No.509013

神次元ゲイム ネプテューヌV ~WHITE WING~ (4) 地獄の亡者

銀枠さん

ここから原作をアレンジし、雪鈴色に染め上げるぜぇっ!(デュオ・マックスウェル風に
…出来てたらいいなあ。
というかこのままいくと血なまぐさい話ばかりで年齢制限考えなきゃいけなさそうなレベル。
冬コミと合同誌で〆切が二つもあるけど、次はもっと早く出したい。

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2012-11-16 23:16:30 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1371   閲覧ユーザー数:1257

第四話――地獄の亡者

 

 私が初めて悪いことをしたのは生まれてから十にも満たない頃のことだった。

 私の家は世間一般からしてみれば、いわゆる豪邸と言われる部類に入るのは、周囲に住んでいるおじさんや子供達の声からして想像に難くはなかった。

 冒険したい盛りの子供たちが、私の家をおばけ屋敷と称して、わざわざ高い塀を乗り越えてまで好奇心を満たしに来て――私の世話人の一人であり、癇癪持ちの執事長に怒られているのをよく目にしたことがあった。

 住み慣れている我が家から、豪邸だとかお屋敷だというイメージは無いに等しかった。それはどんなに珍味だと言われている食材だけをずっと食べ続けることと同じなのだろう。飽きとは見慣れた頃にやってくるものだ。

 だけど、一つだけ共感できたものがある。

その頃の私は年並みに好奇心旺盛で、冒険したい盛りの少女だった。

住み慣れた我が家といえども、私には立ち入れない部屋がいくつか存在した。

それは物置部屋や用具室――なんでも散らかっており物が倒れてくる危険性があるという理由だった。

パパの執務室や書斎、調理室や貯蔵室は、お仕事の邪魔になるためもちろん入れない。

しかし、私はどうしてもそこに入らなければならない理由があった。

地下室――

そこは私はおろか、使用人すらも立ち入ることを禁じられており、堅牢な扉と複雑怪奇な錠前で厳重に封印されていたので、非力な子供の私なんかではうんともすんともしなかった。なにぶん、昔のことであるためおぼろげだが、執事長かパパとママの三人しか立ち入ることを許されなかったと記憶している。カギを所持しているのも多分その三人だった。

地下室を巡って、使用人の間では、こんな噂が流れていた。

金銀財宝が詰まったお宝部屋だとか、毎夜怪物のうなり声が聞こえるとか、根も葉もない憶測が飛び交っていた。そういった話に花を咲かせていると、決まって執事長が鬼のように顔を真っ赤にしてどこからともなく現れるのが常だった。やがて、その話を口にした使用人が辞めさせられたことから、使用人たちの間でも地下室のことを口にする者はいなくなった。

私はそこに入りたかった。

秘密を共有している三人がずるいとさえ思った。

扉の向こうにある何かを想像するだけでも、胸がどきどきして、いてもたってもいられなくなった。

なんだかとてつもない冒険の臭いがする。

もちろん正面から挑んでも扉は開いてくれるはずもない。子供の私にとってその扉は怪物のようであり、宝を守る門番のように厳めしく立ちはだかっていた。

ならどうすればいいか。答えは簡単。カギがあればいい。

パパとママ、執事長に見つからないよう細心の注意を払いながら色んな部屋を走り回った。

普通に考えて調理室や貯蔵室は、人がたくさん集まる場所なので捜索対象からは削除。

一番有り得る場所は、物置、用具室、書斎、執務室だろう。好奇心の赴くままに、色んな部屋を手当たり次第に物色していった。

ある日、物置部屋の中で埋もれているのを発見した。鉛色に光るカギが。

私は宝の地図を手にした気分でウキウキと自室へ戻り、何事もないように振る舞い、皆が寝静まる時を静かに待ち続けた。

冷静に考えてみればそんな大切なモノがこんなところに落ちている事自体おかしな話だが、このときの私は疑問に思わなかった。秘密を暴くカギを手にして、私の心は未知なるものへの期待で打ち奮えていたのだから。

私はそっと部屋を抜け出して、薄暗い廊下を音もなくそろそろと歩いた。

 地下室へ行き、怪物のようにそびえ立つ扉を見上げた。ごくりとつばを飲みほして、おそるおそるカギを差し込んでみた。すると、あれだけ堅牢だった扉はぎぎぎ、と古めかしい音を立てながらあっけなく開いたのだ。子供の細腕でちょんと押すだけで。

扉の向こうには階段が見えた。レンガ造りの壁には松明が掲げられており、足元がかろうじて見通せる位置をほんのりと照らしている。底は見えず、まるで地底へと続いているんじゃないかと信じさせられてしまうような闇が広がっていた。

