第二章 『三爸爸†無双』 其の九
【雪蓮turn】
「孫策さん、周瑜さん、おめでとう♪ご懐妊だ♪」
華佗からやっとこの言葉が聞けたわ!
「やったーーーっ♪♪ついに一刀の子を身籠ったわよっ♪ねえ、冥琳!・・・・・・って・・・・・冥琳?」
冥琳ったら口をポカンと開けて黙ってるけど・・・。
「どうしたの、冥琳?ああ♪そっか、嬉しさのあまり声が出ないのね♪」
「・・・・・・・・・・・そ・・・」
「そうよねぇ、長い闘病生活を越えて手に入れた幸せですもの。嬉しさもひとしお・・・」
「そんなわけあるかあああああああああああああああああっ!!」
「きゃんっ!」
ちょ、ちょっと冥琳ってばどうしたのよ?
「冥琳!あなた一刀の子供を身籠ったのが嬉しく無いって言うの!?」
そんな訳無いってどういうことよ!
「このふた月北郷たちとしてないのにこんな事が在り得るはずが無い!」
「へ?冥琳なに言ってるのよ?華琳の子供が産まれたお祝いの後で・・・・・」
あ・・・そういえばあの時は・・・・・・。
「・・・・・そうか・・・あの祝いの宴では酒をやたらと薦めて酔い潰してくれたなぁ、雪蓮・・・・・すっかり夢だと思っていたよ・・・・」
・・・・・やばい・・・すっかり忘れてたわ・・・・・。
「え、え~と・・・・・だって、子供が欲しかったんだもん♡」
「誤魔化されるかああああああああああああああああっ!!」
「ひ~~~!!」
や~ん、冥琳怖~い。
「伯符!私の立場というものを考えてみろっ!」
「たち・・・ば?・・・・・・・ちょっと冥琳・・・・・あなたは一刀の子供を身籠ったことより、自分の面子の方が大事だって言うの!?」
いくら冥琳でもこれは聞き捨てならないわ!
「ち、違う!私は皆の心情を慮っているのだ!北郷の子を授かりたいと思う気持ちは皆同じだろう!それを押さえつけて来た私が先に身籠ってはまるで裏切り行為ではないか!」
「そんな事はどうでもいいの!!冥琳は一刀の子を身籠って嬉しくないのかって訊いてるのよっ!!」
「そんな物!嬉しいに決まっているだろうっ!!」
「・・・・・・・な~んだ♪やっぱり嬉しいんじゃない♪」
「・・・・・・・・嬉しいさ・・・・・・だが、このような状況では・・・この子が皆に恨まれる・・・・・・・私が恨まれるのは構わないが・・・・・この子は祝福して貰いたい思うじゃないか・・・・・・」
「それなら心配いらないわよ。」
「・・・何?どういう事だ?」
「あの一刀たちが言われたからって堪えられると思う?」
「・・・・・・・・・まさか・・・・・」
ありゃ~、本当に気付いて無かったのね。
「愛紗が懐妊するまでは、みんな大人しかったけどねぇ・・・・・それでも風と桂花しか孕まなかったっていうのは、もう天の意思が介在してるとしか思えないって意見まで出てるわ。」
「天命だと言うのか?お前が私を酔い潰して北郷たちに
「え~?どちらかと言うと貪ったのは冥琳・・・」
「
冥琳ったら恥ずかしがっちゃって♪
「房中術の本まで読んで研究してたのが役に立ったんだからいいじゃない。子育ての本とかもあんなに買い込んでさ。冥琳が子供を欲しがってたのをみんなが気付かないと思う?」
「そ、それは・・・・・」
「華琳が見かねてこの策を考えて・・・」
「華琳殿も加担してたのかっ!!」
「加担って言うか、主犯?天の意思云々ってのも華琳が言った事だし・・・あ、一刀たちは悪く無いからね。酔い潰れた冥琳に無理やりするみたいで嫌だってゴネたんだから。」
「結局してしまうんだから堪え性が無いのは確かだな。」
「それは冥琳が一刀を押し倒したから・・・」
「言うな!・・・・・少し思い出してきた・・・・・」
あ、落ち込んだ。
「なあ、孫策さん、周瑜さん、そろそろこっちの話を聞いてもらえるかな?」
やだ、華佗が居たのすっかり忘れてたわ。
「すまん、華佗。見苦しい所を見せた・・・・・」
「ゴメンゴメン。で、話って何?」
華佗ったら真剣な顔してるわね。
「今の話にも出ていたが、孫策さんは酒が好きだろう?」
「ええ、嗜む程度には。」
「どの口が言うか・・・」
もう!冥琳ったら、変なちゃちゃ入れないでよ。
「今日から禁酒をしてくれ。」
「・・・・・・・・は?今、何て?・・・・・なんか私の耳がおかしくなったみたい・・・・もう一度言ってくれる?」
今、三行分気を失った気がするけど・・・・・きっと幻聴を聞いた所為ね。
「華佗は禁酒をしろと言ったのだ。酒精は腹の子に悪影響を与える。当然の事だ。」
「う、嘘おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「文台様が小蓮様を身籠られた時も、酒断ちをなさっていたぞ。気が付いて無かったのか?」
「あの母さまが!?・・・・・・・・・・・そう言えばそうだった様な・・・・・」
あー!華佗が苦笑してる!
