No.510521 IS/3th Kind Of Cybertronian 第十一話「Scissor Hands-2」ジガーさん 2012-11-21 00:35:16 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:2623 閲覧ユーザー数:2472 |
「お久しぶりです、教官」
険しい顔で一郎を睨んでいたラウラは、千冬に目を移すと一転、笑顔を見せた。
人形のように美しい少女だった。戦いに携わる者には見えないほどに。
一郎は千冬に尋ねた。
「じゃあ織斑さん。この人が?」
千冬が頷く。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長だ」
一郎は驚きとともに、改めてラウラを見た。
見たところ、彼女の年齢は十代も前半だろう。
各種センサーを使えばもっと正確にわかるが、それはさすがに失礼に当たる。
ドイツにやってくるまでの間、一郎が飛行機の中で観ていた戦争映画では、二十三歳の男が激しい訓練に耐えかねて激しく嘔吐していた。
よほど戦況が悪く、切羽詰まっているのでなければ、兵士とはじっくり訓練を重ね、育ててゆくものだ。
ラウラは明らかに若い、どころか幼過ぎる。
彼女がいるべき場所は、同じ年代の少年少女がいる学校のはずだ。
ISに適正というものがあるにしても、しかし………
一郎がそんなことを考えていると、ラウラが威圧的な足取りで、彼の前に立った。
擬態している時の一郎は千冬よりも背が低いが、ラウラはさらに低い。
赤い目で見つめられて、一郎は照れながら挨拶した。
少女の態度は明らかに友好的なものではないが、とにかく話してみなければ始まらない。
「えっと……田中一郎、サンダーソードです。よろしくお願いします、ボーデヴィッヒさん」
しかし、「よろしく」も「こちらこそ」も返って来なかった。
その代わりとして、短い動作から繰り出される拳が一郎の顔面を襲った。
「わっ」
一郎は首を傾け、パンチを避けた。
直撃したところで痛くも痒くもないが、彼女が手を痛めるかもしれない。
ラウラの顔が怒りに歪む。
「教官になれなれしくするな、機械の化け物め!」
外側から右の脇腹を狙う回し蹴り。
軍人で隊長というだけあって、鋭さがある。
一郎は後ろに下がって回避した。
さらに襲いかかろうとするラウラを、横合いから千冬が制止する。
「よさんか馬鹿者! いったい、どういうつもりだ!?」
ラウラが構えを解く。
それでも意識は半分、一郎に向いていて、攻撃の意思を緩めてはいない。
「教官。なぜあなたが、こんな奴と組まなければならないのです?」
ラウラは吐き捨てるように言った。
どうやら、千冬は彼女に過剰なまでに慕われているようだ。崇拝と言い換えてもいい。
「私は、彼のことを信頼している。それに見合うだけの実力もある。それだけだ」
千冬は断固とした口調で返答した。
だが、ラウラはそれに納得しなかった。
眉間に皺を寄せ、一郎に向かって拳銃のように指を突きける。
「あなたは、この男に騙されているのです! 教官と共に戦うに相応しいのは、この私です! こんな得体の知れない怪物……」
さっきからなんて言い草だ。
今まで、もっと酷い悪口を言われたことがあるにしても。
一郎はちょっと悲しくなった。
とはいえ、疑われるのは仕方がないし、今言い返しても火に油を注ぐだけだ。
「それ以上の暴言を許すつもりはないぞ、ラウラ。一郎との協力は、国連から命じられているはずだ。少佐という身分で、勝手なわがままが通じるとは思ってはいないだろう?」
千冬の声には、苛立ちが多分に含まれている。
気付けば、他の『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊員たちが足を止め、この口論を遠巻きに見守っていた。
ぎり、とラウラが奥歯を噛み締める。
拳を固く握り締め、一郎に向き直った。