 幽霊でも見たかのような青ざめた顔で、階段を覗きこんでいると、ふと絵本の中で見た光景を思い出した。

 お城の地下には牢屋があって、そこでは悪い人が閉じ込められているんだってことを。ここは、その地下牢獄に似ているように感じられた。

 絵本の中のように、ここにも何かが閉じ込められているのだろうか。

 永遠に続くかのような回廊を下り始めてからしばらく、何かが見えてきた。

 そこには洞窟のようにぽっかりとした空間が広がっていたのだ。

 暗い牢屋が見える。

 あっと叫んで目を凝らしてみれば、鉄格子の奥で何かがのっそりと蠢いた。

「……そこに誰かいるの?」

 かすれてはいるものの、かろうじて女の子の声だと判別できた。

松明にほんのりと照らされて、浮かび上がる――白い肌と、銀の髪。

裸の上からボロ切れ同然の布をまとっただけの彼女――

頬はげっそりとやせこけていて、落ち窪んだまぶたや、死人のように骨ばった手がボロ布の隙間から覗いている。

 それでも美しいと思った。目のくらむような金銀財宝も、この世のどんな宝石も、彼女という輝きの前ではくすんで見えることだろう。

 彼女がとても醜いとは思えなかった。

「私はリリー。あなたは?」

「……リリー? 聞いたことがあるわ」

 暗闇の向こうで、彼女が大きく目を見開いた。黒い瞳に生気が宿っていくのを感じた。

「本当に? 私とあなたは初対面よ。だって私はあなたのことを知らないもの?」

 私は小さく首を傾げた。こんなに美しい少女のことを目にすれば覚えていないはずがない。

「昔、パパとママから……聞いたことがあるもの。それは私の妹の名前だって」

 鉄格子の向こう側で、二つの青白い瞳が、あの世で灯る鬼火のように、不気味な輝きを放っている。

「妹? じゃあ、あなたが――あなたが私のお姉さんなの?」

 私は問うた。暗闇の向こう側を覗きこむようにして。

目の前の存在に心奪われ、ここから引き返す事など頭にはなかった。

彼女は口を開いた。くすりと形の良い頬をゆるませて。どこか感動を覚えたように震えた声で。

「私はアダム……よ」

 それは底のない闇のように消え入りそうで、死人のように力ない囁きだった。

「……ああ、なんて久しぶりのことなんでしょう。外からの風を感じるのは……。この鳥かごが揺れるほどの心地よさと、温かな希望に満ち溢れた風を感じるわ。まるで風が私達の出会いを祝福しているみたい」

 

物語はここから始まりを告げた。

 このとき、二人は予想もしなかったであろう。この出会いをきっかけとして、人々の終わることのない嘆きや、怒りに満ちた叫びが上がることになろうとは。

 多くの血は流れ、墓場からは暗い死者の手が伸ばされている。

 一万年の時が流れた神次元でさえも――

 そして、この物語がどうしようもない絶望で終わることを誰も知り得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、ふう。やっと帰ってこれましたー……」

 買い物袋を地面に置いてから、ふっと息をつく少女がいた。袋の中には単三電池しか入っていないが、人の手の平サイズほどしか全長が満たない彼女にとっては重労働であるといえた。

「ちょっと街外れの雑貨屋さんまでお買い物にいっていたら、単三電池が安売りしてたので、ついついまとめ買いしたら重くて重くて……おかげで帰ってくるのにみっかもかかってしまいました……」

 額の汗をぬぐいながら、目の前にそびえるプラネテューヌの教会を見上げた。

 彼女の名前はイストワール。

くりくりとしたまん丸の目や、しっかりと結い上げられたブロンドのツインテールから、見た目こそお人形さんのように可愛らしいが、イストワールは人間ではなかった。人工生命体であり、プラネテューヌの女神――プルルートのお世話役である。

「プルルートさん、ノワールさん、イヴさん。開けて下さいー」

 こんこん、とドアをノックする。しかし、反応がない。

「あれ? もしかして留守なんでしょうか?」

 試しにもう一回ノックしても返事は返ってこなかった。ドアに耳を当てると、すやーすやーっと規則正しい寝息が三人分も聞こえてくる。

 はあっと、呆れかえったように息を吐いた。それから深く息を吸って、

「こらーっ、起きなさぁーい!!」

 

 ◆

 

「全く、あなたたちは仕事もせずにこんなのんびりと、女神としての自覚は無いんですか……」

 イストワールがガミガミと口うるさく指さしながら、寝ぼけ眼で眠りからさめやらぬプルルートとイヴを正座させていた。ネプテューヌもとばっちりを食らってか正座させられている。

「プルルートさん、第一あなたは女神でしょう。こんな真昼間から寝てて恥ずかしくないんですか。普通の人ならば国のために汗水流して働いているというのに、こんな姿を誰かに見られでもすれば噂は瞬く間に国内を駆け巡り、プラネテューヌのシェアはすぐにガタ落ちするという国家存続の一大事になるかもしれないんですよ。女神でも何でもないノワールさんの方がプルルートさんより働いているというのはどういうことなんですか。プルルートさんっ、イヴさんっ、あなた方はノワールさんの爪の垢を煎じて飲むべきです。――……そういえば、ノワールさんの姿が見えませんね」

「ほえ? ほんとだ。ノワールちゃんってば、どこに行ったんだろう~」

「ノワールなら、いつもはこの時間に出かけているさ。私達が寝ている間に女神メモリーでも探しに行ったんだろう。ほんと、飽きもせずよくやるものだ。どうせ見つからないことは分かりきっているのに」

