第10話 操り人形
呉との戦いが終わって数日。
呉は漢中のように今まで通り孫策達に治めさせることにしていた。
そんな中、曹操は再度漢中方面へとの侵攻を企てていた。
「ふぅ~。まさかあの男がこれほど大きくなろうとは……」
曹操は一刀が孫策を負かし、呉を平定したことに素直に驚いていた。
「また私が、行くべきでしょうね……」
「それはいい心がけだが、もっといいことをしてやろうか?」
「誰だ!?」
曹操がそう言うと声の主は玉座の後ろから姿を現した。
その正体は張世平だった。
「こんにちは、魏王、曹操」
曹操は己の武器である鎌「絶」を持って構える。
「挨拶など要らぬ。お前は誰だ?」
「こいつは失礼。我が名は張世平。正史と外史の狭間にたゆたうことしか出来ぬ哀れな人形……」
「ワケの分からぬことを。この王宮の玉座に忍び込んできたのはどういうワケか。返答次第ではその頸、叩き落してあげましょう」
「全ては貴公に会うため。なぁに。あなたの悩みを解決するのに、力を貸してあげようと思ったまで…」
「力を貸すですって? その不遜な物言い、腹が立つわね」
「さすが、豪毅な方。この張世平の力など不要と?」
「必要などあるはずがないでしょう? 己の力のみで天命と対する事こそ、天意を識りうるただ一つの手段。王が王たる資格はそこにあるのよ」
「なかなか誇り高いお人のようで…」
「誇りを持たずに生きることに、何の意味がある。だからこそ私は曹孟徳なのだ」
「なるほど……」
「分かればよい。ならばこの問答の時間と共に、お前の生を止めるよしましょう」
「この俺を殺すと?」
「魏の王での傍若無人な振る舞い。死すことでしか償えないのは分かっているでしょう?」
「ふっ……さすが正史で覇王の名を欲しいままにした人物。その気高さ…死すには惜しいな…」
「減らず口を! 死ぬのはお前よ!」
曹操は鎌を振りかぶる。張世平はその鎌を避けようとしなかった。
鎌は張世平を斬り、張世平の体は二つに分かれた。
しかし……。
「なっ!?」
張世平の斬られた下半身部分は立ち上がり、上半身は宙を浮く。
「ふっ、残念だがお前に俺は殺せません」
斬られた張世平の体はくっつき、元に戻る。
「さてと……このままやっても北郷一刀に負けるのは目に見えている」
(北郷一刀?)
「だから俺はお前を利用させてもらうと言うわけだ」
張世平は掌を広げる。
「うっ!?」
曹操の体は硬直する。
「動けない……」
「こうする必要はなかったが、大人しくしてもらいたかったのでな……、動きを止めさせてもらった」
張世平はもう片方の手で印を結ぶような動作をする。
「縛」
「うっ……」
「操」
張世平が印を結んでそう言うと曹操はおとなしくなってしまった。
「簡単なんだよ、人形を操るってのはな……。
さてと、後は魏の将達に異変を見せて北郷一刀に助けを求めさせる。
いくら防衛第一の奴でも人命がかかってるとなると嫌でも出てくるだろう。
後は邪魔をされないように色々仕掛けたりするか。蘇双もやってくれるはずだ」
張世平はその場から姿を消した。
さらに数日後、曹操軍が攻めてくるとの情報を聞いた一刀達は防衛のための準備をしていた。
「……」
「一刀様、準備が整いました」
「そうか……」
「気が乗りませんか?」
「正直な…。孫策の時みたいに一騎打ちに持ち込めれば……」
「それは無理かもしれないわね」
「曹操は孫策と違って現実的なところがあります。
それにそんな危険を冒してまでやろうとは思わないでしょう」
「そうね、曹操の場合は罠があるとしてあえて退く可能性があるわ」
「そうか……」
「お館様!」
焔耶が声をかけてくる。
「どうした、焔耶?」
「夏候惇達がこちらに向かってきます!」
「何? 数は?」
「それが……」
「11人だよ! 一刀さん!」
蒲公英がいつの間にか焔耶の横に居て叫んだ。
「11人………夏候惇達って言ったけど、それってひょっとして……」
「全員魏の将だよ!」
「やっぱり…」
「何かあったのかしら?」
「とりあえず顔だけでも会わしてみるか」
一刀は夏候惇達と会うことにした。
「お目通りを許していただき、感謝する」
まずは夏侯淵が感謝の言葉を述べる。
「………」
「とりあえず、何があったのかしら?」
「話せば長いことになるのですが……」
「いいえ、時間が惜しいわ。ここは簡単に言いましょう。私達はあなた方の力を貸してもらいたくてここに来たの」