「嗜む程度なんだろ?曹操を始め、これまでの七人も同じ事を言って禁酒してるから、問題はないよな。」
「ぷっ!・・・・・雪蓮、確かに嗜む程度であれば酒断ちなぞ造作もなかろう?」
「ちょ、ちょっと待って!・・・・・・・・・参考までに悪影響ってどんな感じ?」
「それは・・・」
「華佗、ここは私がはっきり言ってやろう・・・・・生まれてくる子は体が弱く病気がちになる。早逝・・・最悪死産すらありうる。」
「死産!?」
「安心しなさい雪蓮。あなたには一滴たりとも酒を呑ませないから♪」
冥琳・・・・・・目が笑ってないわよ・・・・・。
「さて、華佗。雪蓮には私から言い聞かせておくので心配無用だ。何かあれば相談するのでよろしく頼む。」
「ああ、心得た。」
なによこのツーカーなやり取り?
「どういう事、冥琳?」
「ん?あぁ、妊娠出産の勉強に本だけでは情報が不足していたからな。華佗に教えを請うていたんだ。ほら、雪蓮。先ずは私の政務室に行くぞ。」
「え!?一刀たちに会いに行かないの!?」
「先に皆に詫びて今後の人事を決める。せめてものケジメだ。北郷たちがしっかり今日の仕事を終わらせてから伝える事にする。」
「えー!そんなぁ!」
「文句は言わさん!」
「ぶーぶー!」
一刀ごめ~ん!
本城 政務室
【冥琳turn】
「皆、すまん・・・今まで散々厳しいことを言っておきながらこんな事になってしまい、申し開きも立たん。」
私は政務室にいる皆に頭を下げた。雪蓮の頭を押さえつけながら。
政務室には朱里、雛里、詠、稟、穏、亞莎が居る。
「はわわ!め、冥琳さん、顔を上げてください!」
「冥琳さま~、お気になさらないで下さい~。こうなる事は予想してましたから・・・」
「何!?」
今、穏が聞き捨てならない事を言ったな。
「め、冥琳様!こ、今回の事は蓮華様、華琳様、桃香様からの指示だったので私達もお止めできなくて・・・・・申し訳ございませ~ん!」
「亞莎・・・そうか・・・三王の指示・・・・・・」
蓮華様と桃香殿まで一枚噛んでおられたのか。
「ボクは反対したのよ!」
「私も華琳様に苦言を呈したのですが・・・・・」
詠、稟・・・・・。
「そ、その・・・三王には何かお考えが有ったらしく・・・・・す、すみません・・・」
「そうか・・・気にするな雛里。あの方たちには私自らこの後きっちり話を聞かせてもらうからな。」
「あわわ!」
一体どういう
「所で今後の事なのだが、朱里。」
「は、はい!?」
「丞相の任を引き継いでもらいたい。」
「はわわっ!!?」
「私は暫く政務から遠ざかる事にする。事情はどうあれケジメを着ける必要が有るからな。」
「そんな~!今、冥琳様に抜けられたら私過労で死んじゃいますよ~。」
「情けないことを言う弟子だ。師を売った報いと思って諦めろ。」
「冥琳さん・・・私が丞相なんて・・・・・」
「案ずるな朱里。皆も朱里なら納得がいくだろう?」
皆が首を縦に振る。
「そうですね。朱里殿なら納得です。」
「うん、ボクも朱里なら任せられる。」
「私も朱里ちゃんにお任せです~♪」
「朱里さんなら安心してお任せできます!」
「えへへ♪朱里ちゃん、頑張って。」
「雛里ちゃんまで!?」
「不肖の弟子では不安があるしな。頼んだぞ、朱里。」
朱里はオロオロしていたが、やがて意を決してくれた様で毅然とした態度で私の顔を見る。
「分かりました。謹んで丞相の任、承ります。ですが、ひとつだけ条件が有ります。」