「イヴさん。どうせとかそんな決めつけるような言い方はやめなさい。彼女は頑張っているんですよ。……おや? 知らない方がいらっしゃいますけど……そちらは?」

 イストワールが目を丸くして、ネプテューヌを見つめる。今初めてその存在に気づいたとでもいう風に。

「この子はねぷちゃん~。新しいお友達なの~」

 プルルートがさも素晴らしい事だと言いたげに微笑んだ。

「む、なんでしょう。この方とは以前どこかでお会いしたことがあるような気が……あ、ごあいさつがおくれましたね。わたしはこの国の女神を導く役目を負った、イストワールと言いまして……」

 イストワールが小さな身体を、ぺこりと行儀よく折り曲げる。

 しかし、ネプテューヌの目にはそれが映ってすらいなかった。目を懐かしさのこもった色に欄々と輝かせて、

「い、い……いーすんだぁー!! ちっちゃいいーすんだぁー!!」

 思いきりイストワールに抱きついた。

「ひゃわっ!? なな、なんなんですか! いきなり抱きしめないで下さいー!」

 ネプテューヌにとっては普通に抱きついただけに過ぎない。しかし、イストワールの全長は人間の手の平程度にしか満たない。手の平の倍以上の身の丈を持つネプテューヌが抱きついてくるとなれば成程、それは最早抱擁ではなく、押し潰すという方が正しいであろう。

「かわいいー! 手乗りサイズだよ! ちっちゃいーすんだ! かわいーすんだ!」

「ちょ、くるし……お二人とも、助けて……!」

 イストワールが苦しげに喘ぎながら、プルルートとイヴに助けを求める。

「いーすんって、いすとわ~るのことだったの~。そっか~、かわいい呼び方だね~。あたしもそう呼ぶことにしよ~っと」

「そうらしいな。だが、イストワールのことをちっちゃいというのはどういう意味だ? あいつは元からあんなだろうに」

 ふっと目を向けてみれば、ネプテューヌの腕の中で、イストワールが口から泡を吹きながらびくびくと痙攣している。

「あ~、たいへん。いすとわ~るちゃんが潰れちゃう~」

「おい、ネプテューヌ。その辺で離してやれ」

 プルルートとイヴに救われたイストワールが正気を取り戻すにはしばらくの時間を要したという。ネプテューヌは間違いなく、小動物を飼ったら殺してしまうタイプだとイヴは戦々恐々ながら思った。

 

 ◆

 

「はうぅ、ひどい目に遭いましたー……もう! いきなり人を全力で抱きしめたりしたらいけないんですよ!?」

「いやー、ごめんね! いーすんの声聞いたらわたしも安心しちゃってさー」

 てへへ、と頭をかくネプテューヌ。

「しかし、ネプテューヌ。お前はどうもノワールやイストワールと初対面ではないような反応だな」

 イヴが眉をひそめる。

「いえ、わたしはこの方……ネプテューヌさんとは初対面ですよ。でも、たしかに言われてみれば懐かしいような感覚がしますけれど……」

「んー、そうだねー。ここで話しておかないとまたタイミングを逃してしまいそうだから、話しておくよ。わたしのいた世界のことを」

 それからネプテューヌが語ったのはまるで訳の分からない話だった。

 そこには四つの国があって、それぞれ四人の女神によって統治されているという話だということ。

 四国には国民がいて、四女神達は信仰を人々から得ることに成功し、四国同士は互いに競い合いながらも仲良く共存しているのだという。

 犯罪組織なる国と壮絶な戦いを繰り広げ、その末に勝利を収めたこと。

ノワールやイストワールがいて、さらにノワールやネプテューヌに妹がいるという話だったり。

 まさに異次元とでも言うべき話ばかりだった。

「最初はノワールがいじわるしてるだけかと思ったんだけど、ノワールはにせものわーるだし、いーすんはちっちゃいーすんだし……もー、何が何だか分からないよ!」

 ネプテューヌが地団駄を踏む。

 沈黙――三人はそろって気難しそうに顔をしかめていた。訳の分からないのはここいる全員がそうであった。

 イストワールが沈黙を破るように口を開く。何らかの確信を込めた口調で。

「成程……荒唐無稽な話ですね。しかし、それはが懐かしさの正体だと言われれば納得のいく説明もつきますね」

「おいおい、イストワール。何一人でぶつぶつ言ってるんだ。まさか、ネプテューヌの別世界がどうたら~ってのを信じたのか?」

「イヴさん、ネプテューヌさんの言っている事はあながち間違いではありませんよ。そもそも世界は一つではないのです。一つ一つは似通っていますが、同じモノは一つとして存在しないのです。それは私達がいつも見上げている無数の星々のように、色とりどりの輝きを放っているんですよ。ネプテューヌさんの真剣な目といい、生々しい口調といい……。わたしはネプテューヌさんの放つリアリティを信じてみようと思います」

「ふーん、じゃあ、なんだ。そこには私もいるのか。別次元の私とやらが」

「あっ、じゃあじゃあ~、あたしもいるの~?」

 イヴとプルルートがネプテューヌへ期待のこもった目を向ける。二人の目はお星様のようにありったけの好奇心で輝いていた。

「んー、ごめん。ぷるるんとイヴは見たことないなあ。ノワールといーすんなら見たことあるけど」

 ネプテューヌがぱんっと両手を合わせて、申し訳なさそうに頭を下げる。

「「え~……」」

 がっくりとうなだれる二人。期待が大きかった分、落胆の衝撃は計り知れないものとなる。

「いーすんとノワールちゃんだけずるい~」

「うわー、期待して損したわー。やっぱ嘘だ。ネプテューヌの言うことは全部嘘だ。別世界なんてあるわけない。はい、決定! おやすみなさい!」

 イヴに至っては頭から布団を被って眠りこける始末。

「こらっ、二人共! 勝手なことを言うんじゃありません! 無いものねだりをしても仕方ないでしょう!」

 ぷんすかと顔を真っ赤にするイストワール。その赤さといえば今にも蒸気が上がりそうである。なんだか肝っ玉お母さんみたいで苦労してるんだなあ、と思いながらぼんやりと見つめていると、イストワールの頭からプスプスと煙が上がり始めた。

