~聖side~
一刀との会話中に発見した賊の拠点らしき場所。
詠に確認に行ったところ、間諜の話では、その辺りには今は使われていない古城があるらしい。
善は急げということで、動ける兵だけを連れて討伐に向かうことにした。
間諜の話では、賊は100人ほどらしいので、100人ほどの人数の正規董卓軍兵がいれば問題はないだろう。
どうせなら、と言うことで一刀にもこの討伐に参加してもらう。勿論しっかりとした役職を与えて…。
多分一刀は嫌がるだろう。元々人殺しとは遠い世界にいたんだからな…俺だって嫌だったし…。
しかし、この世界に来た以上綺麗事ばかりは言ってられない…殺らなきゃ殺られる…。それを今のうちに一刀にも解っていてもらわないといけない…。
郷に入れば郷に従えという言葉もあるが、そんな簡単に纏められるものではない。
『人殺し』という罪深き勲章を人生をかけて背負い、殺した人の想い、意思を受け継ぎ、そして、生きなければならない…。
一刀、少しずつでも良いからお前にも分かって欲しい。
勿論、人殺しを肯定する気はない。
ただ、殺さなければならないときがあること、そして、殺すことの意味を知っておいて貰わないといけない。
じゃないと一刀も、俺のように思い悩んでしまうだろうから…。
一刀には詳しいことを告げずに城門に集合させた。と言うのも、言ってしまえば来ないだろうと思えたから。
集合時刻になると、一刀はしっかりと武器を持ち、城門にきていた。まぁ、武器を持って来いって言ったことと、話の流れから大筋のことは理解してそうだが…。
それから一刀に詳細を話した後、賊の討伐に出発する。
一刀はしぶしぶ討伐副隊長の任を受け入れていたが、その顔は強張っていた。
それもそのはずか…あいつにとってこれが初陣になるのだから…。
きっと一刀はこの初陣を通して一回りも二回りも大きくなる。
それだけ一刀には秘められた力があると思う。
しかし、その分大きく失うものもあるだろう。その失うものの大きさを、二度と戻らないその過ちを、一刀は受け止められるだろうか…。
討伐場所に行って見ると思っていたよりも賊の数が多く、俺達の三倍近くはいるように思えた。
兵法の理には反するが、相手は賊。
三倍近くの敵がいようと正規軍が負けるはずがない…。
問題は一刀だけだな……。
数刻後。
「ぎゃああああああ!!!!!」
「……ふぅ~……。」
賊の頭を吹き飛ばして一息つく。
辺りは怒号と金属同士がぶつかり合う鈍い金属音が木霊する、正に戦場と言える光景が広がっている。
一刀は、と言うと俺から少し離れた位置で賊と対峙していた。
俺はその姿を目で捉えつつも手助けすることはしない。
これは一刀一人で乗り越えなければ意味のない問題だからだ…。
少しすると、賊は一刀に襲い掛かったが、一刀はそれを返り討ちにしていた。
一刀はその光景に震えていた。
まだ自分のしたことが理解できてないようだ…。でも、そんなことをしている暇も無く、賊はどんどんと一刀に襲い掛かり、それを悉く一刀は切り伏せていく。
この戦いが終わったら、一刀に飯でも奢りながら労わってやるとするかな…。
そう思って一刀から目を離した時だった。
土煙の中、一刀を狙う射手がいるのに気付く。
弓は既に引き絞られており、間に合いそうにないし、一刀はその姿に気付いていない…。
「一刀ぉぉおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
俺は思いっきり叫ぶしかなかった…。
~一刀side~
賊が次々と襲ってきていて息つく暇さえないように思える。
それだけ慌しい喧騒の中にいるわけだが、その声ははっきりと俺の耳に届いた。
「一刀ぉぉおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
聖が大声で俺の名を叫ぶ。
何事かと思い、辺りを見回したところで姿に気付く。
その姿は、賊の弓兵がこっちに弓を向けて矢を放った瞬間だった。
放たれた矢は確実に自分に向かってきている。
その様子はコマ送りのようにゆっくりと、しかし確実に向かってきている。
その軌道を予測すると俺の胸に突き刺さる様子…。
はははっ…俺ここで終わりかな…。
力なく目を閉じることしか出来なかった…。
せっかく、この世界に来たのに………聖や芽衣、奏、藍里、麗紗たちに会えて仲間になれたのに………この世界の現状を自分なりに理解し、解決策を考えてきたのに………やっと………この世界での自分のやるべきことが分かってきたのに…。
………嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!!! …死にたくない!! 死にたくない!!!!!!