「ほう、どのような?」
「冥琳さんには丞相補佐と成って頂きます。」
「な!それでは意味が無いではないか!」
「そんな事は有りませんよ。丞相を退く事でケジメは着きます。改めて私が抜擢するのですから筋は通りますよ。」
はは、流石諸葛孔明。これは私の負けだな。
「了承した。謹んで丞相補佐の任、拝命しよう。但しこちらも条件が有る。」
「はい、なんでしょう?」
「つわりが酷い時と出産の時は休みを貰うぞ。」
「はい♪承りました。」
さて、これで一つ片付いたな。次は・・・。
「冥琳が仕事続けるなら、私も辞めるわけいかないわねぇ・・・」
珍しく黙って話を聞いていたかと思えば、そんな事を考えていたのか。
「当然だ。宮中、城下で孫伯符の名を最大限に活用出来る今の役職を解くわけにはいかん。しっかり働け。」
「そうねぇ、後宮に居るだけじゃ退屈しそうだし・・・・・翠にこの役職譲ろうかと思ってたんだけど・・・・・」
翠に?
「あの、雪蓮さん?何で翠さんなんですか?城下はまだしも宮中は翠さんの性格では務まらないと思いますけど・・・・・」
朱里の言うことは最もだ。騎馬の得意な翠に宮中警護は長所を殺すし、鎮西将軍の任にある翠を外す訳にはいかん。
「ほら、『
この場にいる全員の目が点になった。
「・・・・・・・・雪蓮・・・・それは『失禁後』と掛けているのか?」
「ねぇ♪ピッタリでしょ♪」
「下らん事を言うな!次は後宮に行くぞ!」
「え~?じゃあ、せめて役職名を変えてよ。なんか私がお漏らししたみたいに聞こえるじゃない。」
「朱里、こいつの言うことは無視していいぞ。それと皆への通達を頼む。」
「はい。」
「ほら、行くぞ雪蓮!」
「ぶーぶー!」
私は不満顔の雪蓮の手を引き政務室を後にした。
本城 後宮談話室
【雪蓮turn】
「蓮華様、華琳殿、桃香殿、この度はこの周公謹と孫伯符の為に『色々』とご配慮頂き有難う御座います。」
冥琳ったら、皮肉たっぷりねぇ。
桃香なんか怯えてるじゃない。華琳はそよ風程度にしか感じてないみたい。
意外なのは蓮華ね。ニコニコしちゃって。
愛紗はオロオロしてるし、思春も冷や汗かいて。
桂花は少しムッとした顔して、風は・・・また寝てるわ・・・・・立ったまま寝るなんて器用ね。
「もうそこまで突き止めたの。さすが美周朗♪」
「華琳殿。説明して頂けるのでしょうな?」
「あらやだ怖い。」
「ぷ」
「蓮華様!」
「ご、ごめんなさい、冥琳。でも私達も考えて出した答えだから後悔はしていないし、説明もするわ。」
「分かりました。お聞きしましょう。」
はぁ、やっと座れるわ。
全員が一度席についたところでお茶とお菓子が出された。
「雪蓮様、ご懐妊おめでとうございます。」
お茶と一緒に出されたその言葉の主は。
「大喬・・・ありがとう♪今日は後宮なのね。」
「はい。華琳様に呼ばれまして。今日は雪蓮様と冥琳様が華佗さんの診察を受けると聞いていましたから、華琳さまはこうなることを見越しておいででした。」
「ホント、やることに卒がないわ。」
冥琳には小喬が給仕してるわね。
「では冥琳、あなたが出した懐妊制限令だけど・・・」
「それは先程政務室で聞き及びました。あまり意味が無かったようですね・・・」
「すまぬ、冥琳殿!私が和を乱したばかりに・・・」
愛紗ったらそんなに責任感じなくてもいいのに・・・お腹大きくなったわねぇ。八ヶ月目だったかしら?