「い、いーすん!? どーしたの!? なんか煙出てるよ!」

「うわ~、いーすんから煙が出てる~!」

「もしかしてこっちのいーすんって利便性だけを追求しすぎてスペックは低い感じなの!?」

 おたおたと慌てふためく二人。イヴはすやすやと寝息を立てており、起きる様子は微塵もない。

イストワールは真面目な顔で言った。何かを決心したように。

「二人共、よく聞いて下さい。わたしは、これから別次元のわたしへと連絡を試みようかと思います。ネプテューヌさんのいた別次元へと。これは緻密かつ精密な神経力が求められます。そこにもう一人のわたしが本当にいるならば、可能な話です。そこで、差し当たってお願いがあるんですが……」

 ぴん、と指を一本立てる。

「決してイタズラとかしないで下さいね!」

「脇をくすぐったりとかもー?」

「ダメです!」

「お洋服とかぁ、着替えさせたらダメ~?」

「絶対に絶対にダメです!」

 

 ◆

 

 プラネテューヌ――市街地

 

 太陽がいい具合に傾きかけて、そろそろ子供達はお家に帰る時間だよって時間だけど、わたしとぷるるんはそんな子供達を尻目に、目的もなくプラネテューヌの街中をぶらぶらと歩いていた。

「はあ、なんかいーすんは一昔前のパソコンみたいになっちゃったし、イヴはイヴで寝てるし、ノワールはノワールでどっか出かけてるし、することないよねー」

「そうだね~」

 ぷるるんはニコニコしながら何食わぬ顔。

 まったくー、ぷるるんったら天然というか、マイペースというか、わたしでさえも不安になってくるというか。一番驚いたのは、いつでもどこでもトイレのスリッパを好んで履き続けているというところ。とりあえず、会話が続かないから別の話題を振ってみることにする。

「ノワールっていつもクエスト終わるたびにどこか出かけてるけど、どこにいってるのかなー? はっ、まさかノワールに男の影が!?」

「まさか~、ノワールちゃんに限ってそんなことないよ~」

「だよねー!」

 驚くほど意気投合しあうわたしとぷるるん。ノワールに対する共通理解が深まっているあたり、わたしとぷるるんの間で、心のノワール同盟が結成されていることは言うまでもない!

「となると、ノワールはどこにいってるのかな?」

「きっと~、女神メモリーを探しに行ってるんだよ~」

「ところで、ぷるるん。その女神メモリーってのは何?」

「え~っとぉ、たしかノワールちゃんが言うにはぁ~、百年に一度出るか出ないかって言われている伝説のアイテムなんだって~。それを使うと女神になって、自分の国を作れるようになるからノワールちゃん頑張ってるんだぁ~」

それが女神の力――女神化と呼ばれるものなんだって。同時に一国を治める主としての権限も発生することになるとか。わたしがこの前、変身できなかったのもそれがなかったのが原因らしいよ。

ちっちゃいーすんいわく、元の世界からこちらの世界へ飛ばされた時、何らかの影響で女神としての力を失ってしまったとか。生まれたときから生粋の女神だった私からしたなんかメンドクサイ世界だねー。

しかも百年に一度しか手に入らないとか、そんなオンラインゲーム顔負けの、レア度の高いアイテムが現れるのを待ってるだけで、気分はしわくちゃのおばあちゃんになってしまいそうだよ。

正直なところ女神化できないのは痛いけれど、働くのはもっとイヤだから、このままでいいや!

「あと~、えっとね、ルウィーもプラネテューヌも受け入れられず、国の外に住んでいる人達もいるんだって、ノワールちゃんが言ってたしねぇ~。だからその人のためにも自分が女神になって新しい国を作ってあげたいってはりきってたよぉ~」

「そうなの?」

 なんてノワールらしい優等生発言なのだろう! こっちでもあっちの世界でもノワールは変わらないなあ。

「それにそれにぃ~、今のうちに女神になっておかないと、いつかおばあちゃんになっちゃうからね~」

 遠くでカラスの鳴く声が聞こえた。

 今、ぷるるんの口からとびっきり不穏な単語がさらりと出たような気がする。

「ん? おばあちゃんって何?」

「えっとぉ~、たしか~今のノワールちゃんは~女神じゃなくて人間でしょう? ねぷちゃんもそうだから分かると思うけれど、歳をとったら、いつかはおばあちゃんになっちゃうでしょう。女神になればそれが無くなるんだよ~」

「ふむふむ……」

 したり顔で、頷いてみた。

 えっと、待てよ。ぷるるんの言葉をまとめるに、つまりこうしている今でさえ、わたしが歳をとり続けているわけであって、老化を止めるには女神メモリーが必要となるわけであって、しかし、それをノワールが手に入れようと歩き回っているわけで――

