「ゲスども。それ相応の報いを受けてもらうぞ。一生悪さができないようにしてやるからな」
リズム達を乗せ森の奥に向かうアマテラスとツクヨミを見送った俺は、
「火竜兄弟(ファイアドラゴンブラザーズ)が来たわよ~!!」
「皆、逃げるんだ~!! いつもの場所に向かうんだ~!!」
「敵味方は関係ない。皆、助け合って逃げるぞ~!」
大小様々な獣たちが皆同じ場所に向かっていく。
弱肉強食の世界で珍しい光景もちらほら。
「グハハハ。下等生物が逃げていくぞ兄者」
「そうだな。我らに怖れをなして逃げまどう者を見るのは、いつも爽快だな弟者」
それから数百メートルほど進んだ時、そんなゲスどもの声が聞こえてきた。
俺は歩みを止めて様子を窺った。
まだ獣たちが逃げている。
ここで戦闘を始めれば否応なく巻き込まれてしまうが、なるべくそれは避けたい。
「お? 兄者、こんなところにまだ逃げていない奴らがいるぞ」
「なに? それは聞き捨ててならないことだぞ弟者。見せしめにブチッと殺してやれ」
「おう。兄者」
ち・・・・・・っ! 逃げ遅れた獣がいたようだ。
これは様子見だと言ってる場合ではないぞ。
俺は素早く“レムオル”,“ビオラ”の呪文を唱えた。
そして、ゲスどもの方に向かいながら“ドラゴラム”の呪文を解除した。
「グヘヘヘ。ここにいたのを後悔しやがれ下等生物が!!」
「ヒ・・・・・・ッ!?」
ゲスの
ち・・・・・・っ!
俺は素早く尾を伸ばす。
間に合え・・・・・・!!
**********
「グヘヘヘ。ここにいたのを後悔しやがれ下等生物が!!」
「ヒ・・・・・・ッ!?」
力を誇示するためだけに森へと降りてきた、火竜山脈をねぐらにする火竜兄弟の弟竜が、兄竜の言葉を受けて、木の根元にあいた穴の中に隠れていた熊の親子めがけて、するどい爪を振り下ろしてきた。
母熊は叫び声を上げながらも、我が子を守ろうと身体を背にした。
しかし、身体に感じるはずの痛みが全くこない。
疑問に感じた母熊が、おそるおそる目を開けると、そこにはするどい爪を振り下ろそうとした格好でピタリと止まっている弟竜がいた。
「どうした? 弟者。このままでは見せしめにもならないぞ?」
「いや兄者。腕が動かんのだ。なにがどうなってるのか」
兄竜はなかなか親子熊を殺さない弟竜に催促するが、弟竜は腕が動かないという。
これはどういうわけだろうか・・・・・・。
『罪深き火竜どもよ。これ以上の狼藉はゆるさんぞ』
「「だ、誰だ!?」」
どこからともなく聞こえてきた声に驚いた兄弟竜たち。
辺りを見回すが誰もいない。
しかし、兄弟竜たちには、ハッキリと聞こえていた声の主を親子熊そっちのけで探し始めた。
母熊は兄弟竜たちが自分たちのことを忘れているのに気付いて、子ども達を背に乗せ一目散に森の奥に逃げだしていった。
ピシャ~ ゴロゴロ ピシャ~ ゴロゴロ
その親子熊が森の奥に消えた瞬間、空に雷雲が広がり稲妻がほとばしっていく。
「我は神竜。罪深き者どもに鉄槌をくだす者なり」
「「・・・・・・・・・・・・」」
そして、その中から兄弟竜が生まれてこの方見たこともない竜が現れた。
しかも兄弟竜たちよりも、大人の火竜たちよりも巨大な竜だった。
その竜の出現に兄弟竜たちは口をぽか~んと開けて、その巨大竜を見上げていた。
**********
「どうした? 弟者。このままでは見せしめにもならないぞ?」
「いや兄者。腕が動かんのだ。なにがどうなってるのか」
ふぅ。なんとか間に合った。
たくゲスの中のゲスだな、こいつら。
軽く痛めつけて脅しをかけるだけのつもりだったが、もう容赦はせん。
「罪深き火竜どもよ。これ以上の狼藉はゆるさんぞ」
「「だ、誰だ!?」」
“レムオル”の呪文で姿を消しているので、ゲスどもは姿なき声で驚き辺りを見回していく。
