No.501840

ゲイムギョウ界の守護騎士

ユキさん

大量虐殺事件から一日。
すっかり気分を切り替えた一向は鍵の欠片蒐集を一時停止し、
事件の犯人探しをすることに。
同刻、とある雪原で
聖騎士と魔女の命を懸けた戦いが幕を開けていた!

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2012-10-29 21:07:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:660   閲覧ユーザー数:645

第24話 悪を断つ騎士

 

翌日

 

 

「へっくしょん!」

 

「まぁ、当然といえば当然よね」

 

宿のベッドにはネプテューヌが風をこじらえ寝込んでいた。

昨晩、「雪景色を目の前に遊ぶのを禁じることは神が見逃してもこの私が許さない!」と

張り切って熱弁したのが事の発端だった。

すかさずアイエフが冷めた目で「アンタは何様のつもりよ...」とツッコミをしたが

ネプテューヌはそれを無視。

コンパとライカを連れ外に出て行ってしまった。

その後帰ってきた頃には何故かネプテューヌがびしょ濡れ。

ライカ曰く「スケートの最中氷が急に融解し始め、ネプテューヌだけが沈没しました」らしい。

 

「遊びすぎはさすがに神様の怒りに触れたんじゃねぇか?」

 

「あううううう...わ、わるくないもん!」

 

タイチの悪戯な笑みに対し、かけ布団を深く被りぶつぶつと未だに文句を言っている。

謎の大量虐殺事件から数日。

一向は鍵の欠片捜索を一時中断し、事件の犯人探しを始めようとしていた。

とは言っても、パーティー内の雰囲気はいつもと変わらずふんわりしていた。

 

「とりあえず、ネプテューヌは待機だな。かと言って一人にするわけにもいかないしな」

 

出来るだけ戦力を削ぎたくないという面では主力を失ってしまった分、

ここでタイチが抜けるわけにも行かない。

数分間の話し合いの後今回の捜査はタイチのみとなった。

皆は凄く反対していたが、タイチがその場を旨く言いくるめ有無を言わせなくしたのだ。

 

 

「まずは様子見といくか」

 

 

 

 

 

雪原の中に立つ一つの小さな小屋。

その小屋に一人の銀髪ポニーテールで白銀の甲冑を身に着けた少女が、入っていった。

小屋に入るなり、部屋の隅っこに移動し床を軽く脚で突くと、

それに答えるかのように少女の一歩手前の床が消えた。

正確にはそこだけが抜け落ちた。大きさとしては人が一人入れるかぐらいの物だった。

少女は躊躇いなくそこに飛び込む。

 

「よく来てくれましたね、セフィアさん!」

 

地面に着地すると同時に周りの電気が一斉につき、眼鏡の男がわざとらしく腕を広げ少女の呼んだ。

 

「黙れ、私の名を呼んでいいのはあの人だけだ」

 

素早い抜刀をし、男の首筋に切っ先を突きつける。

少女は殺気のこもった目で男を一瞥すると「やれやれ」といった感じで

男は少女の殺気を物ともせず、一歩引いた。

男の態度に対し、少女の怒りは爆発寸前となっていた。

そんな彼女を嗜めるように男はズボンのポケットから一枚の写真を取り出す。

そこに写っていたのは街中を歩いている一人の黒髪の青年と白銀の少女。

 

「.......。用件は何だ?」

 

少女の声音が先程より柔らかさがあった。だが、依然として目では男を殺そうとしていた。

男はそれに満足したのかさぞ嬉しそうに口端を吊り上げ

 

「アナタは女神の存在が邪魔と言っていましたね。

 ならば、今夜私たち過激派ギルドと共に協会へと強襲するのはどうでしょうか?」

 

男の笑みに怒りを覚えながらも、少女はただ自分に言い聞かせ続けた。

(これでこいつ等とは縁が切れる。それにあの人のことが気がかりなのはかわりがないわ)

 

「了承した。私が分かりやすい合図を送るから、お前達は近くで待機していろ」

 

それだけ言うと少女は跳躍し、その場から消えた。

 

 

すぐにバタン!!という強烈な音がし、小屋が微小ながら揺れる。

少女がドアを勢いよく閉めたものだろう。

男はその場にあったイスに腰掛け、表情を恍惚としていた。

 

「ついにこの時が来ました。私たちは女神のいない世界を作る!!」

 

 

 

雪景色の中、二つの人影が対峙していた。

ひとりは小屋を訪れた騎士少女だ。もう一人は妖艶な笑みを見せる魔女らしき格好をした女性。

お互いが手に持つのは同極の色をした白銀の槍剣と白銀の聖剣。

二人の頭上の雲海だけが晴れ蒼色の空が浮かんでいる。

刹那、消して交わらない光と澄んだ光が衝突した。

 

「セフィア!私の邪魔をするな!」

 

「誰も邪魔なんかはしてないわ。障害は切り捨てるだけよ」

 

槍剣で激しく突の連撃を放つ魔女に対し、鎧を纏った少女騎士は鎧の重さを物ともせず素早い動きでそれらを掻い潜るようにして避ける。

魔女はその動きに焦燥をより強め、苦虫を噛んだような表情をしていた。

 