「いや、愛紗は気にしないでくれ。遅かれ早かれこうなっただろうさ。北郷たちの堪え性の無さを考えればな。」
「問題はそこなのよ!」
蓮華ったらヤキモチ?
「私達は一気に懐妊する者が増えると思っていたのにふた月前に風、先月に桂花のみ。いくらなんでも少なすぎるわ。」
「ですが蓮華様方が懐妊されるまで、誰も懐妊出来なかったのですからそれは・・・成程、それで天命ですか。」
「えぇ、一刀たち『天の御遣い』がどういう存在なのかを検証するとより明確に判ってくるわ。」
一刀たちを検証?
「そんなの閨で散々やってるんじゃないの?」
「雪蓮姉さま!今は真面目な話をしているんですっ!!」
「まあまあ、蓮華。ここは落ち着いて。私は雪蓮みたいな勘の鋭い人間の意見も聞きたかったから今とても楽しみなのよ。」
華琳が庇ってくれるなんて珍し~。
「まずはこれを見て頂戴。一刀たちとこの世界について私が考察した事をまとめた物よ。」
華琳が卓の上に置いた本は・・・『孟徳外史考』?
「華琳殿・・・・・この『外史』とは北郷たちの居た天の国に対するこの大陸の事と考えればよろしいのか?」
「その辺も含めて授業を始めますか。」
【冥琳turn】
これは参ったな・・・・・私は天の国の治世などに興味が惹かれすぎて見落としていたようだ。
「成程、これは面白い研究対象だ。」
「ちょっと冥琳。それは一刀たちに対して酷くない?」
雪蓮が不満そうに顔を曇らせた。
「そうか?相手のことを知りたいと思うのは色恋の基本だと思うが?」
「歪んだ愛情ね~。」
歪んでいるか・・・・・ふふ、否定はせんがな。
「所で雪蓮は恋のように北郷と出会った時に何も感じなかったのか?」
「あ、それは!」
ん?蓮華様は何を慌てていらっしゃるのだ?
「う~ん、わたしには無いわねぇ。そこまで強烈なのは。」
「それは当然よ。」
華琳殿が・・・・・硬い表情をしているな。
「雪蓮、貴女は一刀たちの記憶にある前の外史では・・・出会う前に死んでいるのよ。」
なに!?雪蓮が死んでいる!?
