No.500289 真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ五2012-10-25 22:03:50 投稿 / 全10ページ 総閲覧数:8716 閲覧ユーザー数:6514 |
「皆の者、劉弁様の御前であります!頭が高い、控えなさい!!」
董卓の言葉にその場にいる全員が平伏する。
当然、曹操や劉備もその中に含まれていた。
(まさかここで劉弁様が出てくるなんて…いくら捜しても見つからなかった
から、てっきり死んだものと思っていたのに…これでは私の計画は全て
台無しに…)
実を言えば曹操も劉弁の事を捜していたのであった。
曹操は劉協亡き後の大陸の実権を握るべく、皇帝として担ぐに適した人物
を捜していた。劉備を引き取ったのもその為であったのだが、曹操の中で
はあくまでも劉備は予備的な位置づけでしかなかったのである。何故かと
いえば、劉備は中山靖王の末裔と言ってはいるがそれを実証するのが靖王
伝家だけしかないので、彼女を担ぐにはある程度のリスク的なものを覚悟
しなければならず、それを軽減する為にも現在の皇族に連なる者、つまり
光武帝の末裔が必要であったのである。
しかし劉協の一族のほとんどは不毛な後継争いの結果既にこの世を去って
おり、唯一死亡が確認されていなかった劉弁もその行方を掴む事が出来な
かった為、ある意味やむを得ず劉備を担ぎだしたのであった。やむを得ず
とはいえ、ここまで来て劉弁が出てこない以上は既にこの世の者ではない
であろうという考えがあっての事ではあったのだが…。
(でも今更どうして?表舞台に戻る機会なんて幾らでもあったはずなのに…)
曹操の頭の中はそのような考えが堂々巡りになっていたのであった。
「それでは妾が妹の後を継いで第十四代皇帝になる事に誰も異存は無いわけ
じゃな?」
劉弁がそう問いかける。それに答えたのはいつの間にやら側に控えていた
王允であった。
「劉弁様が皇帝となられる事、誰が異存を申しましょうや。なあ、曹操よ」
王允はそう言って曹操に同意を求める。
曹操はそれに答える事が出来ず、ただ平伏したままであった。
「どうされたのじゃ曹操。さあ、劉弁様にお祝いを述べられよ。それとも
この期に及んでまだ劉備を皇帝として担ぐつもりか?」
王允にそう言われ、曹操は体をビクつかせる。しかしすぐに顔を上げ、
意を決したように劉弁へ問いかける。
「恐れながら劉弁様にお聞きいたします。何故あなたはずっと姿を隠されて
いたのに、今更出てこられたのですか」
その言葉に場がざわめく。明らかに劉弁に対する不満が感じられる質問
だったからだ。
「曹操殿、今の言葉は取り消しを『いいのじゃ、月よ』…劉弁様?」
月が曹操に撤回を求めようとするが劉弁がそれを留める。
「確かにそなたの言う通りかもしれんな。長きに渡って洛陽を離れていた
妾がいきなり戻って来て次期皇帝じゃと言うても、納得出来ない者もおる
のも事実じゃろう」
その劉弁の言葉に再び場がざわめく。
「妾も本当は皇帝になるつもりは毛頭無かった。我が先祖やそれに阿る佞臣
共が腐らせ続けた漢という国など無くなっても良いとさえ思っていた。じゃ
がな、それは間違っていると妾に教えてくれた者がおったのじゃ。誰だか
分かるか?曹操よ」
劉弁に問われ、曹操は考える。
(皇帝になる事をそんなに忌み嫌っていた劉弁を引っ張り出せるのは…
もしかして)
「それはそこにいる北郷の事でしょうか?ならば、あなたもただの女という事
になりますね。男が御所望なら他にもいい男はたくさんいますでしょうに」
「曹操、劉弁様に何て口の聞き方を『良いのじゃ、王允』…はっ」
曹操の慇懃無礼な口の聞き方を咎めようとした王允を劉弁が止める。
「残念ながら外れじゃ。確かに北郷はいい男じゃが、それだけで心を動かすわけ
無かろう。正解は我が妹、劉協じゃ。北郷を通じてじゃが最期に言われたわ
『もはや個人の問題ではなく、世祖光武帝の血を受け継ぐ者の使命』じゃとな。
そして董卓を中心として漢を生まれ変わらせようとしている者達の姿を見て妾は
決めたのじゃ。今更ながらではあるが、この身を漢の復興の為に捧げんとな。
曹操よ、お主はそこにいる劉備を担いで何を造ろうとしたのじゃ?もしそれが
妾達より優れているのであれば、妾は喜んで劉備に譲ろうぞ」
劉弁のその言葉に皆が感動に酔いしれたような雰囲気に包まれる。それは曹操の
横にいる劉備も例外ではなかった。
それとは対照的に曹操の顔は苦渋に歪む。
(くっ、劉備までもこんなでは…。これも亡き劉協陛下の執念だとでもいうの!?)