そのスキをついた熊の親子たちが逃げ出すのを横目で見守りながら、俺は“いなずま”を発動させた。
ピシャ~ ゴロゴロ ピシャ~ ゴロゴロ
熊の親子たちが森の奥に消えていった瞬間、空を雷雲が覆い稲妻がほとばしっていく。
俺は身体を最大にして、その雷雲にもぐりこんだ。
そして、“レムオル”の呪文を解除し雷雲から姿を現した。
「我は神竜。罪深き者どもに鉄槌をくだす者なり」
「「・・・・・・・・・・・・」」
その演出によって、ゲスどもは口をぽか~んと開けて、俺を見上げていた。
ふぅ。さて・・・・・・、場所を変えるか。
ここだと森に多大な損害を与えかねん。
「「ぐはっ!?」」
俺は素早く尾を動かして、ゲスどもの身体を拘束する。
そして、強くしめつけながらゲスどもを持ち上げる。
火竜といっても幼生だからな。
軽いもんだ。
「「は、はなせ・・・・・・っ!!」」
「ぶぉおおおおおっ!!!!!!!」
「「!!」」
拘束を逃れようともがくゲスどもを“おたけび”で怯ました俺は、はるか遠くに広がる砂漠の方へと、ゲスどもを“バシルーラ”でふっ飛ばした。
そして、“いなずま”を解除した後、“レムオル”の呪文を唱えてから砂漠に向かった。
**********
兄弟竜たちから逃げ出した森の獣たちは、全員森の奥の小高い丘に集合していたが、雷雲とともに現れた巨大な竜に、呆気にとられていた。
「アマテラスさま。あれは・・・・・・」
「あの姿こそシェン様・・・・・・、神竜さまの本当のお姿よ。火竜兄弟を懲らしめるために、あの姿になられたようね」
その丘の一画にある巨大岩の上にいたリズム達も呆気にとられていたが、アマテラスの言葉で色めき立った。
そして、巨大な竜となったシェンが、その尾で兄弟竜を拘束し持ちあげたのが見えると、歓声に変わった。
それが他の獣たちにも伝染していく。
「ぶぉおおおおおっ!!!!!!!」
『『『『『おおっ!!』』』』』
シェンが放った“おたけび”で、獣たちは声がそろう。
更に兄弟竜が飛ばされたのを見て、一斉に歓声を上げた。
そして、猛獣たちが、小動物たちが、鳥たちが、全ての森の獣たちが喜びあって自分たちの
「さて私たちも帰ることにしましょうか。送っていきますよ」
「で、でも神竜さまをお待ちしませんと」
「それはあなた方の住処で待ってれば良いのです」
「そうだよ。シェンさまは今、火竜兄弟を懲らしめていらっしゃってる。でも、それが終わったら戻ってくるよ、必ずね」
アマテラスとツクヨミの説得に頷いたリズム達は、他の獣たちとともに自分たちの住処に帰っていった。
もちろんアマテラスたち
**********
砂漠に到着した俺は、“レムオル”を解除して起き上がろうとしているゲスどもを見つめる。
「大丈夫か? 兄者」
「ああ。大丈夫だ弟者」
ゲスどもは背を向けているために、俺に気付かず話し続ける。
「たくあいつは誰なんだ? 兄者」
「分からん。だが、もうやられはしないだろ? 弟者」
「ああ。俺らは火竜兄弟。この世に敵う者などいない最強だからな!!」
はぁ・・・・・・。黙って聞いてりゃ・・・・・・。
なにがこの世に敵う者などいない最強だ・・・・・・。
ただの弱い者いじめなだけじゃねぇか・・・・・・。
それが俺の怒りのボルテージがMAXに達した瞬間だった。
「・・・・・・力に溺れし火竜どもよ・・・・・・」
((ビクッ!?))
「自らを最強と名乗るのならば、その力を我に示すが良い!!」
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死神のうっかりミスによって死亡した主人公。
その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。
第十三話、始まります。