「あらら?そうなんだ。そりゃ覚えてる理由ないわね~♪」
「雪蓮!何を暢気な!!」
皆も唖然としているではないか。
「今だから白状するけどね、わたしはあの戦乱の時に死ぬんだろうなぁって予感が有ったのよ。」
「姉さま・・・それではあの頃私を次期王と言っていたのは・・・・・」
「う~ん・・・汜水関の頃まではね。一刀が三人揃った頃からその予感が薄れて来てね、洛陽に入った頃にはもう消えていたわ。」
ふむ、やはりその頃がこの『外史』の行方を決める分岐点だったという事か。
「雪蓮がそうだったという事は、私の方もその『外史』では言い辛い結果になっているという事か。」
「その通りよ・・・貴女は雪蓮の死んだ悲しみで心に隙が出来た所を『敵』に操られ、蓮華を裏切り一刀に宣戦布告。そして・・・」
「敗れて死んだか・・・・・」
「ちょっと華琳!その『敵』ってなに!?冥琳を操るって、五胡の妖術使い?」
「それよりももっと厄介な連中、妖術使いと言うより仙界の住人と考えた方がいいわね。一刀の命を執拗に狙ってきて、私も利用されたという事だから。」
「仙界の住人ねぇ。そいつらってここにも居るの?」
「そうねぇ、『敵』は居ないけど、『味方』ならいるわよ。」
「「味方?」」
「貂蝉と卑弥呼よ。」
「・・・・・・・・・・・・ああ、納得。」
二人は仙界の住人だったのか・・・・・。
「貂蝉と卑弥呼の話では『敵』は『この外史』に現れてはいないそうよ、まだ。」
「まだ・・・・・か。備えをする時間は?」
「最低でも十年は大丈夫という事よ。それでも普段から警戒は怠らないけど。」
十年か・・・・・ふむ。
「成程、それでここに来て方向転換か。」
「ええ、今の内に子供を産んで育てた方が安全と思えるわ。」
「ですが、無理やり私に子を宿らせる様な策をせずとも・・・・・」
「それについては素直に謝るわ。貴女達に気を回したつもりだったのだけど、裏目に出てしまったわね。」
華琳殿の言葉に雪蓮が応える。
「そうそう。隠し事なんてしないで最初から言ってくれたら良かったのよ」
「雪蓮・・・普通はこの様な話を聞けば動揺する物だ。お前が異常なのだよ。」
「え~!?」
「とにかく貴女達は二人が同時に懐妊したことで私の仮説が真実味を帯びて来たわ。どう?もっと議論してみたくはない?」
ふふ、面白い。こういう知的好奇心をくすぐる話は久しぶりでワクワクしてくる。
「わたしは遠慮しとくわ。そういう難しい話は冥琳にお任せ♪赤ちゃん達の顔を見に行かせてもらうわね♡」
そう言って雪蓮は蓮華様と桃香殿、思春、愛紗を連れて育児室に向かい。
私は華琳殿、風、桂花、大喬、小喬と外史について熱く語り合った。
後宮内個室
【雪蓮turn】
「赤ちゃん達可愛かったわよ~♪」
シャオの産まれた頃を思い出しちゃった。
わたしは寝台に大の字になって、冥琳は椅子に座って華琳から借りたさっきの本を見ていた。
「私も後で会いに行こう。赤ん坊を抱く感覚も知っておきたいしな。」
「冥琳ったら、こんな時までそんな言い方して・・・冥琳は頭で考えすぎなのよ。」
「誰かさんが感覚だけで行動するからこんな性分になったんだ。」
私達は睨み合ったけど、すぐに吹き出して笑い出した。
「何だろうな・・・今日は色々有ったが、とても心地いい。」
「そんなの嬉しいからに決まってるじゃない。わたし達は一刀の子を身籠れたのよ♪」
「そうか・・・そうだな・・・・・・・・・そうだ、雪蓮!あの宴の夜の事、まだ私は怒っているのだぞ!!」
「えぇ!?」
「この子を授かった時の大事な思い出だというのに、殆ど覚えていない!どうしてくれる!?」
冥琳が真顔で怒ってる。けど・・・・・。
「そっか・・・冥琳が怒ってたのはそこだったのね。それは本当に悪かったわ!ほら、この通り!」
寝台の上で土下座をしていると、冥琳のクスクス笑いが聞こえて来た。
「もういいわよ、雪蓮。許してあげる。だけど二度とこんな真似はしないでよ。」
冥琳の口調が変わった。これは私にしか見せない冥琳の姿。
「うん、わかったわ。」