その時、曹操は南皮赴任を命じられた時の事を思い出していた。
~一年前~
「…わかりました。南皮の事、粉骨砕身務めさせていただきます」
曹操は劉協より打診された南皮赴任に対して承諾の返事をした後、劉協は曹操へ
語りかけた。
「曹操、本当は袁紹と同じようにあなたもこのまま洛陽にて謹慎させておこうと
いう意見もありました。今回の赴任を命じたのは、ほぼ私の独断でもあります。
私はあなたが漢の為に尽くしてくれる事を期待しています。私もあなたを失望
させないように、全力を以て政にあたります。そして阻もうとする者に対して
は命をかけて相対するつもりです。漢が続く限り、私はそれに害する者の前に
立ちはだかる事を覚えていてください」
・・・・・・・・
曹操の目には劉弁の向こう側に亡き劉協の姿が見えたような気がした。
(あの時の言葉の通りに私の前に立ちはだかろうというのですね…私が見誤った
のは北郷や諸葛亮の力量ではなく、劉協陛下の命をかけた執念だったという事
なのですね。陛下の執念が劉弁様を洛陽へ呼び戻したと…)
曹操は今更ながらに戦慄を覚えたのであった。
「どうした?早う答えよ。それとも答える事が出来ぬか?お主はただ権力を握る
為に劉備をそのように着飾らせてここまで連れて参ったのか?」
劉弁のその言葉に曹操は我に返る。
「そ、そのような事は…私は劉協様に御子がおられぬ以上、すぐさま後継を立て
ねば漢が崩壊しかねないと思い劉備を連れてここまで参った次第にて…」
その瞬間、劉弁の目が鋭く光る。
「そなた、今『劉備』と申したな。先程まで『殿下』と呼んでおったではないか。
それがそなたの心底という事か?」
「そのような…少々気が動転してしまい、殿下に対して失礼な言動を…」
曹操はそう言って劉備に頭を下げた。
「えっ!?…い、いえ、その、気にしてませんから…」
劉備はそう言って曹操の頭を上げさせる。
・・・・・・・
俺はここまでの流れをじっと傍観していたが…何と言うか、すっかり劉弁様に
曹操さんと劉備さんは翻弄されているな。しかも劉備さんがここに入って初めて
発した言葉が『気にしてませんから…』って…仮にも次期皇帝として来たなら
もう少し気の利いた言葉を言ってほしいものだが。周りの反応も劉備達に対して
冷ややかになっていた。これは勝負ありという事だろうか?
そう思っていると後ろにいる朱里が何やら輝里と話していた。
「輝里さん。…にいる関羽さん達に伝えてください。手筈通りに…」
朱里から内容を聞いた輝里はそのまま静かにその場から去る。
「なあ、朱里。今のは…」
「後でわかりますので」
朱里がそう言うのであれば黙っておこう。
そうこうしている間にも劉弁から劉備達へ対する質問は続く。
「それでは改めて劉備に聞くが、お主はどのような国を目指そうとしているのじゃ?