赤い右目は、それが炎に包まれているのかと見紛うほど、激しい怒気を纏っていた。
この後の展開が予想できた一郎は、建物から離れ、人気の薄い位置に移動した。
制止の言葉を投げるまでもなく、ラウラが動いた。
「ならば、実力で示すまで!」
ラウラの右足から、ダークエネルゴンのエネルギーが発せられるのを、一郎は感知した。ISを起動させたのだ。
少女の細い手足が、黒い装甲に覆われてゆく。
瞬く間に形成されたのは、悪魔めいた鎧だ。
巨大なグリーブ。鋭い鉤爪を備えたガントレット。
両腰には剣を思わせる形状のリアアーマー。
頭部には、角のようなアンテナが装着されている。
両肩に寄り添うように大仰なアンロック・ユニットが浮かび、特に右のパーツには、直線で構成された大砲が付けられている。
『シュヴァルツェア・レーゲン』。
ドイツで研究、開発されていた第三世代のISだ。
つい先日完成したと聞いていたが、彼女に与えられていたとは。
「おやめください、隊長! そんなことをしては……」
「いい加減にしろラウラ! ISを引っ込めろ!」
もはや、千冬とクラリッサの声も、ラウラには届いていなかった。
「貴様が無様に負ける姿を見れば、教官も目を覚ましてくださるだろう!」
『シュヴァルツェア・レーゲン』の装甲から、黒いエネルギーのワイヤーで繋がれたブレードが射出される。
その数、六基。
まず、二基のブレードが一郎を襲う。
体を開いてかわすと、間隙なく別の二基が顔と胸を狙ってくる。
と、同時に最初の二基が足首に巻きつこうとしていたので、身を沈め、後方に跳んで回避。
足が地面を離れたのを好機としたか、ラウラが最後の二基を繰り出した。
だが、一郎はそれを読んでいた。空中で後ろに仰け反り、ブレードをやり過ごす。
軽業師のように両手で着地。体勢を立て直しつつ、一郎は考えた。
(どう対処するべきか)
攻撃を回避しながら研究所から離れることで、余人をこの騒動に巻き込まない努力はしている。
しかし、だからといってこのまま鬼ごっこを続けるわけにもいかなかった。
ラウラが右肩のレールカノンなんかを撃ち始めたら、流れ弾がどこへ飛ぶか分からない。
もし、善良な一般市民がこの近くを散歩していて、彼もしくか彼女に当たったらと思うと、それだけで腹を切りたくなる。
それに、仲間同士の戦いは周囲に不安を与え、士気を下げるだけだ。
まあ、ラウラとしては、敵よりも始末したい相手だと考えているようだが。
「変身するがいい! そのままの貴様を倒しても、私の力は証明されない!」
ワイヤーブレードを巻き取りながら、ラウラが飛びかかってくる。
手は手刀の形。それに沿う様にして、手首から肘にかけて輝くヒレのような武器が展開している。
プラズマブレードだ。接近戦で確実に仕留めることにしたらしい。人間の姿の状態で切られたら、少し痛そうだ。
一郎はラウラに語りかけた。
「僕は、あなたと戦いに来たんじゃない。お願いします、武器を収めてください!」
「はっ、臆病者め。だったらそのまま切り刻まれろ!」
一郎が抵抗して来ないのを、ラウラは弱気と受け取ったようだ。
旧ディセプティコン軍団に近い考え方だ、と一郎は口の中に苦みを覚えた。
トランスフォームして彼女を叩きのめすのは、そう難しいことではないが………
「それ以上は許さない。そう言った筈だぞ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
今まさに、一郎に向けてプラズマブレードを振り翳さんとしたラウラの前に、『八咫烏』を纏った千冬が立ちはだかった。
武器は出していないが、使う用意はできている、という気迫が全身に漲っていた。
「教官……!」
ラウラの人形めいて端正な顔が、怒りと困惑で歪む。
長い逡巡の後、絶対に自分に有利な展開にならないと悟ったラウラは、腕を下ろし、ISを解除した。
くるりと背を向け、背中越しに一郎に言い放つ。