俺は…俺は…まだ聖たちに恩返しが出来てない!! このまま死んでしまったら、余計聖たちに迷惑をかけてしまう!! それに、聖が…暴走してしまう…。
俺はそれを止めるために…聖の傍に居て、抑止力になるって誓ったのに…。
こんなのって…ない…だろ…。
空気とは命の灯火を燃やし続けるのに必要な物。
その存在が生を紡ぎ、その存在が生を守る。
生とは生きること。
生きたいと願う力は即ち生を渇望するもの。
汝の願う力は……生を願う力はその足りなき力を憂う物。
ならば、その力……汝に与えよう。
求めよ、その力を。
欲せよ、生を。
我の名を叫べ!!
その名は…。
『アネモイ!!!』
思わずその言葉を叫んでいた…。
今のは一体…。
しばらくしても俺の体に痛みが届くことがなかった。
おかしい…とっくに矢が届いても良いはずなのに…。
しかし、待てども待てども矢による傷みが届くことはなかった。
目を開けると、矢は俺の前で地面に落ちていて、俺の周りには風が渦巻いていた。
これは…一体…??
~聖side~
一刀に向けて矢が放たれる。
急いで一刀の下に向かうが…間に合いそうにない。
一刀が…死んでしまう…そんなのあってたまるか!!
あいつは…一刀は…誰よりも人殺しを嫌い、誰よりも平和な世界を願う優しい奴なんだ。
そんな善人が殺されて、悪政を敷き、民を貧窮に追い込む悪人が生きるなんて…そんなのあってたまるかよ!!
一刀は目を閉じていた。
きっと全てを悟ったんだろう…。
矢は一刀の目の前に来ていた…。
……しかし、その矢が一刀に刺さることは無く、一刀の目の前で何かに弾かれる様に宙を舞い、そのまま地面に落ちた。
………一体何が起きたと言うんだ…??
一刀の様子を見ると、その身の回りには風が渦巻いていて、まるで風の防護壁が出来ているようだった。
そして、一刀の胸元にあるアクセサリー。
俺の渡した指輪から白色の光が放たれ輝いている。
そして、一刀の叫んだ『アネモイ』…。
まさか…そういうことなのか…??
俺は浮かんだ考えに馬鹿馬鹿しいと思いながらも、目の前の現実に説明がつかないことを自覚する。
もしこれがそういうことなら……ふっ……ふふふっ…。
これは、後で一刀と話し合うとして…。
じゃあ、まずは…こいつらを蹴散らすとしますか…。
そこから先は一方的。
やはり数は多くても賊は賊。
連携もとれてなければ、個々人での武も高いわけではないので、董卓軍の兵の方達も怪我人は居ても失うことは無く、全員生還という形でこの戦いは幕を閉じた。
戦いが終わり、賊の根城を兵に捜索させている間に、一刀を探した。
一刀は皆と離れ一人、近くの森の中で蹲っていた。
「…一刀。吐き気はもう大丈夫か?」
「聖…。」
「悪かったな。いきなりお前を戦場に連れてきて、いきなり人殺しをさせてしまって…。」
「……。」
「お前は今、罪悪感と後悔に苛まれているんだろう? 俺も初めて人を切ったときはそうだった。」
「……。」
「でもな、一刀。罪悪感と後悔はただの逃げだ。」
「……何で…??」
「相手がお前を憎んでいるのは確かだろう。お前の人を殺したことに対する申し訳なさも確かだろう。しかし、相手はお前に殺されることを考えなかったわけではない。それに、殺さなければ殺されていた…違うか??」
「……そうだけど…。」
「俺は人殺しを肯定はしない。しかし、否定もしない。 人はその理想のために、想いのために生きている。 その想いが人と違えばそれを賭けて戦うことになる。そして、どちらが上か…どちらの思いが強いのか決める必要が出てくる。負ければその思いは断たれるが、後悔は無いだろうな…。その思いは勝った奴が受け継いでいくんだから…。 そうやって人の思いが続いていくのに、お前は殺した人の思いをそこで止めるのか? その権利がお前にあるのか?」
「……。」
「少しずつで良い。俺の言っていることが解るようになったらで良いから、その時は人を切ることに躊躇いを持つな…。それは相手に失礼になる…。」
「…ぐっ…。」
「今はまだ、人を殺してしまった罪悪感を消化することに使えば良いよ…。泣きたければ泣け…叫びたければ叫べ…。お前の中の負の感情を全て洗いざらい吐き出すんだ…。」
「くぅぅうう…ううぅぅ…うわぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
一刀は大きな声をあげながら泣き叫んだ。
その涙が一刀の心の中から負の感情を押し出し、全てを体外に出すように俺は願っていた。
そうすれば、一刀の心の闇も少しは楽になるだろうから………そう、かつての俺みたいに…。
落ち着いてきたところで、一刀に聞きたかったことをたずねる。
「ところで…さっきの事なんだが…。」
「そうだ!! 俺も何がなんだか…。」
「一刀…何か感じたりしなかったか?」
「…特に何も…。ただ、急にあの言葉が口を突いて出て…。」
「『アネモイ』だったか…。」
「あぁ…。」
「お前はこの言葉の意味が解るか?」
「…さぁ。」
「…だよな…。なぁ一刀、もう一度やってみてくれないか?」
「分かった。」
一刀は立ち上がると俺と少し距離を離す。
「『アネモイ』!!!」
ぶわっ!!!