言っておくが『曹操さんと一緒』とかいうのは却下じゃぞ」
問われた劉備は少し考えてから話し始める。
「私は、ただ皆が笑って暮らせる国にしたい…それだけを思ってきました。皇帝に
なろうって思ったのも曹操さんに言われただけでなく、皇帝という立場になれば
民の為の政を行う事が出来るって思ったからです。劉弁様、あなたは民の為に政
を行ってくれますか?あなたが民の為に皇帝となるなら私は…」
劉備がそこまで言った時、突然姜維が口を挿む。
「お待ちください、劉備殿!あなたはあなたの志を持って皇帝になる事を決めたはず
です。如何に劉弁様が正統な血筋な方であろうとも、いや正統な血筋であるからこそ
この国をここまで腐らせた責任があるのです!本当に責任を感じておられるのであれ
ば劉弁様は劉備殿に皇帝の座を譲るべきです!」
その言葉に場の空気が凍りつく。皆の視線が一気に劉弁に向かう。普通に考えれば
姜維のこの言葉は劉弁様に対する不敬な行為としてその場で斬り捨てられても不思議
ではないからだ。
だが、劉弁はやれやれといったような目で姜維を見るだけで何も命じはしなかった。
しかしこのまま放っておいても何の進展もないので口を挿もうとした時、
「姜維!貴様こそ無礼であろう!!」
その場に現れたのは何と関羽だった。もしかして、さっき朱里が輝里に言ってた
のってこの事だったのか?
「愛紗ちゃん!?一体今まで何処に行ってたの?ずっと捜してたんだよ」
劉備はそう言って嬉しそうに関羽へ駆け寄ろうとするが、姜維がそれを阻む。
「ご無沙汰しております関羽殿、お元気そうで何よりです。しかし今の言葉は聞き捨て
なりませんね。私の言葉の何処が無礼だったと?」
姜維は関羽を睨みつけながら問いかける。
「今のお前の言葉は劉弁様に対して不敬以外の何物でもないという事だ!劉弁様が何も
仰らないから良いものの、今すぐ斬り捨てられても文句は言えんのだぞ!そしてそれは
主君たる桃香様にも被害の及ぶ事だと分からぬのか!?」
関羽さんも負けじと姜維を睨みつけながら言い返す。
二人の間には険悪な雰囲気が漂い、一触即発の状態になろうとしていた。
そこに割り込んできたのは曹操だった。
「久しぶりね、関羽。確かに今の姜維の言葉はちょっと言い過ぎだったかもしれない
けど、そういうあなたは何故ここにいるの?もしかして劉備殿下を捨てて北郷の下に
でも走ったのかしら?篭絡でもされたの?」
関羽さんはそう言われたと同時に姜維を睨みつけていた眼を曹操へ向ける。
「久々に曹操殿とお会いいたしましたが、随分と下衆な物言いをされるようになられた。
権力を欲すると人は皆そのようになるのですね」
「…! 何ですって…関羽!!お前こそ随分会わない間に不遜な態度を取るようになった
ものだな!!」
関羽の言い返しに曹操は完全に激昂する。しかも…。
「おのれ、関羽!!華琳様に向かってその口の聞きようは許せん!!覚悟しろ!!」
それに最も過敏に反応したのは夏侯惇であった。彼女はここが宮中である事も忘れて
関羽さんに襲い掛かる(一応宮中なので剣は預けてあるので素手ではあるが)。
関羽さんはその一撃をかわすと、夏侯惇はバランスを崩して転ぶ。
「くそっ『春蘭!ここは宮中よ、慎みなさい!!』…はい」
夏侯惇は再び攻撃しようとするが、曹操がそれを制した。
「我が家臣のただ今の行動に関して詫びさせていただきます。申し訳ありませんでした」
曹操はそう言って劉弁様に頭を下げる。
「曹操よ、詫びる事は他にもあろう?」
「えっ!?」
劉弁の問いかけに曹操さんは訝しげな顔をする。
「ほう、知らぬとな。ならばあれは何じゃ?」
劉弁様が指差した方を見ると、そこには…。
「…! 季衣、真桜、沙和!!」
「鈴々ちゃん!?」
縄でぐるぐる巻きにされて床に転がされた許楮、李典、于禁、張飛の姿があった。