「こうしちゃあいられない! ぷるるん、わたし達も急ぐよ!!」

「え~っ? いきなりどうしたの~、ねぷちゃん?」

「どこへ行くかって? 決まってるじゃん! ノワールよりも先に女神メモリーを手に入れるんだよ!」

「腕を引っ張らないでよ~!」

 わたしとぷるるんは走った。あの沈みゆく夕陽に向かって。

 ノワールが最近目をつけているという遺跡へと。

 ノワールにどんな理由があろうと関係ない。

わたしにも同じくらい譲れないモノがあるのだから。

「永遠の若さは、わたしのものだ!」

 

 

 

 

 プラネテューヌ――教会

 

 教会にはイヴとイストワールの二人が残っている。取り残されるようにして。

イヴは布団の中でぐうぐうと眠りこけ、イストワールはネプテューヌがやってきたという別次元に向けて回線をつなごうと超次元的な何かを試みている。

「ネットワークを検索中……ネットワークを検索中……アクセスポイントに接続中……接続中……」

 イストワールは人間でもなければ女神でもない。太古の女神によって造られた人工生命体である。プルルートがプラネテューヌの女神としての力を得たとき、永い眠りから覚めた。女神の補佐としての役割を果たす為だけに、この世に生命を産み落とした“遺失物(ロストメモリー)”の産物である。

「一時、低スリープモードに移行します。これより、バックグラウンドモード移行……バックグラウンドモード移行……電力の消費を最大限に抑えながら、常時オンラインを維持したまま、通常モードへと復帰します……」

 頭を軽く振ってから、ふうとため息をつく。布団で寝転がっているイヴを一瞥し、

(イヴさん、起きてるんでしょう)

 イヴへと声を送った。イストワールは一切口を開いていない。心の中のつぶやきだ。

 仮にここに誰かがいたとしても、現実に声は響いていない為、誰も振り返りはしないだろう。

 しかし――

「なんだ、イストワール」

 イヴは眠そうな声で応えた。振り向きもせず、寝そべった姿勢のまま頭だけを気だるそうに揺らすことで。

 イストワールの能力――対象の心へと干渉することで、擬似的なチャットルームを発生させることが出来るのだ。もちろん対象外に声は聞こえない。そのためイヴ以外にイストワールの声は聞こえないし、そもそも聞くことすら出来ない。ギルドシステムの力を借りることで、プラネテューヌの全情報が瞬時に手に入るし、イストワールの低スペックな性能を補っている。

(イヴさん。声に出すのではなく、心で念じて下さい。これが誰かに聞かれると事ですから)

 イストワールは咎めるように言った。第三者の盗聴――及び内容の露見を恐れての念話だった。これから二人の間で交わされることは国家機密に値する内容だということだ。

(もしかして、例の件の調査結果が出たのか?)

 イヴもイストワールに合わせた。

(バーチャフォレストの奥地にて発見された身元不明の死体ですが、依然として調査は難航しており、未だ身元は判別していません。なにせ肉体の損傷がひどく、お世辞にも良い状態だったとは言えないですからね。ギルドにアクセスして市民データと照合してみても、該当する人物は今のところ一人もいません。これは推測ですが、ルウィーやプラネテューヌにも属していない、外の住人のモノかと思われます。なお、現段階で分かっているのは、モンスターの仕業ではなく、複数の人間の手によって作り出されたということです。おそらく犯人は集団で、組織的な犯行によるものでしょう)

(なんだ。何も進展していないじゃないか。三日もかけて掴めたのはそれだけか)

 イヴはつまらなさそうに言った。

 プラネテューヌの辺境で発見された遺棄死体はこれが初めてではない。

これまで数十と及ぶ数の死体が人目もつかないような奥地にて発見されており、モンスター退治やアイテム採取のためにダンジョンへ出かけたギルドの冒険者達が血相を変えて逃げ帰って来たことが発端であった。最初は危険種だの、未確認危険種と呼ばれるモンスターの仕業だと国内で騒がれたものだが、今では何事もなかったかのように静まり返っている。

それ以来、不幸にもその事実を知ってしまった発見者には緘口令が敷かれ、プラネテューヌの住民はおろか、明るみに出ることはないように細やかな手ほどきが秘密裏に成されていた。

それもイストワールの手腕あってこそのものだが。

(いいえ、たしかに難航はしていますが、事件について何も掴めていないとは一言も言ってませんよ。わたしだって、みっかかんなにもせずに手をこまねいていたわけではありません。この事件を引き起こした黒幕の手掛かりをこの手でつかんできました)

(なに!?)