冥琳がわたしの所に来て、寝台に腰掛ける。
「こうして私達が生きているのも、北郷たちのお蔭なのかもね。」
「かもじゃないわよ。一刀たちが居なかったらわたし達はきっと死んでいた。」
わたしの勘がそう告げている。
「雪蓮がそう言うのなら間違いないわね。北郷たちには感謝しないと。こうして子供を授けてくれたのだから。」
冥琳が目を瞑ってお腹に手を当てる。
わたしも同じ様にお腹に手を当てた。
手に伝わって来るものは自分の体温だけ・・・・・でも、間違いなく感じる存在感にわたしは囁く。
「頑張るよ・・・わたし・・・」
同時に扉を叩く音が聞こえた。
「来たか、待たせ過ぎたかな?」
「『待ちわびた』の間違いじゃないの?」
「さてどうだかな。」
もう!素直になればいいのに。
おまけ壱
雪蓮の娘
冥琳の娘
五歳
房都近郊河川 特設水練場
【冥琳turn】
「いい?冥龍、冰蓮、私がやって見せるから覚えるのよ。」
「はい、かかさま!」
「うん!冥琳媽媽♪」
私は先程捕まえた川虫を釣り針に通して見せる。
それを真剣な顔で見ている子供達が面白くて思わず頬が緩んだ。
私はこの水練場に毎年何度か足を運んでいる。
殆どが雪蓮の思いつきで来るのだが、今日は私が数日前から計画していた。
季節は初夏。しかし冷たい渓流の水のため、川岸の風はひんやりとしている。
「覚えたよ、かかさま。」
「わたしもー!」
二人共飲み込みが早い。私がやって見せた通りに餌を付けた。
「ととさまは準備できた?」
「おう、バッチリだぞ・・・・・・・よかった・・・ちゃんと出番があった・・・」
「ととさまなに言ってるの?」
「へんな赤爸爸ぁ~。」
一刀は時々妙な事を口走るな。
「気にしない気にしない♪じゃあ、まず俺がお手本を見せるぞ。」
そう言って姿勢を低くして川面に近付く。
「(いいか?渓流の魚は警戒心が強い。特にこの川の水は澄んでるから魚に姿を見られないように気を付けるんだ。そして魚が潜んでいそうな岩陰の上流に餌を落し・・・・・)」
小声で説明する赤一刀に、子供達も緊張して水中を覗き込む。
私の位置からは釣り糸に付けた目印の赤い毛糸が・・・水中に消える!
「(ひょっ!よし!一発だ!)」
赤一刀は川岸に片膝を付けたまま右手で竿を高々と上げて暴れる魚を誘導していく。
左手にタモ網を握ると掛かった魚を一気にごぼう抜き、自分めがけて飛んでくる魚をタモ網で受け止めた。
そのまま私の所に戻って来てようやく背筋を伸ばした。
「相変わらず強引な釣り方だな。」
「ふふ、伊達に釣りキチ三平を読破していないぜ!」
「爸爸スゴーイ!」
「ととさまカッコイイ!」
子供達は目を輝かせて父親を見上げている。
「四、五匹が餌に向かって飛び出したから、同じ場所を狙ってごらん。」
「「うん!」」
赤一刀が指差した場所に、冰蓮と冥龍が手本をしっかり真似て近付いて行く。
四人で釣り上げた数が十を越えた所で雪蓮が森から戻ってきた。
「たっだいま~。」
「おかえり、媽媽!」
「おかえりなさい、雪蓮かあさま。」
「お帰り、雪蓮。また、沢山とってきたなぁ。」
一刀が雪蓮の肩に担いだ麻袋に苦笑している。
「いやぁ、さすがに今の時期じゃ山菜くらいしか無いわね。」
そう言って大きな麻袋を開いて見せると、中には薇(ぜんまい)、蕨(わらび)、独活(うど)、他にも様々な山菜が詰まっていた。
山菜には姿のよく似た毒草が有るが、雪蓮は一度として間違えた事が無い。
本人曰く『嫌な感じがする』かららしいが、これは持ち帰って華琳殿や流琉に土産とした方が良いだろう。
「だから言っただろう。今出来る調理では子供達の口に合わんぞ。それは持ち帰って・・・・・おい雪蓮、そっちは何だ?」
もうひと袋、雪蓮の腰に下げた小さな麻袋に目が止まった。
「んふふ~♪これこそ持って帰って今晩一刀たちに食べさせようと思ってね。」
「え~?爸爸たちだけズルい~。」
「冰蓮、にがいのとかだったら、あたしたち食べれないよ。」
「にがいの?じゃあいらない!」
ふふ、現金なものだ。しかし中身は何だ?