「ならば、私だけでファンダメンツとやらを倒し、貴様など不必要と証明してやる! 行くぞ、クラリッサ!」
ラウラは、研究所の敷地に停めてあったトラックのコンテナに乗り込んだ。軍用ではなく、運送会社が使うような一般的な物だ。
クラリッサは、とてつもなく申し訳なさそうな顔で頭を下げると、運転席に乗った。
トラックがマフラーから排気ガスを吐き出しながら発進し、見る見る内に遠ざかってゆく。
一郎は肩の力を抜いた。
とりあえず、仲間同士で火器を撃ち合う事態にはならずに済んだ。
「織斑さん、止めてくれてありがとう……織斑さん?」
一郎が覗き込んだ千冬の横顔は、今にも泣き出しそうだった。
昼なお薄暗い森の中を、音もなく、影もなく……姿さえなく、動くものがあった。
ファンダメンツのプレダコンメンバー、忍者クリープサイスだ。
光学迷彩で緑色の体表を覆っているため、肉眼でその姿を捉えることは誰にもできない。
カマキリをスキャンしている彼は、細身の体を節足で運びながら、赤い複眼であちこちを睨みつけていた。
彼が不快なる上司から与えられた任務は、ISコアの回収だ。
簡単な任務だった。
真正面から研究所に押し入って、たくさん壊してたくさん殺し、悠々と二つのISコアを持ち帰った。
しかし、彼に言わせれば………
(簡単過ぎて、面白くもなんともねえ)
サヴェッジファングは、順調に事が進めばそれで満足だろう。
しかし、クリープサイスは違った。
もともと、彼はサヴェッジファングの掲げる、ディセプティコンとプレダコンの栄光復活には、それほど興味を持っていない。
彼が興味を引かれたのは、好き勝手に暴れられる場所を提供する、という誘い文句であり、暴れるついでにリーダーの頼み事を聞いてやればいい、と思っていた。
実際のところ、他のプレダコンのほとんども、同じような考えていた。自分の欲望を満たすことが最優先だ。
であるから、仕事があまりにうまくいき過ぎると、クリープサイスとしては不満を感じる結果となる。
人間は、引き裂く瞬間良い鳴き声を上げてくれるし、命乞いの仕方も実に面白い。
しかし、その反面貧弱で、軽く撫でただけで死んでしまう。
彼らの持つ最大の兵器であるISも、遊び相手として優れているとは言えなかった。
弱い者をなぶるのは大好きだが、もっと手応えのある抵抗をしてくれなければ、地球に来た甲斐がない。
なので、クリープサイスはやり方を変えた。
ある日突然襲うのではなく、猶予を与えることにしたのだ。
道を通る車を無差別に攻撃し、人間達に怪物の噂を広めさせた。
この地球にやってきたマクシマル・サンダーソードによって、プレダコンの存在は軍の上層部に認識されている。
容量の少ないのろまな脳みそでも、少し考えれば、怪物の正体を察するだろう。
それがクリープサイスの狙いだった。
警戒し、対策を練り、準備を整えた人間達なら、叩き潰す時の手応えはそれなりに増すはずだ。
もし見込み違いなら………また、何かいい考えが浮かんでくるのを待てばいい。
クリープサイスは逆三角形の頭を空に向けた。
触覚がひくひくと動く。
新しい車が接近してきている。
このところ、噂が広まり過ぎて、この辺りを通る車はめっきりと減っていた。
クリープサイスは素早く移動し、木と木の間から顔を出して、道路の方を見た。
一台のトラックが、律儀に法定速度を守りながら走ってくる。
何か不審な気配を感じ、クリープサイスはトラックの内部をスキャンした。
乗っているのは……二人。
運転席に一人、コンテナの中に一人。
両方とも女だった。
さらに……よく見てみると、運転席にいるのはクラリッサ・ハルフォーフ。
軍人である。
クリープサイスはキキキ、と笑った。
(なるほどねぇ。つまり、準備ができたというわけか)
ならば、受けて立とうではないか。
クリープサイスは光学迷彩を解除し、空中に飛び上がった。
「クリープサイス、テラライズ!」
巨大カマキリの長い腹が、二つに分かれ、伸び、足に変形する。