 イヴは勢いよく身を起こした。驚きのあまり、声に出してしまいそうだった。

(まず先に断っておきますが、ルウィーの仕業ではないと思います。あの国は古くから鎖国状態に置かれており、外部との交流を一切断っていますからね。当然、出入国も厳しいです。一応、念には念を入れてプラネテューヌとルウィーの国境の入出記録を調べてみましたが、特に不審な点は見当たりませんでした。あの国はたしかに黒い噂が絶えませんが、それらとは全く無縁のモノでしょう。あと七賢人ですが、彼らは女神の存在に反対しているのであって、普通の民間人、ましてや人間に対して手を出す理由や利益が存在しません。以上の理由からルウィーと七賢人は容疑者として削除。現状で濃厚なのは第三勢力によるものだと断定します)

(やれやれ、ここはルウィーか、七賢人によるものだと言ってくれた方が分かりやすくて楽なのだがな。第三勢力か……これでは振り出しに戻ったようなものだ)

その事件があってからというものの、イヴは、プルルートやノワールの目を盗んでは、ダンジョンへ赴き、闇夜に紛れながら死体の捜索、回収――黒幕の正体を突き止めるためにプラネテューヌのあちらこちらを奔走している。その事実をプルルートやノワールにも内緒で。未だ見ぬ哀れな犠牲者のために。また、更なる犠牲者をこれ以上増やさない為にも。

(ですが、それが明らかとなってくれたおかげで、犯人像を大分絞り込めたのですよ。まず、遺体が打ち捨てられていた地域ですが、奇妙なことに東の森林地帯にばかり集中しています)

(東の森林地帯だと? ……だが、言われてみればそこばかりに集中していたな)

(興味深いことに、昔の文献を調べてみたら、こんなものが分かりました。気の遠くなるような昔のこと……一万年前に滅んだとされる部族の生き残りがそこに落ち延びているのだとか……最近の資料が残されていない為、今となっては真偽のほどは定かではありませんが……)

(……一万年前?)

 イヴは目を閉じ、顔を伏せた。何事かを深く思案するように。

この事を知っているのはイストワールとプラネテューヌの調査団だけである。また、そういう状況を作り上げたのも、イヴたっての要望であった。この前、リンダを追いかけていたとき、例の死体と出くわしたときは内心、冷や冷やしたものだが、なんとか三人にはバレずに事無きを得たものだ。

(イヴさん、ここから先を話す前に、わたしの方から提案があります)

(なんだ?)

(今からでも、この事をノワールさんやプルルートさんにお話ししませんか?)

(そんな必要はない)

 イヴは頭を振った。

(なぜですか? 彼女達から助力を仰げれば、この件も素早く解決するかと)

(あいつらは忙しい。女神メモリーやら元の世界やら、自分達の目の前ことを片づけるだけで精いっぱいだ。両手に荷を抱えたあいつらに何が出来るというのだ。そんなものは二十四時間自宅勤務の私が片づけておけばいい話だ。居候している身の上でタダ飯を食らってばかりでは申し訳ないからな)

(断言しておきます! もし仮にも、この文献の内容が本当だった場合、イヴさん一人の手に負えるものじゃありませんよ! これは……ここに書いてあるのはそのくらい恐ろしい内容なのです!)

(ほう、ますます面白い。その原始人共が世を乱す元凶ならば、こう教えてやればいい。墓穴で一生眠ってろ、この腐れミイラ野郎とな。あとは棺桶に釘でも打ってやれば上出来だ。汚れ仕事は、私一人だけが請け負えばいい。地獄の畜生共が相手となれば尚更だ)

 イヴは目を見開いた。その冷たく澄んだ瞳の奥には、静かなる炎がたぎり、ゆらゆらと揺れ動いていた。

イストワールはびくりと全身が総毛立つのを感じた。イヴの今まで見たことのない顔に。いや、プルルートが身元不明の少女を連れて帰って来たあの夜を思い起こさせた。全身は雨に打たれ、びしょ濡れで、牙をむき出しにして今すぐにでも飛びついて喉笛を食い破らんばかりの肉食獣のような勢い。

生まれた土地や、その名前は本当であるかどうかも定かではない。

何もかもが謎に包まれた、経歴不明のまっさらな少女。

わたしの目の前にいるのは本当に十五、六の少女なのだろうか。あなたは本当にイヴなのかと、イストワールは問いたくなった。

(で、その文献とやらには何が書かれていたんだ?)

 呆然自失となるイストワールへ、白い少女は口を開いた。穏やかな口調で。

そこにはいるのは年相応に好奇心をもった少女だった。さきほどの猛獣のような顔はどこかに成りを潜めており、影も形も見当たらない。幻覚のように。

 はあ、と疲れきったようなため息をつきながらイストワールは言った。

(黒の教団――かつて、この大陸で名を馳せていた一族。今となっては歴史の闇に葬られた、末裔の仕業によるものだと……そう記されていました)

 

 

 

 

 

 

夜風にあおられ、木々が亡霊の囁きのような不気味さでざわめいている。

 辺りは霧に包まれており、ぼんやりと霞がかった世界が広がっている。プラネテューヌの東に広がる森林地帯にて、マジェコンヌとワレチューは小枝を踏みしめながらどこへ繋がるとも分からぬ闇の中を黙々と歩き続けていた。

 ワレチューは落ち着きない様子で周囲を見回しながらマジェコンヌに問いかける。

「あ、あとどのぐらいっちゅか……」

「あともう少しだったと思うがな。いかんせん霧が濃すぎて私にも分からん」

「た、頼りないおばはんっちゅね」

 自分の庭のようだと言ったのは誰だっちゅか、愚痴をこぼしながらすたすた歩いていると、

「ぢゅっ!?」

 つま先に草が絡まり、引っくり返るようにして身体ごと盛大に転げかえる。絡まった草がものすごい音を立てながら、ワレチューの身体を空高く引っ張り上げ、真っ逆さまに吊るし上げた。