「おおぉ!!」
「うわっ!!出たっ!!」
一刀の周りに先ほどと同じ風の防護壁が発生する。
「ほぉ~…アネモイ…。ギリシャ神話の風の神の名前…。風の力って訳か…。」
「これが…俺の力…。」
「そうだな…。これはお前の、お前だけの力だ…。この力、どう使うかはお前次第だ…。どうする? 俺に勝つために使ってみるか??」
「…聖、俺な…決めたんだ…。」
そう言って一刀は俺に向き直ると、片膝を付いて頭を垂れて、頭の前で手を組んだ。
それは臣下に下るものがする格好であった。
「聖、改めて俺に聖の手伝いをさせて欲しい…。この手に入れた力を使ってきっと聖の役に立ってみせる、だから、聖の下に居させてくれ…。」
「…前にも言ったが、臣下はいらん。俺が欲しいのは俺を手助けしてくれる仲間だけだ。」
「……。」
「だから、一刀。頭を上げて立ち上がって俺に言え!! 『俺も手伝う』と、声高々に言え!! それだけで俺の仲間になるなら十分だ…。」
「…ふふっ、相変わらず…。聖は聖だな…。」
「そりゃ、俺は俺だからな…。」
一刀は立ち上がって俺と同じ目線になる。
目線があっていることで立場は一緒であると示しているかのように…。
「俺、北郷一刀は、粉骨砕身の思いで、聖の理想達成のため、その道のりの手伝いをすることをここに誓う!!」
一刀がそう言った瞬間に一陣の風が吹き抜けた気がする。
果たして、その風は一刀が起こしたものなのか、それともただ偶然にその場に吹いただけなのか…ただただ、その風は吹き抜けていくだけだった…。
後日、一刀の風の力については皆に報告した。
そして、それが俺の渡した指輪のアクセサリーが関係していることを告げると、皆必死に『あねもい!!』と言っていたが…まぁ、反応など起こすわけも無く…。
皆の指輪の色合いなどから考えれるものをいくつか考えたが、何も反応するものは無かった。
どうやら、指輪の力が覚醒するには何かしらの条件が必要であるという結論に陥る。
所謂封印が施されているものなのだろう…。
一刀の『アネモイ』の力はどうやら風を操ることらしい。
なので、自分の周りに風の防御壁を作り出したり、かまいたちを飛ばすことも可能であった、しかし、殺傷能力はさほど高いわけではなく、風の防御壁も長い時間持つことは無かった。
それがこの力の性能なのか一刀の力の問題なのか…それについてはおいおい分かっていくことだろうが、この力のお陰で一刀が死ななくて良かったのだから、今はこの力に大いに感謝しよう…。
ちなみに、他人にも使えるかどうか確認したが、どうやら一刀しか使えないようだった。
他人に防御壁をかけることは可能かという実験では、芽衣にかけてもらったら成功した。
しかし、どうやら防御壁の中は風が強いらしく、芽衣は、その長いスカートが捲れて可愛い下着が露になった。
顔を真っ赤にして慌てる芽衣を尻目に、『いや~眼福眼福。』と顔をにやけさす俺と目潰しされてのたうち回っている一刀だった…。
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どうも、作者のkikkomanです。
今話は前話と続きの内容となっております。
なので、前話を読んでない方は前話を読んでから今話をお読みください。
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