「我らの力を貸りたいとはどういうことだ?」
荀彧の説明に焔耶が問う。
「よく分からないのですが、華琳様……、いえ、曹操様が何者かによって拉致されたのです」
「は?」
「………」
一刀達は夏侯淵達からその詳細を聞いた。
話によると夏侯惇達が兵の準備を終えて、城を出ようとしたのに曹操がなかなか来ないとして心配をしていたら、曹操が現れたものの、その様子はおかしく、馬ではなく輿に座っていたのだ。
しかもその輿を担いでいたのが見たことない白装束の集団であった。
曹操が操られているとすぐに見抜いて、夏侯惇達は助けようしたが、いつの間にか魏の兵達も操られていて、曹操を助けるのが困難になってしまっていた。
まだ残っている魏領の兵達を集めようにも時間がかかっては曹操の身の安全が保証できないとして、助け出すには誰かの力を貸りるしかないとして、一刀に助けを求めに来たのだ。
「信じられないな」
「あの曹操がね…」
「仮に本当だとすると、何故?」
「…………」
一刀達は考えるもイマイチ答えが出ない。
「相手は何者とも知れぬ。それに曹魏の兵達を全て掌握されては、兵を持たぬ我々では近づくことが出来ない!」
「今の我々は無力だ。ましてや、他国のことで孫策が動くわけもあるまい」
「今の私達にはそれしか華琳様を救う方法がない……」
「そこで人望のある劉璋殿にしか頼めないと思い、こうしてやって来た」
「我らの主、曹孟徳を助けてもらえはしないだろうか?」
魏の将達が頭を下げる。
「どうします? 一刀様」
「あちらの罠と言う可能性も……」
「!!」
一刀は突然頭を抱え、ふらつく。
『一刀(様)!?』
蜀の将全員が心配そうに見る。
「大丈夫だ」
一刀は普通に体勢を立て直す。
「……」
一刀はそれでも頭に手をやったままだった。
「一刀様、やはり気分が……」
「そうじゃない……、そうじゃないけど……」
一刀は何かを考え、あることを聞く。
「…曹操の側にいるのは白装束だって言ったか?」
「え、ええ…」
「一刀様、覚えがあるのですか?」
「いや、覚えはない。けれど…………」
「けれど?」
「そいつらの本当の狙いは……俺だ」
『え!?』
一刀の発言に蜀の将だけでなく、魏の将も含めて皆が驚いた。
「貴様が狙いだと!?」
「何故それが言えるのよ?」
「…分からない。……けど、頭に突然、文字が……」
「文字?」
「それにあったんだ。『白装束はお前を殺すために動く』って……」
「『白装束は』」
「『劉璋を殺すために動く』……」
「何よそれ」
「俺だってよく分からない。けどこれは確証に近いものだと思ってる」
「つまり我らが主、曹孟徳を操った本当の理由は…」
「助けてくれる可能性の高い……俺に頼むと思ってだろうな」
「そして助けに来た劉璋の抹殺…」
「だろうな。完全に憶測だけどな……、けど、さっき言ったように確証に近いものだと思ってる」
「…………」
「それで一刀様はどうするのですか?」
「………………」
一刀は間を置きながらも薄ら笑う。
「一刀様?」
「俺の答え、分かってるだろ」
「では……」
「助けに行ってやるよ」
「一刀様!」
「しかし、これが罠だと……」
「確実に罠だろうな。…白装束の連中の…」
「え?」
「だってさ、まだ一人二人が裏切っての内部工作ならまだ分かるけどさ……、魏の将が全員で裏切るなんておかしいだろ。
それに仮にそんな事したところで曹操の名声は地に落ちる。曹操はそんな事望んでいないだろ……」
「まあ…」
「それは……」
「けれどさ、一刀」
「曹操を助けに行くってことは、魏の領地に行くってことだよね?」
「それは一刀様の嫌う、侵略行為になるのでは……」
確かに紫苑たちの言うとおりである。
事情はどうあれ、世間から見たら魏の領に軍を動かすと言うことは侵略に見える。
しかし一刀は……。
「侵略行為じゃない」
『え?』
「これから俺達がやることは侵略じゃない。人命救助だ。それなら問題はない」
「しかし民達が……」
「蜀の民達からは俺がよく言い聞かせる!
他の民達からは何をどう言われようと構わない!
俺が一番大事にしてることはなんだ?」
「命です」
「戦いで失われるならまだ仕方ないかもしれない。病気や寿命ならなおさらだ。
けれど、誰かに操られて、自分の意思とは無関係に失われることは……俺は嫌だ!