「ぢゅっ、ぢゅ~!? なんっちゅかこれは!?」

 マジェコンヌは蔑みをこめた笑みを浮かべながら、大木の枝に吊るされるワレチューを見上げた。

「これは罠だな。黒の教団が自分達の集落の周囲に張り巡らす類の一つだろう。その中でもこれは最も原始的な仕掛けみたいだが。これで森に迷い込んだ獲物を捕らえ、夕食の献立として食卓に並べられるのだよ」

「ゆ、夕食!? は、はやく下ろすっちゅ! 助けてほしいっちゅ!」

「まあ、そのまま待て。これでやつらにも居場所が完全に伝わったことだろう。こちらからわざわざ出向く必要が省けた。すぐにでも歓迎会の準備を整えてくれるだろう」

 マジェコンヌがそう言い終えたときだった。

 見計らったようなタイミングで、霧の向こうから幾重もの人影が姿を現していた。数はざっと三十ほど。マジェコンヌとワレチューを逃さないよう包囲網を築きながら、獣じみた獰猛そのものに息を荒げながら、取り囲みにかかってきた。

「な、なんかこっちに近づいてるっちゅよー!?」

 ワレチューが悲鳴を上げた。

 彼らの全身にはボディーペイントが塗られていて、見惚れてしまうような規則さで幾何学的な紋様が塗られている。鉱石をけずって作った装飾品や、何らかの伝統的な帽子をかぶっている出で立ちから、まさに原住民族といった典型的な印象を抱かせる。

ぎらぎらと憎しみのこもった目をぎらつかせ、手に握られた槍を油断なく構えている。まるで地上に現存する生物そのものに怒りを抱いており、ここから尻尾をまいて逃げ出そうとするものならば、槍の切っ先で喉元を容赦なく突き刺してくるような、そんな危うささえ見るものには抱かせるだろう。とても話が通じるような相手には見えない。

「生きの良い獲物が二匹も迷い込むとは。我らが司祭様も満足することだろう」

「ほう、さっそく黒の教団のお出ましときたか。手厚い歓迎だな」

「い、いくらなんでも手厚すぎるちゅっ!」

「上でわめくなよネズミ。貴様はそこで黙っていろ」

 彼らの目の色が変わった。憎しみから、純然たる怒りの色へと変化を遂げていく。

「おい、貴様。今なんと口にした? 我らが何者なのかを知っているのか。これはその上での狼藉か?」

「ああ、知っているとも。一万年前に滅んだとされる闇の末裔。それがお前達、黒の教団だ」

「貴様……! 我らのことを知っていたのか。ならば生きて帰す道理もなし」

「御託はいい。そんなことよりさっさと貴様等の司祭を出したらどうだ」

「司祭様達のお手を煩わせるまでもない。我らの聖地に土足で入り込んだ罪、その身で贖ってもらおうか!」

 張り詰めた緊張を破るようにして、霧の向こう側――どことも分からない森の奥から男の声が上がった。

「待て、お前たち。我々の大事なお得意様に手をかける気か」

 その声にざわめきが起こり、歴戦の兵達が動きを止め、びしりと向き直った。

「……マイザー様!」

 霧の向こうから姿を現したのは男だった。茶色いスーツに、茶色のカウボーイハットを被っており、ネクタイとシャツが様になっている――有り体に言うならばどこにでもいるような紳士だ。

「お前たち、このお方達をなんと心得ているつもりなのだ。我々の最大の支援者であり、最高の顧客であるこのお方達を、薄汚い俗物の如く罵るとは、許し難い失態だな。この責任、どうしてくれようか。まさか、知らなかったで済まされるとは夢にも思っていまい」

 ニヤリと帽子の隙間から笑みを見せた。

「も、申し訳ありませんでした!」

 一斉に平伏した。図体のでかい大男達が、自分たちよりも肩幅が一回りも二回りも小さい男に恐れをなしたかのように。

「謝って済むなら、処刑人は総辞職だ。人の血を嗅ぎたくて、ただの殺人者に成り果ててしまうだろう。そう思わないか、お前たち?」

「……!」

 目を剥き、顔を青ざめさせながら黙り込んだ。マイザーの何らかの言葉に怯えたかのように。

「我らの同胞が御無礼を働き、申し訳ありません。ミス、マジェコンヌ」

 マイザーがマジェコンヌの元へ飄々とした態度で歩み寄ってくる。太古の原住民族をまとめる司祭というよりかは、いかにも紳士然としていて、落ち着いた物腰のビジネスマンといった印象の方が強い。そんな男が彼らの間を、何食わぬ顔で悠々と歩き回っているのだから、違和感を覚えない方がおかしい。