「(冥琳、これこれ♪)」
こっそりと袋の口を開いて中身を見せてくれる。
「(ほほう、これは・・・)」
中には
全て
「ねえ冰蓮、冥龍、あなたたち妹が欲しくない?」
「ぶふっ!!」
雪蓮の発言に、水を飲んでいた一刀が咽せた。
「「いもうとならたくさんいるよ?」」
二人は不思議そうに小首を傾げている。
「う~ん。そうじゃなくて、媽媽とかか様が産むあなたたちの本当の妹よ。」
「あ、それって
冥龍には理解できた様だな。
「そうそう♪」
二人は一度顔を見合わせると、笑顔になる。
「「うん!ほしいっ♪」」
「ちょ!まっ!」
「という事だから、とと様は今晩頑張ってくれ。」
慌てる赤一刀を制しながら、私は自然と笑が溢れる。
病気を患った戦乱の頃は、死をも覚悟した私。
一刀たちの記憶にある外史では子を成す前に死んだ私と雪蓮。
この望外の幸せを私達は今、満喫している。
おまけ弐
眞琳 四歳
房都のとある茶店
【紫一刀turn】
時刻はお昼時。
俺は最近できた茶店に来ていた。
新規開店前から沙和が目を付けていただけあって、かなりオシャレで高級感のある店だ。
まあ中華風だけどね。
横浜の中華街に在る高級店の様な内装と言えば分かり易いだろうか?
俺もテレビでしか見たことはないけど。
「でも良かった・・・・・俺にも出番が有って・・・・」
「何を言ってるの、一刀?」
テーブルを挟んだ向かいに座る華琳が呆れた顔をしていた。
「時間的には何年も間が有るから気にしない様に。」
「???」
「華琳!その服似合ってるよ!作った甲斐があるなぁ。」
華琳の今着ている服はタイトスカートのスーツ。色は紺に近い濃紫・・・・・そう、俺があの日夢で見たスーツを再現したのだ。
「ありがとう一刀。」
「媽媽、カッコイイよ!」
華琳の隣で子供用の椅子に座っている眞琳が目をキラキラさせて華琳を見ている。
夢で見た眞琳はもっと大きくなっていたけど、夢の中で着ていた赤いワンピースを今の眞琳に合わせて作ってあげた。
「ありがとう眞琳♡」
華琳が眞琳の頬にキスをする。
こんなに甘々で親バカな華琳を見る日が来るなんて、昔は思いもしなかったな。
「どうしたの、一刀?・・・・・もしかして私と眞琳の仲の良さにヤキモチ?」
眞琳は悪戯っぽい笑顔で言う華琳と苦笑いの俺の顔をキョロキョロと交互に見ていた。
そして何を思ったのか椅子から降りて俺の所へやってくる。
「爸爸、だっこ。」
「え?ああ、いいぞ!それ!」
俺は眞琳を抱き上げて膝の上に乗せる。
「爸爸これでさみしくない?」
「ああ!もう最高の気分だ!」
ホント、眞琳は優しいなぁ♪
和やかな雰囲気の中、給仕の女性がデザートを持ってやってくる。
「お待たせ致しました。こちらが当店で一番人気の甘味でございます。」
出てきたのはフルーツ蜜豆。安仁豆腐とは違い透き通った寒天が見た目にも綺麗だ。
給仕の女性は俺の膝の上にいる眞琳を見て顔を綻ばせる。
「ほら眞琳。あ~んして。」
「あ~ん。」
俺の手にした小さなレンゲで寒天と蜜を掬って眞琳に食べさせる。
「甘くておいしい♪」
お、眞琳も気に入ったみたいだ。
「うん。私が教えた事に独自の工夫をしてあるわね。合格よ。」
「ありがとう御座います、曹相国様!」
なに!?
「華琳!これって華琳が教えたの!?」
「何言ってるの?『寒天』自体、一刀が私に教えたんじゃないの!」
「へ?・・・・・あ、そう言えばそんな事を言ったような・・・・・」
そもそも寒天って発明されたの江戸時代だっけ?
「爸爸っておかしのこともしってるんだ!すごーい♪」
「まあ!ではこれは天のお菓子だったのですね!ありがとう御座います!皇帝陛下のお知恵でこのように店を構え繁盛させて頂けました!!」
給仕じゃなくて女将さんだったのか。
「い、いや・・・・・別にそんな・・・」
「是非特別なお礼をさせてください!丁度いま、試作している焼き菓子が有るんです。こちらをお土産に献上いましますのでお召し上がり下さい。(今夜にでも。)」
最後の部分は小声で囁かれた。夜?