だから俺は助けに行く! 言っておくが今回のことは今まで以上に俺の自分勝手にやろうとしている。
もし『曹操を助けに行きたくない』とか、『俺の防衛の方針に反するためその命令には従わない』とか思っているなら行く必要はない。
もしもの時は俺一人で助けに行く。それで答えを聞きたい……」
一刀がそう言うと皆が笑みを見せる。
「前にも言いましたわ、一刀様」
「我らは先代にお館様を任された身、行かないわけには参りませんわな」
「幼馴染を放っておけない、そう言ったわよね、一刀」
「あんたを放っておくのって、少しあぶなかっしいしな。あたしも行くよ」
「たんぽぽも!」
「皆……、やっぱり……悪いな、俺のわがままにつき合わせちまって……」
一刀は泣く。
「だからその涙もろいのをどうにかしなさい」
「………多分、無理」
そうは言いつつも涙を拭う一刀。
「ああ、それと一応このことを呉の方に伝令出しておいてくれ」
「わかりました」
伝令はすぐに呉の方へと向かい、馬を走らせていた。
「…!」
伝令の前には一人の男が立っていた。
「どいてくれ!」
伝令の人は声を出してどいてくれと頼むが男はどこうともしない。
「ま、まずい!」
伝令はこのままでは跳ね飛ばしてしまうと思い、馬を止めようとする。
しかし突然男の姿が消える。
「消えた!?」
否、男はなんとジャンプし、空中を、しかも伝令の真上にいた。
「え!?」
「ふあっ!」
男が地面に降り立つ。
すると伝令の首はあらぬ方向へと折れ、馬から転げ落ちた。
「これで呉に向かった伝令は始末したな」
男の正体、それは蘇双だった。
「一応のため、呉に来る伝令はすべて始末してやるか」
蘇双はその場から姿を消した。
一刀達は攻められるよりも先に攻めることにし、魏領へと入っていった。
「今のところ、大丈夫みたいだな」
「しかし油断は出来ん」
「あの白装束はどこから出てくるか分からないからな」
「ああ、あいつらは突然現れた」
「警戒しすぎるってことはないわな」
一刀達は警戒しながら進んでいく。
すると……。
「報告します!」
伝令の一人がやって来る。
「何事だ!」
「ここから前方約5キロの地点で曹操と思われる人物を発見!
周りには魏の兵およそ20万、謎の白装束の集団20万!」
「白装束の方も数が多いな」
「夏侯淵、一応聞きたいが、魏の兵の総数は?」
「今の魏の兵力は40万だ」
「残りの半分の20万は一体どこに?」
「恐らくはまだ操られてないから、戦っているか……」
「何も知らずに国境の防衛をしているわね」
「よくここは入れたな」
「この辺りは何とかまだ操られていない兵士がいてな、協力してもらった」
「なるほど」
そして蜀軍は操られた魏兵と白装束の集団を鉢合わせる。
「あれか……」
遠くには輿に座っている曹操の姿があった。
「華琳様!」
「くっ……軍の先頭に立たせるなど、人質でも言いたいのか、奴らは!」
「そのようだな。輿を担ぐ役割の者以外にも、槍を持つ者が居る。逆らえば串刺しか」
「あの者達をなんとかしないと、戦うことも……」
「俺に考えがある」
一刀が一つ提案を出す。
「いったいどんな?」
「相手の本命は俺だから、俺を囮にすれば……」
「そんな!」
「一刀様、危険です」
「危険は承知。だが曹操を助けるには一番いい方法だ。
相手は俺に気が行って、周りを疎かにする可能性が高いからな」
「ですが……」
「まあ俺は強いけど……、いざという時は守ってくれるんだろ?」
一刀は蜀の将達に対して思わずウインクした。
「それは当然ですわ」
「我らはお館様を守る使命も持っておるからな」
「まああたしらがやられるってことはまずないから安心しな」
「お姉様、油断大敵だよ」
「相手は未知の存在と言うべき者。警戒しすぎるってことはないと思うわ」
「ああ、皆、頼んだぞ」
そして戦闘が始まった。
魏兵は普通に蜀兵と戦うが、白装束の兵達は蜀兵を無視し、一刀の方へと突撃していった。
「でやああっ!」
「ぐああっ!」
将達は白装束たちを倒していく。
しかし数は多かった。
「北郷は死すべし!」
「北郷は悪なり!」
「悪は滅ぶべし!」
「北郷って一体誰のことだよ!」
「ここに居られるのは劉璋様だ!」
「その北郷などではない!」
将達は白装束の言ってることは戯言と思い、切り捨てる。
だが……。
(北郷、俺はその名を知っている?)