逆三角形の頭部が下降し、股間に移動。反対に、四つの節足が生えた部位が上へ移動し、胸となる。
巨大な鎌は内側に折り畳まれ、手首が出現する。
両肩の間から、顔の上半分がクリアブルーのバイザーで守られた頭部が迫り出した。その奥には、赤い邪悪な目が輝く。
三日月の形に曲げられた口は、誰が見ても、そこから悪意以外のものが吐き出されるところを想像することはできないだろう。
背中には、薄い二枚の羽根がマントのように装備されている。
忍者の称号にふさわしく、しなやかな細身のロボットモードに変身したクリープサイスは、走行中のトラックの前に降り立った。
トラックが金切り声を上げて急停止する。
フロントガラスの向こうで、女が驚愕に目を見開いていた。
人間を驚かせるのは何度やっても楽しい。
「どうした、俺を待っていたんだろう? 早く降りてこい」
クリープサイスは挑発的に手招きした。
次の瞬間、トラックのコンテナの屋根に穴が開き、中から黒いISを纏った少女が飛び出した。
『シュヴァルツェア・レーゲン』と、その操縦者ラウラ・ボーデヴィッヒだ。
「お前がファンダメンツだな。その首を教官への土産としよう」
ラウラは眼帯を毟り取り、その辺に放り捨てた。露出した左目は、金色に輝いていた。
その様子が、あまりにも自信に満ち溢れていたので……クリープサイスは思わず吹き出してしまった。
その態度が、果たして何時まで続くか。
トラックの上空から生意気にも見下ろしてくる少女に向けて言い放つ。
「俺はクリープサイスだ。お前が、その口ほどにできる奴だといいがな、猿の出来損ないめ」
カマキリのプレダコンは、両腕を再び巨大な鎌に変え、構えた。
「………私が悪いんだ」
研究所のミーティングルーム。
僅かに錆びの浮いたパイプ椅子に腰かけた千冬が、懺悔のように言葉を吐き出した。
じっと耳を傾ける一郎は、さしずめ神父だろうか。
ラウラ・ボーデヴィッヒは、生まれるその前から存在理由を決められていた。
いかなる武器も、敵に与える効果の度合いは、使い手の性能によってまるで違う。
人口的に合成された遺伝子を用いて、母体の影響を受けないように機械の子宮によって生まれる人造人間。
それに、戦闘に関するあらゆる知識・技能を入力することで、どんな兵器も自在に操る人間兵器を作り出す。
一般的な人間社会では受け入れがたい、生命の倫理を一切無視した計画を、ドイツ軍は実行した。
最初に生み出された人造人間の性別は、女性だった。
これは、今後考えられる人体改造による負担を考慮し、肉体的苦痛の耐性が強い女性が適していると判断されたからだ。
こうして、遺伝子強化試験体C‐〇〇三七―――ラウラ・ボーデヴィッヒはこの世に生を受けた。
五歳になった少女は、ぬいぐるみを使ったおままごとの前に、手榴弾の使い方を教え込まれた。
アルビノ化や、発育の不調などの問題はあったものの、ラウラは格闘技や火器の使用法、戦術・戦略の知識を、高いレベルで習得し、瞬く間に部隊のトップに立った。
研究チームや軍上層部も、彼女の性能にはとても満足していた。
ラウラ自身、将来的に最強の兵士に成り得る自分を誇りに思っていた。
それからしばらくして、ISが登場するまでは。
「『シュヴァルツェ・ハーゼ』がIS専門部隊に転換する際……さっきお前に話した、隊員すべてにナノマシン移植手術が施された。『ヴォーダン・オージェ』と呼ぶんだが……」
事前の調査で、副作用の類はあり得ない筈だった。
実際、隊員のほとんどは無事に移植手術を終え、強化された目、『越界の瞳』を手に入れた。
それは、視覚から脳へ送られる信号の伝達を格段に速くし、動体に対する反射神経を向上させる。
だが、何が原因なのかは未だにはっきりとはしていないが……ラウラにのみ、そのあり得ないことが起きてしまった。
自らの被造物ではない生命に、神が罰を与えたか。
ラウラの左目は金色に変色し、『越界の瞳』の機能が、常に稼働したまま固定されてしまった。
それによる脳への負担は凄まじく、一時は日常生活さえままならない有様だった。
