部屋は一番奥から二番目の場所にあるので、ロビーまで少し遠い。

 

「そう言えば、一番奥の部屋は誰が使ってるんだろうな?」

 

俺たちが宿屋にチェックインしたとき、部屋が一部屋埋まっていたのを思い出した。

 

こんな裏の裏の裏にあるような場所に建っている宿屋を知っているヤツなんだから、おそらく《ベーター》なんだろうな、と当たりを付ける。

 

念のため言うと、《ベーター》とはベータテストプレイヤーの略称だ。

 

「意外にも、アルゴだったりしてな」

 

言ってみて、まさかと頭を振る。

 

このあと三秒後、俺がロビーに入る角を曲がるとき、俺の予想は見事に当たることになった。

 

ただし、より幸運な形でだ。

 

「おっと…!?」

 

「きゃ!?」

 

俺が角を曲がった瞬間、どんっ、と誰かとぶつかった。声から察して相手は女性だ。

 

「すみません、大丈夫でしたか?」

 

体格に余り差が無いからか、女性は倒れたり尻餅をついたりすることは無かったが、余計な考え事をしながら歩いていた俺が悪いので、直ぐに頭を下げた。

 

「……大丈夫。こっちこそ悪かったよ。取り敢えず、頭を上げて?」

 

一応、許しを貰った俺は言われた通り頭を上げた。

 

……それにしても、どこかで聞いたことがあるような無いような……。

 

そんな疑問を抱きながらぶつかった女性の顔を見て、俺は一瞬ラグった。

 

それは相手も同じだったようで、呆然と俺の顔を見つめていた。心なしか、頬が引きつっているようにも見える。

 

俺は、目の前の女性の金褐色の巻き毛に見覚えがあった。

 

と言うか、第一層では大変お世話になった恩人だったりするので、忘れるはずもなかった。

 

いつもの地味なレザー装備の変わりにゆったりとしたシンプルな薄緑色のTシャツを着てるし、目深に被ったフードも無いし、チャームポイントとも言える三本ヒゲも無かったが、確かに彼女だった。

 

「アルゴか……!?」

 

女性は少しビクッと反応したあと、諦めたかのように呟いた。

 

「……ぐ、偶然だナ、アヤ吉」

 

 

何とも言えない沈黙の中、俺とアルゴはロビーのテーブルに向かい合って座っていた。

 

ヒゲはもう既に描かれている。

 

アルゴがヒゲを描き終わったとき、俺が「ソレ、なんでわざわざ描いてるんだ?」と尋ねてみたら、「その情報は十万コルダヨ」といつもの調子に戻って返してきた。

 

「そう言えば、アヤ吉はどうやってココを見つけたんだ?」

 

沈黙が嫌になってきたのか、アルゴが口を開いた。

 

「キリトに案内してもらった。因みに、キリトもココに泊まってる」

 

「キー坊もいるのか……」

 

俺が質問に答えると、アルゴは思いっきり嫌そうな顔をした。

 

これは、キリトのコトが《嫌い》というコトではなく、《今は鉢合わせたくない》というコトだろう。

 

「これじゃ、おちおち風呂にも行けないじゃないカ」

 

この宿屋の風呂は共有性だったりする。それが今回の幸運(アルゴからしたら失敗)の原因だ。

 

「そんなにヒゲの無い顔を見せたくないのか?」

 

「百コル」

 

アルゴは右手を、手の平を上に向けてこちらに差し出してきた。

 

「いや、さすがにソレはぼったくりだろ」

 

「冗談ダ」

 

俺が頬杖をついて呆れた目を向けると、彼女はケタケタと笑いながら差し出した手を引っ込めた。

 

「オイラのおヒゲは《鼠》の象徴だからネ。あんまり人に素顔は見せたくないナ」

 

「そうか」

 

となると、俺はアルゴの知られたくない面を事故とは言え知ってしまったわけか……。

 

「……すまなかった」

 

「シンシだネ~」

 

からかうような口調でアルゴは言った。

 

「明日にはここを出るから安心しろ。もっと大通りに近い方が、何かと楽だからな」

 

「でもまァ見られちゃったのはオイラの不注意もあるカラ、そんなに気にしな―――」

 

と、言い掛けたところで何かが《ビビビッ》と来たのか、アルゴはいかにも《鼠》といった感じのいやらしい笑みを作った。

 

「―――オイラは知られたくない乙女の秘密を知られたんダ。見返りを要求するヨ」

 