一刀の頭には「北郷」と言う名前が浮かんでいた。
(よくは分からないが、北郷と言う名前は俺に関係しているはずだ。だから奴らは俺を狙っている。
だが北郷とはどういう意味なんだ? そして俺がその北郷だとしても悪と言うのは……)
一刀は考えながらも刀で白装束を斬る。
一刀はいつもは敵を一人斬るだけでも涙を流す人物だった。
しかし一刀は直接白装束の兵を斬っても涙が流れなかった。
(こいつら……人……いや、それ以前に生き物ですらない!?)
涙を流す対象は何も人だけでなく動物や植物、生き物全体であったが、生き物であるはずの白装束兵には反応しなかった。
(こいつらは一体……)
一刀にはいつもとは違う感情が現れていた。
「これは……悲しみ………いや、それを上回る怒りだ!!」
一刀の怒りの刃が次々に白装束兵を倒していく。
「うおおおおおお!!!!」
一刀は一人駆け出し、白装束の兵の中に入ろうとする。
「一刀様!」
綾や千歳が追いつこうにも一刀はいつも以上に早かった。
「北郷死すべし!」
「でやあああああ!!」
一刀は刀に氣を溜めこみ、射程を伸ばし、白装束兵を倒していった。
「……………」
一刀は倒れている白装束兵を黙って見ていた。
「一刀?」
思わず声をかける美咲。
「!!」
一刀は睨みつけるかのように美咲を見た。
「……美咲か」
自分を呼んだ相手が美咲だと分かるといつもの優しい顔に戻る。
「一刀、大丈夫?」
「大丈夫だ。それで敵は?」
「白装束の方は何とかなったわ。それで曹操の方も救出に成功したみたい。
けど………兵士達はまだ……」
「まだ操られたままなのか」
「はい……」
「なら俺が収集をつける……」
「一刀、でも……」
「大丈夫だ。今の勢いならいける…」
一刀はゆっくり歩いて魏兵達の方に行く。
「りゅ、劉璋様!」
「何故ここに?」
「俺が……やる!」
一刀は一気に駆け出す。
『うわあああああああ!!』
「だあああああああ!!」
一刀は氣を足に溜め、速さと持久力を高め、魏兵達を斬り倒す。
「…………」
そしていつの間にか敵はいなくなっていた。
「……………」
一刀の目にはいつものように涙が流れていた。
「やっぱり…泣くよな………」
その後曹操は色々あって洗脳が解け、事情を聞いた。
「張世平……。正史…、外史……人形………」
「いったい何のことかよく分からないな、こりゃ」
「ええ。正史ならまだ分かるけど外史の意味が分からないわね。それに自分のことを人形って言うのも……」
「それならなんとなく分かるわ。そいつは私が一度真っ二つにしたのに生きていたのよ」
「真っ二つで生きてる…」
「それだけじゃないわ。そいつの体は一度宙を浮いて体を元に戻したのよ」
「五胡の妖術か何かじゃないの?」
「いや、おそらくは違う」
一刀が反論する。
「劉璋?」
「一刀、どうしたの?」
一刀は頭を抱えていた。
「また気分が悪いの?」
「気分が悪いって言うのか? 頭が痛い……」
「それを気分が悪いって言うの!」
「くそ……いったい何が……」
一刀は倒れてしまう。
「お館様! お館様!」
「一刀さん、大丈夫?」
「……とりあえず…寝かせてくれ……」
一刀の意識はその場から消えるのだった。
おまけ
作者「第10話」
一刀「なんか途中の戦闘省略してないか?」
作者「確かにした。確かここら辺からだったな、モチベーションが下がりまくって書いた期間に開きが出たのは」
一刀「だったら途中戦闘も書いて投稿しろよ」
作者「1週間に1個と言う関係上できないし、今の俺のモチベーションじゃ無理だ」
一刀「他のも書いてるくせに?」
作者「ああそうだ」
一刀「開き直りやがった」
作者「けれど、途中の戦闘自体は省略はしているがやりたいことだけはきちんと書いている。それに原作の戦闘だってちょっと陣の配置したり、必殺技撃つだけで細かい描写はないじゃないか」
一刀「そのためのこの小説のような文があるだろ!」
作者「まあまあ。とにかく戦闘自体の省略はしたが、やりたい流れ自体に省略はない。まあ、今回の話は無印な話だったけどな。
次回はいよいよ第1話の冒頭部分が判明するぞ。
それでは!」
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この作品は作者が最近見かけている「転生もの」の影響を受けて書いたものです。