店を出るとき例のお土産の入った箱を受け取った。何やら女将さんがニヤニヤしてるのが気になったけど・・・・・。
「一刀、一体何を貰ったの?」
「さあ?・・・・・あれ?華琳宛の手紙が付いてる。」
俺がその手紙を手渡すと早速開いて読み始めた。
「材料が書かれているわ・・・・・なるほど。これは眞琳には食べさせられないわね。」
「え~?」
「眞琳には媽媽がこれと似たお菓子を作ってあげるわ。」
「うわ~!媽媽だいすき!」
眞琳は華琳に抱きついた。
そして華琳から材料の書いた紙を渡され見てみるが・・・・・。
『
・・・・・なんか解るのが冬虫夏草、胡桃、竜胆の葉くらいだな。この『淫羊霍』ってのが明らかに怪しげだ・・・・・そうなるとこの『陽起石』の『陽』ってアレの事・・・陽起!?
改めて箱を見ると商品名なのか『夜菓子』と書かれていた・・・・・。
つまりこれは『うなぎパイ』的な物なのか?
「ねえ一刀、それは今夜赤一刀と緑一刀、蓮華と桃香も呼んでみんなで食べましょうか?」
笑っている所を見ると冗談を言っているだけの様だな。
冗談だよね・・・・・・・。
あとがき
前回の恋の話とは打って変わって本編側に一刀が出てきませんでしたw
そして雪蓮はとってもフリーダム。
当初考えていたおまけ壱はもっとしっとりした話にするつもりだったのに
雪蓮のお蔭でしっぽりする話に・・・。
冰蓮の『冰』は『氷』と同じ意味の漢字です。
そして冥琳の娘の真名ですが
一番最初に思い浮かんだのは『冥夜』でしたw
さすがにこれはまずいと思い悩んだ末にでたのが冥龍です。
雷起はかつてアージュファンクラブに入っていたほど転んでいました。
(一番好きなヒロインは大空寺あゆでしたがw)
おまけ弐は
Pixiv側イナバウアー様からのリクエスト
「華琳と眞琳のお話を」という事で書かせていただきました。
因みに鹿鞭と野驢鞭ですが
蓮華の薬に使ったのが虎鞭、竜鞭と言えば何の事だか判ってもらえると思いますw
子供達が増えてきましたので名前の出て来た子を表記します。
1)華琳の長女
2)桃香の長女
3)蓮華の長女
4)思春の長女
5)愛紗の長女
6)風の長女
7)桂花の長女
8)雪蓮の長女
9)冥琳の長女
10)祭の長女
11)恋の長女
白蓮の長女
春蘭の長女
秋蘭の長女
A)鈴々の長女
白煌、光琳、鈴蘭が何番目の子になるかは皆様のリクエスト次第ですw
《次回のお話&現在の得票数》
☆美羽 9票
という事で次回は美羽に決定しました。
以下、現在の得票数です。
紫苑 9票
蒲公英+翠8票
麗羽 6票
朱里+雛里5票
桂花 4票
凪 3票
猪々子 3票
穏 3票
桔梗 3票
蓮華 2票
白蓮 1票
亞莎 1票
流琉 1票
七乃 1票
※「朱里と雛里」「蒲公英と翠」は一つの話となりますのでセットとさせて頂きます。
リクエスト参戦順番→ 蓮華 凪 蒲公英+翠 紫苑 朱里+雛里 麗羽 猪々子 桂花 穏 桔梗 白蓮 亞莎 流琉 七乃
引き続き、皆様からのリクエストを募集しております。
リクエストに制限は決めてありませんので、何度でも何人でもご要望いただけるとありがたいです(´∀`)
よろしくお願い申し上げます。
Tweet |
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追加するフォルダを選択
得票数6の冥琳+雪蓮のお話です。
懐妊確認後+おまけ二本(一本は華琳母娘のお話)です。
引き続き、どの恋姫メインの話が読みたいのかリクエストを募集しております。
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