第百十六技 実験
キリトSide
朝食を取り終えた俺とアスナは、現在紅茶を飲んで食後休みをしている。
「わたし、夜に考えてみたんだけどね……」
アスナが喋り出したので俺は静かにその言葉に聞き耳を立てる。
「例えばなんだけど…。圏外で貫通属性の武器に刺されたとして、
そのまま圏内に入ったらどうなるのか……キミ、分かる?」
「いや、知らないな。そもそも考えた事もない…」
というか自らに武器を突き刺したままうろつく者などいないだろう。
だが、それを考えると興味が出てきた。
「毒などは圏内に入った瞬間に消える……なら、ダメージも受けないんじゃないのか?」
圏外で受けた状態異常は圏内に入れば瞬時に回復する。
つまり、今回の一件によるやり口でなければ圏内でのダメージは無くなるはずだ。
「だけど、刺さっている武器はどうなるの? 勝手に抜けるのかな?」
「………それはないだろ。だが、折角だから試してみるか…」
「え、試す?」
俺の言葉にアスナは疑問を持った表情を浮かべた。
「実験だ。百聞は一見に如かずというからな」
「実験っ!?」
驚くアスナを余所に俺は椅子から立ち上がり店を出る。アスナも後ろを着いてきている。
圏外に出るための門の前に着いた俺達はいつもの武装を整えてからフィールドに出た。
「それで…実験ってどうするの?」
「こうするんだよ」
俺は常に装備している投擲武器の『スローイング・ピック』を一本だけ取り出した。
アインクラッドにおける武器には四つの属性・性質が存在する。
主に剣系が属する
そして今回の一件で使われた槍系の武器は
その中でも投擲武器は少々特殊で、物によって属性が異なるのだ。
ブーメランやチャクラムなどは斬撃、投擲用のダガーや『苦無』は刺突、石などは打撃、
そしてこの『スローイング・ピック』は貫通となっている。
つまり俺はこのピックを使って実験をしようというのだ。
さすがに実験の為に防具の耐久値を下げるのは忍びないので左手に付けているグローブを外す。
そして俺がピックを振り上げたところで、
「ま、待って!?」
アスナに止められた。彼女はすぐさまアイテムウインドウから≪回復結晶≫を取り出した。
「圏外じゃ何が起こるか分からないから、パーティを組んでHPを見せて」
心配の色を含んだ声音に俺は少しだけ罪悪感を覚えた。
この程度の武器で死ぬことはないだろうし、
《バトルヒーリング》のスキルも着けているからすぐに回復するだろうけど、見ていて気分の良いものでもない。
パーティ要請のウインドウが出てきたのでそれを受諾した。
結晶を手に持って緊張した面持ちのアスナを見て俺は礼を述べた。
「ありがとな、心配してくれて…」
「ぅ、別にそういうわけじゃ…//////」
照れて顔を紅くさせながら逸らしたアスナに苦笑を浮かべながらも心配してくれる事へのありがたみを感じた。
改めて俺はピックを上に振り上げる。アスナも強張った表情へと変化した。俺はピックを振り下ろした。
―――ドスッ!
微かな衝撃と共にピックが俺の手の甲を貫き、刺さった状態になっている。不快感を感じる。
そうしているとすぐに赤いエフェクトが発生した。これはカインズ氏に与えられていた『貫通継続ダメージ』だ。
「っ、早く圏内に入って!」
焦るアスナの声を聞いて、俺は圏内へと入った。
赤いエフェクトフラッシュは発生し続けるものの、ダメージは止まったようだ。やはり圏内ではダメージを受けない。
その様子をみてアスナはホッとしている。
「止まったみたいね…」
「ああ、武器は刺さったままだがダメージは停止。感覚も残ったままか…」
俺はそう告げると手に刺していたピックを引き抜いた。傷は残らないが不快感は残っている。
その手を閉じたり開いたりして感覚を誤魔化す。
「ダメージは止まった。なら、何故カインズ氏は死んだ…? あの槍の特性…いや、それはない。
《鑑定》スキルを
やはりシステムの穴をついたPK技なのか……それとも、未知のスキルなのか………って、アスナ?」
結果を踏まえて呟いているとアスナが俺の左手を握り締めた。そのまま俺の手を擦ってくれている。
「これで嫌な感覚もなくなるでしょ…?」
「……ありがとう…」
俺はアスナの手から伝わる温もりに安堵を覚えたのを感じた。
罪を背負う俺には過ぎたことかもしれないがな…。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
アニメでは、キリトが『ギルティソーン』を自分の手に突き刺そうとしました。
本作は原作沿いですので、そちらに沿わすことにしました。
まぁ、結局手に刺したんですけどねw
それでは・・・。
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第百十六話です。
今回の話しはアニメではなかったので書きたかったんですよね~。
では、どうぞ・・・。