ニヤニヤと笑いながら言った。

 

「……乙女?」

 

「慰謝料要求するヨ?」

 

「コレはキリトの役だったな……」

 

「ダナ」

 

悪ふざけは置いといて、物凄い嫌な予感がする。承諾すれば何を要求されるか分かったもんじゃないな、コレは。

 

「拒否権は?」

 

念のため聞いてみた。

 

「ある」

 

「あるのか?」

 

「まあ使ったら、アヤ吉に売るときだけ倍にするケド」

 

要求じゃなくて脅迫だった。しかも、《二倍》と言ってない辺りがさらに恐ろしい。

 

「端から選択肢ゼロかよ……」

 

左手を額に当てて、溜め息をつきながら言った。

 

「ジャ、了承でコトでいいんだナ?」

 

「……了解」

 

もう《鼠》から《悪魔》に改めろよ、と心の中だけで呟く。

 

 

「―――で、俺は何をすればいいんだ?」

 

不承不承だが受け入れてしまったコト。俺は自分の私情を胸の奥深くに仕舞い込んでアルゴに尋ねた。

 

「アヤ吉は真面目だネェ。そーゆートコ嫌いじゃないヨ」

 

コケティッシュな流し目を俺に向けながらそう言った。

 

なんだか背中がむず痒い。

 

「そういう冗談はいいから」

 

「ン~、冗談でもないんだけどナ。……アヤ吉にして貰いたいことは人払いダヨ」

 

「人払い?」

 

アルゴは知っての通り情報屋だ。しかも、どんな情報だって売る。その最たるものが《誰がどんな情報を買ったという情報》を売る点だろう。言いかえると《プライベート》を売っている様なモノだ。

 

そんな訳あって、情報を売って逆恨みを買うコトが結構あるらしい。(byキリト)

 

「誰の逆恨みを買ったんだ?」

 

俺が「懲りないなあ」といった目でアルゴを見ると、アルゴは首を横に振った。

 

「今回はそうじゃないヨ」

 

「じゃあ、どうなんだ?」

 

「オイラが《売らない》って言ってる情報をしつこく欲しがってくるヤツらが居るんダ。アヤ吉にはソイツらを追い返すか諦めさせて欲しいんだヨ」

 

「アルゴ、ちょっと待て、今何て言った?」

 

今明らかにアルゴらしくないことを言ったぞ?

 

「ン? 《追い返すか諦めさせて欲しい》ってトコカ?」

 

「一番最初」

 

「アヤ吉、こういうのには様式美があってダナ……」

 

「いいから」

 

「そーゆートコは嫌いだヨ……。《オイラが売らないって言ってる》のトコダナ?」

 

「なん…だと…!?」

 

アルゴが《売らない》だと!?

 

「……熱でもあるのか?」

 

「失礼ダナ」

 

「いや、でも……やっぱりなんでもない……」

 

自制心を強く持って気持ちを落ち着ける。危うく脱線するところだった。

 

そうだな、天地がひっくり返るの確率も、2036年にアポフィスが地球に衝突する確率もゼロじゃないんだからな。アルゴが《売らない》って言うのもあり得るよな、うん。

 

「すまん、話を戻すな。どんなヤツらなんだ?」

 

「全身灰色の布装備。頭を同じ色のバンダナとマスクで覆って、小型のシミターを帯びてる男二人ダ」

 

言われた情報を元に、頭の中で人相を作り上げていく。

 

「何というか、忍者みたいだな」

 

「オオ! アヤ吉それ正解! ヤツらはベータテストの時に《風魔忍軍》ってギルド組んでたんダ。敏捷値振りだからオイラもなかなか捲けないんダヨナ~コレガ……」

 

その風魔忍軍との追いかけっこ思い出しているのか、疲れたように首を振りながら言った。

 

こいつはこいつでいろいろ苦労してるんだな……。

 

「了解。俺はソイツらを追い返せばいいんだな?」

 

「そーゆーコト」

 

思ったよりも普通の内容で内心少しホッとした。まあ、それと反比例するような面倒臭い内容だが。

 

「じゃ、どうやって追い返すかだけど……」

 

「まあまあ、それはまた明日にしようカ。もう夜も遅いしナ」

 

「……そう言うなら」

 

「ジャ、明日の朝五時に出発ナ」

 

それだけ言い残して、アルゴは欠伸をしながら自分の部屋へと帰って行った。

 

「はあ……面倒事に巻き込まれたナ……」

 

口調が移った。

 


 
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