眼帯を装着し、左目を封印することで再起不能は防げたものの、IS訓練において、他の隊員と比べて致命的な遅れが生じてしまった。
周囲からのラウラに向けられる視線は、最強兵士候補から、出来損ないの人造人間に向けられるものに変わった。
少女のアイデンティティは、根底から打ち崩された。
誇りは引き裂かれて散った。
弾丸を発射できなくなった拳銃のようなものだ。
生まれた瞬間から兵士になることを運命づけられ、そのために育てられていた彼女には、兵士以外の生き方など想像もできなかった。
そして、もし自分が兵士として生きることができなくなったとしたら……ラウラは悪夢に魘された。
「ちょうど、その頃だ。私がとある事情で、ドイツ軍に教官として招聘されたのは」
ラウラを含めて、『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊員は優秀な生徒たちだった。
千冬の拙い教え方でも、一人一人が要点を理解し、操作技術をスポンジのように吸収していった。
「ここ一ヶ月、訓練の成績が振るわないようだが……そんな顔をするな。責めようというんじゃない。安心しろ、私が教えるからには、すぐにかつての地位を取り戻すだろう」
千冬がラウラにかけたこの言葉には、そんなに深い意味はない。ただの励ましだ。
実際、ラウラに特訓を施したりはしなかった。見るからに落ち込んでいる彼女を放っておけず、元気づけようとしただけだった。
だが、心が弱っていたラウラにとって、それは特効剤となった。
地位の転落による自身への失望に追い詰められ、訓練に身が入っていなかっただけであり、ラウラの軍人としての資質が、誰よりも高いことに変わりはなかったのだ。
ラウラは千冬の言うことをよく聞き、学び、再び部隊内で最強の地位を取り戻した。
彼女が自分に強い憧れを抱いていることを、千冬は知っていた。信望者の目は飽きるほど見てきている。
やがて、ラウラは口調を千冬に似せ始めた。
さらに、力を付けていく中で、千冬以外の人間に対して傲岸不遜とも言うべき態度を取るようになっていった。
優秀なIS操縦者であることを自信にするのはいい。
だが、ラウラはそれをこの世の中で絶対なものとして振り回していた。
千冬は……恐ろしくなった。
彼女が、自分の弱さを隠すために作り上げた虚勢の仮面を、ラウラが被ってしまったのだから。
他人から見た、自分という人間。自己嫌悪に近い感情が千冬を苦しめた。
かといって、せっかく立ち直ったラウラから仮面を取り上げるわけにもいかない。
憧れの人物の、本当の顔を知ってしまったら、ラウラは二度と立ち上がれなくなってしまうだろう。
こうして、千冬はもう一人の自分と対面する苦痛の日々を送ることになった。
「どうすれば、あなたのように強くあることができるのですか?」
ある時、ラウラがそんなことを言ってきた。
戦闘技術の話でないことは明らかだった。
自分を見上げるラウラの目を、千冬は直視できなかった。
当たり前だ。彼女が憧れる自分の強さとやらは、嘘と強がりで塗り固められたハリボテなのだから。
どうにか答えはしたものの、それはラウラにとって有益なものにはならなかったようだ。
時が解決してくれることを願って、半年後、千冬はドイツを離れた。
久しぶりに再会したラウラは、何も変わっていなかった。
狂気的なまでに千冬を信望し、傲慢に振る舞い、気に食わなければ平気で暴力を行使する。
「さっきだって、そうだ。お前に襲いかかったラウラの姿は……お前に噛み付いていた時の私、そのままだった」
ISで攻撃しなかっただけだ、と千冬が自虐的な笑みを浮かべる。
「……私が、彼女を歪めたのだ。ただ操作技術を向上させるなら、誰にでも出来たのに。それがよりによって私だったために、ラウラは……」
「そこまでにしましょう、織斑さん」
放っておけば、自分で穴を掘って入りかねない千冬を、一郎が止める。