「瑣末なことだ。問題はない。無能であっても盾代わり程度には役立つだろう。そんなことより、今日は貴様等に仕事をもってきた」

「成程、ビジネスの話ですか。ここで立ち話は何ですし、我らの聖地にてゆっくりと会談を進めましょうか。今日の非礼も兼ねて、たっぷりとお持てなし致します」

 マイザーは仕事と聞いて顔いっぱいに喜色満面の色を浮かべる。マジェコンヌを案内しようとして身を翻しかけたとき、

「ちょっと待つっちゅ! おいらのことを忘れないでほしいっちゅ!」

そこでワレチューが木の上で宙吊りになっているのに気づいて、

「おっと、忘れるところでした」

 おどけたように手をひらひらとさせるマイザー。

かと思うとワレチューの足を縛っていた糸がぷっつりと切れた。

「ぢゅ、ぢゅー!?」

束縛から解き放たれ、重力に引き寄せられ、地面に叩きつけられる――その寸前だった。抱きかかえられた。マイザーにお姫様だっこされる形で。

「ナイスキャッチ」

 茶目っけたっぷりにそう言うと、ワレチューをその場に優しく下ろしてやった。このマイザーとかいう男がやったのは手品のように軽く手を動かしただけ。それなのにどういう原理で糸を切ったのだろうか。

何が起こったのか理解が追いつかず当惑するワレチューへ、マイザーは帽子を脱いで深々とお辞儀をする。

「申し遅れました。私は黒の教団、四司祭が一人――マイザー・ウインドブレイクと申します。以後、お見知りおきを。ミスター、ミッキーマウス。私達、黒の教団はこれからもあなた達、七賢人の最大の支援者でありたいと願っております。これからもどうか御贔屓に」

 ワレチューは自分の瞳孔が最大限に開かれるのを感覚した。

「お、お前……それはっ、どうしたっちゅか?」

 信じられないモノを見るように震えながら、マイザーの顔を指さしていた。この男がいかにして糸を切ったのかなどという疑問は頭から吹っ飛んでいた。

 帽子で隠れて見えなかった部分がさらけ出されたことにより、見えるようになったその部位には――マイザーの顔半分は機械で出来ていた。

「おや、そういえば、私のこれを拝見したのは、マジェコンヌ様だけでしたね」

 マジェコンヌは退屈しきった顔で腕を組んでいる。

 マイザーは苦笑を浮かべながら帽子を手の平でくるくると回して見せた。自慢の宝物を見せびらかす子供のように。

「私のコレは特別製でね。聞くところによると一万年前に造られた“遺失物(ロストメモリー)”の一つだそうです。私達、黒の教団の司祭達は、このように身体の一部に“遺失物”を埋め込むことによって奇跡を宿しているのです。私の力は風でした。風を自在に操ることで、その場から動かずとも遠くのモノを意のままに切ることが出来ますし、短距離限定ですが、一瞬で詰めることが可能です」

 ぱちんっと指を鳴らすと、ほんの一瞬だが、その空間にだけすごい勢いで風が発生した。

 目を見張るワレチューに、ほら、これで種明かしは済んだかい、と確認するようにマイザーはウインクしてみせた。顔半分がツギハギの人形みたいで歪だった。

「素質のないほとんどの者達は肉体と”遺失物”が拒否反応を起こして死に至りますが、時々それを乗り越える強運の持ち主が現れる。この私のように。そして、その強運の持ち主を、黒の教団では崇拝の対象とされ、畏れと敬意をもってこう呼ばれるのです。――四司祭(マテリア)と」

マイザーの機械化された右目がぎょろりと覗く。彼の言葉は次第に熱を帯びていくのが分かった。その様子はまるで別のモノに憑りつかれたようだと――自分は選ばれた人間だと強調するような感じだと思った。

「おかしなことではありませんよ。人間の小娘共が、女神メモリーなる道具で絶対的な力と国家を得るのと同じように、私達も“遺失物”によって力と地位を得たのです。人ならざる力を。人間を超える力を。他ならぬ大司祭様の執り行われる儀式によって我々は恩恵を得た。あの人は我々に奇跡を降ろしてくれた偉大なる御方なのです!」

 それからマイザーは何事もなかったかのように帽子を被り、行儀よく一礼してみせた。

「さて、そろそろ我らが聖地へとご案内致します。他の司祭と大司祭様があなた方をお待ちしております。ささ、こちらへどうぞ」

 マイザーの後に、マジェコンヌが続いた。

 ワレチューも、マジェコンヌの背中に隠れるようにして歩き出した。

「……」

 正直なところ帰りたくなった。こんな化物じみたヤツがあと三人もいるのだ。あの男は七賢人の名を出したが、おそらくマジェコンヌを除けば、他の誰も黒の教団と繋がりはないだろう。マジェコンヌはいつこんな物騒なヤツらと接触したのだろうか。

 しかもそれだけではない。

この男に――司祭と呼ばれる人物に力を与えた謎の存在がいる。

大司祭。

一体どんな人物なのだろうか。期待よりも不安が胸に募るのを感じながら、ワレチューはおずおずとマイザーとマジェコンヌの後に続いた。

 

 

 

キャラクター設定

 

名前:ノワール

性別:女性

武器:片手剣――近距離で敵に斬り込んでいくことが得意。

年齢:十代前半くらい(推定

職業:フリーター(現時点

 

ネプテューヌのいた世界とは別次元のノワール。

勤勉な性格で努力家でもあり野心家でもある。

性格や容姿は、元の世界のノワールと変わりはないが、大きな違いはまだ女神ではないということと、プルルートという友達いること。典型的なツッコミ体質で、ネプテューヌ一向には手を焼かされている。

イラストは私と同サークルの野良パンダさんに描いてもらいました! これからも笹を食べ続けて英気を養って下さいな!


 
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