「劉弁様、これは一体!?この者達が何をしたと?」
「この方達は洛陽の各所に潜み、不審な行動をしていたので捕縛させていただきました」
質問に代わりに答えたのは朱里であった。
「不審な行動…?この者達には洛陽が混乱せぬようにと兵と共に配置していただけよ。
それが不審というならあなたのやっている事の方がよっぽど不審ではないのかしら。
ねえ、北郷の軍師である諸葛亮?」
曹操は一刀の軍師に過ぎない朱里がそこまでする事こそがおこがましいとばかりに
睨み付けるが、
「問題ありません。諸葛亮には我が軍師である賈駆と共に参軍に命じ、洛陽の治安を
守るように命じておりましたので」
そう月に言われた為、それ以上何も言えなくなってしまった。
その頃、城外では、
「これで全部ですねー」
「後はどうやら逃げてしまったようだな」
「諸葛亮…まさか曹操様が配していた兵の位置をここまで把握していたとは」
程立・趙雲・戯志才の三人が捕らえた曹操軍の兵達を前に話していた。
「ありがとうございました。皆様が手伝ってくれたおかげで思ったより早く終わらせる
事が出来ました」
そう三人に話しかけたのは輝里だった。
「我々まで手伝わなくとも大丈夫そうな気もしたがな」
そう言った趙雲が眼を向けた先には、
「いや~、久々に大暴れでスカッとしたな、斗詩」
「もう、文ちゃんはもう少し街中なのを考えてよ~。家が何軒か壊れかけてるじゃない!」
何と文醜と顔良の姿があった。
何故彼女達がここにいるかというと、朱里が関羽達に街中にいる曹操軍の兵達の捕縛を
依頼したからである。朱里は曹操軍の一部の兵が洛陽に入った後の動きを見て、一斉
蜂起による洛陽の制圧である事を察知したのであるが、董卓軍の将や自軍の将を使えば
曹操に勘付かれる恐れがあった為、動きを察せられない…というより既にその存在をも
忘れられかけていた袁紹御一行と洛陽に入っていた関羽達に依頼したのであった。
普通に考えると信用出来るかどうかもわからない者達に依頼するわけはないし応じるはず
ないはずなのだが、朱里は袁紹達には謹慎の解除、関羽達には劉備の目を覚まさせる為の
行動という言葉によって彼女達を動かす事に成功したのであった(但し、程立と戯志才は
ほとんど何もせずに見ていただけであったが)。
しかも、捕らえた于禁が持っていた書状には劉備が皇帝になったその瞬間に曹操の軍勢が
洛陽の要所を制圧するという荀彧と姜維の計画が書かれており、曹操が己が手に権力を握
らんとした事が明白となったわけであった。
(ちなみに関羽はそれを見るや否や、捕まえた曹操軍の将と張飛を引きずって城内へと入って
いってしまった)
「さてさて、どうなる事やら。しばし拝見といこうか」
趙雲は他人事の如くにそう呟いたのであった。
続く(つもり)
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回も中途半端な所で終わってしまい、申し訳ございません。
このままでは何時になったら白蓮さんの台詞が…もとい話を進められるのか…。
次回こそは一応の決着をつけたいとは思っていますが…遂にモチベさんは私の所からも
逃げてしまったのか、前ほど執筆が進まない…。
と嘆いてばかりいても仕方ないので、次も頑張って書くつもりですので温かく見守っていて
くださると幸いにてございます。
それでは次回、外史動乱編ノ六にてお会いいたしましょう。
追伸 モチベさんカムバッ~~~~~~ク!!
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お待たせしました!
それでは前回の続きからです。
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