一郎の前だと、彼女はやけに内心をさらけ出す。それも良かれ悪しかれだが、今回は間違いなく悪い方だ。
「終わったことは、もうどうしようもないんです。どうせなら、これからのことで悩んだ方が建設的ですよ」
一郎は穏やかな笑みを浮かべながら言った。
必要なのは反省だ。だらだらと垂れ流す後悔に価値はない。
「それに、ボーデヴィッヒさんは、たぶんそんなに歪んでないです」
むしろ、極端に真っ直ぐなのだろうと一郎は見ていた。自分の中の織斑千冬に向かって突っ走り、その他のことには目もくれない。
先程のラウラの行動も、単に「憧れの人物に良い所を見せたい」という気持ちから来ているのだろう。
もちろん、少佐という位の軍人に相応しい行動では決してないものの、理解はできる。
一郎自身、そうした失敗をしたことは何度もあった。
攻撃してきたことに憤りを感じないわけでもないが、先人としては受け止めてあげるべきだと一郎は考えていた。
その時、ミーティングルームの扉がノックされた。
入って来たのは、『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊員だ。
「失礼します。………申し訳ありません、わざわざ来ていただいたのに、こんな事になってしまって」
黒い眼帯を身につけた隊員が、苦々しい顔で一郎と千冬に頭を下げる。
怪物の噂の舞台となっている地域をトラックで走り回り、もしファンダメンツが襲撃してきた場合、コンテナの中に隠れていたサンダーソードや千冬、『シュヴァルツェ・ハーゼ』が協力して撃破する、というのが本来の作戦だった。
しかし、トラックはラウラが勝手に乗って行ってしまったし、一郎も未だ研究所でいちびっている。
彼の方から追いかけるのは簡単だが、ラウラは同じ極の磁石のように反発するだろう。
協力という言葉からは、まったくかけ離れた状態にあった。
「……我々がこんなことを頼める立場でないのは、承知の上ですが」
一瞬、躊躇ってから、隊員が続ける。
「隊長を、助けてあげてください」
軍服の女性が頭を下げる瞬間、一郎は彼女の目を見た。
そこに虚飾、嘘偽りの心がないことが感じ取れた。
千冬の話では、ラウラに対する隊員の感情は、決してポジティヴなものではない……筈だった。
だが、それに反して、隊員の願いは紛れもなくラウラの身の無事だった。
失脚や、命の喪失などではなく。
一郎は疑問に思ったが、それを口に出すことはなかった。
興味がないわけではなく、疑問を解消する前に、他にやるべきことが出来てしまったからだ。
一郎は緊張した面持ちで腰を上げた。
千冬も、それだけですべてを察し、後に続いた。
一郎のセンサーが、IS起動時に放出される、ダークエネルゴンのエネルギーを感知したのだ。
そして、プレダコンのエナジーシグネチャーも。
「ボーデヴィッヒさんは望まないだろうけど……僕は、やるべきことをやります」
【テックスペック】
サンダーソード(田中一郎)
グループ:マクシマル
役割:惑星調査員
変形:人間
体力:8
知力:6
速度:7
耐久力:8
地位:6
勇気:9
火力:6
技能:8
好きなテレビ番組BEST3
一位 時代劇
二位 三分クッキング
三位 昼ドラ
最近教会で懺悔したこと:書類偽造について三時間ほど
サヴェッジファング
グループ:プレダコン
役割:ファンダメンツリーダー
変形:アリゲーター
体力:8
知力:9
速度:5
耐久力:8
地位:10(予定)
勇気:3
火力:7
技能:8
いつか殺したい相手:オプティマス・プライム、サンダーソード、部下
最近少しショックだったこと:ディセプティコン組とプレダコン組が自分への悪口で盛り上がっていた
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にじファンから移転。本作品は、ISとトランスフォーマーシリーズのクロスオーバーSSです。オリジナル主人公および独自設定を含みますのでご注意ください。