「貴方には私たちの全てを奪った罰としてここで消し飛ばしてあげるわ」

 

「調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

魔女が絶叫にも似た声を上げると、槍剣からくすんだ光の閃光が奔った。

音速振動を繰り出す槍剣の四つ刃が魔力を纏い、

仮初めの刃の部分が魔女の身の丈の二倍の物となる。

少女は距離を取り、剣を腰溜めしながら地面を這うように神速で駆けた。

 

「セフィアァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

「貴方との因果はここで断ち切らせてもらう」

 

魔女の爆発的な衝撃波を乗せた超振動の突が少女に襲い掛かる。

少女は勢いを殺されるにはいかない為最低限の動きで避けようとするが、

鞘を押さえていた左腕に魔女の刃が振れ鎧ごと左腕を切り裂かれる。

 

「ぐう―――っ!」

 

苦悶の声を上げるが少女の勢いは消して止まることはなかった。

間合いを完全に取りここからは少女の独壇場だ。

 

「一閃!!」

 

抜刀の勢いはいざ知れず。

白銀に輝く刀身はすれ違いざまに魔女の腹を容赦なく払った。

そして、少女はさらにそれを続ける。

聖剣を持ち直した少女は抜刀はせずともすれ違いざまの一閃を魔女の身体の至る所に浴びさせる。

 

「―――――――――――――――――――!!!!!」

 

魔女の血飛沫が上がり、空気に溶けるように消え、また上がり、消えを繰り返す。

 

「次で終わらせる」

 

再び少女は魔女から距離を取り、剣を鞘に収める。

左腕からただ流れる血で既に少女の腕は真っ赤だ。

剣を腰溜めし、脚には全身全霊の力をかけていく。

 

ズドンッ!!

 

爆発音と同時に少女はその場から消えていた。

言うなれば今の爆発音は少女の足裏から放出された膨大な魔力である。

神速の域を出た少女は空中に躍り出て身体を捻り再び抜刀の姿勢に入る。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

上空から地面に叩きつけるように抜刀した瞬間刀身が煌びやかに光をあげる。

鬼の形相と共にまずは豪快に縦に切り裂き、巨大な洸聖の刃が魔女に浴びせられる。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

「蝕まれた身体は聖の力を激しく拒絶する」

 

少女の斬撃と同時に大量の雪と魔女の黒い血飛沫が舞い上がる。

姿勢を整えた少女は剣を横に構え聞き取れないほどの速さで何かを呟き、

左手で刀身の付け根から切っ先までを素早くなぞる。

その瞬間、洸聖の刃が計り知れないほどの大きさとなり、

同時にとてつもない魔力の奔流が暴風のように吹き荒れる。

ここまでの動作はコンマ一秒にも満たない。

 

「強制解放<フォルテ>――――聖刃十閃!!」

 

少女の最大を込めた横薙ぎの一撃。

空間を、時間をも断ち切る一閃が魔女の身体を武器ごと容易く切り裂いた。

 

「ジ・エンド」

 

少女が洸聖の刃を消し元の剣を鞘に収めると、

先程の十字に切りつけられた箇所から止めといわんばかりに止め処もない聖の魔力が溢れ出た。

声にならない叫びを上げる魔女に対し、

少女は一瞥もせず蒼く、一切の太陽の光の無い空を見上げた。

 

「―――マジェコンヌ。昔の貴方から見たら今の私はどう見えるのかしら?」

 

目の前ではマジェコンヌと呼ばれた女性が黒い粒子となり次々に空へと上がっていく。

少女は反射的にその黒い粒子を掴む。だが、掴んだ粒子は少女の指の隙間から音もなく抜けていく。

 

「―――覚悟なんか、とっくに、出来ていた、はずなのに.....」

 

少女はひざから崩れ落ち目元からは止まらぬ水が流れ出す。

泣き崩れた少女は深い悲しみに溺れていく。

少女が殺した女性―――マジェコンヌは少女のかけがえのない数少ない家族の一人だった。

血縁関係などはないがそれでも行き場のない少女をマジェコンヌは保護してくれた。

けど、この人は変わってしまったのだ。

下界の人々が生み出す負の感情―――畏怖の念によって。

そして今現在少女の大切な家族―――否、それ以上の想い人もこの呪縛に囚われている。

彼自体は畏怖の念を集めることを目的として創られたが、

決して無限に吸収できるわけではないのだ。

だからこそ、少女は決めたのだ。

彼を「女神を守る」という使命(使命を放棄、または出来ない状況下に陥った時は本人の意思で

畏怖の念を拒絶することが出来る)で縛り付ける四女神を殺し、

二人で幸せな世界を築こうとしているのだ。

それは今も揺ぎ無く決して折れることのないモノとなっている。

 

「.......。―――私がやるしかないんだ」

 

少女は頬を伝う涙を拭い、立ち上がる。

 

「さようなら、お母さん」

 

白銀の髪を靡かせ歩く後姿は酷く小さく見えた。

誰かが支えてあげなければ崩れてしまいそうな―――それくらいの脆さを引き立てていた。

少女が負うにはあまりにも過酷で残酷な使命であった。

 


 
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