初めに混沌という塊があった。
ハジマリのヒトである盤古が混沌を胎動させ、太古が生じさせた。
太古は時空であり、宇宙であった。
そして宇宙は無極であり、太極であった。
太極は陰と陽から成っており、陰陽それぞれ２つの要素、四象からなる。
四象は虚実と清濁を顕す。
盤古は虚と清から天を、実と濁から地を創生する。
天地創造により、万物が生じた。
万物の中に、霊長類の人が生まれている。
他の生物より力も知も劣り、万物の中で一際数が少なかった。
数が少なかった人は、一カ所に集まり、数を減らさないように努めていた。
そして、ついに後の世にて有徳の賢人と称されるヒトが現れた。
初めに現れたヒトは有巣と呼ばれ、危険から身を守る術と安心して休める場所を教えた。
次に現れたヒトは燧人である。この時代の人は収穫した食物をそのまま食べる生活を送っていた為、病に倒れる者が耐えず、食べ残しをそのままにしている状態であった。この生活を改める為、火の使い方を教えた。
次に現れたヒトは伏羲であり、農耕や牧畜を教えた。
そして人という種が守るべき秩序を教え、原始的な人間社会の構築に努めた。
伏羲出現後から時代を経た後、人は万物の中で有数の数を誇るようになっていた。
しかし、数が増える事によって同じように死に方をする者が増え、この出来事に恐れ戦いていた。
この出来事を見かねたヒトは、４番目の神農を人の前に送り出し、「薬草」と「医術」を教えた。
神農の御業によって、爆発的に数を増やした人は、伏羲が定めた秩序を守る事を止め、本能の赴くままに生活しだした。
この状況を嘆いたヒトは、最後の軒轅を人の前に送りだした。軒轅は人々の前で「伏羲が説いた人の道」を再び説き、より詳しい秩序を与え、これに加えて人として守るべき法を定めた。
人類は５人のヒトの教えによって、万物の中でも有数の力と数を誇るようになり、ヒトの教えを遵守し、人類を導く存在が人類の中から生まれる。
少昊・顓頊・高辛・唐堯・虞舜と続き、万物の中でも異色な集団組織を形成されていくことになる。
虞舜の統治下で、治水において多大な功績を挙げた姒禹が虞舜亡き後、人類を束ねる王となった。
姒禹は、有徳の賢人に後を任せる事をせず、実子に権力を継承させ、実子を補佐させる為に賢者を招聘する事にした。自分の血族に人類を纏める役割を担わせ、多くの賢者による合議によって人類社会を動かしていく事を理想としていた。姒禹は自身血族による王朝を「夏」とした。
しかし、姒禹の跡を継いだ姒啓は、父王の意志を継がずに有徳の賢人に王位を譲る。
王位を譲られた者の名は、益と呼ばれていた。この益は、王位につく前は世界で最も徳の高い賢人と賞されていたが、王冠を戴いた後は伏羲・軒轅が定めた秩序や法を廃止し、自らが赴くままの統治を行う様になる。
この統治方法が、巧く行けば良かったのだが、大混乱を招くだけであって、有益な事は一つもなかった。
この大混乱に怒り心頭になった統治体制を支える者たちは、人を集めて実力を持って益を追放する事に成功する。
後の世に力を持って王を廃位する事を放伐というようになる。そして益を放伐した者たちは、有徳の賢人であった姒禹が指名した姒啓に王位を授かる様に進める。
これを受けた姒啓は、王位を継ぐ事を決めた。しかし、先々代の意志を蔑ろにして世界を混迷する情勢にしてしまった事を悔いて、偉大なる姒禹の姓を名乗ることをはばかり、夏后と改めた。
夏后啓以降の王も善政を敷き、後の世にまで夏王朝の名を残すことに成功する。
栄華を誇った夏王朝も、一七代の王を数える頃には、夏后の血脈に世界を纏めるだけの求心力が無くなりつつあった。この事を敏感に感じとっていたのは、夏王朝一七代王夏后履癸であった。履癸は聡明と謳われる側室の末喜と忠臣であり賢臣である関龍逢に相談した。
当時、夏王朝随一の有徳の賢人として名が知られている大豪族の子履に白羽の矢がたった。
自身も賢人でありながら、世に名高い賢人伊尹を召し抱え、王朝随一の国力を誇っていた。
履癸は、関龍逢と末喜の進言を受け入れ、子履を王都斟尋に参内させ、禅譲を申し渡す。
しかし、子履は禅譲の申し出を丁重に断り、自国である商に戻る。諦めきれない履癸は、関龍逢を商に派遣し、再び禅譲の意志を伝える。
この時も子履は丁重に断り、関龍逢に護衛を付けて、王都斟尋に送り返している。
それでもまだ諦めきれないどころか、王位に相応しいという思いが高まり、履癸は自ら商に向かい、禅譲の意志を伝える。
この時、商の領民だけだけではなく、王都の住民までわざわざ商の宮殿まで行き、子履が王位に就く事を望んでいると声高らかに叫んでいた。
子履は王の意志と臣民の要望に根負けし、履癸から王位を譲り受けることに決めた。
王都は斟尋から亳に遷し、国号を領土の名であった商とした。そして、歴代の王がしてこなかった王号を制定し、湯王と名乗った。
湯王が開いた商王朝は三〇代六〇〇年という長きに渡って人類を束ねる王朝となった。
しかし、商王朝も例外ではなく、子という血脈に求心力が衰えつつあった。
この物語は、求心力を失いつつある商王朝末期の話である。
この作品について報告する
商王朝末期から周王朝成立後までを私的解釈を織り交ぜて構成するお話。